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なにを今さらと言われるだろうが、まゆげを描いている
しおりを挟むいい感じにくたっとしてきたTシャツ。
ダメージ加工されたボトムス。
ちょっとボサッとまとめたラフな髪。
大好きなのに、していられなくなった。している自分が気に入らないからだ。いつのまにか、似合わなくなっていた。
好きなのに、それだけでオッケーとはいかないことが増えている。
ゴワゴワするのがイヤで重ね着を避けると、薄着になって風邪をひく。
そのくせ、一枚でも安心の、ぶ厚いパーカーやコートは、重くって疲れる。
好物のサーモンもチョコレートも、好きなだけ食べると胸焼けするから、ほどほど量しか食べられない。
好きだけど、大好きだけど、それだけでなんとでもなったりはしない。
外出の機会が減り、ときどきしかしなくなったお化粧もそうだ。
自分の中の好きな顔になるように施しているというのに、あるとき急に、できあがりが、ぼんやりして見えた。眠そうな顔にも見える。間の抜けた顔にも。
どうしてだろう?
年齢とともに変えていかねばならぬということか?
まあ、それはあるだろうけれど、でも私の顔はそんな大したことをしている化粧ではないのよね。線を足すか、色を付けるかしているだけ。
いや、だからこそ、なのか?
となると、まったく手をつけない、「まゆげ」が理由かもしれない。
なにはともあれ、まゆげだけは描く。
そういう人が多いと思うけれど、私は長らく、まゆげは描いていなかった。
多すぎず、少なすぎず、自然で主張しすぎない姿のまゆげがあったからだ。メイク講座などで顔を貸しても、整えるのみとされてきた。
そんなだから、いざ化粧をする段になっても、まゆげを描こうという気持ちが頭をもたげることはなかった。
それがなぜか、今、まゆげかも、って思うのだから不思議。きっとまゆげなんだろうと思う。いやもうぜったい、まゆげなんだな、という確信すらある。
そうして、まゆげを描いてみた。
あ!
ちゃんと起きている顔になった。
やっぱりか、と思う。
いつのまにか私にも、まゆげを描く必要が発生していたようだ。
このときから毎回、といってもまだ数回だけれど、私はまゆげを描いている。
そうか、これからは、まゆげを描くのか。
これまでしてこなかったことをしなければならないというのは、なんだかくすぐったい。
「あれ?」ってことが増え、変わっていく自分を受け止める、受け入れてうまくやっていく、そういうクエストを受注しているけれど、まゆげもそのうちの一つなのかもしれない。
私は私。誰になにを言われても、まあ、ずっと私だし、いつでも私だ。
年齢を重ねても、年相応にしなくっちゃだなんて、見えないなにかに縛られず、好きなようにする。ここは変わらない。
そんな考えが、ちょっと変わったかも。
今の私は、まゆげを描く。
今の私らしく、今、好きなことを、みたいに、”今”ってことを、未だかつてなく意識している気がする。
わざわざ老け込もうとは思わないし、若々しくいたいけれど、それが今の私に難しいことだったら、へんにこだわらず、今の私が快適なように、今の私の好きなように、今の私らしく。
まあ、まゆげを描いているだけなんですけどね。
さてさて次はなんだろう?
今と、少し先の未来を楽しみに暮らしたい。
まあ、まゆげを描いているだけなんですけどね。
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