28 / 35
28.嬉しい変化の訪れ
しおりを挟む
オティーリエ王女は、がらりと変わった。
落ち着いて、物腰が柔らかくなった。
「側妃殿下がオティーリエ王女殿下をお見捨てにならずに、導いてくださって何とお礼を申し上げていいかわかりません」
カテーナ王国からついて来た侍女が言う。
「オティーリエ王女殿下は、芯からお悪い方ではないのです。お母上が…色々とありまして…」
「そうなのです。オティーリエ王女殿下を雁字搦めにして、おかしな方に導いてしまったのです」
もう一人の侍女が言う。
「本当にお可哀想でした。気まぐれに優しくなさるから、オティーリエ王女殿下は見捨てられまいと必死だったのです」
「時には罵倒され、叩かれても、オティーリエ王女殿下はお母上に縋っていらっしゃいました。国王陛下はお二人に冷淡でいらっしゃったので」
悲し気な侍女達。
「お小さい頃はばあややねえやがいらっしゃって、オティーリエ王女殿下に優しく、時には諫めていましたが、婚約が決まると二人共解雇されしまい、オティーリエ王女殿下は寂しかったのです」
「それに…」
少し口ごもる。
「わたくし達のお仕着せをご覧になって、驚かれたでしょう?わたくし達はここ三年、何も支給されず給金も払われない時もあったのです」
「もちろん、オティーリエ王女殿下も…新しいものはお母上が独り占めなさっていましたの」
侍女達によると、ここ三年は特に酷かったと言う。
度々オティーリエ王女の食事さえ忘れられるほど、侮られていた時期もあった。そこでオティーリエ王女は
「私は未来のインジャル王妃なのよ!言うことを聞かないなら斬首にしてやるわ!」
と言うようになった。
小さい頃、母親が言っていたのを真似ていた名残の記憶があったのだ。
侮られないために、必要以上に攻撃的に振舞うことでご自分を守っていらっしゃったのだ。
インジャル王国に来て私に必要以上の敵愾心を持っていたのも、侮られたら蔑ろにされると思っていらっしゃったからだ。
オティーリエ王女の治療は効果を上げ、もうほとんどしみは目立たない。もう少しで完全に消えるだろう。
化粧かぶれと腫れがすっかり治まり、顔全体がすっきりなさった。目は切れ長で涼やかだ。
私はその瞼の際に、髪の色に似たレッドブラウンの線を引く化粧を勧めた。
オティーリエ様は肖像画とは正反対の美しさを持った方だったのだ。
今では授業も熱心に受け、王妃殿下も驚いている。
「この調子では、あなたが正妃の王太子妃になっても、側妃としてうまくいくかもしれませんね」
と、私におっしゃった。
私とオティーリエ王女は、ほぼ毎日午後のお茶をご一緒し、時にはセリーナ様も加わって楽しく過ごしていた。
オティーリエ王女はすっかり角が取れて、穏やかに過ごしている。
その理由のひとつには、私が国王陛下に願い出たことが受け入れられて、すっかり安堵なさったからだ。
私はオティーリエ王女の母親を始め親族を、決してインジャル王国に入れないよう願い出た。オティーリエ王女のカテーナでの境遇を話すと、国王陛下はすぐに取り計らってくださった。
「わたくし、もうお母様に怯えなくていいのね」
と、オティーリエ王女は安堵の涙を流した。
秋が深まった頃、私の懐妊が発覚した。
定期的に侍医の受診を受けていたが、その日
「もう間違いはございません。側妃殿下はご懐妊なさっていらっしゃいます。まことにおめでとうございます」
と告げられた。
「これからご体調不良も出るかと存じますが、どうぞ御身をお労わりください」
と、侍女達に様々な指示を出し、熟練の産婆がつけられた。
「乳母も探さなくてなりませんね」
王妃殿下は嬉しそうにおっしゃった。
「生まれるのは来年の晩春か初夏ですって。楽しみだわ」
とはしゃぐ王妃様。
「ありがとうを言わせてもらうよ。体を大事に」
と国王陛下も労わってくださった。
オティーリエ王女は心から微笑んで
「おめでとうございます」
と祝ってくださった。
国王陛下は特に褒美を与えたいとおっしゃる。
「其方の心労を出来得る限り取り除きたい。アシャールを取り潰すことも厭わない」
「それでは弟のダニエルを巻き込みます。取り潰しはご容赦ください」
とお願いする私に
「ではダニエルが当主になればいいのだ」
と含み笑いをなさった。
きっと近いうちに、アシャール子爵家でも変化があるだろう。
懐妊の公式発表は大事を取って、新年祭の席で行うことになった。
「バシュロへはあなたが言いたいでしょう?それに」
王妃殿下が笑いを含んでおっしゃった。
「あの生意気な子より先に、この大事を知って秘密にしているのは小気味いいわ」
などと笑われるのだ。
私もいたずら心がおさえきれずに、手紙を書くのも控えた。
早くバシュロ様にお会いしたい。
もう私だけ幸せでいいのかと案じることはしない。
