上 下
12 / 18

12.どこに愛があるのかしら?

しおりを挟む
 アンジェリーナとフランシーヌが続ける。

「お兄様を見かけるたびに周りを顧みずに突進して行って問題を起こしたことが事態に拍車をかけてしまったわ」
「あなたは突き飛ばされたとか転ばされたとか大騒ぎしたけど、あなたが突き飛ばした人の方が多いのよ?」
 サンドリアはしろろもどろに答えた。
「あたし、ただ…ハンカチのお礼をしたかっただけなのに。ハンカチも渡したかったし」
 それに王子様だってあたしと一緒に居たいと思っていたはずなのに。
 サンドリアは必死に夢にしがみついた。

「とにかく査問会であなたの処分が少しでも軽くなるように、ライラ嬢にハンカチを返して欲しいのよ」
 アンジェリーナの言葉にサンドリアは噛みつくように言う。
「これはあたしがジルリア様からもらったものです!!」

「わからない人ね!」
 業を煮やしてフランシーヌが声を荒らげる。
「お兄様はあなたとは結婚しないわ!そのハンカチはライラ嬢のものなのよ!」
「よく見て。ダルア侯爵家の紋章が刺繍されているでしょう?」
 静かにアンジェリーナが指摘する。
「このままではあなたは査問会で断罪されるし、あなたの成績に関する賄賂問題も明らかにされれば、よくて放校、悪くて…」
 アンジェリーナのためらいをフランシーヌが補う。
「最悪は不敬罪でなんらかの罰が下されるわね」

 それでもサンドリアは譲らない。
「あたし、何も悪くないわ!!」

 アンジェリーナとフランシーヌが首を振る。
「でもあなたはジルリア王子と恋仲だって吹聴してたじゃない」
「あれがライラ嬢はじめ、お兄様の婚約者候補の令嬢達を怒らせたのよ」
「周囲の人達も忠告してくれていたでしょう?」
「なのにあなたは聞く耳を持たなかった」

「恋する気持ちは自由です!!」
 サンドリアが毅然とした態度で言うと、アンジェリーナが応える。
「そうね。心は自由よ。でもね、王族の結婚は政治なの」
「真実の愛がなければ結婚はうまくいきません」
「真実の愛?政略結婚にはないと言うの?」
 サンドリアの言葉に王女フランシーヌが静かに言う。

「あなたは国法を知らないの?」
 フランシーヌがサンドリアに問うた。
「王族の男性との結婚は伯爵位か侯爵位の令嬢に限られるのよ」
 とアンジェリーナ。サンドリアの表情が固まる。
「家格が下の家からの養女も認められないわ」
「それにその家格でも庶子も王族と婚姻を結べないのよ」
「だからあなたに『王子を追い回すのはおやめなさい』と皆が忠告したのよ?」

「あたし、追い回してなんかいません!!」
 真っ赤になってサンドリアが反発する。

「お兄様は辟易していたけどね」
 フランシーヌが少し眉根を寄せる。
「今はそれはどうでもいいわ」
 アンジェリーナがそれを制する。

 サンドリアは目が回りそうだった。

 この美しい双子の王女がポンポンと言う言葉は、サンドリアの頭をガンガンと殴りつけるような衝撃を与えた。

「そんな!おかしいわ!!」
 涙を流してサンドリアは半ば金切り声を上げた。

 二人の説明は続く。

「以前は子爵や男爵の令嬢も家格が上の養女として嫁ぐことが認められたのだけど」
「五年前に、国法に定められたの」
「よほどの理由がない限り、側妃も公妾も愛妾も認められなくなったのよ」
「王位継承権に関わることだから、貴族は皆知っていることよ」
 アンジェリーナとフランシーヌがかわるがわる説明する。

