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強運は誰? 幸平?海斗?それとも俺?
しおりを挟む大地の最後の仕草を思い出す。舌を指差していた。
舌? 舌の為に整える? あ! そう言うことか。
俺は戸棚や調理台の引出しなどを漁った。そしてやっと見つけた箱の中には、調味料と共に狼のエンブレムが入っていた。
パネルには、俺が欲しいものが手に入る的なことが書いてあったのに、鍵でない事にがっかりした。しかし、これも何処かで使うのだろう。念の為、頂戴する事にした。
今回の謎は、ちょっと難しかった。大地のヒントがなければ、今もまだ悩んで居ただろう。調味料のさしすせそが、空欄にはまる問題だった。砂糖のさ、塩のし、酢のす、醤油のせ、味噌のそ。これを当てはめて、さしすせそのはこに我眠ると導き出すのが答えで、調味料の箱を探せと言うものだった。
家庭科で習っては居たが、男子高校生である俺は料理なんて興味無かった為、すっかり忘れていた。ヒントをくれた大地に感謝した。だが、よく考えてみると、誘拐されて謎解きしなければいけない状況に追い込んだのは大地達であることに気づき、感謝したことのに後悔した。
その他には特に何も見当たらなかった為、調理室を後にした。
廊下に誰もいないか確認してから出た。
目がしばしばしてくる。そういえば、今は何時なんだろうか。この屋敷にはどこにも時計がない為、詳しい時間が分からない。少し眠たいので夜の九時以降である事は違いない。所所で、短い睡眠は取れているが、ゆっくり休みたいと体が訴えてくる。それもそうだ、何回ヤられたのか覚えていないが、沢山犯された体は疲労困憊だ。
部屋で寝かせてあげると大地の言葉を思い出すが、頭を振ってその考えを追い出す。さっきも犯されたのに、大地に頼めばまた犯される。それは嫌だ。眠気に耐えるしかない。一呼吸ついてから、次の部屋へと向かおうとした。
その時、パーンポーンとチャイム音が響いた。驚き、体がぴくりと震えた。
「時間となりました。第五の狼が放たれます。羊さんは逃げられるのでしょうか」
終了のチャイムが響いて、静寂に包まれる。
逃げられるのでしょうかとの言葉に、怒りを覚えた。まるで、俺がもう逃げれる可能性は低いと言うような言葉に苛立つ。逃げてやるよ! 逃げてぎゃふんと言わせてやる。怒りを力に変えて次の部屋へと向かった。
扉を開いて驚いた。そこは武器庫の様な部屋だった。刀に剣、鎧に、銃、盾、大砲まである。なんで、こんな部屋があるんだ。
ゆっくりと、部屋の中を歩く。薄暗い部屋のランタンに照らされて、不気味に輝く武器達に恐怖が募る。こんな所さっさと探して、次の部屋に行きたい。そう思い通りにはいかない様だ。剣を掲げた鎧の下にパネルと小さな宝箱が置いてあった。小さな箱には一から九までのボタンが付いている。パネルにはこう記されていた。
【次の暗号を解いて、?の数字を箱に打ち込め。さすれば、きらめく物が手に入る。間違えれば、狼がお前を食らいにいく】
【鎧=5 刀=11 銃=7 盾=5 大砲=?】
え? これは、この部屋にある武器の数を数えて打ち込めばいいのだろうか。部屋の中を見て歩く事にした。鎧は五つ、刀は十一本、銃は七つ、盾は五つ、大砲一つ。と言う事は、1が答えだ。箱まで戻って、打ち込もうとしたが、手を止めた。本当に1で良いのだろうか。
今までの問題は、比較的頭を捻る問題だった。ここにきて、こんなに簡単な問題を出すだろうか。他に何か見逃しはないか見た方が良さそうだ。
箱の裏やパネルの裏面を見たが特に何もない。本当に1が答えなのだろうか。間違えられない。間違えれば、狼がくると書かれている。震える手を伸ばし、1のボタンに指を置く、力を込めればボタンは押ささる。押すか押さないか悩みに悩んで、決意し押す事にした。力を込めようとした時、カチャリと扉が開く音が聞こえた。まずい、誰かきた! 音を立てない様に、急いで刀の展示のケース下にもぐりこんだ。
