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伝えたい想い 逃走の始まり
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伝える事を許されない想い。二人への未練が俺をこの世界に繋ぎ止めようとしてくる。言いたい、俺の想いを二人に伝えたい。ごめんなさい。二人を自由したかった。でももう我慢できない。いや、我慢したくない。二人が欲しいんだ。恨まれても構わない。自分らしく生きていきたい。
「俺、この世界に未練なんかなかった。でも、未練が出来たんだ。優しい海斗が好き。思いやりのある大地が好き。二人が大好きなんだ……。一緒に居たい……」
溢れる想いが口からこぼれ落ちる。瞳から涙として想いが流れる。
「帰りたい……。二人の元に帰りたいよ!」
俺の想いから出た言葉に、海斗と大地が顔をあげる。
その瞬間に大地が飛び出し、俺に覆いかぶさっている悪魔を殴り飛ばした。右拳のストレートが華麗に決まった。悪魔がベットから、吹っ飛び落ちた。それを見て俺は唖然とした。悪魔を素手で殴るなんてできる物なのか。皆んなも固まっていたのか、不意を突いて海斗が拘束を抜け出て駆けてくる。
先に大地が仰向けで寝ている俺の顔を覗く。優しく頬を撫ぜる手が、気持ちよくて頬をすり寄せる。
そう言うことか、変だと思ったんだ。あの時、声に違和感があった。海斗にしては、若干低い声。二人の微々たる変化を、見破るのは兄弟でもできないらしい。
「海斗、大好き」
「俺も、大好きだ」
海斗の後に、大地も俺を覗いてくる。頭を撫ぜられて、気持ちよくて心がふわふわする。
「大地、大好き」
「俺も、大好きだよ」
二人に囲まれて、甘い香りと爽やかな香りに包まれる。心が苦しい。だが、この苦しさは好きだ。ずっと一緒にいたい。
「海斗、大地。お願い、俺をここから逃して!」
二人に手を伸ばす。その手を取ってくれた二人は、狼なんかじゃない。狼から羊を守る優しい牧羊犬だろう。
「良いぜ、あきちゃん」
「任せてよ、あきくん」
「もう、僕を殴る人間なんて初めてだよ」
悪魔から俺を隠す様に、海斗達が立ち塞がる。悪魔は肩を鳴らしながら立ち上がる。
「君達の大事な羊ちゃんは取らないよ。しっかり他の狼さんから守りなよ。彼らのことだ、諦めないで違う奴を呼ぶだろう」
「何で、見逃してくれる?」
海斗が怪訝な顔で悪魔を睨みつけている。
「もうね、君達の執着心が強すぎて、可愛い子ちゃんの良い匂いが台無しだよ。例えるなら、甘い桃に纏わり付く、ハエだね」
「例えが酷くない」
大地が嫌悪一杯な表情で悪魔を睨みつけている。
「その位酷いってこと。でも、それもまた良いっていう奴もいるからね。それじゃ、僕は帰るよ」
悪魔が指を鳴らす、パチンと音ともに俺の足枷が外れた。
「餞さ、幸せにして貰うんだよ。可愛い子ちゃん。じゃあね」
そう言うと、悪魔は黒い霧となって消えていった。
ぼーっとしていると、大地に抱え上げられ海斗の背中に乗せられた。その上から、大地のジャケットが掛けられる。
「さぁて、逃げるぞ」
「あきくんは、海斗にしっかり掴まってるんだよ」
大地が、俺を安心させる様に頭を撫ぜてきた。
「そう簡単に逃すと思ってのか、お前達」
良太達が立ち塞がった。良太の冷たい視線が俺を捉える。その視線はよくもやってくれたなと言いたげだ。恐怖で身体が震える。急に海斗が俺を抱え直した。そのお陰で、良太の視線から隠れる事ができた。
「大丈夫、俺達がついてる。もう、一人にはしない」
海斗の言葉が俺を恐怖から救ってくれた。優しい海斗、俺を良太の視線からから守ろうとしてくれたんだよな。植え付けられた恐怖を取り払おうとしてくれたんだよな。
「安心して、ちゃんとここから逃してあげるからね」
背中をジャケットの上から撫ぜられる。
大地の言葉が、恐怖で凍えた心を優しく暖めてくれた。気遣ってくれる大地、俺が思いつめて、塞いでしまわない様にしてくれたんだよな。
二人に守られて、幸せ者だ。もう、俺は自分を失いはしない。
「逃げても良いですよ。ですが、儀式はまだ出来ますからね。贄は置いて行ってください」
聖司の言葉が、俺を襲う。贄にされたら、海斗達に逢えなくなる。そんなのごめんだ。
「それは出来ない相談だ、聖司兄さん。俺達は鼻っから宗教や世界征服なんか興味ないんだよ。俺達はあきちゃんが居れば何もいらない」
「兄さん達には悪いけど、俺達警察にいくよ。出頭して兄さん達の悪事も言う。そうしないと、あきくんはずっと狙われる事になるからね」
警察。そうか、よく考えれば俺は被害者で海斗達は加害者。いずれは、離れてしまうのだろうか。離れたくない。一緒にいたい。海斗にぎゅっとしがみついた。
「お前ら、家族を置いていくのかよ!」
「家族だからだよ、幸平。全てを神頼み、いや悪魔頼みなんておかしいだろ。そんなもの、消えちまえばすっきりするだろ」
「こんな風にね!」
大地が何かを取り出し、放り投げた。次の瞬間、大地の両手に目を覆い隠されて見えなくなった。外された時、良太達が目元を押さえて蹲っていた。
