ひらたい日々

ちょこ

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眠気のままに横になれる幸せ

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思うように身体が動かせないというのは悲しいものだ。ぎっくり腰回復期間中の私は落ち込んでばかりいた。
熱が出たり、怠さがひどかったり、そういう症状のあるときは、うちから治そうと力が働き、思考が止まったり、興味が持てなかったりすると思うのだけれど、ぎっくり腰の場合は、ただ行動の自由が無くなるだけで、身体も命の大事とは捉えてくれないらしく、余計なことをしたくなったり、考えたりしてしまう。悲しさプラスモヤモヤはネガティブ思考を全開にする。
もともと暗いタイプの私はさらなる暗黒面に堕ちることまちがいなしだ。

なんとかしたくって、買い物に出かける旦那さまに頼んで、マジックハンドを買ってきて貰った。暗黒の深淵で、私はマジックハンドを手に入れた。
マジックハンド。比喩とか、なにかのたとえとかではなく、そのまんまの、掴む道具のマジックハンド。
落ち込んだ気持ちをパッと明るくしてくれるものであったから、「魔法だ」、と言いたくもあるのだけれど、客観的には道具なだけだと思うので、ただの道具であることを書いておく。

手がすべって床に転がしてしまったペンを拾えないのはつらい。脱いだ靴下も拾えないし、低い位置にある充電ケーブルの先も摘めない。
日常、何気なく行っていた動作が急にできなくなると、調子が狂うどころか、ものすごく凹む。大袈裟に聞こえるかもしれないけれど、それが特別なことではなく、些細な動作であればあるほど、できないということがショックなのだ。なにもできないじゃないか、と気持ちが病んでくる。ネガディブな思考の始まりだ。手に追えなくなる暗黒への道が開く。
マジックハンドは、それを回避させてくれる。
腰を前げることも、かがむこともなく、痛みとは無縁なまま、ペンは我が手に戻り、靴下は洗濯カゴに投入される。充電だって必要とあらばいつでもできる。
ああ、なんてすばらしいんだ! 誰に気兼ねすることもなく、惨めな気持ちになることもなく、自分で自分のことができる。カシャカシャとマジックハンドの先を開閉し、なにか掴むものはないかと探してしまう。なんと最近のマジックハンドは優秀で、床に落ちた髪一本を拾うことすらできる。
悲しさとモヤモヤが減り、暗黒面は去った。
このまま腰痛が今回の治っても、決して手放したりしないわよ。私はマジックハンドにそう誓った。

これであとは、眠いけど寝られない問題が回避できたらいいのだけれど。
横になるときに激痛が走ったり、寝返り、起き上がり、動作の一つ一つに痛みへの恐怖が付き纏い、「寝る」という動作は腰痛時にはキビシイものとなる。痛みを恐れるあまり、寝不足になると、これもまたネガティブ思考を招くのだ。

腰痛になったことのない人には、この感覚がわからないらしい。ギクっとくる瞬間の痛みと、その後の恐怖、苦労について、訊かれたから説明したのだけれど、まったくもってポカンとした顔で、「想像できない」と言われてしまった。
ちなみに彼女には肩こりもなく、腰痛の話をするだいぶ前に、肩こりとはどんなものかを説明したことがあるのだけれど、最終的には「首と肩の金縛り」と理解してもらうことで諦めたという経緯もある。
眠気のまま横になれる幸せについて、彼女に共感してもらえる日は、きっと来ないのだろう。

話がそれた。
マジックハンドのように、眠いけど寝られない問題についての魔法のアイテムはないものだろうか。
マジックハンドにより暗黒の深淵から救出された私の思考は、今度は別の方向へ、妄想の世界へと走っていくのであった。

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