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5.学期末とヘレン・アンダーソン
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王女二人に迎え入れられた私は注目されていた。
「綺麗なアッシュブロンド。瞳は氷河の氷みたい。まるで冬の精霊だわ」
セリーナ第二王女が褒める。
「本当ね。次は青いドレス姿が見たいわ。きっと氷の花のように見えるわ」
リゼット第一王女殿下が言う。
私は驚いた。
「可愛げのない冷たい見かけ。誰も妻に望まないでしょうよ」
と母に言われた髪色と瞳なのに。
母と妹は明るい栗色の髪に青い瞳だ。
私の髪と瞳は「灰色」と言われていた。
この色味はプライブ伯爵家の色らしい。オルセー伯父が同じなのだ。
祖母とクレール伯母が調えてくれたドレスは青が多かったが、冷たい印象を与えるのを恐れてこの色にしたのだ。
新年祭の王女のパーティーは楽しく過ぎていった。
冬季休暇が終わり、初夏の学期末がきた。
私は今期もいくつもの最優秀と優秀を取り、報奨金を稼ぎ出した。今回は前より多いのは、ほとんどの生徒が夏季休暇の予定で浮かれていたせいでもある。
夏季休暇は私はプライブ伯爵家へ身を寄せ、正式に養子縁組をすることになる。
学期の最終日、ヘレン・アンダーソン伯爵令嬢がツカツカと私に近づいて来た。
その時は自分に向かっていると思わず、まとめた教材をバッグに入れ終わったので帰ろうと出入り口に向かおうとした。
すると、いきなりガッと左の横髪を掴まれて後ろに倒れこみそうになった。
髪を引っ張られたまま振り返ると、怒り顔のヘレン・アンダーソンがいた。その後ろにはミネルヴァ・ギャローズ子爵令嬢とシリル・エンドレル男爵令嬢。この二人はさも面白そうににやついていた。
「なにをなさるのですか?アンダーソン嬢、髪から手を放してください」
穏便にことをすませたい。
ヘレン・アンダーソンはさらにぐいっと髪を引っ張り言った。
「あなた、生意気よ。いい気になっているんじゃない?」
成績のことだろうか?努力の結果を恥じる謂れはない。
「なんのことでしょう?」
ぐいっとまた引っ張る。
「バシュロ様のことよ!新年祭で近づいて、生徒会へ入ろうとしているって話はちゃんと知っているのよ!!」
これはバシュロ第一王子殿下の根回しのせいだ。
今学期に入ってからちらほらと噂が流れている。
王宮の新年祭に招かれたこと。
リゼット第一王女殿下とセリーナ第二王女殿下と親しいこと。
来学期から生徒会入りが決定していること。
現在の生徒会の皆様から、もちろんバシュロ第一王子殿下からも名前呼びが許されていること。
などなど。
生徒会入りを円滑にし、かつ側妃への外堀をうめようとの目的だろうが、ヘレン・アンダーソンにとっては大変おもしろくない話だ。しかし、こんなことをしてくるとは思わなかった。普段は頬を染めて、いかにも恋する乙女ですと言った可愛い風情で、バシュロ第一王子殿下のことを夢見るように話しているのに。
「新年祭に招かれたのは本当ですが、その場に第一王子殿下はいらっしゃいませんでした」
馬車には同乗したけれど。
ぐいっとまた力をこめられて痛い。
「じゃあ、なんであなたが生徒会入りするのよ!?たかが弱小子爵家のくせに!」
「家柄とは関係ないと思います。わたくしは成績から…」
ぐいっとまた引っ張られる。
「そこが生意気なのよ!大方、生徒会の皆様に取り入るために勉強を頑張ったんでしょうね!お生憎様!!」
ぎゅうっと髪がねじられる。
「生徒会入りするのはわたくしよ!お父様にお願いしているんだから!」
学園自治を親のコネでどうにかできると思っているのだ。そういえば度々「お父様にバシュロ様との婚約をお願いしているの」と言っていたのを聞いた。
「身の程を知りなさいよ!」
そう言ってヘレン・アンダーソンにシリル・エンドレルが鋏を差し出した。
「さあ、ヘレン様。思い知らせてさしあげるといいですわ」
ミネルヴァ・ギャローズが言う。
ヘレン・アンダーソンはにやっと笑って鋏を受け取った。
鋏がヘレン・アンダーソンが握っている私の横髪の束に当てられ、シャキンと音がした瞬間だ。私は髪を切られたという自覚よりも早く、誰かの腕の中に抱き込まれていた。
目の前で私の髪がパラパラと床に落ち、ヘレン・アンダーソンの右手から鋏が床に落ちて堅い音がした。
「バシュロ様…」
ヘレン・アンダーソンが真っ青な顔でこちらを見ている。
「違うんです!誤解です!」
喚き立てるヘレン・アンダーソン。
「衛兵!この三人を拘束しろ!」
頭の後ろからバシュロ第一王子殿下の声がして、初めて彼に抱き込まれたことを理解する。
「私の未来の側妃にした狼藉、罪は軽くはないぞ」
バシュロ第一王子殿下の言葉にその場にいた全員が凍り付く。もちろん私もだ。
なんてことをおっしゃるの!?
言ってしまったら後戻りできないじゃない!?
