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偽りのない言葉
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皆んなを置いて行かないで。そんな寂しく孤独を抱えて、歩いて逝かないで。
「死んだら嫌だ! 置いて逝かないで! そんなの寂しいよ」
「同情か」
俺の言葉に、冷たい言葉が返ってくる。悔しくて、良太の顔を見上げる。見下す様な表情、だが、そこに似合わない悲しみと孤独が瞳の中に映っている。
「同情して何が悪い! 本当は皆を守りたかったんだろ!」
その言葉に見下した表情が消え、驚きに変わる。あぁ、俺の推測は間違ってなんかいない。
「なんで、周りの大人は皆んなを助けなかったんだ。まだ大人に頼りたい時期だったのに!」
悔しい。優しい大人が一人でも居てくれたら、未来は違っていたのに。
「良太は全て一人で受け流してたんだろ。皆んなを悪い噂から守る為に!」
苦しい。頼れる大人もいない中で、弟達を守ってきた良太。何が良くて、悪いかなんて分からない中で、悪い大人が甘い言葉を吐いたとしたら、罠にかかってしまうのは目に見える。
「そんな物もういらない。皆んな大人になった。僕の助けを必要としていない」
良太のその言葉は、俺に言ってる様に見せかけた自問自答に聞こえた。
「僕なんて居なくても」
"俺なんて居なくなったとしても、誰も悲しまない"
その先を言わせてはいけない。俺も前に心の中で思ってしまったその言葉は、悪意を持って自らの心をズタズタにした。苦しく喘ぐ良太にこれ以上傷付いて欲しくない。
「そんな事ない! だって聖司は、ずっと良太を支えていたじゃないか。拓也だって!」
聖司が良太を追いかけたのは、全てを抱えてしまう兄を支える為だったら。拓也が言っていた。“俺達は破滅する”それが、良太の自殺だったとしたら。拓也の言っていた事の全てのピースが嵌まる。良太が自殺したら、優しい彼らだ。聖司と拓也は責任を感じて後追いしてしまうかも知れない。良太達を頼っていた幸平だってどうなってしまうか分からない。海斗と大地だって無傷ではいられない。そうなったら、破滅だ。
そんな悲しい事、起きたらダメだ。
離れて行って欲しくなくて、良太の胴に両腕を回し、胸に自らの額を当てる。
「ただ、良太は皆んなを悪いものから守りたかった」
兄弟思いで、責任感の強い長男。
「聖司はそんな兄さん支えたかった」
何処か危うい良太を支え続けた。頭の良い、兄思いの次男。
「拓也は下の弟達を守り、二人の兄さんを支えたかった」
上からの指示と下からの願いに挟まれて、それでも頑張って守り支え続けた我慢強い三男。
「海斗と大地は、自由が欲しかった」
居なくなった兄達の代わりに自らの自由な時間を潰して、弟の面倒を見続けた優しい四男と五男。
「幸平は寂しくて、誰かに頼りたかった」
大人に成り切れていない状態で、誰も居なくなった。寂しくて甘えたくて、居なくなった兄達を求めた寂しがり屋の末っ子。
「そんなささやかな願いだけだったのに……。誰が皆んなをこんなにも苦しめたんだ! 良太は知ってるんだろ! 話してくれよ! 話さないと誰にも……伝わらないんだ」
なんで、こんなにも苦しいんだ。俺は酷い目に遭わされて贄にされそうになったのに、同情してしまうんだ。彼らが持っていた苦しみと悲しみがこんなにも深く、辛いものだったなんて知らなかった。良太に救いを求める様にぎゅっと抱きしめ、声を上げて泣いた。
カシャーンと甲高い音が聞こえたが、そんな事に構う暇は俺に無かった。溢れる苦しみと悲しみが涙となってこぼれ落ち、良太の服を濡らした。
いつまで泣いていたか分からない。やっと泣き止み、良太から少し離れて顔を見上げる。
良太の表情は何故か呆れている様な表情だった。だが、その瞳からは孤独や悲しみが消えていた。
盛大に溜息を吐いた良太が、俺の後ろに視線を移した。何で、そんな溜息吐くんだよ。
「海斗、大地。この泣き虫とっと連れて行け」
な、泣き虫だと! 誰のせいで泣いたと思ってんだ! その言葉に苛立った俺がそう心の中呟いた言葉を口にしようとした。その時、体が宙に浮いた。急な浮遊感に驚いたが、甘い香りに包まれた為、抵抗しなかった。
「分かった。じゃあ!」
「了解、良太兄さん!」
