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寂しい思い 詰む用の謎
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「さて、そろそろ行かないとな」
海斗がベットから立ち上がるのを横目でみる。行ってしまう。そう思うと、胸が苦しくなる。そばに居て欲しい。一人になりたくないと思って、顔を上げて口にしてしまう所で、噤んだ。俺は何を言うつもりだった。居て欲しいと思っても、所詮海斗は誘拐犯でゲームの鬼だ。追う側と追われる側、相反する立場。言えない。
「どうしたの? そんな悲しそうな顔して」
困った様な顔をした海斗が近づき、俺の顔を覗いてくる。
「もう、行くのか?」
少しでも先延ばしにしたくて、話を続ける。
「……あきちゃん。俺もまだ一緒にいたいよ。でも、行かないと」
「どこに行くんだ?」
「大地の所だよ」
「大地はここに来ないのか?」
「あ、あきちゃん?」
「そう言えば、海斗の歳っていくつなんだ?」
「二十五だけど……」
「そうなんだ! 俺もっと歳下なのかと思ってた」
「あきちゃん」
「また、いつ……」
意味の無い会話で海斗を困らせている事に気づく。また、いつ会えるかと聞いてしまう所だった。何をやっているんだ俺は、苦しいと訴えてくる胸を押さえつける。
「ごめん」
「いいんだよ。それにしても、俺の事気にしてくれてるって自惚れても良いよね」
海斗の言葉を聞いて気付く、どう聞いても行かないでと言っている様なやり取りだった。
「ち、違う!」
「違わないね。嬉しいな。大地に自慢しよ!」
にこにこと満面の笑みを浮かべる海斗をみて、恥ずかしくて頬が熱くなる。
「真っ赤だ。可愛い」
海斗に額と頬、唇に触れるだけの優しいキスを落とされる。
「大丈夫だよ。すぐに探し出して、あきちゃんを喰べてあげるから」
肉食獣の様な海斗の瞳の中で俺が映る。むかつく程のイケメンで苛々する。
「そう簡単に喰われてたまるか!」
「そうか、なら勝負だな」
ぐりぐりと頭を撫ぜられた。
「うるさい! さっさと行け!」
ついつい、カッとなって言い放ってしまった。
「はいはい、行きますよ。じゃあ、また後でね」
海斗は部屋を出て行った。
静かになった部屋の中、海斗が出て行ってから気付いた。俺が元気になれる様に、すぐに会いに行くと遠回しに言ってくれた言葉に胸が暖かくなった。
くそ、最近は涙脆くなったのか、すぐに泣いてしまう。目元を拭い、ベットから立ち上がる。多少体に強張りはあるが、痛みは無い。海斗が塗ってくれた薬のお陰かもしれない。
ポケットに違和感を感じて、手を入れる。鍵と狼のエンブレム、それと小さく畳まれた紙が一つ入っていた。なんだこれは、こんなもの入っていなかった。小さく畳まれた紙を開く。
【二階の書斎へ行きなさい。机の引き出しに三階への教本があります】
この文字、海斗じゃ無い。書き順を間違わないで書いていそうな綺麗な字だ。それに敬語。当てはまる人物が一人しか思いつかない。多分、聖司の字だ。なんで、聖司がヒントを?
罠か。俺を誘き出して犯そうという魂胆だろうか。行きたく無い。しかし、あの謎はどう頑張っても分からない。また間違えれば、襲われるだろう。待ち伏せされて犯されるか。間違って犯されるか。どっちにしろ、襲われるのは間違いない。どうせなら、進展がありそうな方に行くべきだろう。溜息をつき、片手で紙をぐしゃぐしゃに握りつぶす。行ってやる。どうせヤられるんだったら、正々堂々ぶつかってやる。覚悟を決めて、俺は書斎へと向かう為、部屋の外へと出た。
薄暗い廊下は静かだった。誰もいない。此処は、風呂場隣の客室前の廊下の様だ。
と言うことは、此処の階は、地下だ。二階まで少し遠い。誰にも会わないで行けるだろうか。ゆっくりと歩き、階段を目指す。
ピーンポーンとキャイムが響く。もう、そんなに時間が経ったのか。
「時間になりました。第六、最後の狼が放たれます。羊さんは壊されて下さい」
ピーンポーンパーンポーンと終了の音が響き渡り、静寂に包まれた。
廊下の壁に寄りかかり、蹲み込んだ。イカれてる。なんで、壊されないといけないんだ。さっきの放送の声、前までは女の人の様な声だったのに、男の人の声になっていた。聞いた事のない冷たい声。多分最後の狼、良太だろう。怖い。さっきの放送、お前を確実に壊すと言われている様に感じた。良太に会ったら、確実に壊されてしまうだろう。そうなったら、俺は、どうなるんだ。誰でもいいから、助けて。
少し蹲ってぼーっとしていた。沈んだ心も少し持ち上がってきた。まだ、会ってもいない相手になんで怯えてしまったのだろう。此処にいるのは賢明ではない。立ち上がり、書斎へと向かう為、深呼吸をし気持ちを落ち着かせる。よし! 俺なら大丈夫。そう言い聞かせて、階段へと向かった。