必死に何かを言い募る三人を、衛兵が連れ去った。
「綺麗なアッシュブロンド。瞳は氷河の氷みたい。まるで冬の精霊だわ」
セリーナ第二王女が褒める。
「本当ね。次は青いドレス姿が見たいわ。きっと氷の花のように見えるわ」
リゼット第一王女殿下が言う。
私は驚いた。
「可愛げのない冷たい見かけ。誰も妻に望まないでしょうよ」
と母に言われた髪色と瞳なのに。
母と妹は明るい栗色の髪に青い瞳だ。
私の髪と瞳は「灰色」と言われていた。
この色味はプライブ伯爵家の色らしい。オルセー伯父が同じなのだ。
祖母とクレール伯母が調えてくれたドレスは青が多かったが、冷たい印象を与えるのを恐れてこの色にしたのだ。
新年祭の王女のパーティーは楽しく過ぎていった。
冬季休暇が終わり、初夏の学期末がきた。
私は今期もいくつもの最優秀と優秀を取り、報奨金を稼ぎ出した。今回は前より多いのは、ほとんどの生徒が夏季休暇の予定で浮かれていたせいでもある。
夏季休暇は私はプライブ伯爵家へ身を寄せ、正式に養子縁組をすることになる。
学期の最終日、ヘレン・アンダーソン伯爵令嬢がツカツカと私に近づいて来た。
その時は自分に向かっていると思わず、まとめた教材をバッグに入れ終わったので帰ろうと出入り口に向かおうとした。
すると、いきなりガッと左の横髪を掴まれて後ろに倒れこみそうになった。
髪を引っ張られたまま振り返ると、怒り顔のヘレン・アンダーソンがいた。その後ろにはミネルヴァ・ギャローズ子爵令嬢とシリル・エンドレル男爵令嬢。この二人はさも面白そうににやついていた。
「なにをなさるのですか?アンダーソン嬢、髪から手を放してください」
穏便にことをすませたい。
ヘレン・アンダーソンはさらにぐいっと髪を引っ張り言った。
「あなた、生意気よ。いい気になっているんじゃない?」
成績のことだろうか?努力の結果を恥じる謂れはない。
「なんのことでしょう?」
ぐいっとまた引っ張る。
「バシュロ様のことよ!新年祭で近づいて、生徒会へ入ろうとしているって話はちゃんと知っているのよ!!」
これはバシュロ第一王子殿下の根回しのせいだ。
今学期に入ってからちらほらと噂が流れている。
王宮の新年祭に招かれたこと。
リゼット第一王女殿下とセリーナ第二王女殿下と親しいこと。
来学期から生徒会入りが決定していること。
現在の生徒会の皆様から、もちろんバシュロ第一王子殿下からも名前呼びが許されていること。
などなど。
生徒会入りを円滑にし、かつ側妃への外堀をうめようとの目的だろうが、ヘレン・アンダーソンにとっては大変おもしろくない話だ。しかし、こんなことをしてくるとは思わなかった。普段は頬を染めて、いかにも恋する乙女ですと言った可愛い風情で、バシュロ第一王子殿下のことを夢見るように話しているのに。
「新年祭に招かれたのは本当ですが、その場に第一王子殿下はいらっしゃいませんでした」
馬車には同乗したけれど。
ぐいっとまた力をこめられて痛い。
「じゃあ、なんであなたが生徒会入りするのよ!?たかが弱小子爵家のくせに!」
「家柄とは関係ないと思います。わたくしは成績から…」
ぐいっとまた引っ張られる。
「そこが生意気なのよ!大方、生徒会の皆様に取り入るために勉強を頑張ったんでしょうね!お生憎様!!」
ぎゅうっと髪がねじられる。
「生徒会入りするのはわたくしよ!お父様にお願いしているんだから!」
学園自治を親のコネでどうにかできると思っているのだ。そういえば度々「お父様にバシュロ様との婚約をお願いしているの」と言っていたのを聞いた。
「身の程を知りなさいよ!」
そう言ってヘレン・アンダーソンにシリル・エンドレルが鋏を差し出した。
「さあ、ヘレン様。思い知らせてさしあげるといいですわ」
ミネルヴァ・ギャローズが言う。
ヘレン・アンダーソンはにやっと笑って鋏を受け取った。
鋏がヘレン・アンダーソンが握っている私の横髪の束に当てられ、シャキンと音がした瞬間だ。私は髪を切られたという自覚よりも早く、誰かの腕の中に抱き込まれていた。
目の前で私の髪がパラパラと床に落ち、ヘレン・アンダーソンの右手から鋏が床に落ちて堅い音がした。
「バシュロ様…」
ヘレン・アンダーソンが真っ青な顔でこちらを見ている。
「違うんです!誤解です!」
喚き立てるヘレン・アンダーソン。
「衛兵!この三人を拘束しろ!」
頭の後ろからバシュロ第一王子殿下の声がして、初めて彼に抱き込まれたことを理解する。
「私の未来の側妃にした狼藉、罪は軽くはないぞ」
バシュロ第一王子殿下の言葉にその場にいた全員が凍り付く。もちろん私もだ。
なんてことをおっしゃるの!?
言ってしまったら後戻りできないじゃない!?
必死に何かを言い募る三人を、衛兵が連れ去った。
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