「あたしをばかにしているんですね!妾になんてなりません!!あたしは王子様と!」

「だから、あなたは王族とは結婚できないのよ」
 アンジェリーナが辛抱強く言う。
「国法だって言ったでしょ」
 小さくため息を吐くフランシーヌ。

 サンドリアは叫んだ。

「愛があれば身分差なんて!!」

「愛?」
 今まで黙って見守っていたフィリパが笑いを滲ませて言う。

 皮肉に満ちた眼差しをサンドリアに向け、右手をひらひらさせて問うた。
「どこに愛があるのかしら?」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】お前を愛することはないとも言い切れない――そう言われ続けたキープの番は本物を見限り国を出る

堀 和三盆
恋愛
「お前を愛することはない」 「お前を愛することはない」 「お前を愛することはない」  デビュタントを迎えた令嬢達との対面の後。一人一人にそう告げていく若き竜王――ヴァール。  彼は新興国である新獣人国の国王だ。  新獣人国で毎年行われるデビュタントを兼ねた成人の儀。貴族、平民を問わず年頃になると新獣人国の未婚の娘は集められ、国王に番の判定をしてもらう。国王の番ではないというお墨付きを貰えて、ようやく新獣人国の娘たちは成人と認められ、結婚をすることができるのだ。  過去、国の為に人間との政略結婚を強いられてきた王族は番感知能力が弱いため、この制度が取り入れられた。  しかし、他種族国家である新獣人国。500年を生きると言われる竜人の国王を始めとして、種族によって寿命も違うし体の成長には個人差がある。成長が遅く、判別がつかない者は特例として翌年の判別に再び回される。それが、キープの者達だ。大抵は翌年のデビュタントで判別がつくのだが――一人だけ、十年近く保留の者がいた。  先祖返りの竜人であるリベルタ・アシュランス伯爵令嬢。  新獣人国の成人年齢は16歳。既に25歳を過ぎているのに、リベルタはいわゆるキープのままだった。

召喚勇者の餌として転生させられました

猫野美羽
ファンタジー
学生時代最後のゴールデンウィークを楽しむため、伊達冬馬(21)は高校生の従弟たち三人とキャンプ場へ向かっていた。 途中の山道で唐突に眩い光に包まれ、運転していた車が制御を失い、そのまま崖の下に転落して、冬馬は死んでしまう。 だが、魂のみの存在となった冬馬は異世界に転生させられることに。 「俺が死んだのはアイツらを勇者召喚した結果の巻き添えだった?」 しかも、冬馬の死を知った従弟や従妹たちが立腹し、勇者として働くことを拒否しているらしい。 「勇者を働かせるための餌として、俺を異世界に転生させるだと? ふざけんな!」 異世界の事情を聞き出して、あまりの不穏さと不便な生活状況を知り、ごねる冬馬に異世界の創造神は様々なスキルや特典を与えてくれた。 日本と同程度は難しいが、努力すれば快適に暮らせるだけのスキルを貰う。 「召喚魔法? いや、これネット通販だろ」 発動条件の等価交換は、大森林の素材をポイントに換えて異世界から物を召喚するーーいや、だからコレはネット通販! 日本製の便利な品物を通販で購入するため、冬馬はせっせと採取や狩猟に励む。 便利な魔法やスキルを駆使して、大森林と呼ばれる魔境暮らしを送ることになった冬馬がゆるいサバイバルありのスローライフを楽しむ、異世界転生ファンタジー。 ※カクヨムにも掲載中です

もふもふ相棒と異世界で新生活!! 神の愛し子? そんなことは知りません!!