落ち着いて、物腰が柔らかくなった。
「側妃殿下がオティーリエ王女殿下をお見捨てにならずに、導いてくださって何とお礼を申し上げていいかわかりません」
カテーナ王国からついて来た侍女が言う。
「オティーリエ王女殿下は、芯からお悪い方ではないのです。お母上が…色々とありまして…」
「そうなのです。オティーリエ王女殿下を雁字搦めにして、おかしな方に導いてしまったのです」
もう一人の侍女が言う。
「本当にお可哀想でした。気まぐれに優しくなさるから、オティーリエ王女殿下は見捨てられまいと必死だったのです」
「時には罵倒され、叩かれても、オティーリエ王女殿下はお母上に縋っていらっしゃいました。国王陛下はお二人に冷淡でいらっしゃったので」
悲し気な侍女達。
「お小さい頃はばあややねえやがいらっしゃって、オティーリエ王女殿下に優しく、時には諫めていましたが、婚約が決まると二人共解雇されしまい、オティーリエ王女殿下は寂しかったのです」
「それに…」
少し口ごもる。
「わたくし達のお仕着せをご覧になって、驚かれたでしょう?わたくし達はここ三年、何も支給されず給金も払われない時もあったのです」
「もちろん、オティーリエ王女殿下も…新しいものはお母上が独り占めなさっていましたの」
侍女達によると、ここ三年は特に酷かったと言う。
度々オティーリエ王女の食事さえ忘れられるほど、侮られていた時期もあった。そこでオティーリエ王女は
「私は未来のインジャル王妃なのよ!言うことを聞かないなら斬首にしてやるわ!」
と言うようになった。
小さい頃、母親が言っていたのを真似ていた名残の記憶があったのだ。
侮られないために、必要以上に攻撃的に振舞うことでご自分を守っていらっしゃったのだ。
インジャル王国に来て私に必要以上の敵愾心を持っていたのも、侮られたら蔑ろにされると思っていらっしゃったからだ。
オティーリエ王女の治療は効果を上げ、もうほとんどしみは目立たない。もう少しで完全に消えるだろう。
化粧かぶれと腫れがすっかり治まり、顔全体がすっきりなさった。目は切れ長で涼やかだ。
私はその瞼の際に、髪の色に似たレッドブラウンの線を引く化粧を勧めた。
オティーリエ様は肖像画とは正反対の美しさを持った方だったのだ。
今では授業も熱心に受け、王妃殿下も驚いている。
「この調子では、あなたが正妃の王太子妃になっても、側妃としてうまくいくかもしれませんね」
と、私におっしゃった。
私とオティーリエ王女は、ほぼ毎日午後のお茶をご一緒し、時にはセリーナ様も加わって楽しく過ごしていた。
オティーリエ王女はすっかり角が取れて、穏やかに過ごしている。
その理由のひとつには、私が国王陛下に願い出たことが受け入れられて、すっかり安堵なさったからだ。
私はオティーリエ王女の母親を始め親族を、決してインジャル王国に入れないよう願い出た。オティーリエ王女のカテーナでの境遇を話すと、国王陛下はすぐに取り計らってくださった。
「わたくし、もうお母様に怯えなくていいのね」
と、オティーリエ王女は安堵の涙を流した。
秋が深まった頃、私の懐妊が発覚した。
定期的に侍医の受診を受けていたが、その日
「もう間違いはございません。側妃殿下はご懐妊なさっていらっしゃいます。まことにおめでとうございます」
と告げられた。
「これからご体調不良も出るかと存じますが、どうぞ御身をお労わりください」
と、侍女達に様々な指示を出し、熟練の産婆がつけられた。
「乳母も探さなくてなりませんね」
王妃殿下は嬉しそうにおっしゃった。
「生まれるのは来年の晩春か初夏ですって。楽しみだわ」
とはしゃぐ王妃様。
「ありがとうを言わせてもらうよ。体を大事に」
と国王陛下も労わってくださった。
オティーリエ王女は心から微笑んで
「おめでとうございます」
と祝ってくださった。
国王陛下は特に褒美を与えたいとおっしゃる。
「其方の心労を出来得る限り取り除きたい。アシャールを取り潰すことも厭わない」
「それでは弟のダニエルを巻き込みます。取り潰しはご容赦ください」
とお願いする私に
「ではダニエルが当主になればいいのだ」
と含み笑いをなさった。
きっと近いうちに、アシャール子爵家でも変化があるだろう。
懐妊の公式発表は大事を取って、新年祭の席で行うことになった。
「バシュロへはあなたが言いたいでしょう?それに」
王妃殿下が笑いを含んでおっしゃった。
「あの生意気な子より先に、この大事を知って秘密にしているのは小気味いいわ」
などと笑われるのだ。
私もいたずら心がおさえきれずに、手紙を書くのも控えた。
早くバシュロ様にお会いしたい。
もう私だけ幸せでいいのかと案じることはしない。
2,028
お気に入りに追加
3,743
あなたにおすすめの小説

