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9.不気味な人影
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ビアンカは慌てたが、次の瞬間、暗く赤い明かりがビアンカを照らした。耳をつんざくようなキーンキーンという音が響き渡る。
怯えたビアンカは周りを見渡すと、真後ろに人間がいるのに気づき「ひっ」と息を呑んだ。
赤い光に照らされた男はボロボロの服を着ており、口が裂けていた。
悲鳴を上げるより早く、男の手がビアンカの口の中に突っ込まれ、体は仰向けに倒され上半身は男の膝の上に固定される。上半身がぎりぎりとしなり、首が反って苦しい。
恐怖で涙を流すビアンカは次の瞬間持ち上げられ、反転させられ、顔から床に落とされた。
ビアンカは意識を手放した。
***
朝になり、部屋にビアンカがいないことに気づいた者達が騒ぎ始めた。
デーティアが王宮へ着いた頃には、近衛兵総出て探索が行われていた。
デーティアは呆れた。
全く、何のための宮廷魔導士達だ。魔法で探索すればすぐ見つかるだろうに。
ところがデーティアが探索を始めたが方向しかわからなかった。西の方。デーティアは西へ向かった。
西の庭園の端にビアンカは倒れ伏していた。
ドレスは煤で汚れ、埃まみれだが乱れはない。
デーティアが助け起こすと、ビアンカの顔は真っ黒で、唇の両端は切れ血が滲み、鼻血が出ていた。
「ビアンカ様!」
デーティアは呼び、状態を探った。
大きな傷はないし、内臓も損傷していない。ただ、顔を打撲している。殴られたわけではない。何かに叩きつけられたようだ。
すぐにビアンカを王宮に運び手当する。
ビアンカは昼前に目覚め、悲鳴を上げた。
「悪霊が!悪霊が来るわ!!」
と錯乱状態だ。
鎮静剤を与えて、デーティアは必死に宥めたがビアンカは震えながら眠りに落ちた。
数日かけてデーティアはビアンカを落ち着かせ、西の塔に行ったことを聞きだした。
兵達が西の塔を探索したが何もなく、塔の入り口は再び封鎖された。
デーティアはこれを機会とばかりに
「心を入れ替えて修練するならわたくしが守ります。あなたの未熟さをこの城の護りが諫めたのでしょう」
と言いくるめた。
以来、ビアンカは暗闇を怖がるようになった。それを宥めるために侍女達やメイド達が、交代で部屋に不寝番で詰めくれるようになった。悪夢にうなされたり思い出して恐怖に震えたりすると、優しく慰めてくれる彼女達に心から感謝を覚えた。
自分は今まで王女の座にふんぞり返って愚かな娘だったと反省した。
デーティアの礼法をきちんと学び、就けられた家庭教師からもよく学んだ。
ビアンカの無意味な反抗心は、思いもかけない恐怖を味わい、その後の周囲の温かい気遣いと献身によって溶かされた。
しかしこの時から、夜の警備が不気味な人影を目撃するようになった。庭園で、回廊で、渡り廊下で。
警備は厳重になったが特に被害はなかった。
しかしある夜、事件は起きる。
警備の兵が回廊に差し掛かると、両側に配置された灯火が揺らめいた。
灯火と言っても、宮廷魔導士が魔力を込めた魔晶石が明かりを放つものだ。風が吹こうと雨が降ろうと、消えるどころか揺らめきもしないはずだ。
兵達が警戒して周りを警戒する。
一人の兵が声を上げた。
他の兵がその方向を見ると、半ば影になった部分に白い顔が浮かんでいた。その顔は大きく裂けたような口が、まるで笑っているかのようだった。その瞬間、ふっと灯火が消えた。兵たちは警戒を強め手持ちの角灯を掲げる。これも魔晶石の角灯だ。
その角灯も消えた。
ざめく兵達。
次の瞬間、暗く赤い明かりが回廊を照らした。
耳障りなキーンキーンときしむような音が響き渡る。
「うっ!」と一人の兵の声がした。
その兵は先ほどの口が裂けたような男に捕まって仰向けに上半身を膝に固定されていた。不気味な男はその兵の口に自分の手を突っ込んで押さえつけていた。
他の兵たちが動くより早く、不気味な男は捉えている兵をそのまま掴んで持ち上げ反転させ、顔から地面に叩きつけた。
赤く暗い光は消え、暗闇が包む。
不気味な笑い声が短く暗闇をつんざいた。笑いが消えると同時に灯火が戻る。
「顔に包帯を巻いた怪人なのです!」
兵が怯えた顔で報告する。
「口が裂けて歯が見える不気味な姿でした」
「あれは悪霊です!」
兵達の証言によると、回廊や庭園に出没するようになった不気味な人影はこうだ。
髪は赤茶けていくつもの束になって、ざんばらに広がっている。
顔には破れかけ汚れた包帯が巻かれており、そこから裂けて歯が見える口があり、笑っている。
何百年か前に流行った少し膨らんだ縞模様の丈の短いブリーチズで、上着はボロボロ。
報告をきいたデーティアは片手で額を押さえて考え込んでしまった。
