62 / 101
伝えたい想い 逃走の始まり
しおりを挟む
伝える事を許されない想い。二人への未練が俺をこの世界に繋ぎ止めようとしてくる。言いたい、俺の想いを二人に伝えたい。ごめんなさい。二人を自由したかった。でももう我慢できない。いや、我慢したくない。二人が欲しいんだ。恨まれても構わない。自分らしく生きていきたい。
「俺、この世界に未練なんかなかった。でも、未練が出来たんだ。優しい海斗が好き。思いやりのある大地が好き。二人が大好きなんだ……。一緒に居たい……」
溢れる想いが口からこぼれ落ちる。瞳から涙として想いが流れる。
「帰りたい……。二人の元に帰りたいよ!」
俺の想いから出た言葉に、海斗と大地が顔をあげる。
その瞬間に大地が飛び出し、俺に覆いかぶさっている悪魔を殴り飛ばした。右拳のストレートが華麗に決まった。悪魔がベットから、吹っ飛び落ちた。それを見て俺は唖然とした。悪魔を素手で殴るなんてできる物なのか。皆んなも固まっていたのか、不意を突いて海斗が拘束を抜け出て駆けてくる。
先に大地が仰向けで寝ている俺の顔を覗く。優しく頬を撫ぜる手が、気持ちよくて頬をすり寄せる。
そう言うことか、変だと思ったんだ。あの時、声に違和感があった。海斗にしては、若干低い声。二人の微々たる変化を、見破るのは兄弟でもできないらしい。
「海斗、大好き」
「俺も、大好きだ」
海斗の後に、大地も俺を覗いてくる。頭を撫ぜられて、気持ちよくて心がふわふわする。
「大地、大好き」
「俺も、大好きだよ」
二人に囲まれて、甘い香りと爽やかな香りに包まれる。心が苦しい。だが、この苦しさは好きだ。ずっと一緒にいたい。
「海斗、大地。お願い、俺をここから逃して!」
二人に手を伸ばす。その手を取ってくれた二人は、狼なんかじゃない。狼から羊を守る優しい牧羊犬だろう。
「良いぜ、あきちゃん」
「任せてよ、あきくん」
「もう、僕を殴る人間なんて初めてだよ」
悪魔から俺を隠す様に、海斗達が立ち塞がる。悪魔は肩を鳴らしながら立ち上がる。
「君達の大事な羊ちゃんは取らないよ。しっかり他の狼さんから守りなよ。彼らのことだ、諦めないで違う奴を呼ぶだろう」
「何で、見逃してくれる?」
海斗が怪訝な顔で悪魔を睨みつけている。
「もうね、君達の執着心が強すぎて、可愛い子ちゃんの良い匂いが台無しだよ。例えるなら、甘い桃に纏わり付く、ハエだね」
「例えが酷くない」
大地が嫌悪一杯な表情で悪魔を睨みつけている。
「その位酷いってこと。でも、それもまた良いっていう奴もいるからね。それじゃ、僕は帰るよ」
悪魔が指を鳴らす、パチンと音ともに俺の足枷が外れた。
「餞さ、幸せにして貰うんだよ。可愛い子ちゃん。じゃあね」
そう言うと、悪魔は黒い霧となって消えていった。
ぼーっとしていると、大地に抱え上げられ海斗の背中に乗せられた。その上から、大地のジャケットが掛けられる。
「さぁて、逃げるぞ」
「あきくんは、海斗にしっかり掴まってるんだよ」
大地が、俺を安心させる様に頭を撫ぜてきた。
「そう簡単に逃すと思ってのか、お前達」
良太達が立ち塞がった。良太の冷たい視線が俺を捉える。その視線はよくもやってくれたなと言いたげだ。恐怖で身体が震える。急に海斗が俺を抱え直した。そのお陰で、良太の視線から隠れる事ができた。
「大丈夫、俺達がついてる。もう、一人にはしない」
海斗の言葉が俺を恐怖から救ってくれた。優しい海斗、俺を良太の視線からから守ろうとしてくれたんだよな。植え付けられた恐怖を取り払おうとしてくれたんだよな。
「安心して、ちゃんとここから逃してあげるからね」
背中をジャケットの上から撫ぜられる。
大地の言葉が、恐怖で凍えた心を優しく暖めてくれた。気遣ってくれる大地、俺が思いつめて、塞いでしまわない様にしてくれたんだよな。
二人に守られて、幸せ者だ。もう、俺は自分を失いはしない。
「逃げても良いですよ。ですが、儀式はまだ出来ますからね。贄は置いて行ってください」
聖司の言葉が、俺を襲う。贄にされたら、海斗達に逢えなくなる。そんなのごめんだ。
「それは出来ない相談だ、聖司兄さん。俺達は鼻っから宗教や世界征服なんか興味ないんだよ。俺達はあきちゃんが居れば何もいらない」
「兄さん達には悪いけど、俺達警察にいくよ。出頭して兄さん達の悪事も言う。そうしないと、あきくんはずっと狙われる事になるからね」
警察。そうか、よく考えれば俺は被害者で海斗達は加害者。いずれは、離れてしまうのだろうか。離れたくない。一緒にいたい。海斗にぎゅっとしがみついた。
「お前ら、家族を置いていくのかよ!」
「家族だからだよ、幸平。全てを神頼み、いや悪魔頼みなんておかしいだろ。そんなもの、消えちまえばすっきりするだろ」
「こんな風にね!」
大地が何かを取り出し、放り投げた。次の瞬間、大地の両手に目を覆い隠されて見えなくなった。外された時、良太達が目元を押さえて蹲っていた。
「じゃあな、兄さん達、幸平」
海斗が走り出した為、さらにぎゅっと肩にしがみつく。大地が並走している。扉を蹴破り、廊下に走り出た。
「俺、この世界に未練なんかなかった。でも、未練が出来たんだ。優しい海斗が好き。思いやりのある大地が好き。二人が大好きなんだ……。一緒に居たい……」