「綿菓子ちゃん~。どこかなぁ」
幸平だ。俺をふざけたあだ名で呼ぶ彼奴は、危険だ。彼奴に襲われる位なら、海斗と大地にヤられた方がまだマシだ。いや、俺は何を考えてる。海斗と大地にヤられるのもダメだろ。
「いないなぁ、さっき大地がこの階でヤった報告あったんだけどなぁ。もう違う階に行ったのか」
段々と幸平の足音が近づいてくる。荒くなっていく呼吸音が聞こえない様に口元を押さえて、体を縮める。お願いだ。さっさと部屋を出て行ってくれ。
「そうだ。展示ケースの下にいたりして」
幸平が俺の隠れているケースの下を覗く為、膝をついた。もう、ダメだ。見つかってしまう。体が小刻みに震える。また、酷い言葉で嬲られながら犯される。苦痛を思い出し、瞳から涙が溢れた。
「見つけた!」
目を閉じ、伸ばされるであろう手から逃れたくて体を硬くした。
「この野郎! お前! さっきはよくも!! 今後からあきちゃんとヤった後は、タオルと着替えをちゃんと出しやがれ!」
え? 海斗の声? いつこの部屋に入ってきたのだろう。
「え~、海斗? 綿菓子ちゃんは壊す予定だろ。別にいいじゃんそんな面倒なことしなくても」
「お前、面倒だと! それと、変なあだ名であきちゃん呼んでんじゃねぇ!! おまけに、兄貴を呼び捨てするとは。ぶっ飛ばすぞ!」
えーっと、幸平は海斗の弟? と言う事は、大地の弟って事でもあるのか。それにしても、海斗、敬称はおまけ扱いかよ。
「暴力反対! 分かりました。反省してます、海斗お兄ちゃん~」
「気持ち悪。そんな事より、聖司兄さんがお前を呼んでんぞ」
海斗、敬称で呼べって言っておきながら気持ち悪いは酷くないか。
「聖司が?」
「お前、聖司兄さんには敬称つけろ。殺されるぞ」
「は~い! じゃ、海斗お兄ちゃんが怖いので俺退散します~」
「うるせぇ! とっとと行け!」
幸平が立ち上がり、扉の方へと去っていく。助かった。海斗、俺を助けにきてくれたのか。その様に思っていまう程、俺の心は疲弊していた。縮こまっていた体を弛緩させる。あれ、なんで俺は安心しているのだろう。海斗がまだこの部屋にいるのに。
海斗の足音が段々と近づいてくる。だが、海斗の足は止まらず、俺の前を通り過ぎ問題のある鎧の前まで行ってしまった。何をしてるかまでは見えないが、パネルを持っている。終わったのか、パネルを元に戻して部屋を出て行った。
そっと、展示ケースの下から出て、海斗が何をしていたのか確認する為にパネルを見てみる。
表面には特に変わりは無い。裏面を見て、俺は海斗の優しさに触れて涙が頬を伝った。
【見かけに騙されるな。全てはひらがなにある】
片隅に小さく書かれた文字に、涙が落ちて少し滲む。目元を乱暴に手で拭い、涙を拭き取る。
パネルを表に戻して、考える。この文字と数字は、この部屋の武器の数じゃ無い。全てはひらがなにあると海斗は言っている。と言う事は、ひらがなに変換すればいいのか。
ひらがなに変換し、ある事に気付いた俺は、小さな箱の数字ボタンを12と打ち込んだ。
カチャッと鍵が外れる音がして、箱を開けてみるとそこには、鍵があった。箱から取り出し、鎧の足元に座り込んだ。涙が止まらない。
海斗がここに来なければ、俺は今頃壊れてしまっていたかもしれない。
海斗が来てくれるのが早くても遅くても俺は、ダメだっただろう。早ければ幸平に犯される。遅ければ、幸平に犯されて、その後に箱の答えを間違えて狼に襲われていただろう。その狼が海斗や大地から休ませてくれるかも知れないが、海斗や大地じゃないかも知れない。
ありがとう、海斗。俺は誰もいない部屋で静かに泣いた。
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