光堕ち

グロッキー

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 男――レナードが持ってきたタオル以外のものは、結局のところ潤滑油などであったらしい。
 曝け出された俺の下半身を見て、レナードは驚きの声を上げた。
「毛、剃ってるのか」
「どうやったかは忘れたが、ほとんど生えてこないようになってる」
 体毛は体臭の元で、体臭があると他人に気取られ易くなる。動物には特にだ。俺の首から下には体毛といえるものは殆ど無い。やったのはマスターお抱えの医者だが、詳しいことは知らないし知ろうと考えたこともない。
「なるほどね」
 俺の前に陣取って、やや投げやりな動作でレナードは手にローションを振りかけていく。
 半分ほど頭をもたげた俺の陰茎にローション塗れの掌が触れる。ぬるついた感触は熱とぴりぴりとした快感をもたらすが、それだけでは到底事は済みそうにない。
「俺の手に沿って動かして、そう。あまり強く握っちゃだめだ。裏筋とカリよりも上のところを重点的に、じっくりやりたいなら合わせて全体を撫でたり、玉をいじったりするといい。……にしても、複雑だな」
「なにが、っ……」
 自慰に慣れているレナードの手は器用に俺の陰茎の上を滑る。奴の言うとおりで、倣って先端付近を刺激すると強い快感が脳まで走り抜ける。ぬちぬちというローションの音もそれを煽る。腰が浮きそうになるのをこらえ、唇を噛んで耐えているとレナードの手の甲が俺の頬を撫でた。
「何がって、大人相手にこんなこと教えているなんてと思って。君俺より年上そうだしな。あ、唇血が出るよ、恥ずかしいだろうけど我慢しないでくれ。ちゃんと感じて」
「う、……っ、っ、ぅ」
「そうそう、うまいよ。でももっとリラックスして。そんな神妙な顔してないで」
「う、るさいっ。しゃべるな」
 目をつぶり、視界からレナードを追いやって手を動かすことに集中する。マスターやそれに近しい人間に触られる時は、いつも容赦なく絶頂まで引きずりあげられていた。その記憶のせいか、絶頂が近くなると手の動きが鈍りそうになるをレナードの手が捉えて一緒に動かしてくる。
「ふっ……、う、く」
「そう、気持ちいいだろ。そのまま追いかけて」
 ハァハァという自分の荒い息に混じって、奴の声が耳に滑り込んでくる。
 段々と痺れるような快楽にも慣れて、じくじくと熱を持つところに自然と手が行くようになる。やはりというか先端は特別に気持ちよくて、段差の部分や先端全体をこねるように動かすと脳髄まで痺れて意識がふわふわと浮いてくる。こんな心地には覚えがある。マスターたちに抱かれたときは、薬のせいでずっとこんな調子だった。
「あ、あ、あぁっ……」
 レナードに導かれて、先端の窪みにぐりぐりと指を押し込むと、さすがに声を抑えきれなくなった。今まで感じたことのない羞恥心が湧き上がる。仮にも殺し合った男に情けない姿を見られることに対する抵抗だ。
 奴の手は、俺の動きを補助するようにさっきから下の方、根元をしごいたり玉を揉んだりしていた。
 びく、びく、と内股が痙攣し出す。自分でも、絶頂が近いのを感じる。きもちいい、で頭の中がいっぱいになる。同時に、レナードの手がそっと離れていく。最後は、自分でイけという事らしい。
「は、はぁ、あっ、あ、ああぁ」
 白く塗りつぶされる視界に、脳天を突き抜ける強い快感。そのすぐ後にやってくる激しい脱力感。覚えている。絶頂した。イった。激しく脈打つ自分の鼓動を耳の奥に聞きながら、うっすらと目を開いた。
 震える自分の手の先に、力を失った陰茎とレナードの姿が見える。奴の手の平には俺が吐き出したらしい白濁がぶちまけられていた。
「ちゃんとできたね」
 笑う男の顔は、すこし意地の悪いものに見える。ほらいっぱい出た、と奴は白く汚れた掌を見せつけてきた。
「覚えた?次からちゃんとできそうかい」
「……あぁ」
 確かに、快楽の大きさは知っている域を出なかったが、世の中の“普通”の自慰というものはなんとなくわかった。なんと言うことはない。至って特筆することもなく、快感の強いところを触り続けるだけだ。
 息を整えながら、仰向けに近かった姿勢をうつ伏せに倒す。四つん這いになって、尻を向ける。
「俺を抱くんだったな。ほら」
 そう言うと、なぜだか奴はきょとんと驚いた顔をしている。
 なぜだ。俺は首を傾げる。それともまず奴のものを舐めてやる方が良かったか。
「あ~、そう。君の知ってるセックスって、そういうやつだったな」
 腕を引かれて体を起こされる。奴の腕が俺の腰に周り、裸の体同士が密着する。俺が戸惑うのも気にせず、さわさわと腰を撫でられる。
「君を想って、大事に抱くって言っただろ。楽にして」
 奴の手は俺の体の感触を確かめているようだ。ふにふにと胸板の筋肉を押して笑う。先ほどの自慰のせいで、うっすらと湿った肌の上を剣を握り続けて堅くなった指の皮膚が撫でるのは、少しくすぐったい。
「よく鍛えてるんだな。体格良いし、筋肉もあるのに、あんなに素早く動けるんだ。それに君の体、すごく柔らかい」
「俺からすればお前も大概だが。全身鎧で俺の動きについてきただろう」
「ありがとう。君も、俺のこと触って」
 裸で向き合ってみると、俺達の体格は殆ど変わらなかった。この男も相当鍛えられている。奇襲に対応する冷静さと、全身を守る鎧姿でもスピードを失わないのは恐ろしい膂力だと思ってはいたが、それを考えればこの体格はむしろ細いとさえ思える。密度と能力の高い筋肉を備えているようだ。だから、最後の戦闘までこの男の守りを突破できなかった。
 言われたとおりに触れてみれば、一層それを強く感じる。見た目と裏腹に、力を込められた部分は鋼のように堅い。
 しかしこれでどう興奮すればいいのだ。よくわからないままに暫くそうしていると、力を込めて抱き寄せられた。驚く間もなく、奴の顔がすぐ近くにあることに気づいてドキリとした。
「キス、平気?」
 熱っぽい口調で尋ねられる。良いとも悪いとも言えず、俺は硬直した。こんな展開は初めてで、どうしたら良いかわからない。距離は数センチと無い。熱い吐息が頬にかかる。そしてさらにゆっくりと距離が縮んでも、俺はなぜか、拒むことをしなかった。
「んっ……、ふ」
 レナードは大げさにリップ音を立てて唇を押しつけてくる。何度かそうしてから、唇の合わせ目を舐めてきた。口を開けろと言われているのだと気づいて、薄く唇を開くと、ぬるりと肉厚な舌が侵入してきた。首に手をかけられ、さらに深く押しつけられる。たしかこれは、マスターにもされたことがある。
 記憶が快楽を呼び起こして、ぞくりと背筋が震える。
「ん~~っ、ふぁ、ちゅっ、んむ」
「ちゅっ、んんっ、はぁ、あ」
 レナードの立てるリップ音に混じって、唾液の混ざり合う粘着質な音がする。耳のより近くで響くそれは、陰茎を弄る音よりよほど脳髄に響く。舌先で上顎を舐められるとぞわぞわと痒いような感覚が走る。
 明らかにこの男はキスに慣れているのだと感じさせる動きだ。温厚そうな顔をしているくせに、舌使いは荒々しかった。
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