絶望の白 〜狼の館から脱出せよ〜

番傘と折りたたみ傘

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狼達の会話

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 そうこうしている内に、狼達が風呂場に集まってきた。俺がいる場所は、狼像の吐き出す温泉の滝がある為、狼達から見えない。だが、俺からも誰が誰だか分からない。しかし、声は反響する為聞こえてくる。

「海斗、早いな」

 大地の声だ。

「面倒だ。何で皆んな仲良く風呂に入らんとならん」

 海斗の面倒臭そうな声が聞こえてくる。

「同感。俺も好きな時間に入りたいなぁ」

「貴方達は、少しは年長者の意見を聞きなさい」

 聖司だ。犯された事を思い出し、身震いがする。

「仕方ないだろ、双子は俺たちに敬意なんて物持ってないんだろうからな」

 拓也の声。与えられた痛みを思い出し、涙が溢れそうになった。海斗のタオルで顔を埋めて落ち着かせる。

「はい! 俺はお兄ちゃん達に敬意持ってま~す!」

 幸平の声だ。与えられた言葉を思い出して心が苦しくなる。海斗の香りに縋り耐えた。

「はあ! 嘘くせぇ。俺は、大地しか信じねぇ」

「あ! 俺も海斗だけかな」

 海斗と大地は相思相愛の様だ。俺に構わんで良いから、二人で愛し合って下さい。

「はぁ、全く。それよりも、子羊ちゃんの報告をしてしまいましょう。皆、何回犯したか後、場所を報告して下さい。私は、二回で食堂と客室では拓也と一緒でした」

「俺、まだ一回。書斎でヤりました」

「俺も、一回。聖司とセットだ」

 沈黙が広がった。

「貴方達は、子羊ちゃんの事になると強情になりますね」

「ちっ、だから贄は嫌だって言っただろう。むかつく」

 どうして海斗は俺が贄に選ばれたのが嫌なのだろう。俺のことを好きだと連呼している所見ると、好きだから? だが、意識して貰えない相手をそこまで、庇おうとするだろうか。

「海斗、仕方ないよ。俺は三回。客室と応接室では海斗と一緒で、後は調理室」

 大地の声も仕方ないと諦め気味だが、不服そうなのを隠していない。

「……客室、風呂場、応接室」

 海斗の声は、俺は不服だと言うように言い放っている。

「はい、わかりました。随分と、良い様に贄と向かっています。このまま行ってくれるともうすぐ、我らの念願が叶いそうです」

 聖司のとても嬉しそうな声にぞっとする。良い贄ってどう言うことだ。聖司と拓也に犯された後、いい感じに進んでいると言われた事を思い出す。
 俺、壊れてきてるって事か。そんなはずは無い、少し疲れてはいるが自分を失ってはいない。しっかりと自分の意思で考えられる。彼らが目指す俺って何なんだ?