ありぽん
ファンタジー
[第3回次世代ファンタジーカップエントリー] 特別賞受賞 書籍化決定!! 応援くださった皆様、ありがとうございます!! 望月奏(中学1年生)は、ある日車に撥ねられそうになっていた子犬を庇い、命を落としてしまう。 そして気づけば奏の前には白く輝く玉がふわふわと浮いていて。光り輝く玉は何と神様。 神様によれば、今回奏が死んだのは、神様のせいだったらしく。 そこで奏は神様のお詫びとして、新しい世界で生きることに。 これは自分では規格外ではないと思っている奏が、規格外の力でもふもふ相棒と、 たくさんのもふもふ達と楽しく幸せに暮らす物語。

計画的婚約破棄でした

チャイムン
恋愛
グリフィス公爵家の長女フローレンスはガーフィット伯爵家の三男エルマーと条件付き婚約をしていた。 その条件が満たされないまま期限が迫った時、新たな縁談が持ち込まれた。 こちらは願ってもいない好条件だった。 数々の無礼に辟易していたフローレンスは計画的婚約破棄を決意した。 全6話

本の虫令嬢は幼馴染に夢中な婚約者に愛想を尽かす

初瀬 叶
恋愛
『本の虫令嬢』 こんな通り名がつく様になったのは、いつの頃からだろうか?……もう随分前の事で忘れた。 私、マーガレット・ロビーには婚約者が居る。幼い頃に決められた婚約者、彼の名前はフェリックス・ハウエル侯爵令息。彼は私より二つ歳上の十九歳。いや、もうすぐ二十歳か。まだ新人だが、近衛騎士として王宮で働いている。 私は彼との初めての顔合せの時を思い出していた。あれはもう十年前だ。 『お前がマーガレットか。僕の名はフェリックスだ。僕は侯爵の息子、お前は伯爵の娘だから『フェリックス様』と呼ぶように」 十歳のフェリックス様から高圧的にそう言われた。まだ七つの私はなんだか威張った男の子だな……と思ったが『わかりました。フェリックス様』と素直に返事をした。 そして続けて、 『僕は将来立派な近衛騎士になって、ステファニーを守る。これは約束なんだ。だからお前よりステファニーを優先する事があっても文句を言うな』 挨拶もそこそこに彼の口から飛び出したのはこんな言葉だった。 ※中世ヨーロッパ風のお話ですが私の頭の中の異世界のお話です ※史実には則っておりませんのでご了承下さい ※相変わらずのゆるふわ設定です ※第26話でステファニーの事をスカーレットと書き間違えておりました。訂正しましたが、混乱させてしまって申し訳ありません

帰らずの森のある騒動記   (旧 少女が魔女になったのは)

志位斗 茂家波
ファンタジー
平凡だったけど、皆が幸せに暮らしていた小国があった。 けれどもある日、大国の手によって攻められ、その国は滅びてしまった。 それから捕えられ、とある森にその国の王女だった少女が放置されるが、それはとある出会いのきっかけになった‥‥‥ ・・・・・ちょっと短め。構想中の新たな連載物の過去話予定。 人気のある無しに関わらず、その連載ができるまでは公開予定。ちまちまと別視点での話を更新したりするかも。 2018/01/18 旧「少女が魔女になったのは」 変更し、「帰らずの森のある騒動記」にしました。

結婚5年目の仮面夫婦ですが、そろそろ限界のようです!?

宮永レン
恋愛
 没落したアルブレヒト伯爵家を援助すると声をかけてきたのは、成り上がり貴族と呼ばれるヴィルジール・シリングス子爵。援助の条件とは一人娘のミネットを妻にすること。  ミネットは形だけの結婚を申し出るが、ヴィルジールからは仕事に支障が出ると困るので外では仲の良い夫婦を演じてほしいと告げられる。  仮面夫婦としての生活を続けるうちに二人の心には変化が生まれるが……

【完結】『ルカ』

瀬川香夜子
BL
―――目が覚めた時、自分の中は空っぽだった。 倒れていたところを一人の老人に拾われ、目覚めた時には記憶を無くしていた。 クロと名付けられ、親切な老人―ソニーの家に置いて貰うことに。しかし、記憶は一向に戻る気配を見せない。 そんなある日、クロを知る青年が現れ……? 貴族の青年×記憶喪失の青年です。 ※自サイトでも掲載しています。 2021年6月28日 本編完結

処理中です...