病弱な妹に婚約者を奪われお城に居場所がなくなったので家出したら…結果、幸せになれました。
coco
恋愛
城に戻ってきた妹に、騎士兼婚約者を奪われた私。
やがて城に居場所がなくなった私は、ついに家出を決意して…?

【完結】何故こうなったのでしょう? きれいな姉を押しのけブスな私が王子様の婚約者!!!
りまり
恋愛
きれいなお姉さまが最優先される実家で、ひっそりと別宅で生活していた。
食事も自分で用意しなければならないぐらい私は差別されていたのだ。
だから毎日アルバイトしてお金を稼いだ。
食べるものや着る物を買うために……パン屋さんで働かせてもらった。
パン屋さんは家の事情を知っていて、毎日余ったパンをくれたのでそれは感謝している。
そんな時お姉さまはこの国の第一王子さまに恋をしてしまった。
王子さまに自分を売り込むために、私は王子付きの侍女にされてしまったのだ。
そんなの自分でしろ!!!!!

俺の婚約者は地味で陰気臭い女なはずだが、どうも違うらしい。
ミミリン
恋愛
ある世界の貴族である俺。婚約者のアリスはいつもボサボサの髪の毛とぶかぶかの制服を着ていて陰気な女だ。幼馴染のアンジェリカからは良くない話も聞いている。
俺と婚約していても話は続かないし、婚約者としての役目も担う気はないようだ。
そんな婚約者のアリスがある日、俺のメイドがふるまった紅茶を俺の目の前でわざとこぼし続けた。
こんな女とは婚約解消だ。
この日から俺とアリスの関係が少しずつ変わっていく。
殿下、側妃とお幸せに! 正妃をやめたら溺愛されました
まるねこ
恋愛
旧題:お飾り妃になってしまいました
第15回アルファポリス恋愛大賞で奨励賞を頂きました⭐︎読者の皆様お読み頂きありがとうございます!
結婚式1月前に突然告白される。相手は男爵令嬢ですか、婚約破棄ですね。分かりました。えっ?違うの?嫌です。お飾り妃なんてなりたくありません。

【完結】『妹の結婚の邪魔になる』と家族に殺されかけた妖精の愛し子の令嬢は、森の奥で引きこもり魔術師と出会いました。
蜜柑
恋愛
メリルはアジュール王国侯爵家の長女。幼いころから妖精の声が聞こえるということで、家族から気味悪がられ、屋敷から出ずにひっそりと暮らしていた。しかし、花の妖精の異名を持つ美しい妹アネッサが王太子と婚約したことで、両親はメリルを一族の恥と思い、人知れず殺そうとした。
妖精たちの助けで屋敷を出たメリルは、時間の止まったような不思議な森の奥の一軒家で暮らす魔術師のアルヴィンと出会い、一緒に暮らすことになった。

【完結】1王妃は、幸せになれる?
華蓮
恋愛
サウジランド王国のルーセント王太子とクレスタ王太子妃が政略結婚だった。
側妃は、学生の頃の付き合いのマリーン。
ルーセントとマリーンは、仲が良い。ひとりぼっちのクレスタ。
そこへ、隣国の皇太子が、視察にきた。
王太子妃の進み道は、王妃?それとも、、、、?

失った真実の愛を息子にバカにされて口車に乗せられた
しゃーりん
恋愛
20数年前、婚約者ではない令嬢を愛し、結婚した現国王。
すぐに産まれた王太子は2年前に結婚したが、まだ子供がいなかった。
早く後継者を望まれる王族として、王太子に側妃を娶る案が出る。
この案に王太子の返事は?
王太子である息子が国王である父を口車に乗せて側妃を娶らせるお話です。

女性として見れない私は、もう不要な様です〜俺の事は忘れて幸せになって欲しい。と言われたのでそうする事にした結果〜
流雲青人
恋愛
子爵令嬢のプレセアは目の前に広がる光景に静かに涙を零した。
偶然にも居合わせてしまったのだ。
学園の裏庭で、婚約者がプレセアの友人へと告白している場面に。
そして後日、婚約者に呼び出され告げられた。
「君を女性として見ることが出来ない」
幼馴染であり、共に過ごして来た時間はとても長い。
その中でどうやら彼はプレセアを友人以上として見れなくなってしまったらしい。
「俺の事は忘れて幸せになって欲しい。君は幸せになるべき人だから」
大切な二人だからこそ、清く身を引いて、大好きな人と友人の恋を応援したい。
そう思っている筈なのに、恋心がその気持ちを邪魔してきて...。
※
ゆるふわ設定です。
完結しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる