遠の朝廷の大王

望月なお

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 目覚めて目にする天井は、いつも願っているものとは違う。尤も、私が願っている天井は天蓋であって天井ではないな、とまで思い至ったところで、私はそれらを振り払うように首を振る。もう決して戻れないものだ。久しぶりに不空と逢ったことを思い出して、ああ、ここは宿屋だと自覚する。寝台横の卓子の上に、紋重からの手紙が丁寧に畳まれている。懐かしい夢を見たのは、このせいだろう。私が商人になる前、王子として生を受けそして僧になった。あの日、私が不空へと持ちかけた賭けは、僅か一年後に顔を見せた不空によってささやかな勝利がもたらされた。けれど、一つ文句を付けるとしたら、私は長期戦で待つつもりでいたのでその時にはもう髪を落としてしまっていたことだ。今はもう元の長さに戻っているが、だからだろうか、商人たちの間では、私は不空の言う通り、いつまで経っても『金髪の坊主崩れ』と呼ばれるのだ。
「やっと起きたのか」
不意に不空に声をかけられて我に返る。
「相変わらず寝起きが悪いな」
おはよう、よりも先にその言葉が出て来る不空に呆れながら、頭を振って乱れた金髪を払う。
「不空は私よりずっと年上だから、朝早くに目が覚めてしまうのだよね」
にっこりと言い返したその先に、明らかに機嫌を損ねた様子の不空を捕らえて嬉しくなる。いつでも冷静な顔をしている不空だが、年長に見られるのをとても嫌がる。年下の彼女でもいるのだろうか。夜着から着替えて身支度を調えれば、不空は朝一の出立だったのかもうすっかり旅姿だ。
「出る前に目覚めて良かった。じゃあ、また。葯子も気をつけて行きなさい」
私たちは、決してさようならを言わない。その代わりに、また逢おうと約す。
「不空も。たまには思い出すよ」
そして、また逢おうと約した人を思い返すのだ。人は、呼んでくれる人がいればそこに戻って来られる。そんな呪いのような不確かな一本の糸に縋りながら我々商人は旅をするのだ。絹、玉、馬、絨毯、金、茶、酒等それらを求める人がいる限り。
 私も旅支度を整えて宿を出た。今回の旅はそんなに長いわけではないが、行き先は厄介だ。鳧流という放牧を生業とする草原の民が住うところまで行く。最近首領が変わったそうだが、その頃から鳧流は騒がしい。放牧の傍ら、卓越した馬術をもって他国へと侵攻していると聞く。小麦を盗むくらいなら私たちには関係無いが、件数が多いような気がしてならない。彼らは今まできちんとした交易でそれらを手に入れていたのに、何があったというのか。彼らの主な交易品は馬や羊などの獣だが、それらを所有しながら小麦などを欲しがり、そして他国は彼らの馬術におよばずそれを許してしまうとなれば、嫌な予感がする。不空がわざわざ私と宿を共にしたのかと考えると、紋重の手紙は理由でしか無く、詳しいことを見てきて報告せよとのことだったのかもしれない。なぜなら私の仕事は、不空を介したものが多い。不空が葯子なら彼らと言葉を交わすことができると言えば、私がその旅に呼ばれることになる。集合の時間まで未だあるので私は駅へと寄って、彼らの好むバター茶の材料である黒茶を仕入れた。少しくらいは商売になればいいと思う。私はあの時と同じく、未だ半人前だ。
 旅は、難なく始まり、目的地へと着いた。勿論、出発した町から目的地までを行ったのは私だけで、途中の町毎に人は入れ替わり、物だけが目的地へと渡ってゆく。これは、長距離を旅する商人たちの知恵である。一つのキャラバンが長距離を旅するよりもずっと効率が良い上、言葉が通じなくなるということが無い。商いをするだけなら、高等な交渉ができなくてもいいのだから。けれど、たまに言葉の上手が必要になることがある。その時が、不空が私に与えた役割だ。勿論、その仕事ばかりがくるわけではないので、私も普段は一つの道をお茶を抱えて行き、他の物を持ち帰る。元々、母から西域の母国語を習っていたということもあって、私は国毎に変わる言葉に興味を持った。幸い沙羅虞那都には各国の言葉に訳された経典が揃っていた、それらを見比べ、その地方から来た人に教えを請うた。私が興味を以って始めたことが、こんな所で役に立つとは思わなかった。商人になってすぐの、まだ不空と共に旅をしていた頃に様々な言葉を操る私を見て、不空が面白そうに言ったのが忘れられない。
「沙羅虞那都で学んだのなら、葯子をあそこに置いた意味があったな」
もう不空は、私を王の息子だとは思っていないのだろうか。何か駒のような、布石のようなそんな表現をすることがある。けれども、商人としての不空はそれが当然で、それが何故か嬉しかった。今思えば、初めて会った日私の前に跪いた彼こそが不自然であったのではないかと思う。なぜなら私は、不空という男と共に旅をしたからこそ、父王の言に背いても商人になろうと思ったのだから。

