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狼さんの秘密を考察してみました

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 さっきは感情的になってしまったが、理性的に二人の話を考えてみると疑問が残る。まずは、母親の死の原因。それから、父親の失踪の理由。何故、兄弟を守っていた良太が兄弟を残して宗教にのめり込んだのか。後を追うように聖司が宗教に入ってしまったかだ。

 拓也が言っていた事を思い出す。
 “聖司の兄貴だけではもう抑えられない所まで来ていたんだ。”
 “俺が居ても、時間を稼ぐ事しかできなかった。このままだと、俺達は破滅する。”

 これが意味する事ってなんだろう。
 聖司は何かを抑える為に宗教に入ったと言う事だろうか。しかし、一人では抑えられなくなった。その為に、拓也を呼んだ。だが、二人でも時間稼ぎしかできなかった。このままだと良くない事が起きてしまう。

 俺の解釈ではここまでが限界だ。聖司が何を抑えていたのか分かればなぁ。

 分からない事が多すぎる。二人にも聞くべきだろうか。

「なあ」

「なんだ?」

 俺の問いかけに、瞬時に反応してくれる海斗。

「さっき話していた事で聞きたいんだけど」

「さっきの事か」

「うん、お母さんって原因不明って言ってだけど、誰か原因知らないのか?」

「俺達以上のことを知っているとしたら、良太兄さんか聖司兄さんだろうな」

 海斗の声が少し残念そうに聞こえた。

 と言う事は、二人は母親の原因を突き止める為に宗教に入ったのだろうか。いや、それだとして、幼い兄弟を置いていなくなるだろうか。

「そうか、お父さんの事もそうなのか?」

「そうだな。俺達は当時十三歳位だったから、傷つかない様に良太兄さんがひた隠しにしていたんだ」

 父親の失踪も宗教と何か関係しているのか。

「その時の良太はいくつだった?」

「俺達の四つ上だから、十七歳位だったかな」

 十七歳で、家族を置いて一人で宗教団体に入れるのだろうか。俺なら不安で堪らないと思う。

「そうなのか。あのさ、良太がいなくなったって突然だったのか?」

「突然だった。いきなり、鞄を持っていなくなったんだ。有り金を全部聖司に渡して」

 お金を置いて行った? 宗教に入るからいらないと思ったのだろうか。それとも別の何かがあるのか。

「良太に話を聞いてみたいな」

「正直に話してくれる相手じゃないよ」

 ずっと沈黙していた大地が全てを諦めているかの様な声を出した。

「そうだな。全てを解決する為に生贄になれって言われて終わるな」

 海斗も同意見らしい。確かに、俺が聞けばそう言われてしまうかも知れない。しかし、海斗達が聞いたらどうだろうか。素直に話してくれそうな気がするが。

「言っておくが、俺達にも話してくれない」

 海斗の言葉に驚く。何で、俺の言いたい事がわかるんだ。

「聞いたんだよ。俺達も、良太と聖司にね。だけど、知らなくても良いの一点張りさ」

 そう言った大地の表情は苦しそうに歪んでいる。

 二人に言えない事。言えば傷つけるからなのか。それとも、知れば危険な事になるとかなのか。聞かない方が良いと思って言わなかった事は確かだ。

「二人にとって俺達は邪魔者なんだ」

 苦しそうな海斗の声が俺に刺さる。
 果たして、そうなのだろうか。彼らにとって、生贄を逃がそうとしている二人は確かに邪魔者だろう。だとしたら、矛盾がある。あの時、許嫁がいると嘘をついた良太が見せた表情が忘れられない。それと聖司が俺を助けた理由もだ。まだ情報が足りない。
 それでも、良太達に嫌われていると思っている二人に言える事が一つある。

「良太と聖司は二人を嫌ってない」

「は?」

 海斗の声が疑わしいと言っている。

「どうしてそう思ったの?」

 海斗同様に疑わしく思っているのか大地が苦い表情をしている。

「二人の表情かな」

「それ、あきくんしか分からない領域だよ」

 風呂場で4Pした時に海斗を茶化す、聖司はとても楽しそうだった。それと、良太のあの表情、海斗達を思ってだろう。とても優しげだった。

 それだけでも、二人が海斗と大地を嫌っているとは思えない。

「海斗達もじっくり相手を見てたらわかるって」

「遠慮する」

「流石に、良太兄さん達をじっくり見るなんてできないな」

 相当嫌なのか、こちらを見ていた大地が前を向いて歩く。そんな大地を見て寂しく思った。どう言えば、良かったのだろう。海斗達が嫌われていないって伝えたかった。それなのに、上手く伝えられなかった。俺、嫌われてしまったのだろうか。嫌われたくない。悲しみが俺を襲う。さっきやっと止まったばかりの涙が一筋頬を伝い、海斗の肩に落ちた。

「あきちゃん、泣かないで。ありがとう。俺達を気遣ってくれたんだよね。きつく言ってしまってごめんね」

 海斗の優しい言葉が悲しみから引き上げてくれた。
 海斗の声に振り返った、大地が慌てている。

「え! ごめんね! 俺、あきくんを責めたりしてないよ。悪い方に言葉を取ってしまったんだね」

 そっと大地が涙で濡れた俺の頬を拭ってくれた。

「俺もごめん。二人は嫌われてないって言いたかったのに、上手く言えなかった」


「そうか、ありがとう。大丈夫、君の言いたい事はちゃんと俺達に伝わってるよ」

 そう言った大地の苦しそうな気配は消えて、優しく微笑んでいた。
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