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3.恋する小鳥達
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「この子にはおばあさまのことならば、何も罰にならないようですわ」
ベアトリスの髪を撫でながらシャロンが笑う。
***
王家の上の三人は、それぞれの将来の伴侶と『適切な』交流をしていた。
ジルリアは七歳になった冬の社交で、婚約者候補の令嬢達と交流するようになった。
ライラはその中でも快活で、デーティアとの生活が好きなジルリアと一番気が合った。
十歳の時、夏にデーティアの家に滞在した折り、ジルリアは大人の女性の指二本ほどの幅の薄紅色のリボンを二本持参していた。アンジェリーナとフランシーヌに隠れて、デーティアに刺繍を頼んだ。
デーティアは目をぱちぱちっと瞬かせて
「王子様、ロイヤル・パープルで刺しましょうか?」
と少しからかった。
「やめてください、おばあさま」
ジルリアは顔を赤く染めてもじもじとした。
「友達への誕生日の贈り物です。おばあさまの刺繍があれはもっと映えると思うのです」
デーティアはちらっと母親のシャロンを見ると、彼女は微笑んで頷いた。
「悪かったよ。大切な友達なんだね。あんたの『ばぁ』が護りを込めた刺繍を刺してあげるよ」
デーティアは銀の糸で蔓薔薇の刺繍を刺しながら歌った。
銀の薔薇 銀の花
汝 我を欲するならば
汝の手から 我に与えよ
他が手に託すことなかれ
銀の薔薇 銀の蔓
汝 我を愛するならば
汝の手から 我に与えよ
棘が我を守り給わん
その贈り物をきっかけに、ジルリアとライラは特別な友として交流を続け、いつしか恋心に変わっていった。
王立学園での騒動を乗り越えて、二人は晴れて婚約を交わした。
ライラは学園の贈賄騒動のせいで高等部を正式には卒業していなかったが、実力派十二分にあったため、卒業を待たずにジルリアとの結婚が決まった。貴族令嬢にはままあることだ。
***
アンジェリーナのお相手は隣国フィランジェ王国の王太子ウィンダム。
アンジェリーナが六歳の時に婚約が内定し、十三歳の時にウィンダム王太子が、ラバナン王国を来訪した。十六歳のウィンダムは静かで優しい気性で、正義感の強い少年だった。
アンジェリーナとウィンダムはお互いに好感を抱き、それ以来二人の間で手紙のやりとりが続いた。
アンジェリーナ十五歳、ウィンダム十八歳の歳に婚約が公表された。
ある日、アンジェリーナは手紙を読んで戸惑った。
そこには
「フォアグラはお好きですか」
としたためられていた。
アンジェリーナはデーティアの下で、庶民風の質素な食生活を送る時期があるので、贅沢な食事を好まなかった。特にフォアグラをとる家鴨の飼育法をデーティアに教えられて以来、フォアグラを拒んだ。
無理やりに餌を詰め込まれて病気にされ、肥大した家鴨の肝臓を食べる気にはなれなかった。
それはラバナン王国が最近始めた政策でもあった。
シャロンから夫で王太子のフィリップへの進言で、ラバナン王国ではフォアグラに重税をかけ、フォアグラ事業の縮小を謀り、将来的には禁止にする予定だ。
「ウィンダム王太子殿下はフォアグラがお好きなのかしら」
とも思ったが、正直こう書いた。
「わざわざ病気にした家鴨の肝臓は好みません。我がラバナン王国ではフォアグラそのものを禁止しておりませんが、重税をかけることで流通と飼育を減らしております」
ウィンダムからの返信には
「私も父母もフォアグラを好みません。ですから食卓には決して上がらないのです。あなたがフォアグラがお好みでなくてよかった」
と書かれており、アンジェリーナは好感を覚えた。
折々に手紙とささやかな贈り物を交わし合い、二人は親愛の情を深めていった。
***
フランシーヌはアンジェリーナと同じ年に婚約が内定した。
ダンドリオン侯爵家の長男ブレイに降嫁するのだ。
それはフランシーヌが、ダンドリオン侯爵家の誇り、「王家の剣」の印の痣の持ち主だったからだ。
フランシーヌの背中の真ん中に、赤いスペードの形の痣がある。
それは祖父の母のフィリパがダンドリオン侯爵家の出身で、祖父の腕にもその痣があるのだ。
ダンドリオン侯爵家では、フィリパの不遇な時期の遺恨を忘れておらず、またあれ以来「王家の剣」の痣を持つ者が現れない。
事あるごとに過去を蒸し返すのが王家の悩みだ。
その遺恨の解消をフランシーヌは託された。
現ダンドリオン侯爵夫妻は、フランシーヌの降嫁に少しばかりの不満を抱いている様子だったが、ブレイは年ごと月ごとに美しくなっていくフランシーヌにベタ惚れだ。
外見だけではなく、はっきりとしたやや激しい気性を垣間見せるフランシーヌもブレイは気に入っている。
機転にとんだ会話や手紙のやりとりも、二人の気持ちを深めていった。
フランシーヌは十八歳の初夏、ダンドリオン侯爵家へ嫁いだ。
二人の婚儀は王宮内の神殿で執り行われた。
姉のアンジェリーナが結婚する二人の露払いの花を撒く「春の乙女」の役をやり、妹のベアトリスがフランシーヌのヴェールの端を持った。