「我らじゃない、お前らのだろう」

 海斗の声が一段と低くなる。

「聖司兄さん、あきくんを贄にするのやめない?」

「だめですね。あの子程の適性を持った子はそうそういません。だから選ばれたのです」

 適性。俺は何を持っていた所為で、選ばれてしまったのだろうか。

「胸糞悪い」

 海斗が吐き捨てるように言った。

「何だ、海斗お兄ちゃん。まさか、綿菓子ちゃんの事好きになった? 犯されてボロボロと泣くあの泣き顔可愛いよね」

 幸平の声はとても楽しそうだ。海斗をからかっているのだろう。

「お前、ぶっ飛ばされたいようだな」

「海斗やめなよ。からかって喜ぶ奴を相手するだけ無駄だよ」

「大地お兄ちゃんも好きなの~? 綿菓子ちゃん可愛いもんね。突っ込んだだけでイって。あんあん啼いてさ」

「それ以上、あきくんを侮辱しない方が身の為だよ。海斗を止めたくなくなる」

 大地の怒りの声を初めて聞いた。いつも柔らかい声に棘がある。

「やめなさい。三人とも」

「は~、取り敢えずお開きにしようや。乱闘なんて見たくない」

 そうやって、いざこざを収めたのは拓也の声だ。

「賛成! 俺、もうのぼせそうだから上がるね~」

「はぁぁ! 幸平! 逃げんな臆病者!」

「海斗止めよう」

「それでは、私も上がります。拓也はどうします?」

「俺も上がるわ。のぼせんなよ。双子」


 幸平と聖司、拓也が浴場から出て行った。少しの間静寂がお風呂場に広がった。その静寂を破ったのは大地だった。

「拓也兄さんとあきくんヤっちゃったんだね」

「ちっ、だからか」

「どうかした?」

「いや、何でもない」

「あきくん、大丈夫かな。拓也兄さんのでかいから、今頃動けなくなって何処かで倒れてないかな」

「大丈夫だろ」

「……そう? それと、海斗は上がる? 俺ももうのぼせそうだから上がるけど」

「もう少しだけ、入ってる」

「分かった。じゃあ行くね」

 ガラッと音がして大地が出て行った。

 ぺたぺたと足音が近づいてくる。足音が止み、タオルに埋めていた顔を上げる。

「大丈夫? もう少しで彼奴らも脱衣場から出て行くと思うけど」

 俺の前にしゃがみ、目線を合わせる様にして海斗はいた。

「うん」

「少し頬が赤い、のぼせたみたいだね。水を持ってくる」

 そう言って、立ち上がり行ってしまいそうな海斗の右手を咄嗟に掴んだ。

「あきちゃん?」

「海斗、俺の適性って何なの?」

「……」

「何で、俺なの? 俺は壊れ始めてるの? 壊れたくないよ」

 不安が俺を襲ってくる。俺はどうすれば壊されないで済む。どうすれば良いんだ。
 海斗がしゃがみ俺を見つめてくる。真剣なその眼差しに目が離せない。

「あきちゃん。君は、この世界どう思う?」

「え?」

 俺の問いかけの答えではない事が返ってきて驚いた。海斗は何を言っているんだ。

「もし、苦痛も孤独もない別の世界があったとしたら、行きたい?」

 現実的ではない。だがもし、苦痛も孤独もない世界があったとしたら、俺は行ってみたい。痛い事も苦しくも無い。一人じゃない世界そんな世界があったとしたら、天国だろう。

「そんな世界があるなら、行ってみたいけど」

 俺の答えを聞いた海斗が驚き、表情を隠す様に俯いた。唐突的に海斗に抱き寄せられる。ぎゅっと抱き締められ、耳元で囁かれる。

「君が望むなら、俺は反対はしない。寂しくとも」

「海斗?」

 抱擁を解かれて、海斗の顔を見る。その表情は穏やかに笑っていたが、暗い瞳の奥に悲しみが見えた。何でそう思ったのだろう。

 海斗の顔が近づく、逃げれるのに俺は逃げなかった。優しい触れるだけのキス。それだけで、海斗は立ち上がった。深いキスを期待してしまった事に恥じた。

「水を持ってくるよ」

 あっさりと行ってしまった海斗の後ろ姿を未練たらしく、見ている事に気付いて俯く。
 海斗はどうしてしまったのだろう。前なら容赦なく、深いキスに持ち込み俺を翻弄させるはずなのに。いや、俺は何を考えているんだ。毒牙に掛からなくて良かったと思うべきなのに、俺も可笑しくなってしまったのだろうか。

 海斗がコップ一杯の水を持ってきてくれた。コップを受け取り、喉へと流し込む。水は冷たく、のぼせた体に潤いを与えてくれた。

「もう、皆居なかった。脱衣場に行こう。立てるかい?」

 そう言われて、立ち上がろうとしたが、後孔に痛みが走り立ち上がれなかった。さっき、海斗から逃げようとして負荷がかかった様だ。

「おいで」

 海斗が両手を差し伸べてくる。いつまでここには居られない。海斗に手を伸ばす。海斗は俺の態度に驚いた様子を見せたが、ふわりと笑い俺を抱え上げてくれた。
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