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無力感
しおりを挟むなにもできないじゃないか、私。
絶望的な気持ちになることがある。
そういう最たるときは、ぎっくり腰になったときだ。
けっこうな金額をかけて腰痛治療もしたのだけれど、ぎっくり腰は避けられないらしい。
年度末、数日前のことだ。重いリュックを背負って家を出た私は、駅に着くなりUターンをすることになった。ギクっという決定的瞬間はなく、「うーん、ちょっと腰が心配」「大丈夫かなぁ」「あ、やばいかも」「やっぱりダメだ」と、急ではありながらも段階を経て、ぎっくり腰がやってきたからだ。
あたりまえだが全く予期せぬ出来事に慌てつつも足取り怪しく、牛歩の如き帰路についた。
普段から腰が不安なことは多く、腰が痛いとマッサージ器にかかったり、ストレッチをする、なんていうのは日常茶飯事なのだけれど、ぎっくり腰はそれらとは格がちがう。だから私も常に気をつけているし、まさか今来るのか、と焦った。幸いなことに家を出る前、「ちょっと心配」の時点で、腰痛薬を飲んでいたから、かろうじて自力で帰宅できたんだと思う。ぎっくり腰はそういうレベルのつらさだ。そしてそこからひたすら安静。
少しだけ体勢を変えたい、寝返りを打ちたい、トイレに立ちたい、その全てに痛みが伴い、それはもちろんつらいのだけれど、最もつらいのは、なにもできないことだったりする。靴下は脱げないし、やっとのことで脱いでも、それを拾い上げることすらできない。歯磨きをしたいのに、伸ばした手はホルダーの歯ブラシに届かない。まさかこんな簡単な動作にまで腰を使っていたのかと驚き、あと少し、と腕に力を入れようとすれば、雷に打たれるが如き痛みが走り、身体は固まる。
なにもできないじゃないか。無力感に打ちのめされる。
普段、やりたいことはなんでもできる(成果については別問題として)と思っているのだけれど、やりたいことどころか、しなければならないこと、身の回りのことすらできない。仕事も家事もできないどころか、手を洗うのも、立ち上がることさえ、やっとの状態だ。
ほんと落ち込む。
当日、二日目と、ウトウトとしている以外の時間のほとんどを気落ちして過ごした。
そして反省した。
自惚れていた。いつの間にか調子に乗っていた。それなりになんとかできているなんて思い上がりだ。なにもできないじゃないか。それなのに、誰それが気にいらない、あれはおもしろくない、興味が持てない、好きじゃない、そんなことを言って、誰かを遠ざけたり、何かを拒んだりしていた。自分はなんにもできないというのに。
わかっている。私はネガティブに考えすぎる癖も持っている。だからこれは極端すぎるかもしれない。多少大袈裟なところもあるかもしれないけれど、でもそうなのだ。できないくせになにを言っている。そういうことだ。もっと言えば、なにかというと効率化しようとしたり、簡単に終わらせたりしようとしていたのも、何様のつもりだ、という所業ではないか。自惚れるな、調子に乗るな、なにもできないくせに。
できれば簡単に、などと思わず、ていねいにしよう。一つ一つじっくり向き合おう。取り組もう。もっと謙虚に。
そう反省した三日目から、少しずつ動くことができるようになった。
わかっている。ぎっくり腰で急激に痛むのは三日程度が多く、それ以降少しずつ回復に向かうことは。だからこれは極端すぎるかもしれない。でもそうしよう。
日々急ぐな。急ぎすぎているぞ。ぎっくり腰、はたまたその他の不調は、そう教えてくれているのかもしれない。四日目の今日、そんなことを考えている。
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