運がいいと言うべきだろうか。狼達に会わずに、二階の書斎の前の扉まで来れた。
扉を少しだけ開けて、中を見る。誰もいなさそうだ。しかし、油断はできない。どこかに隠れているかもしれないからだ。音を立てぬ様にそろそろと書斎へと入った。
ゆっくりと書斎の中央にある机へと向かう。机には引き出しが四つあった。一番上の引き出しを開ける。そこにあった本に唖然とした。その本は、車の教習用の教本だった。
まさか、これがヒントなのか? その本を手に取って、ぺらぺらとページを捲っていく。文字と途中途中に挿絵がある本だった。最後の方のページを見たとき、動きが止まってしまった。嘘だ。こんなの、高校生が分かるはずない。それこそ、興味でもない限り見ないだろう。くそ、完全に俺を堕とす為に用意された問題だ。
本を勢いよく閉じ、書斎から駆け出した。三階への階段に向かった。モニターより少し離れた位置で、深呼吸をし落ち着いてから近づいた。
モニターに近づくと電源が入った。
【次の問いの?を答よ】
【黄+緑=初 赤+黄+緑+黄緑=高 蝶黄+緑=聴 四つ葉クローバー+青=?】
もう、間違えはしない。タッチスクリーンにある言葉を書いた。あの本が間違えていなければ、間違えるはずがない。
ピーンポーンと正解の音が廊下に響き、鉄格子が開いていく。
性格の悪い問題だ。正解の答えは、【身】だった。車で使用されるマークを文字にした問題だった。黄と緑の印で初心者のマーク、赤と黄と緑と黄緑で高齢者用のマーク、蝶黄と緑で聴覚障害者のマーク 四つ葉クローバーと青で身体障害者のマーク。教本がなければ、俺は一生解けなかっただろう。そう、俺はここで詰んでいた。
そうとなれば、疑問が発生する。俺を壊したいはずの聖司がなんでヒントをくれたのかだ。この教本がなければ、確実にここで俺を足止めし、壊せるはずなのに。なんで。分からない。聖司の意図が読めない。いや、それよりも三階に行こう。悩んでいても何も分からないのだから。
海斗がベットから立ち上がるのを横目でみる。行ってしまう。そう思うと、胸が苦しくなる。そばに居て欲しい。一人になりたくないと思って、顔を上げて口にしてしまう所で、噤んだ。俺は何を言うつもりだった。居て欲しいと思っても、所詮海斗は誘拐犯でゲームの鬼だ。追う側と追われる側、相反する立場。言えない。
「どうしたの? そんな悲しそうな顔して」
困った様な顔をした海斗が近づき、俺の顔を覗いてくる。
「もう、行くのか?」
少しでも先延ばしにしたくて、話を続ける。
「……あきちゃん。俺もまだ一緒にいたいよ。でも、行かないと」
「どこに行くんだ?」
「大地の所だよ」
「大地はここに来ないのか?」
「あ、あきちゃん?」
「そう言えば、海斗の歳っていくつなんだ?」
「二十五だけど……」
「そうなんだ! 俺もっと歳下なのかと思ってた」
「あきちゃん」
「また、いつ……」
意味の無い会話で海斗を困らせている事に気づく。また、いつ会えるかと聞いてしまう所だった。何をやっているんだ俺は、苦しいと訴えてくる胸を押さえつける。
「ごめん」
「いいんだよ。それにしても、俺の事気にしてくれてるって自惚れても良いよね」
海斗の言葉を聞いて気付く、どう聞いても行かないでと言っている様なやり取りだった。
「ち、違う!」
「違わないね。嬉しいな。大地に自慢しよ!」
にこにこと満面の笑みを浮かべる海斗をみて、恥ずかしくて頬が熱くなる。
「真っ赤だ。可愛い」
海斗に額と頬、唇に触れるだけの優しいキスを落とされる。
「大丈夫だよ。すぐに探し出して、あきちゃんを喰べてあげるから」
肉食獣の様な海斗の瞳の中で俺が映る。むかつく程のイケメンで苛々する。
「そう簡単に喰われてたまるか!」
「そうか、なら勝負だな」
ぐりぐりと頭を撫ぜられた。
「うるさい! さっさと行け!」
ついつい、カッとなって言い放ってしまった。
「はいはい、行きますよ。じゃあ、また後でね」
海斗は部屋を出て行った。
静かになった部屋の中、海斗が出て行ってから気付いた。俺が元気になれる様に、すぐに会いに行くと遠回しに言ってくれた言葉に胸が暖かくなった。
くそ、最近は涙脆くなったのか、すぐに泣いてしまう。目元を拭い、ベットから立ち上がる。多少体に強張りはあるが、痛みは無い。海斗が塗ってくれた薬のお陰かもしれない。
ポケットに違和感を感じて、手を入れる。鍵と狼のエンブレム、それと小さく畳まれた紙が一つ入っていた。なんだこれは、こんなもの入っていなかった。小さく畳まれた紙を開く。
【二階の書斎へ行きなさい。机の引き出しに三階への教本があります】
この文字、海斗じゃ無い。書き順を間違わないで書いていそうな綺麗な字だ。それに敬語。当てはまる人物が一人しか思いつかない。多分、聖司の字だ。なんで、聖司がヒントを?
