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4.ブランドン・リプセットの事情
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それにしても、なぜ今まで何度も醜聞を起こしてキャロルに踏みつけにされたブランドン・リプセットは、アンダーン伯爵家から申し入れている婚約解消を受け入れないのだろうか。
ブランドンは自分に責があると思っている。
初めてキャロルと顔合わせをした時、なんと可愛い少女だろうと見惚れた。
ゆるく波打つ金色の髪、夢見るような青い瞳、華奢な手首、足取りはダンスをするように軽やかで、華やかな蝶々のような風情だ。
話していると、とても可愛らしい。お互い好感を抱いた自信はあった。
姉の婚約者に言い寄って婚約破棄されたのは、まだ十五歳の若気の至りだろう。あれから一年、きっと反省しているに違いない。
だからブランドンはキャロルに言ったのだ。
「君の過ちを受け入れるよ。君のすること、言うことを絶対に否定しない。恥じなくていいんだよ」
するとキャロルの顔はみるみる真っ赤になり、次いで血の気が引いていった。今まで、ブランドンにはこの上もなく可愛く見えた唇に浮かんでいた笑みは消え、悔しそうに引き攣り歪んだ。
「そう」
キャロルは抑揚のない調子で言った。
「じゃあ、あたしの邪魔をしないでね。あたしはあなた以上の人を見つけて結婚するから、あなたはそれまでの繋ぎよ」
ブランドンが面喰うと、キャロルは言い募った。
「あたしの全てを受け入れるんでしょう?絶対に否定しないんでしょう?恥ずかしいと思わないんでしょう?」
そう言われてブランドン・リプセットは自分が間違いを起こし、キャロル・アンダーンのプライドを傷つけたことを思い知った。
次いでブランドンの両親のリプセット子爵夫妻との顔見せのお茶会もまずかった。
リプセット子爵家では、たった一度の醜聞しかない、それも幼さが抜けない少女の憧れが暴走したと思える事件で婚約破棄されたキャロルに同情していた。そのために夫妻の肩代わりを持参金のように、伯爵家から子爵家と婚約することになった十六歳のキャロルを労わるつもりでいたのだ。
「若気の至りってあるものだわ」
リプセット子爵夫人が慰めるつもりで言った。
「まだ十五歳だったのですもの。お姉様の婚約者に憧れたのね。その時は良く見えても、後で振り返ったらなんてばかだったのかしらと思うことってあるものよ」
キャロルの表情が硬くなった。リプセット子爵夫人は、娘らしく恥じていると勘違いした。
同じくリプセット子爵もそう思った。
「うちは今は経済状態が傾いているが、二人が結婚する前には持ち直してみせる。領地が豊だから、伯爵家にいた時と同じ生活を約束しよう」
同じ生活ですって?
キャロルは鼻白んだ。
「それにあなたのお姉様のお噂はかねがね。大変淑やかで賢い方だそうね。社交界で何度かお見かけしたわ。まるで白鳥のように優雅な方だったわ。あなたもきっとお姉様のようになれますよ」
「そうだとも。うちに安心して嫁いでおいで。君の姉君を知っているが、きっと君も落ち着いたら姉君のようになれるだろう」
ここでもだわ!