二人と共に出口へと向かう。海斗の肩から後を振り返ると、残された狼達は優しく微笑んでいた。あの良太さえも見た事のない、偽りのない優しい顔だった。
「死んだら嫌だ! 置いて逝かないで! そんなの寂しいよ」
「同情か」
俺の言葉に、冷たい言葉が返ってくる。悔しくて、良太の顔を見上げる。見下す様な表情、だが、そこに似合わない悲しみと孤独が瞳の中に映っている。
「同情して何が悪い! 本当は皆を守りたかったんだろ!」
その言葉に見下した表情が消え、驚きに変わる。あぁ、俺の推測は間違ってなんかいない。
「なんで、周りの大人は皆んなを助けなかったんだ。まだ大人に頼りたい時期だったのに!」
悔しい。優しい大人が一人でも居てくれたら、未来は違っていたのに。
「良太は全て一人で受け流してたんだろ。皆んなを悪い噂から守る為に!」
苦しい。頼れる大人もいない中で、弟達を守ってきた良太。何が良くて、悪いかなんて分からない中で、悪い大人が甘い言葉を吐いたとしたら、罠にかかってしまうのは目に見える。
「そんな物もういらない。皆んな大人になった。僕の助けを必要としていない」
良太のその言葉は、俺に言ってる様に見せかけた自問自答に聞こえた。
「僕なんて居なくても」
"俺なんて居なくなったとしても、誰も悲しまない"
その先を言わせてはいけない。俺も前に心の中で思ってしまったその言葉は、悪意を持って自らの心をズタズタにした。苦しく喘ぐ良太にこれ以上傷付いて欲しくない。
「そんな事ない! だって聖司は、ずっと良太を支えていたじゃないか。拓也だって!」
聖司が良太を追いかけたのは、全てを抱えてしまう兄を支える為だったら。拓也が言っていた。“俺達は破滅する”それが、良太の自殺だったとしたら。拓也の言っていた事の全てのピースが嵌まる。良太が自殺したら、優しい彼らだ。聖司と拓也は責任を感じて後追いしてしまうかも知れない。良太達を頼っていた幸平だってどうなってしまうか分からない。海斗と大地だって無傷ではいられない。そうなったら、破滅だ。
そんな悲しい事、起きたらダメだ。
離れて行って欲しくなくて、良太の胴に両腕を回し、胸に自らの額を当てる。
「ただ、良太は皆んなを悪いものから守りたかった」
兄弟思いで、責任感の強い長男。
「聖司はそんな兄さん支えたかった」
何処か危うい良太を支え続けた。頭の良い、兄思いの次男。
「拓也は下の弟達を守り、二人の兄さんを支えたかった」
上からの指示と下からの願いに挟まれて、それでも頑張って守り支え続けた我慢強い三男。
「海斗と大地は、自由が欲しかった」
居なくなった兄達の代わりに自らの自由な時間を潰して、弟の面倒を見続けた優しい四男と五男。
「幸平は寂しくて、誰かに頼りたかった」
大人に成り切れていない状態で、誰も居なくなった。寂しくて甘えたくて、居なくなった兄達を求めた寂しがり屋の末っ子。
「そんなささやかな願いだけだったのに……。誰が皆んなをこんなにも苦しめたんだ! 良太は知ってるんだろ! 話してくれよ! 話さないと誰にも……伝わらないんだ」
なんで、こんなにも苦しいんだ。俺は酷い目に遭わされて贄にされそうになったのに、同情してしまうんだ。彼らが持っていた苦しみと悲しみがこんなにも深く、辛いものだったなんて知らなかった。良太に救いを求める様にぎゅっと抱きしめ、声を上げて泣いた。
カシャーンと甲高い音が聞こえたが、そんな事に構う暇は俺に無かった。溢れる苦しみと悲しみが涙となってこぼれ落ち、良太の服を濡らした。
いつまで泣いていたか分からない。やっと泣き止み、良太から少し離れて顔を見上げる。
良太の表情は何故か呆れている様な表情だった。だが、その瞳からは孤独や悲しみが消えていた。
盛大に溜息を吐いた良太が、俺の後ろに視線を移した。何で、そんな溜息吐くんだよ。
「海斗、大地。この泣き虫とっと連れて行け」
な、泣き虫だと! 誰のせいで泣いたと思ってんだ! その言葉に苛立った俺がそう心の中呟いた言葉を口にしようとした。その時、体が宙に浮いた。急な浮遊感に驚いたが、甘い香りに包まれた為、抵抗しなかった。
「分かった。じゃあ!」
「了解、良太兄さん!」
二人と共に出口へと向かう。海斗の肩から後を振り返ると、残された狼達は優しく微笑んでいた。あの良太さえも見た事のない、偽りのない優しい顔だった。
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