 ※

 この旅で私に通訳を依頼したのは、鳧流の民が住う草原を少し離れた舵陽国国境の町の長で、名を倫架と言った。細面で小柄な男だが、頭のよさそうな男だった。この、武を重んじるような鳧流の民を論で伏せるのにこのような男を遣わすのはさて、吉と出るか凶と出るか。幾つか彼と約束ごとを交わしてから席に着いた。目の前には、三日交渉してやっと出てきた鳧流側の男が座る。名をウバナンダと言った。彼の屈強な体格を表すかのようにその名は竜王の名を冠していることに、随分と大物が出てきたものだと感心する。私は交渉者の僅か後ろ、耳元で囁くように彼らのウバナンダの言葉を訳し、交渉者の言葉を一字一句漏らすこと無くウバナンダに告げる。一番重要なのは、私情を入れないこと。そして、訳してしまえば全ての言葉を忘れること。私がこのような通訳をするようになって一番始めに学んだのがそれだ。決してどちらかに付いてはいけない。葯子には関係ないことだと、不空は冷たく言ったが、今ならそれが分かる気がする。
「ここ数カ月の間に靡下の者らが貴国の作物を狼藉していると。貴殿は、そう仰りにいらしたのか」
ウバナンダは、真っ直ぐに私に一度問い返す。あまりにも倫架が回りくどく交渉に当たるので、私もいささか困り果てていた。そのままを私は倫架に伝えると、そのまま重々しく頷いた。対するウバナンダという男もその体つきだけで、不利な交渉には武をもって壊すかと思いきや、理性的に言葉を交わすその様子に私は長引きそうだと覚悟した。
「是、と」
私が紡ぐ異国の言葉に合わせて、倫架が頷く。
「して、それが何か」
しれっとして返すウバナンダの声に、言葉は分からずとも意味は通じたのか、倫架が頬を紅潮させる。それでも私が丁寧に訳すと倫架はぎりとウバナンダを睨付け声高に罵る。
「何が、とは如何なることか。我等の民はお前らのように住処も定めぬような流れ者に狼藉させてやるために、水路を築き、畑を耕しているわけではない。にも拘らず、収穫まじかの作物を欲しいままに持ってゆく。恥を知れ、この蛮族どもめが」
早口で捲し立てる倫架の言を時折端りながら訳し、まだ声高に喋り続ける倫架の言を聞き漏らさないように言葉を紡いでいると、不意にウバナンダが私の方を向く。
「それで、俺にそれをどうしろといいたいのだ」
ぽつりと漏らした一言は、決して倫架へと向けられたものではなく、寧ろ私にどうしようかと問うような余裕に目を見張る。そしてそれに気が付いたのか、ウバナンダは更に続ける。
「確かにその話じゃあ、取った方が悪いんだろうが。しかし、俺の元の誰がどこの畑の何をどれだけ盗んで、その被害の賠償にどれだけ払え、とでも言ってくれなければ俺はなんとも取り合いようが無いと思わないか、金髪」
私のことを金髪と呼んで、真っ赤な顔をして食い付いている倫架など取り合う様子も無く、ウバナンダは外見に反して穏やかだ。
「通訳しないのか」
と、ウバナンダが面白そうに重ねて私に声を掛けたところで、漸く倫架が私たちの不自然さに気付く。それもそうだ、私とウバナンダが言葉を交わしているというのに、倫架に通訳をしないのだから。
「何と言っている」
私は目を伏せて首を振る。話すことは無いとの意味だったが、倫架は私が分からないと言ったと取ったようだ。別にどちらでも構わない。しかし、私の仕草で冷静に戻ったのか、ウバナンダへと向き直り声を張る。勿論通訳せよと私に視線を寄越してから。
「今後一切、鳧流の民が我が国に侵入することを禁ずる。もし禁を犯した場合には、我が国の法の元で裁きを行う。ゆめゆめ侮るな」
言い放った倫架の言葉を訳し伝えると、倫架は袂から書簡を一巻ウバナンダへと突き付けて、席を立った。雇い主が会談の場を離れれば、私の仕事も終わりになる。私も目礼して去ろうとした時、ウバナンダが一言呟く。
「甘いな、これからということは、今までのことはもういいということだろう」
目が合ってしまった私を、にやりと笑う視線だけでそこに留めて、ウバナンダが今度こそ私に問う。
「お前、名は」
「葯子と」
今度こそ目礼した私に、ウバナンダが言う。
「それでは葯子。お前も元々は商人だろう。何か商うものがあれば持って来い」