悪霊だって?悪意の欠片も感じない。
現場に残るのは、無邪気な楽しさだ。子供?大人?そして血族の気配がする…
ベアトリスが昔の夢を見るようになったのも同じ頃だった。
怯えたビアンカは周りを見渡すと、真後ろに人間がいるのに気づき「ひっ」と息を呑んだ。
赤い光に照らされた男はボロボロの服を着ており、口が裂けていた。
悲鳴を上げるより早く、男の手がビアンカの口の中に突っ込まれ、体は仰向けに倒され上半身は男の膝の上に固定される。上半身がぎりぎりとしなり、首が反って苦しい。
恐怖で涙を流すビアンカは次の瞬間持ち上げられ、反転させられ、顔から床に落とされた。
ビアンカは意識を手放した。
***
朝になり、部屋にビアンカがいないことに気づいた者達が騒ぎ始めた。
デーティアが王宮へ着いた頃には、近衛兵総出て探索が行われていた。
デーティアは呆れた。
全く、何のための宮廷魔導士達だ。魔法で探索すればすぐ見つかるだろうに。
ところがデーティアが探索を始めたが方向しかわからなかった。西の方。デーティアは西へ向かった。
西の庭園の端にビアンカは倒れ伏していた。
ドレスは煤で汚れ、埃まみれだが乱れはない。
デーティアが助け起こすと、ビアンカの顔は真っ黒で、唇の両端は切れ血が滲み、鼻血が出ていた。
「ビアンカ様!」
デーティアは呼び、状態を探った。
大きな傷はないし、内臓も損傷していない。ただ、顔を打撲している。殴られたわけではない。何かに叩きつけられたようだ。
すぐにビアンカを王宮に運び手当する。
ビアンカは昼前に目覚め、悲鳴を上げた。
「悪霊が!悪霊が来るわ!!」
と錯乱状態だ。
鎮静剤を与えて、デーティアは必死に宥めたがビアンカは震えながら眠りに落ちた。
数日かけてデーティアはビアンカを落ち着かせ、西の塔に行ったことを聞きだした。
兵達が西の塔を探索したが何もなく、塔の入り口は再び封鎖された。
デーティアはこれを機会とばかりに
「心を入れ替えて修練するならわたくしが守ります。あなたの未熟さをこの城の護りが諫めたのでしょう」
と言いくるめた。
以来、ビアンカは暗闇を怖がるようになった。それを宥めるために侍女達やメイド達が、交代で部屋に不寝番で詰めくれるようになった。悪夢にうなされたり思い出して恐怖に震えたりすると、優しく慰めてくれる彼女達に心から感謝を覚えた。
自分は今まで王女の座にふんぞり返って愚かな娘だったと反省した。
デーティアの礼法をきちんと学び、就けられた家庭教師からもよく学んだ。
ビアンカの無意味な反抗心は、思いもかけない恐怖を味わい、その後の周囲の温かい気遣いと献身によって溶かされた。
しかしこの時から、夜の警備が不気味な人影を目撃するようになった。庭園で、回廊で、渡り廊下で。
警備は厳重になったが特に被害はなかった。
しかしある夜、事件は起きる。
警備の兵が回廊に差し掛かると、両側に配置された灯火が揺らめいた。
灯火と言っても、宮廷魔導士が魔力を込めた魔晶石が明かりを放つものだ。風が吹こうと雨が降ろうと、消えるどころか揺らめきもしないはずだ。
兵達が警戒して周りを警戒する。
一人の兵が声を上げた。
他の兵がその方向を見ると、半ば影になった部分に白い顔が浮かんでいた。その顔は大きく裂けたような口が、まるで笑っているかのようだった。その瞬間、ふっと灯火が消えた。兵たちは警戒を強め手持ちの角灯を掲げる。これも魔晶石の角灯だ。
その角灯も消えた。
ざめく兵達。
次の瞬間、暗く赤い明かりが回廊を照らした。
耳障りなキーンキーンときしむような音が響き渡る。
「うっ!」と一人の兵の声がした。
その兵は先ほどの口が裂けたような男に捕まって仰向けに上半身を膝に固定されていた。不気味な男はその兵の口に自分の手を突っ込んで押さえつけていた。
他の兵たちが動くより早く、不気味な男は捉えている兵をそのまま掴んで持ち上げ反転させ、顔から地面に叩きつけた。
赤く暗い光は消え、暗闇が包む。
不気味な笑い声が短く暗闇をつんざいた。笑いが消えると同時に灯火が戻る。
「顔に包帯を巻いた怪人なのです!」
兵が怯えた顔で報告する。
「口が裂けて歯が見える不気味な姿でした」
「あれは悪霊です!」
兵達の証言によると、回廊や庭園に出没するようになった不気味な人影はこうだ。
髪は赤茶けていくつもの束になって、ざんばらに広がっている。
顔には破れかけ汚れた包帯が巻かれており、そこから裂けて歯が見える口があり、笑っている。
何百年か前に流行った少し膨らんだ縞模様の丈の短いブリーチズで、上着はボロボロ。
報告をきいたデーティアは片手で額を押さえて考え込んでしまった。
悪霊だって?悪意の欠片も感じない。
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