「じゃあな、兄さん達、幸平」
海斗が走り出した為、さらにぎゅっと肩にしがみつく。大地が並走している。扉を蹴破り、廊下に走り出た。
「俺、この世界に未練なんかなかった。でも、未練が出来たんだ。優しい海斗が好き。思いやりのある大地が好き。二人が大好きなんだ……。一緒に居たい……」
溢れる想いが口からこぼれ落ちる。瞳から涙として想いが流れる。
「帰りたい……。二人の元に帰りたいよ!」
俺の想いから出た言葉に、海斗と大地が顔をあげる。
その瞬間に大地が飛び出し、俺に覆いかぶさっている悪魔を殴り飛ばした。右拳のストレートが華麗に決まった。悪魔がベットから、吹っ飛び落ちた。それを見て俺は唖然とした。悪魔を素手で殴るなんてできる物なのか。皆んなも固まっていたのか、不意を突いて海斗が拘束を抜け出て駆けてくる。
先に大地が仰向けで寝ている俺の顔を覗く。優しく頬を撫ぜる手が、気持ちよくて頬をすり寄せる。
そう言うことか、変だと思ったんだ。あの時、声に違和感があった。海斗にしては、若干低い声。二人の微々たる変化を、見破るのは兄弟でもできないらしい。
「海斗、大好き」
「俺も、大好きだ」
海斗の後に、大地も俺を覗いてくる。頭を撫ぜられて、気持ちよくて心がふわふわする。
「大地、大好き」
「俺も、大好きだよ」
二人に囲まれて、甘い香りと爽やかな香りに包まれる。心が苦しい。だが、この苦しさは好きだ。ずっと一緒にいたい。
「海斗、大地。お願い、俺をここから逃して!」
二人に手を伸ばす。その手を取ってくれた二人は、狼なんかじゃない。狼から羊を守る優しい牧羊犬だろう。
「良いぜ、あきちゃん」
「任せてよ、あきくん」
「もう、僕を殴る人間なんて初めてだよ」
悪魔から俺を隠す様に、海斗達が立ち塞がる。悪魔は肩を鳴らしながら立ち上がる。
「君達の大事な羊ちゃんは取らないよ。しっかり他の狼さんから守りなよ。彼らのことだ、諦めないで違う奴を呼ぶだろう」
「何で、見逃してくれる?」
海斗が怪訝な顔で悪魔を睨みつけている。
「もうね、君達の執着心が強すぎて、可愛い子ちゃんの良い匂いが台無しだよ。例えるなら、甘い桃に纏わり付く、ハエだね」
「例えが酷くない」
大地が嫌悪一杯な表情で悪魔を睨みつけている。
「その位酷いってこと。でも、それもまた良いっていう奴もいるからね。それじゃ、僕は帰るよ」
悪魔が指を鳴らす、パチンと音ともに俺の足枷が外れた。
「餞さ、幸せにして貰うんだよ。可愛い子ちゃん。じゃあね」
そう言うと、悪魔は黒い霧となって消えていった。
ぼーっとしていると、大地に抱え上げられ海斗の背中に乗せられた。その上から、大地のジャケットが掛けられる。
「さぁて、逃げるぞ」
「あきくんは、海斗にしっかり掴まってるんだよ」
大地が、俺を安心させる様に頭を撫ぜてきた。
「そう簡単に逃すと思ってのか、お前達」
良太達が立ち塞がった。良太の冷たい視線が俺を捉える。その視線はよくもやってくれたなと言いたげだ。恐怖で身体が震える。急に海斗が俺を抱え直した。そのお陰で、良太の視線から隠れる事ができた。
「大丈夫、俺達がついてる。もう、一人にはしない」
海斗の言葉が俺を恐怖から救ってくれた。優しい海斗、俺を良太の視線からから守ろうとしてくれたんだよな。植え付けられた恐怖を取り払おうとしてくれたんだよな。
「安心して、ちゃんとここから逃してあげるからね」
背中をジャケットの上から撫ぜられる。
大地の言葉が、恐怖で凍えた心を優しく暖めてくれた。気遣ってくれる大地、俺が思いつめて、塞いでしまわない様にしてくれたんだよな。
二人に守られて、幸せ者だ。もう、俺は自分を失いはしない。
「逃げても良いですよ。ですが、儀式はまだ出来ますからね。贄は置いて行ってください」
聖司の言葉が、俺を襲う。贄にされたら、海斗達に逢えなくなる。そんなのごめんだ。
「それは出来ない相談だ、聖司兄さん。俺達は鼻っから宗教や世界征服なんか興味ないんだよ。俺達はあきちゃんが居れば何もいらない」
「兄さん達には悪いけど、俺達警察にいくよ。出頭して兄さん達の悪事も言う。そうしないと、あきくんはずっと狙われる事になるからね」
警察。そうか、よく考えれば俺は被害者で海斗達は加害者。いずれは、離れてしまうのだろうか。離れたくない。一緒にいたい。海斗にぎゅっとしがみついた。
「お前ら、家族を置いていくのかよ!」
「家族だからだよ、幸平。全てを神頼み、いや悪魔頼みなんておかしいだろ。そんなもの、消えちまえばすっきりするだろ」
「こんな風にね!」
大地が何かを取り出し、放り投げた。次の瞬間、大地の両手に目を覆い隠されて見えなくなった。外された時、良太達が目元を押さえて蹲っていた。
「じゃあな、兄さん達、幸平」
海斗が走り出した為、さらにぎゅっと肩にしがみつく。大地が並走している。扉を蹴破り、廊下に走り出た。
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