溢れる想いが口からこぼれ落ちる。瞳から涙として想いが流れる。
「帰りたい……。二人の元に帰りたいよ!」
俺の想いから出た言葉に、海斗と大地が顔をあげる。
その瞬間に大地が飛び出し、俺に覆いかぶさっている悪魔を殴り飛ばした。右拳のストレートが華麗に決まった。悪魔がベットから、吹っ飛び落ちた。それを見て俺は唖然とした。悪魔を素手で殴るなんてできる物なのか。皆んなも固まっていたのか、不意を突いて海斗が拘束を抜け出て駆けてくる。
先に大地が仰向けで寝ている俺の顔を覗く。優しく頬を撫ぜる手が、気持ちよくて頬をすり寄せる。
そう言うことか、変だと思ったんだ。あの時、声に違和感があった。海斗にしては、若干低い声。二人の微々たる変化を、見破るのは兄弟でもできないらしい。
「海斗、大好き」
「俺も、大好きだ」
海斗の後に、大地も俺を覗いてくる。頭を撫ぜられて、気持ちよくて心がふわふわする。
「大地、大好き」
「俺も、大好きだよ」
二人に囲まれて、甘い香りと爽やかな香りに包まれる。心が苦しい。だが、この苦しさは好きだ。ずっと一緒にいたい。
「海斗、大地。お願い、俺をここから逃して!」
二人に手を伸ばす。その手を取ってくれた二人は、狼なんかじゃない。狼から羊を守る優しい牧羊犬だろう。
「良いぜ、あきちゃん」
「任せてよ、あきくん」
「もう、僕を殴る人間なんて初めてだよ」
悪魔から俺を隠す様に、海斗達が立ち塞がる。悪魔は肩を鳴らしながら立ち上がる。
「君達の大事な羊ちゃんは取らないよ。しっかり他の狼さんから守りなよ。彼らのことだ、諦めないで違う奴を呼ぶだろう」
「何で、見逃してくれる?」
海斗が怪訝な顔で悪魔を睨みつけている。
「もうね、君達の執着心が強すぎて、可愛い子ちゃんの良い匂いが台無しだよ。例えるなら、甘い桃に纏わり付く、ハエだね」
「例えが酷くない」
大地が嫌悪一杯な表情で悪魔を睨みつけている。
「その位酷いってこと。でも、それもまた良いっていう奴もいるからね。それじゃ、僕は帰るよ」
悪魔が指を鳴らす、パチンと音ともに俺の足枷が外れた。
「餞さ、幸せにして貰うんだよ。可愛い子ちゃん。じゃあね」
そう言うと、悪魔は黒い霧となって消えていった。
ぼーっとしていると、大地に抱え上げられ海斗の背中に乗せられた。その上から、大地のジャケットが掛けられる。
「さぁて、逃げるぞ」
「あきくんは、海斗にしっかり掴まってるんだよ」
大地が、俺を安心させる様に頭を撫ぜてきた。
「そう簡単に逃すと思ってのか、お前達」
良太達が立ち塞がった。良太の冷たい視線が俺を捉える。その視線はよくもやってくれたなと言いたげだ。恐怖で身体が震える。急に海斗が俺を抱え直した。そのお陰で、良太の視線から隠れる事ができた。
「大丈夫、俺達がついてる。もう、一人にはしない」
海斗の言葉が俺を恐怖から救ってくれた。優しい海斗、俺を良太の視線からから守ろうとしてくれたんだよな。植え付けられた恐怖を取り払おうとしてくれたんだよな。
「安心して、ちゃんとここから逃してあげるからね」
背中をジャケットの上から撫ぜられる。
大地の言葉が、恐怖で凍えた心を優しく暖めてくれた。気遣ってくれる大地、俺が思いつめて、塞いでしまわない様にしてくれたんだよな。
二人に守られて、幸せ者だ。もう、俺は自分を失いはしない。
「逃げても良いですよ。ですが、儀式はまだ出来ますからね。贄は置いて行ってください」
聖司の言葉が、俺を襲う。贄にされたら、海斗達に逢えなくなる。そんなのごめんだ。
「それは出来ない相談だ、聖司兄さん。俺達は鼻っから宗教や世界征服なんか興味ないんだよ。俺達はあきちゃんが居れば何もいらない」
「兄さん達には悪いけど、俺達警察にいくよ。出頭して兄さん達の悪事も言う。そうしないと、あきくんはずっと狙われる事になるからね」
警察。そうか、よく考えれば俺は被害者で海斗達は加害者。いずれは、離れてしまうのだろうか。離れたくない。一緒にいたい。海斗にぎゅっとしがみついた。
「お前ら、家族を置いていくのかよ!」
「家族だからだよ、幸平。全てを神頼み、いや悪魔頼みなんておかしいだろ。そんなもの、消えちまえばすっきりするだろ」
「こんな風にね!」
大地が何かを取り出し、放り投げた。次の瞬間、大地の両手に目を覆い隠されて見えなくなった。外された時、良太達が目元を押さえて蹲っていた。
「じゃあな、兄さん達、幸平」
海斗が走り出した為、さらにぎゅっと肩にしがみつく。大地が並走している。扉を蹴破り、廊下に走り出た。
0
お気に入りに追加
462
あなたにおすすめの小説



サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
君に望むは僕の弔辞
爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。
全9話
匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意
表紙はあいえだ様!!
小説家になろうにも投稿
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる