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絶望の白 墜ちる一歩前

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 報告の為、二人は惜しむ様に部屋を出て行った。

 俺は、もう思い残す事はない。二人に抱かれ、愛された記憶を持って孤独を生きていく。この先に幸せな未来があると信じて。それが俺の人生だろう。

 海斗の部屋を出る前に、甘い香りと爽やかな香りに浸る。もう、この香りとも最後。肺一杯に吸い込む、変態でもいい。二人の香りを思う存分堪能して部屋を後にした。

 静寂に包まれた廊下で、ポケットの中を探る。金属の触れ合う音が響く。右手の平に五つの鍵。長かった様であっという間だった気がする。いつの間にか、外は明るくなっていた。誘拐されてから何時間、いや何日たったのだろう。感覚的には二日か三日位だと思うが、意識がなかった事や寝てしまった事もある為、本当の所はよく分からない。しかし、それも今となってはどうでも良い。ここを脱出するのだから。

 三階から二階へ、二階から一階と階段を降りていく。段々と海斗と大地から離れていくのを感じる。色付いていた世界が灰色に変わっていく様で、誘拐される前までどうやって生きていたのか分からない。寂しいと泣く心に蓋して、一階ホールへと進んでいった。

「来てしまったのですね」

 言葉が聞こえてきて、いつの間にか俯いて歩いていた事に気付き、顔をあげた。
 玄関の前に、良太と聖司が立っていた。海斗達のことを考えていた為、全く気が付いていなかった。

「やらんとならんのか」

 背後からも声が聞こえ、振り向くと拓也と幸平が立っている。

「良太お兄ちゃん、俺、海斗達に殺されるかも」

「双子は、どうでも良い。今更、なにも出来やしない」

 この状況、非常にまずい。四人の狼に囲まれてる。

「鍵は集めたんだ! 俺の勝ちだろ!!」

 前へと振り向き、良太に訴える。腕を組んだ良太の表情は何も浮かべてもいない。無表情だ。

「言ったはずだ。君の勝ち条件は、この屋敷を脱出することだと」

「ふざけるな。こんなやり方ありかよ!」

 最後の最後で、本気で狩にくるなんて。

「そう簡単に、世の中うまく行くと思うな。勝つ為なら全力でやるそれが俺達だ」

 良太が一歩前へ出るのに合わせて聖司達も、距離を詰めてくる。

「すみません。私たちの為にも、許してください」

 聖司の決意を秘めた瞳に見つめられて、恐怖が襲いかかってくる。

「お前は悪くない。お前を一人にした周りの大人の所為だ」

 拓也の言葉は優しいが、不安で俺の心を縛りつける。

「大丈夫。もう、孤独じゃなくなるから、許してくれ」

 希望が込められた様な幸平の言葉は、俺を逃しはしないと言っている。

「なんで! なんで俺なんだよ!!」

 段々と追い詰められて、不安と恐怖で怖くてそれを隠したくて、一番疑問に思っていたことを狼達にぶつけた。

 それを聞いて何を思ったのか、縮まる包囲が止まった。

「それは、白くんが孤独で愛に飢えていたからさ」

「え?」

 一人だったから、狙われたのか。そんな、一人ぼっちの人なんて沢山いる。

「孤独で寂しいのに、訴えることも出来ずに全てを自分の所為だと抱え込む所」

 聖司の声が俺を責める。

「欲しいと願っても、全てを我慢する所」

 拓也の声が不安を煽る。

「過敏な感覚と快楽に弱い所。それが、贄に必要条件だったんだ」

 幸平の声が絶望へと導く。

 そんな事って……ない。俺、なりたく孤独になったんじゃない。両親を思って泣くのも我慢してきた。欲しい物だって、金銭面が不安だったから我慢した。海斗と大地を思って愛を諦めざるおえなかった。感覚だって生まれつきで、どうしようもできない。それが全ていけない事だというのか。何一つ、自分の為じゃないのに。そのせいで、俺は贄に選ばれてしまったのか。もう、何も考えたくない。苦しいと訴えてくる心も、逃げろと訴えてくる理性も、もうどうでも良い。

 俯いて、絶望に染まった俺の肩を誰かが叩いた。

「心配いらない。孤独から連れ出してあげるよ」

 それを言ってくれたのは、俺の望んだ人ではなかった。
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