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4.ギリアン子爵夫人ヨランダの目論見②
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二年後、イェーツは急逝したが初子に恵まれた。
但し、子を産んだ後のヨランダの苛烈さは計算外だった。
初子は男児でないことを、誰にも責められていないのに
「どうして男じゃないの!?」
と荒れた。
赤子が可愛いと褒めればまた荒れる。
「わたくしが産んだのに!」
この荒ぶりにはギリアン子爵となったお披露目に、妊娠出産のために出られなかった悔しさも相まっていた。だからヨランダは産む前から子供を憎んだ。
(この子のせいでなにもかも台無しだわ!しかも女だなんて!!)
アーシアはおとなしい赤子だったが、ヨランダが近づいたり声が聞こえたりすると泣くようになった。
ホルヘルは「少し母子を離した方がいいのではないか」とキースに申し入れた。
答えを渋っていたキースだが、椿事が出来した。
ある日、よりにもよってホルヘルが滞在中にヨランダがアーシアの頭をを扇で叩いている現場を目撃したのだ。
叩かれた場所は数か所へこんでいた。
急ぎ医師が呼ばれ、ヨランダ以外の者は全員息をつめた一週間を過ごした。
幸いアーシアは異常を起こすことなく、医師からも診断が下りた。
「これから数か月の安静と様子を見ることになりますが、命にかかわることはないでしょう」
しかしヨランダのアーシアへの振る舞いは異常だと考えた祖父母はエイダ侯爵家へアーシアを連れて帰った。アーシアの身の安全第一に考えたことだ。
アーシアはその後、何事もなくすくすくと育った。
赤子によくあるように体調を崩し熱を出すこともあったが、特に問題なく成長した。
孫は子供より可愛いと言うが、エイダ侯爵夫妻はその言葉をつくづく実感した。
孫はもう何人もいる。だが手元で育てる孫の可愛さは格別だ。
アーシアが可愛くてたまらない。
この子には最高のものを用意しよう。ホルヘルは考えた。
嫡男カッツェが生まれたからと言っては手元に置く口実とし、さらに妹シンシアが生まれヨランダが可愛がっていると知ってさらに手元に置いた。
そしてアーシア九歳の時、翌年のお披露目のために渋々ギリアン子爵家に戻した。
アーシアに最高の生活をさせるためにギリアン子爵家へ資金援助を行った。
ヨランダは大喜びで受け取った。
(この子がいる限り、エイダ侯爵家から援助が受けられるわ。なんて便利な子でしょう。産んだのはわたくしですもの)
ヨランダは自分と可愛い末娘シンシアのために、なるべく長くアーシアを囲い込もうと考えた。
「アーシアにはこれが必要です。でも手元が…」
「アーシアの教育にもっとお金をかけたいのですが…」
などと言えば、いくらでも出すだろう。
しかしヨランダの目論見は外れた。
アーシアに必要な全ての手配を、エイダ侯爵家が周到に用意し行ったのだ。
そして度々エイダ侯爵家に呼び戻した。
アーシアのお披露目のドレスも、ヨランダの緑の瞳が燃え上がった。
飾り気のないすっきりした型のドレスだが、最高級のシルクで仕立てられ、真珠のジュエリー・セットはヨランダの望むべくもない最高級品だった。
(ああ、あれがわたくしのものでないなんて)
取り上げればエイダ侯爵は怒るだろう。アーシアが泣きつけば、エイダ侯爵にアーシアもろとも援助も取り上げられる。
(憎らしい娘だわ。「お母さまにも」と言わないなんて)
ヨランダはアーシアを更に憎んだ。憎んだが大切な金蔓である。手放せない。
その反面、シンシアを溺愛した。
(この子は違う。誰もがわたくしによく似ていると言うもの)
確かにシンシアはヨランダに似ており、アーシアの外見はどちらかと言えばエイダ侯爵家のものだった。
そしてアーシア十二歳の冬、ワレン王国から婚約の申し込みが来た時は、怒りがこみ上げた。
(一体どこでたらしこんだの!?この性悪娘は!王族と結婚なんて!死ぬまで贅沢のし放題ではないの!!)
そこではっとした。
(シンシアが王族になればいいのよ。わたくしはシンシアに付いて行くわ。こんなケチな子爵家はもうたくさん)
ヨランダはシンシアを焚きつけた。
「アーシアよりもあなたの方が王子様にふさわしいわ。王子様と結婚してお姫様になりたいでしょう?」
ヨランダの妨害は功を奏した。
結局アーシアの婚約は「仮」のままだ。
あと三年で覆してみせる。
シンシアならきっと。
浅慮なヨランダはそう思い込んでいる。
両国では「可哀想なアーシア」を救うために協議がなされたことを彼女は知らない。
アーシアはすでにエイダ侯爵家の養女となっており、エイダ侯爵令嬢としてワレン王国に留学する。帰国した一年後にワレン王国に嫁ぐことが決定しているのだ。
ほどなくカッツェがデビューする夜会に、ヨランダは出席できないよう手は回されている。表向きはシンシアのお披露目準備のため。
毒々しいこの女に、良薬というには劇的すぎる毒は準備万端である。
但し、子を産んだ後のヨランダの苛烈さは計算外だった。
初子は男児でないことを、誰にも責められていないのに
「どうして男じゃないの!?」
と荒れた。
赤子が可愛いと褒めればまた荒れる。
「わたくしが産んだのに!」
この荒ぶりにはギリアン子爵となったお披露目に、妊娠出産のために出られなかった悔しさも相まっていた。だからヨランダは産む前から子供を憎んだ。
(この子のせいでなにもかも台無しだわ!しかも女だなんて!!)
