赤の魔女は恋をしない

チャイムン

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11.デーティアは恋をしない

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 デーティアは魔法吸球リタラーガをシルアに託して帰宅した。

 数ヶ月ぶりの我が家だ。
 出て行く時に時間停止の魔法と結界を張って行った。
 中の様子に問題はない。

 門の前にはたくさんの手紙がおいてある。
 商人達からだ。
 各店には半年分の納品はしてあるはずなのに。
 中に入って手紙を見ると、数か月前に来たご婦人達が王都でデーティアから購入したものを見せたため、王都の他のご婦人からの注文が殺到しているという。王都からの直接注文もあった。ハンナをはじめ何人もから心配の置手紙もある。

 知ったこっちゃないね。あたしはこれからもあたしのペースでやっていくよ。
 手に入らない?手に入るまで待つんだね。
 ただし、色々情報をくれた2人のご婦人達の注文は優先で送るけど。きっと代金や注文と一緒に王都の噂話もふんだんに送ってくれるだろう。

 魔法を解いて、とりあえずお茶をいれてひと息つく。

 デーティアは伝言鳥を町へ飛ばす。

「明日から通常営業」と。

 赤いフード付きマントを纏う。

 **************

 王都でからの噂は繁く流れて来て、デーティアの耳にも入った。
 第一王子は病で死んだことになった。フィリパはジルリアと共に王宮に呼び戻された。後見人は元王宮魔導士シルアだ。

 フィリパは前王太子妃として遇され、ジルリアは王太子となった。
 これが国王にできるせめてもの償いらしい。

 噂ではの概要はこうだ。

 実は去年の建国祭に王太子はフィリパと婚姻していたが、王子は病に罹り式典は行われなかった。病は公にはせず、王太子妃は病を避けて領地に滞在していた。その間に王太子妃は男のをお産みあそばされた。
 また同じ病で第二王子も身罷られたため、王太子の息子ジルリアが世継ぎの地位に就くことになった。

 とかなんとか。

 エルーリアとアイリーンは存在そのものから否定された。

 その他に娼館バンダンが取り潰された話もつたわってきた。
 王都の商人の手紙には、バンダンが違法薬物を貴族子息に売りさばいて、多数の中毒者が発見されたために処罰されたのだとか。

 これはエルーリアとアイリーンの存在を消すための方便だ。なぜなら中毒症状を起こした薬物入りの香を調合してエルーリアに渡したのはデーティアだから。

 事の収拾がはあっと言う間でひと月かからなかった。

 ある夜、デーティアはシルアから伝言鳥がやってきた。シルアからの呼び出しだ。

 まったく、あの人はいつまであたしの先生でいるつもりなんだろう。
 ため息を吐きながら呼び出しに応じた。

 今ではシルアは一時的に王宮魔導士に復帰しており、呼び出された場所は王宮のシルアの個室だった。
 もちろんデーティアは正面から入らずに、移動魔法を使った。
「リタラーガは国王によって王宮の宝物庫の地下深くに封印されました」
「へえ、そうなんだ」
 興味なさそうに言うデーティアにシルアは厳しい顔だ。
「デーティア!あなた王子も中毒にしたのですね」
 師匠シルアの叱責が飛ぶ。

「どうせあんな王子、廃嫡でしょ」
「それはそうですが…」
「治療法と薬の処方箋は置いて来たんだから、あとは自分たちでどうにかしてよ」
「もう、あなたときたら…」

 シルアはデーティアがジルリアとフィリパのためだけでなく、シルアの気持ちを汲んでいたことがわかるので強くは言えない。

 広間に駆け付けた国王が魔導士達や兵士達を指揮してと騒ぎをおさめる頃には、第一王子やエルーリアやアイリーンは、香の効き目が切れて錯乱状態だったそうだ。その錯乱が鎮まった後はぼんやりと虚空を見てブツブツ繰り言を言う状態。
 デーティアが思った以上に三人は香にはまり、多用し耽溺していたようだ。
 香はエルーリアの「崇拝者」の貴族子息の間にも広まっていて、禁断症状の出る者が続出した。

 知ったこっちゃないよ。
 デーティアは心の中で舌を出して嘲笑った。
 恋も薬物中毒も同じようなものさね。

 常識も我も忘れて溺れるヤツが悪いのさ。自業自得だ。

 第一王子は廃嫡。
 では第二王子が死んだことになった理由は?

