希望の黒 〜狼の館から連れ出せ〜

番傘と折りたたみ傘

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兄弟喧嘩

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 一階は大地が、二階は俺が探す事になった。地下という可能性もあるが、彰と最後に別れたのは地上階だ。彰の行ける場所は二階までの筈。

 必ず一階か二階にいる。

 各部屋を総当たりする。客室、客室、客室。彰! どこにいるんだ!

 次の部屋の扉を開けるとそこは書斎だった。

 少し残る青臭い匂い、ここで彰が……。下を向くと白い何かが点々と絨毯に跡を残していた。

 くそ!

 大きな椅子に近づく、座面が白濁で汚れていた。

 汚された体と痛ぶられた心のままで彰はどこに行ってしまったんだ。

 あの子が何をしたと言うんだ。ただ、自分の人生を生きていただけなのに……。慰めたい。大丈夫だって抱き締めてあげたい。彰に植え付けられた恐怖を少しでも取り除いてあげたい。

 彰の姿を探し、周りを見渡すがこの部屋には居なさそうだ。

 次の部屋へと向かう。

 廊下に出て次の部屋の扉を開ける。彰を思って苦しくなった心の声は、気付かないうちに口から出ていた。

「あきちゃん! どこ!」

 ここにも居ないのか……。開けた部屋には形跡も何もなかった。もしかして、彰は隠れているのかもしれない。襲われて、放置された彰は怯えているのかも知れない。ベットの下とか見ていく必要があるかもしれない。

「海斗! あきくん、いた!?」

 廊下から、大地が走って来ていた。

「いねぇ。違う階に行ったのかもしれん。たく、幸平の野郎。着替えを用意しないでトンズラするとか、許されると思ってんのか!」

 さっきの恨みはまだ鎮静化せずに燃えている。

くそ! 次あったら、真面目にぶん殴ってやる!

「あきくん、今頃追い詰められてないといいけど」

 大地が心配そうにしている。この双子の弟が、特殊な性癖なんてあるなんて……。

「それにあいつの性癖、Sっ気の変態だから最悪だしな」

「やめろ、言うな。耳が腐れる。それに、海斗も十分変態だよ」

 俺が変態だと! 俺は至って普通だ!! 大好きな子にはたっぷりの愛をあげたい。俺の手料理でお腹一杯にして、好きな事を一緒にしたい! 望むことは全て叶えてあげたい。それの何が変態だって言うんだ!

「俺は、普通だ! 好きな子は、甘やかして可愛がりたいんだよ」

「それにしては、随分と変態チックな行為してたと思うけど」

 はぁあああ! お前が言うか!!

「突っ込んだまま動かずに、手淫で相手を散々イかせて喜ぶおまえにだけには言われたくないね」

 売り言葉に買い言葉を吐いてしまった。

「なに!」

 もう駄目だ。一回頭冷さなければ……。大地を置いて部屋を出た。

「海斗!! 待てよ!」

 追いかけて来た大地に廊下で肩を掴まれた。

「海斗はあきくんの為に動いていた筈だ。だから、その……誰に聞いたんだよ」

「幸平だ。大地のことを話していたあいつは嘘をついている顔じゃなかった」

「ちっ、あの野郎……。海斗信じてくれ! 俺は、確かに変なその……癖はあるけど。あきくんのことを好きな事は変わらないし! これからは自重しようとも思ってるんだ。だから……」

 大地の真剣な顔を見ていると段々と馬鹿馬鹿しくなってきた。徐々に笑い声が漏れそうになってきた。まずい、笑う訳にはいかないのに。

「くっくく、あははは」

「あ! 真面目に話してんのに笑うなんて酷くない!!」

「すまない。何だかこんな事で喧嘩してるのに馬鹿馬鹿しく思ってな。俺こそ、カッとなって言わなくていい事言って悪かった。」

「海斗……それって、謝ってるのか? それとも、馬鹿にしてんのか?」

「謝ってるに決まってるだろ。それよりも、あきちゃん探しが先だ」

「そうだけど……」

「大地、一階の方をもう少し探してくれないか? あきちゃんの事だ、隠れているかもしれない。」

「あ! そうか……俺、部屋の中を軽くしか見てなかった。分かったよ」

「俺も、もう一度二階を隈なく探してみる」

 取り敢えず、大地とは仲直りできたということで大丈夫そうだ。
 大地と別れて、次の部屋を探し始めた。
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