絶望の白 〜狼の館から脱出せよ〜

番傘と折りたたみ傘

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大地の勝利?

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 にこにこと笑いながら俺の目の前に近づいてくる。海斗が俺を守ろうと、前に立とうとしたのを手で遮った。

「腹が捩れる。やめだ。もう、大地の勝ち。いや、ふわふわちゃんの勝ちで良いぜ」

 幼い子にする様に、頭を撫ぜられた。それに気付いた海斗が威嚇する。

「おい!」

 海斗が何か言い出す前に、拓也に話しかける。

「良いのか?」

「あぁ。俺がずっと欲しいと願っていたものをくれたんだ。構わないさ」

「欲しいもの?」

「可愛い弟。こいつら可愛くないからさ」

 拓也はそう言ったが多分違う。彼が願っていたものは何か分からない。だか、あの時、拓也は“海斗達が羨ましい”と囁いていた。好意をあげられたら良いのだけれど、それはできない。俺の愛は海斗と大地のものだ。だから、感謝をあげたいと思った。色々とやられはしたが、彼の不器用な優しさには感謝している。

「おい! ふざけんな!」

「海斗、良いんじゃない。俺も毒気抜かれちゃったし」

 そう言いながら、近づいてくる大地。俺はその場から駆け出し、大地に飛びつく。

「あ! あきくん!?」

 大地の身体を服の上からペタペタと触る。どこも怪我していなさそうだ。だが、油断はできない。骨折している事だってあり得る。骨折は痛い。あれはそうそう体験したいと思わない。

「痛い所とかないのか!」

 驚いていた大地が、俺を安心させる為かふんわりと笑った。

「大丈夫だよ。本当に可愛いんだから」

 大地の腕に囚われぎゅっと抱きしめられる。優しくだが離しはしないと言う様な独占欲たっぷりの抱擁に嬉しく思った。満足した大地の腕が緩んだ時、額と額を合わせた。優しく微笑む大地が間近に見えて、胸がドキドキする。
 大地の腕から抜け出し、近づいてくる海斗と拓也を見る。

「なぁ、俺も見てくれよ。大地に蹴られた所がまだ痛むんだよ」

 冗談の様に言う拓也の腕まくりされた右腕を見る。特に何もなっていなさそうだけど。
 だが、痛いと言う事は骨にひびでも入っているのだろうか。拓也の右手を取って、前腕を摩った。摩った時、痛かったのか腕がピクリと震えた。これで痛みが少しでも落ち着けば良いが。

「まだ痛むか?」

 拓也の顔を見るには、随分と首を上げなければならない。少し大変だ。

「い、いや。くそ、先にアプローチしておくんだった。」

 そう言った拓也の頬は赤い。何かあったのか? もしかして、怪我による発熱か!?

「あきちゃん!」

 海斗に抱き抱えられて、拓哉から離された。

「そうやって、可愛いの大盤振る舞いしない!」

「え?」

 可愛いの大盤振る舞いってなんですか? 
 瞬時に大地も側に寄ってきた。

「そうだよ。他の奴に見せなくて良いからね」

「お前ら、男の焼き餅は好かれんぞ」

 少し呆れた表情をした拓也が俺達を見ていた。
 焼き餅? 海斗と大地が? そんな二人を見上げる。拓也を睨みつける二人。そんな事しなくても、俺の気持ちは二人だけのものなのにな。それを伝えたくて、海斗の首に腕を回す。

「なぁ、海斗、大地」

 呼ばれた二人が俺に視線を移したのを確認してから、俺の持てる限りの笑顔を二人に贈った。二人が優しく微笑んでくれたの見ると、どうやら俺の気持ちは伝った様だ。


 戦意喪失した拓也を広場に置いて、外へ続く隠し通路を進んでいく。俺は今、海斗に背負って貰っている。実言うと、さっきまでどっちが俺を背負うかの口喧嘩を二人が繰り広げていたのだ。拓也と俺がドン引きするくらいの口喧嘩。仕舞いには手が出そうな雰囲気になってきた為、大地は戦闘で疲れているから海斗にお願いすると俺が言ったから終息できたのだ。
 だが、未だに大地は文句を口にしている。

「俺まだ大丈夫なのに」

「大地、文句言わずに先を照らしてくれ」

「分かってますよ」

 これは、後でご機嫌取りが必要だな。そんな事も嬉しく思ってしまう俺は、重度の恋の病にかかっているのだろうか。

 広場を出る前に大地の言葉を思い出す。大地が拓也を見て言った言葉。

「さっき、拓也兄さん言っていた事だけど、俺はどっちも譲らないよ。愛も家族も」

 そんな大地の言葉を聞いた拓也が、まるで全ての荷物を下ろせた様なほっとした表情で笑っていた。

 あの大地の言葉、俺にも問いかけているかの様に思えた。家族……。俺も、母さんと父さんに話をしないと。家族なのに気を使うなんてそんな事おかしい。寂しいって言ってみようかな。言ったら何か変わるのかな。しかし、話さないと伝わらない。そう、海斗達も聞きたい事がある様に。

 二人に聞いて置きたい事。それは許嫁の事だった。
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