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あれもダメ、これもダメ。
しおりを挟む襲わないって言ったのに。もう、俺に構うなと言う視線を男に向ける。
「ごめんね。でも綺麗になったよ。さっぱりして気持ちいいでしょ」
「知らん!」
「そんなに怒らないでよ。俺、多分この後皆んなに叱られるんだから」
「なんで?」
落ち込む様に言う男に、少し同情してしまった。だが、同情したのをすぐ後悔した。
「君のアフターケアしちゃダメって言うんだ。ピロートークもダメ。何が悲しくて、好きな子のお世話しないで置いていかないと行けないんだか」
「……」
「海斗もね。君のアフターしたいって言ってたんだ。それなのに、上は「ダメだー!」の一点張り。ぐちゃぐちゃに汚され落ち込む君を放置して行かないといけない気持ちなんて、彼奴らは分からないんだよ」
そっと腕の中に囲まれる。優しく背中を撫ぜられ、ぎゅっと力強く抱かれて心地よく思ってしまう。分からない。お婆ちゃんが良くしてくれたこの行為。忘れていた。寂しいといえない俺を抱きしめてくれたお婆ちゃん。愛されるってこんな気持ちだったのかな。
男の背中に腕を回したくなる。寂しかった。誰もいない家で一人は寂しい。
縋りたくなる気持ちを押さえつけて、男から離れる。此奴は誘拐犯で強姦魔だ。それを忘れてはいけない。例え、優しくされても。
「強情だね。でも、そこがまたなんとも可愛い」
此奴と海斗の目は節穴か。いや、変態だな。俺は平凡な男だ。馬鹿にしやがって。
「さて、もう行くよ。着替え、置いておくよ。水さしはテーブルの上ね」
大地は部屋を出て行こうとした。だが、扉を閉める前に一言言って、去っていった。
「俺の名は、大地だ。気が変わったら、海斗か俺に言ってくれ。寝かせてあげるから。他の狼に言ってはだめだよ。食べられちゃうからね」
そう言った大地の顔は、優しげに微笑んでいた。
いや、お前達だって襲ってくるだろ。
身体を拭い終わって、替えのワンピースに着替えた。水が飲みたくて、水差しから水をコップに移し替えてから、一杯飲んだ。散々喘いだ喉に冷たい水は心地よかった。
正直、眠たい気持ちが大きかった。大地の言った言葉に心惹かれていないと言うのは嘘になる。ここの屋敷のベットはふわふわでとても寝心地が良さそうだ。隣の部屋に行って、清潔な布団に入って寝たい。動くのも億劫な身体を休めたい。だがそうも行かないだろう。大地も言っていた通りに寝ている所を襲われる事だってあり得る。どうしようもない。休むのを諦め、廊下に出た。
廊下は静まり返っていた。
次の部屋に行き、鍵を探そうと一歩踏み出した時だった。何かを踏ん付けた様な感覚がした。下を見ると、右足の下に丸い何かがあった。足をどけて拾い上げると、それは丸い鏡だった。これは箱の鍵だろうか。おかしい、ここに入る前にはこんな物無かった。もしかして、大地が置いて行った? 何で、そんな事をする。誘拐犯のくせに、罪悪感でも感じたのだろうか。何の意味があるのか分からない。でも、有り難く頂戴する事にした。あと二つだ。
結果的に言うとこの階には、鍵は無かった。全ての部屋は探った。あとは廊下と思い見たが、それらしきものは見つからなかった。という事は、あとは下の階だ。階段を降り、下の階に向かった。
そういえば、下の階の部屋は全て見ていない。大地は報告に行っているはずだから、この階にいるとしたら、海斗だ。慎重に廊下を覗きながら歩く。鉢合わせても大丈夫の様に走る構えをとる。正直、走れるか分からない。疲れ切っている身体は今すぐにでも、座りたい横になりたいと文句を言っている。頑張るしかない。身体に鞭を打ち始めの部屋に向かう。
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