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夏はどうしてもインクが固まる
しおりを挟むお手軽万年筆が好きだ。特に気に入っているパイロットのカクノは好きなインクを入れて何本か併用している。
ほんの少しだけ紙の抵抗を、引っかかるまではいかないくらいで感じつつ、それでも滑らかにスルスルっとインクが出て、文字はどこか趣がある風に見える。私にとっての、お手軽とはいえ万年筆で書く楽しさ、好きなところは、そういうところ。
たぶん、筆記具は全般的に好きなのだと思う。新製品は見ずにはいられず、良さそうかも、なんて思うと、ついつい買ってしまう。
書ければどれでもおなじ。
特に筆記具に興味がない人に言われたことがある。書ければいい、ならば、そうかもしれない。でも、ちがうのだ。そのペンを使うことで、ふだんより何パーセントか増しでキレイな文字に見えることがある。そのものに合わせた雰囲気を含ませたり、相応しい気持ちを表現することができる。長時間疲れずに書くことができたり、長期保存に向いていたり、ということもある。そしてなにより、書いている自分が気持ちよかったり、テンションが上がったり、幸せだったりする。
それには、ペンと紙との相性がだいじだったりするから、紙の方にも興味が湧いて、ノートや手帳が好きだったりもするんだけど、それはまあ、今回は置いておく。
いや、ちょっとは関係あるか。好きでいろいろ持っている筆記具ではあるけれど、そういう紙との相性や、そのときの気分で、選ぶものが変わるので、ペンによって使う頻度が大きく偏る。
すばやくメモして閉じたいのに、乾きの遅いインクのペンでは都合が悪いし、ハッキリしっかり書いておかねばならないのに、ふんわり細い文字では識別してもらえないかもしれない、みたいなことがある。慌ただしく過ごしていると、どんなときでもなんとでもなるボールペンばかりを多用していたりする。
そうすると、夏はどうしてもインクが固まる事件を招いてしまう。
万年筆やボールペンの、インクが煮詰るという言い方で合っているのだろうか、インクの水分が蒸発して、濃縮されてしまったり、ペン先でインクが固まってしまったりする。
このダメージが案外、大きい。ああ、やってしまった、と気持ちが凹む。洗浄すればキレイになって使えるのだけれど、申し訳ないことをしちゃったなぁと思わずにはいられない。ぐるぐると試し書きをしても、紙の上にうっすらと溝ができるだけなのを見て、切ない気持ちになる。
先日また、1本、そんなふうにしてしまって、ペン先をグラスに張った水の中に浸けた。
固まってしまったペンを洗う度に、計画的に使おう、ローテーションで満遍なく使っていこう、と反省するのに、今回もまたできなかった。反省するだけではダメだ。なんとかしなければ。大好きな筆記具に失礼が過ぎる。同時に用意するのは1、2本だけにして、コンバーターの中のインクを使い切ってから、別の色のインクを使うなり、補充するなりを考える。もう、そうしなければ、どうしようもならない。そこまで考える。
でもなぁ、それも難しいんだよなぁ。青いインクも、緑のインクも、茶色も、紫も、ピンクも、そこにあるのに使えないなんて。今の気持ちにピッタリくるインクが目の前に存在しているのに、文字にできないなんて。つらい。つらすぎる。
気持ちを決めきれず、どうしたらいいのかわからなくなっていた私は、インスタグラムの中で見た、魅惑のアイテムを使ってみることにした。万年筆タイプのつけペンである。これならば、都度インクをつけて使用するから、ダメにしてしまうことはない。ときどき使うガラスペンよりも頑丈で、気兼ねなく使えるはず。
さてさて、なにを書こうかしら。ノートはどれに、なんて心が弾む。
あ、でもまた筆記具の種類が増えているよ。他を使う頻度が減ってしまうのでは。。。
ワクワクの気持ちに遠慮するような小さな小さな心の声が聞こえた。もしかして、またやっちゃったかしら?
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