罠か。俺を誘き出して犯そうという魂胆だろうか。行きたく無い。しかし、あの謎はどう頑張っても分からない。また間違えれば、襲われるだろう。待ち伏せされて犯されるか。間違って犯されるか。どっちにしろ、襲われるのは間違いない。どうせなら、進展がありそうな方に行くべきだろう。溜息をつき、片手で紙をぐしゃぐしゃに握りつぶす。行ってやる。どうせヤられるんだったら、正々堂々ぶつかってやる。覚悟を決めて、俺は書斎へと向かう為、部屋の外へと出た。
薄暗い廊下は静かだった。誰もいない。此処は、風呂場隣の客室前の廊下の様だ。
と言うことは、此処の階は、地下だ。二階まで少し遠い。誰にも会わないで行けるだろうか。ゆっくりと歩き、階段を目指す。
ピーンポーンとキャイムが響く。もう、そんなに時間が経ったのか。
「時間になりました。第六、最後の狼が放たれます。羊さんは壊されて下さい」
ピーンポーンパーンポーンと終了の音が響き渡り、静寂に包まれた。
廊下の壁に寄りかかり、蹲み込んだ。イカれてる。なんで、壊されないといけないんだ。さっきの放送の声、前までは女の人の様な声だったのに、男の人の声になっていた。聞いた事のない冷たい声。多分最後の狼、良太だろう。怖い。さっきの放送、お前を確実に壊すと言われている様に感じた。良太に会ったら、確実に壊されてしまうだろう。そうなったら、俺は、どうなるんだ。誰でもいいから、助けて。
少し蹲ってぼーっとしていた。沈んだ心も少し持ち上がってきた。まだ、会ってもいない相手になんで怯えてしまったのだろう。此処にいるのは賢明ではない。立ち上がり、書斎へと向かう為、深呼吸をし気持ちを落ち着かせる。よし! 俺なら大丈夫。そう言い聞かせて、階段へと向かった。
運がいいと言うべきだろうか。狼達に会わずに、二階の書斎の前の扉まで来れた。
扉を少しだけ開けて、中を見る。誰もいなさそうだ。しかし、油断はできない。どこかに隠れているかもしれないからだ。音を立てぬ様にそろそろと書斎へと入った。
ゆっくりと書斎の中央にある机へと向かう。机には引き出しが四つあった。一番上の引き出しを開ける。そこにあった本に唖然とした。その本は、車の教習用の教本だった。
まさか、これがヒントなのか? その本を手に取って、ぺらぺらとページを捲っていく。文字と途中途中に挿絵がある本だった。最後の方のページを見たとき、動きが止まってしまった。嘘だ。こんなの、高校生が分かるはずない。それこそ、興味でもない限り見ないだろう。くそ、完全に俺を堕とす為に用意された問題だ。
本を勢いよく閉じ、書斎から駆け出した。三階への階段に向かった。モニターより少し離れた位置で、深呼吸をし落ち着いてから近づいた。
モニターに近づくと電源が入った。
【次の問いの?を答よ】
【黄+緑=初 赤+黄+緑+黄緑=高 蝶黄+緑=聴 四つ葉クローバー+青=?】
もう、間違えはしない。タッチスクリーンにある言葉を書いた。あの本が間違えていなければ、間違えるはずがない。
ピーンポーンと正解の音が廊下に響き、鉄格子が開いていく。
性格の悪い問題だ。正解の答えは、【身】だった。車で使用されるマークを文字にした問題だった。黄と緑の印で初心者のマーク、赤と黄と緑と黄緑で高齢者用のマーク、蝶黄と緑で聴覚障害者のマーク 四つ葉クローバーと青で身体障害者のマーク。教本がなければ、俺は一生解けなかっただろう。そう、俺はここで詰んでいた。
そうとなれば、疑問が発生する。俺を壊したいはずの聖司がなんでヒントをくれたのかだ。この教本がなければ、確実にここで俺を足止めし、壊せるはずなのに。なんで。分からない。聖司の意図が読めない。いや、それよりも三階に行こう。悩んでいても何も分からないのだから。
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