アーシアはおとなしい赤子だったが、ヨランダが近づいたり声が聞こえたりすると泣くようになった。
ホルヘルは「少し母子を離した方がいいのではないか」とキースに申し入れた。
答えを渋っていたキースだが、椿事が出来した。
ある日、よりにもよってホルヘルが滞在中にヨランダがアーシアの頭をを扇で叩いている現場を目撃したのだ。
叩かれた場所は数か所へこんでいた。
急ぎ医師が呼ばれ、ヨランダ以外の者は全員息をつめた一週間を過ごした。
幸いアーシアは異常を起こすことなく、医師からも診断が下りた。
「これから数か月の安静と様子を見ることになりますが、命にかかわることはないでしょう」
しかしヨランダのアーシアへの振る舞いは異常だと考えた祖父母はエイダ侯爵家へアーシアを連れて帰った。アーシアの身の安全第一に考えたことだ。
アーシアはその後、何事もなくすくすくと育った。
赤子によくあるように体調を崩し熱を出すこともあったが、特に問題なく成長した。
孫は子供より可愛いと言うが、エイダ侯爵夫妻はその言葉をつくづく実感した。
孫はもう何人もいる。だが手元で育てる孫の可愛さは格別だ。
アーシアが可愛くてたまらない。
この子には最高のものを用意しよう。ホルヘルは考えた。
嫡男カッツェが生まれたからと言っては手元に置く口実とし、さらに妹シンシアが生まれヨランダが可愛がっていると知ってさらに手元に置いた。
そしてアーシア九歳の時、翌年のお披露目のために渋々ギリアン子爵家に戻した。
アーシアに最高の生活をさせるためにギリアン子爵家へ資金援助を行った。
ヨランダは大喜びで受け取った。
(この子がいる限り、エイダ侯爵家から援助が受けられるわ。なんて便利な子でしょう。産んだのはわたくしですもの)
ヨランダは自分と可愛い末娘シンシアのために、なるべく長くアーシアを囲い込もうと考えた。
「アーシアにはこれが必要です。でも手元が…」
「アーシアの教育にもっとお金をかけたいのですが…」
などと言えば、いくらでも出すだろう。
しかしヨランダの目論見は外れた。
アーシアに必要な全ての手配を、エイダ侯爵家が周到に用意し行ったのだ。
そして度々エイダ侯爵家に呼び戻した。
アーシアのお披露目のドレスも、ヨランダの緑の瞳が燃え上がった。
飾り気のないすっきりした型のドレスだが、最高級のシルクで仕立てられ、真珠のジュエリー・セットはヨランダの望むべくもない最高級品だった。
(ああ、あれがわたくしのものでないなんて)
取り上げればエイダ侯爵は怒るだろう。アーシアが泣きつけば、エイダ侯爵にアーシアもろとも援助も取り上げられる。
(憎らしい娘だわ。「お母さまにも」と言わないなんて)
ヨランダはアーシアを更に憎んだ。憎んだが大切な金蔓である。手放せない。
その反面、シンシアを溺愛した。
(この子は違う。誰もがわたくしによく似ていると言うもの)
確かにシンシアはヨランダに似ており、アーシアの外見はどちらかと言えばエイダ侯爵家のものだった。
そしてアーシア十二歳の冬、ワレン王国から婚約の申し込みが来た時は、怒りがこみ上げた。
(一体どこでたらしこんだの!?この性悪娘は!王族と結婚なんて!死ぬまで贅沢のし放題ではないの!!)
そこではっとした。
(シンシアが王族になればいいのよ。わたくしはシンシアに付いて行くわ。こんなケチな子爵家はもうたくさん)
ヨランダはシンシアを焚きつけた。
「アーシアよりもあなたの方が王子様にふさわしいわ。王子様と結婚してお姫様になりたいでしょう?」
ヨランダの妨害は功を奏した。
結局アーシアの婚約は「仮」のままだ。
あと三年で覆してみせる。
シンシアならきっと。
浅慮なヨランダはそう思い込んでいる。
両国では「可哀想なアーシア」を救うために協議がなされたことを彼女は知らない。
アーシアはすでにエイダ侯爵家の養女となっており、エイダ侯爵令嬢としてワレン王国に留学する。帰国した一年後にワレン王国に嫁ぐことが決定しているのだ。
ほどなくカッツェがデビューする夜会に、ヨランダは出席できないよう手は回されている。表向きはシンシアのお披露目準備のため。
毒々しいこの女に、良薬というには劇的すぎる毒は準備万端である。
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