 駅で仕入れた黒茶を抱えて広げたのは、何故か首領の前だった。ウバナンダに通されたそこは、鳧流の民が住処とする移動式のテントだったが、内装は明らかに豪華なものだった。というより、豪華過ぎで趣味が悪い。あまり長居はしたくないと思いながらも、商いのためにそのような表情は一切出さないが。
「名を葯子。我等の言葉も随分達者で、通訳として諸国を行くものだ」
頭を垂れた目の前に、族長のパータラがゆったりと長椅子に凭れている。この趣味の悪い部屋に同調するような出で立ちで、深紅の袍に大柄の龍が縫い取られている。立派な太鼓腹だが、響くような威圧感はやはりこの荒い草原の民を統べるものだ。
「そして、茶の商人か。珍しいな。いいだろう、我等にとって西からの使者は特別だ。皆置いて行け」
彼らには彼らの、信じる神がいて、その信仰がこの西域の民のような容姿持つ私を僅かに特別にするようだ。
「ありがとうございます」
顔を上げると、パータラと目が合う。パータラもまた、竜を表す王の名だ。
「お前は、何処の国の民か」
私の金髪に目を止めて、パータラが問う。
「さあ、私は何処の民でもありませんから」
この髪を見て、西域の民かと問われることは珍しくない。そうでもあるし、そうではない。この私の複雑な生い立ちを他の人間に軽々しく話すつもりは無いし、となれば柔らかに笑っていつもの通り返すしか無い。この後、一言二言パータラと言葉を交わし私とウバナンダと茶の取引の交渉をするためにテントを辞した。
 彼らが、私の目に趣味悪く映るのは、移動を常とする民だからだ。財産は全て身に付ける習慣がある。だから、身支度にいるものといらないものの感覚がないからだと私は結論を出した。
 「綺麗な髪だな」
ウバナンダのテントへと移動して、初めて発した男の言葉がこれだった。
「そういう趣味ですか」
警戒心を込めて言い返した言葉を、ウバナンダは気にすること無く続ける。
「あんなに膝を折る姿に違和感を覚える人間は珍しいと思っただけだ。気にするな」
その声に目を伏せて、私は言い切る。
「私は、四年前まで沙羅虞那都で僧籍にありました。尊い教えに頭を垂れるのが私の勤めでしたよ」
ウバナンダは意外そうに目を細め、私を観察するように見遣る。
「そんなに警戒しなくても、取って食いはしないが」
と言って、にやりと笑った。
 高価そうな装身具をいくつか身に付けながらもすっきりとし、立派な体躯で、先ほどの倫架との冷静なやり取り。しかし、ウバナンダはパータラには威圧感では及ばない。だから鳧流はパータラを首領として、ウバナンダが補佐に当たる構図で成立しているのだろう。この男、油断ならないと思う。常々私は、商人らしくないと言われることが多い。不空ならば「それは仕方がない」と笑って取り合わないが、これは私の生い立ちに由来する所であることは明確であるし、それでは商人として困るのだ。

 朝が来ればもう鳧流を立つ。旅から旅へ、このようにして私は故郷に知らせること無く商人として渡り歩いていていく。私が決めて、不空が招いた、過去の私とは決別した現在を私は行く。
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