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脱出
しおりを挟む隠し通路内が少し明るい。もう少しで出口なのだろうか。海斗に抱かれたまま進んでいた時。ふと、ある事を思い出した。
「あ! 良太に聞きたい事あったの聞けてない!」
良太に母親の死と父親の失踪の原因。あと誰に唆されたのか聞き損ねた。
「もう、良いんだよ。あきちゃんのお陰で、俺達はまた兄弟に戻れる」
「それにしても、あきくん凄いよ。あの良太兄さんが心を開いたなんて、驚いたよ!」
え? あれの何処が心開いたんだと言えるんだ。逆に呆れられて面倒に思われただけだと思うのだが。
「そんな事ないと思うけど」
「十分凄い事だよ。これで、俺達はやり直せる。全てあきくんのお陰だよ」
「あきちゃん、ありがとう」
「ありがとう、あきくん」
そう言ってくれた二人がとても嬉しそうに笑うものだから、俺もついつい笑ってしまった。そうだよな、俺は所詮赤の他人。これ以上は荷が重い。気にはなるが、諦めよう。
隠し通路の壁と床がだんだんと石レンガから土に変わって行った。行く手に外の光が見えた。薄暗い中から光の中へと出る。眩しくて目が眩む。瞬きをして段々と光になれた視界に映った物は暖かな太陽と大きな青い空だった。
「外だ」
大きな空へと手を伸ばす。届きそうで届かない青に感動したのは初めてだった。
「あっちに、俺達の車があるからそれに乗って帰ろう」
海斗の声に気付き、視線を海斗に向ける。綺麗だった。銀髪がキラキラと太陽の光を受けて輝いている。その髪の中に手を通す。さらさらでずっと触って居たいくらいだった。
「満足した?」
その髪が縁取る顔はとても甘く優しく笑っていた。
「どうしたの?」
大地が俺の顔を覗く。海斗と同じ銀髪で、同じ顔。漆黒の瞳の中にある薄っすらとした緑が大地である証拠。
「二人って、こんなにも格好良かったんだな」
無意識に出てしまった言葉。それに気付いた俺は、海斗の肩口に顔を埋めて誤魔化そうとした。だが、そううまく行かなかった。
「え! あきくんもう一回言ってよ!」
「やばい、俺死ねる!」
調子に乗った二人の俺がいかに可愛いかの自慢が始まってしまった。寝顔が可愛いやら、食べてる時の顔が好きなだとか、イく時の顔が最高とか、永遠に繰り返し聞かされる羞恥を煽る様な言葉に頬が熱くなった。
「だぁぁあああ! もう言わないって!!」
可愛い自慢を終わらせる為に割いた時間は、今まで以上に時間がかかったというのは言うまでもない。
抜けてきた洞穴から左へと進んでいく。草木が左右を覆っているが、ちゃんと整備されているの土の道があった。その道を進んでいくと、高い塀にぶつかった。その塀に沿って進んていくと、門が見えてきた。鉄製の門の中、沢山の花が咲き乱れた庭の後方に大きなお屋敷が建っていた。あれが、閉じ込められていた屋敷なのか。クリーム色の壁に艶やかな赤い屋根のお屋敷は、とても中で悲惨なゲームが行われていたと思えない程愛らしい屋敷だった。
「あれはね。母さんの趣味だったみたいだよ」
「花と可愛いものが大好きな人だった」
そう言った二人は少し寂しそうに屋敷を見ていた。
「さぁ、帰ろうか」
「あきくんの家まで、少し遠いからゆっくり寝ていたら良いよ」
そう言った大地が、セダンの運転席に座った。
海斗にセダンの後部座席に座らせて貰う。隣に座ってきた海斗に身体を引き寄せられ、寄りかかる体勢になってしまった。
「さぁ、疲れただろ。眠るんだ」
優しく背中を撫ぜられ、安心してしまう。揺り籠の様に揺れる車体。甘く爽やかな香り。疲労した身体。全てが俺を眠りへを誘う。寝てはだめだ。もう少し話がしたい。やっとゆっくり話せる様になったのに、その願いも虚しく段々と落ちていく目蓋に視界が暗くなって行った。
目覚めた時、俺は海斗に寄り掛かったままだった。体を動かさずに海斗を見上げる。外を見ているその横顔は、とても切なそうで泣いてしまうんじゃないかと思ってしまう程だった。
視線に気付いたのか、海斗が俺の方を見てきた。
「起きた? もう着くよ」
その言葉に車窓から外を見る。見た事のある住宅街。俺の家の近くだ。
「あ! 海斗、あきくんごめん。ちょっと寄り道して良い?」
バックミラー越しに大地と目線が合う。海斗と同じ少し切なそうな色が瞳の奥に見えた気がした。
「何処にいくんだ? あきちゃん帰してからでも良いだろ」
「俺は、いいよ」
「いいの?」
少し戸惑った海斗の表情が好きだ。
「うん」
二人と、もう少しだけ一緒に居たかった。沢山話がしたい。
そう決まって、向かった先は俺の家の近くの五階建てのマンションだった。
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