キャロルは怒りを燻らせた。そして言い放った。
「あたし、ここには嫁がないかもしれませんわ」
そう言って席を立った。
後を追いかけたブランドンに一言も口をきかず、キャロルは帰って行った。
ブランドンは両親に自分の失言とキャロルの言葉を伝えた。
両親は真っ青になり、早く肩代わりしてもらった負債を返して婚約を解消すべきだと主張した。
しかしブランドンは自分との婚約解消の結果を思いやって、両親を説得した。
二回も破談になった、しかも格下の家との婚約が破談になった娘の行く先は、年の離れた男の後妻か修道院だと。今はキャロルが改心することを信じて待とうと。
その後、キャロルはまさに蝶々のようにあちらの殿方、こちらの殿方と浮名を流しては、アンダーン伯爵家での謹慎を繰り返し、アンダーン伯爵家からは詫びと婚約解消の示談が持ち込まれた。
それでもブランドンはキャロルを信じて耐え続けた。
ブランドンはキャロルを愛してしまったのだ。
ブランドンは自分に責があると思っている。
初めてキャロルと顔合わせをした時、なんと可愛い少女だろうと見惚れた。
ゆるく波打つ金色の髪、夢見るような青い瞳、華奢な手首、足取りはダンスをするように軽やかで、華やかな蝶々のような風情だ。
話していると、とても可愛らしい。お互い好感を抱いた自信はあった。
姉の婚約者に言い寄って婚約破棄されたのは、まだ十五歳の若気の至りだろう。あれから一年、きっと反省しているに違いない。
だからブランドンはキャロルに言ったのだ。
「君の過ちを受け入れるよ。君のすること、言うことを絶対に否定しない。恥じなくていいんだよ」
するとキャロルの顔はみるみる真っ赤になり、次いで血の気が引いていった。今まで、ブランドンにはこの上もなく可愛く見えた唇に浮かんでいた笑みは消え、悔しそうに引き攣り歪んだ。
「そう」
キャロルは抑揚のない調子で言った。
「じゃあ、あたしの邪魔をしないでね。あたしはあなた以上の人を見つけて結婚するから、あなたはそれまでの繋ぎよ」
ブランドンが面喰うと、キャロルは言い募った。
「あたしの全てを受け入れるんでしょう?絶対に否定しないんでしょう?恥ずかしいと思わないんでしょう?」
そう言われてブランドン・リプセットは自分が間違いを起こし、キャロル・アンダーンのプライドを傷つけたことを思い知った。
次いでブランドンの両親のリプセット子爵夫妻との顔見せのお茶会もまずかった。
リプセット子爵家では、たった一度の醜聞しかない、それも幼さが抜けない少女の憧れが暴走したと思える事件で婚約破棄されたキャロルに同情していた。そのために夫妻の肩代わりを持参金のように、伯爵家から子爵家と婚約することになった十六歳のキャロルを労わるつもりでいたのだ。
「若気の至りってあるものだわ」
リプセット子爵夫人が慰めるつもりで言った。
「まだ十五歳だったのですもの。お姉様の婚約者に憧れたのね。その時は良く見えても、後で振り返ったらなんてばかだったのかしらと思うことってあるものよ」
キャロルの表情が硬くなった。リプセット子爵夫人は、娘らしく恥じていると勘違いした。
同じくリプセット子爵もそう思った。
「うちは今は経済状態が傾いているが、二人が結婚する前には持ち直してみせる。領地が豊だから、伯爵家にいた時と同じ生活を約束しよう」
同じ生活ですって?
キャロルは鼻白んだ。
「それにあなたのお姉様のお噂はかねがね。大変淑やかで賢い方だそうね。社交界で何度かお見かけしたわ。まるで白鳥のように優雅な方だったわ。あなたもきっとお姉様のようになれますよ」
「そうだとも。うちに安心して嫁いでおいで。君の姉君を知っているが、きっと君も落ち着いたら姉君のようになれるだろう」
ここでもだわ!
キャロルは怒りを燻らせた。そして言い放った。
「あたし、ここには嫁がないかもしれませんわ」
そう言って席を立った。
後を追いかけたブランドンに一言も口をきかず、キャロルは帰って行った。
ブランドンは両親に自分の失言とキャロルの言葉を伝えた。
両親は真っ青になり、早く肩代わりしてもらった負債を返して婚約を解消すべきだと主張した。
しかしブランドンは自分との婚約解消の結果を思いやって、両親を説得した。
二回も破談になった、しかも格下の家との婚約が破談になった娘の行く先は、年の離れた男の後妻か修道院だと。今はキャロルが改心することを信じて待とうと。
その後、キャロルはまさに蝶々のようにあちらの殿方、こちらの殿方と浮名を流しては、アンダーン伯爵家での謹慎を繰り返し、アンダーン伯爵家からは詫びと婚約解消の示談が持ち込まれた。
それでもブランドンはキャロルを信じて耐え続けた。
ブランドンはキャロルを愛してしまったのだ。
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