幸せな二人は神官によって祝福され、結婚誓約書に署名し、晴れて夫婦となった。
ベアトリスの髪を撫でながらシャロンが笑う。
***
王家の上の三人は、それぞれの将来の伴侶と『適切な』交流をしていた。
ジルリアは七歳になった冬の社交で、婚約者候補の令嬢達と交流するようになった。
ライラはその中でも快活で、デーティアとの生活が好きなジルリアと一番気が合った。
十歳の時、夏にデーティアの家に滞在した折り、ジルリアは大人の女性の指二本ほどの幅の薄紅色のリボンを二本持参していた。アンジェリーナとフランシーヌに隠れて、デーティアに刺繍を頼んだ。
デーティアは目をぱちぱちっと瞬かせて
「王子様、ロイヤル・パープルで刺しましょうか?」
と少しからかった。
「やめてください、おばあさま」
ジルリアは顔を赤く染めてもじもじとした。
「友達への誕生日の贈り物です。おばあさまの刺繍があれはもっと映えると思うのです」
デーティアはちらっと母親のシャロンを見ると、彼女は微笑んで頷いた。
「悪かったよ。大切な友達なんだね。あんたの『ばぁ』が護りを込めた刺繍を刺してあげるよ」
デーティアは銀の糸で蔓薔薇の刺繍を刺しながら歌った。
銀の薔薇 銀の花
汝 我を欲するならば
汝の手から 我に与えよ
他が手に託すことなかれ
銀の薔薇 銀の蔓
汝 我を愛するならば
汝の手から 我に与えよ
棘が我を守り給わん
その贈り物をきっかけに、ジルリアとライラは特別な友として交流を続け、いつしか恋心に変わっていった。
王立学園での騒動を乗り越えて、二人は晴れて婚約を交わした。
ライラは学園の贈賄騒動のせいで高等部を正式には卒業していなかったが、実力派十二分にあったため、卒業を待たずにジルリアとの結婚が決まった。貴族令嬢にはままあることだ。
***
アンジェリーナのお相手は隣国フィランジェ王国の王太子ウィンダム。
アンジェリーナが六歳の時に婚約が内定し、十三歳の時にウィンダム王太子が、ラバナン王国を来訪した。十六歳のウィンダムは静かで優しい気性で、正義感の強い少年だった。
アンジェリーナとウィンダムはお互いに好感を抱き、それ以来二人の間で手紙のやりとりが続いた。
アンジェリーナ十五歳、ウィンダム十八歳の歳に婚約が公表された。
ある日、アンジェリーナは手紙を読んで戸惑った。
そこには
「フォアグラはお好きですか」
としたためられていた。
アンジェリーナはデーティアの下で、庶民風の質素な食生活を送る時期があるので、贅沢な食事を好まなかった。特にフォアグラをとる家鴨の飼育法をデーティアに教えられて以来、フォアグラを拒んだ。
無理やりに餌を詰め込まれて病気にされ、肥大した家鴨の肝臓を食べる気にはなれなかった。
それはラバナン王国が最近始めた政策でもあった。
シャロンから夫で王太子のフィリップへの進言で、ラバナン王国ではフォアグラに重税をかけ、フォアグラ事業の縮小を謀り、将来的には禁止にする予定だ。
「ウィンダム王太子殿下はフォアグラがお好きなのかしら」
とも思ったが、正直こう書いた。
「わざわざ病気にした家鴨の肝臓は好みません。我がラバナン王国ではフォアグラそのものを禁止しておりませんが、重税をかけることで流通と飼育を減らしております」
ウィンダムからの返信には
「私も父母もフォアグラを好みません。ですから食卓には決して上がらないのです。あなたがフォアグラがお好みでなくてよかった」
と書かれており、アンジェリーナは好感を覚えた。
折々に手紙とささやかな贈り物を交わし合い、二人は親愛の情を深めていった。
***
フランシーヌはアンジェリーナと同じ年に婚約が内定した。
ダンドリオン侯爵家の長男ブレイに降嫁するのだ。
それはフランシーヌが、ダンドリオン侯爵家の誇り、「王家の剣」の印の痣の持ち主だったからだ。
フランシーヌの背中の真ん中に、赤いスペードの形の痣がある。
それは祖父の母のフィリパがダンドリオン侯爵家の出身で、祖父の腕にもその痣があるのだ。
ダンドリオン侯爵家では、フィリパの不遇な時期の遺恨を忘れておらず、またあれ以来「王家の剣」の痣を持つ者が現れない。
事あるごとに過去を蒸し返すのが王家の悩みだ。
その遺恨の解消をフランシーヌは託された。
現ダンドリオン侯爵夫妻は、フランシーヌの降嫁に少しばかりの不満を抱いている様子だったが、ブレイは年ごと月ごとに美しくなっていくフランシーヌにベタ惚れだ。
外見だけではなく、はっきりとしたやや激しい気性を垣間見せるフランシーヌもブレイは気に入っている。
機転にとんだ会話や手紙のやりとりも、二人の気持ちを深めていった。
フランシーヌは十八歳の初夏、ダンドリオン侯爵家へ嫁いだ。
二人の婚儀は王宮内の神殿で執り行われた。
姉のアンジェリーナが結婚する二人の露払いの花を撒く「春の乙女」の役をやり、妹のベアトリスがフランシーヌのヴェールの端を持った。
幸せな二人は神官によって祝福され、結婚誓約書に署名し、晴れて夫婦となった。
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