 この事件の裏には第二王子が関わっていた。エルーリアを第一王子で王太子のキリアンに仕掛けたのは、第二王子のセリアンだった。次期国王の座を狙ってのことだ。

 あのままエルーリアに骨抜きになったところを、第二王子セリアンが出張っておさめる予定だったらしい。

 そうなっただろうか。今となってはわからない。
 どのみち反逆だ。

 結局、国王は両方を罰した。

 第一王子キリアンは廃嫡と身分剥奪の上北の塔に幽閉。治療はなされぬまま、生涯狂気と苦しみの中に置かれる。
 第二王子セリアンは身分剥奪の上、一兵士として西の辺境警備隊に監視付きで放逐。魔獣の多い危険な場所だ。温室育ちの王子様だ。遠からず死ぬだろう。

 エルーリアとアイリーンは北の辺境砦に幽閉の上、毒にて処刑された。サドン男爵は騙されたとは言え国家転覆の一因を問われ、爵位と領地没収。

「前王太子妃って、それで通るの?」
 思っていた疑問をシルアに投げかける。
 デーティアが問うとシルアはニヤっと笑った。
「実際、国王の権限で去年の建国祭で婚姻していたのです。調で式典がなかっただけで」
「体調不良!頭のだね」
 デーティアはにやにや笑った。
「怖いね。国家権力ってのは」

「ところでデーティア、国王が是非に会って話したいそうです」
 デーティアはそっぽを向く。
「あたしは会いたくない。もうあたしは何もしない」

「国王はこうおっしゃっています。あなたが前王に生き写しだと」
 まずい。デーティアは思った。
 国王に会う時に、自分の幻惑の魔法も解いて素顔だった。

「あなたは王家の印章付き指輪インタイオリングが一目でわかったそうですね」
「王家の印章なんて誰でも知っているだろう?」
 デーティアは空とぼけた。

「学園であなたと初めて会い、その顔立ちと髪を見た時、私も思いましたよ。先の国王に似ていると」
「だからなに?」
「先王は第三王子で、若い頃に旅に出られて行方不明でした。七十年ほど前に流行り病で第一王子と第二王子が身罷ったため、探し出されて王家に戻っていらっしゃいました。先王の結婚は遅く、今の国王が生まれたのは四十二年前ですが」
「だからなんなの?あたしには関係ないでしょ」

 シルアはため息を吐いて続けた
「国王は魔導士としてジルリアとフィリパに就いて欲しいとおおせですよ。私も先は短いですし」
 とんでもない!

「あたしは半端者のハーフ・エルフの魔女だよ?そんな面倒はごめんだよ」
「でも、デーティア。これはあなたにも」
「待った!話はここまで。あとはよろしく」

 そう言ってデーティアは移動魔法で飛んだ。心の中で舌を出した。

 我が家に帰ったデーティアはイライラする心を鎮められず、パントリーからサクランボの火酒を出してゴブレットに注ぎ一気にあおった。

 冗談じゃない。王宮勤めなんて。

 長いため息を吐いて、デーティアは懐から鎖をひっぱりだす。
 鎖には平べったい水晶の装飾品がついていた。
 それには裏彫りされたインタリオの飾りがついている。王家の家紋の意匠だ。

 ジルリアに持たされた印章付き指輪インタリオリングは表面に反転した印章が彫ってあり、封蝋に押し付けたり、インクの染みたスポンジに押し付けて紙に捺すと印象が写り出るものだ。

 デーティアのアクセサリーは水晶の裏に意匠が彫ってあり、表から見ると浮き出て見える。

 エルフの村にデーティアを置いて行った父親が、「身の証」として持たせたものだと言う。
 探知の魔法はとっくに解除してある。学園に入る前だ。エルフの村は結界が厳重なので、居場所を探る魔法は無意味だった。
 とっとと学園を出て正解だったねとデーティアは思う。

 まったく勝手なものだよ。

 母親も父親も手前勝手に恋に落ちて、後始末もしやしない。
 母親は死んでいるし、父親もとっくに死んだ。あたしのことは放りっぱなし。ハーフ・エルフの娘なんで面倒でしかないものね。

 動物は時折、近種間の交雑がある。交雑で産まれた個体は体が大きいとか力が強いとか、親より優れた点があるそうだ。多くは繁殖能力を持たないが。
 あたしはエルフの魔力と父方の魔力が掛け合わされて、大きな魔力と魔力量があるようだ。
 デーティアは自嘲気味に思う。
 ヒト種は交雑個体のほとんどが繁殖力を持つのが不思議だけどね。

 国王に素顔を見せたのは、ちょっとした当てつけもあったかな。
 母親違いの弟にしても詮無いことだけどね。
 でも後悔はたっぷりしたらしい。
 先の王の娘だとわかっても、どうせ公にできないくせに。

 ジルリアは腹違いの弟の孫で甥の息子ってことか。実感がわかないね。

 デーティアは思った。

 はっきり言えるのは、少しの間でも傍に居て触れ合わなければ、たとえ血縁でも情は湧かないと言うことだ。
 記憶にない両親に情を感じたことはない。恋しいとも思わない。まだかすかな恨みが心に燻るけれど。
 ジルリアには情を感じるし可愛いとも思う。きっとこれから困難が降りかかった時に、助けたいと思う程度には。
 しかし国王もキリアンもセリアンも、情を感じない。ばかなヤツらだと軽蔑を感じるくらいだ。

 インタリオ・ペンダントを見て考える。
 こんなもの、砕いてやろうか。
 いや、フィリパに贈ろう。
 ま、そのうちね。
 あたしにはこの生活が最高。
 恋なんかしない。

 酔うなら自分で作った酒で十分さ。

 だってね…
 恋って言う熱病に憑りつかれて、何百年も生きる王族が産まれて広がったら厄介だろう?
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