上 下
3 / 6

3.キャロルの事情

しおりを挟む
 キャロルの言い分はこうだ。

 小さな頃から二歳年上のシェリルと比べられて育った。
 家庭教師から
「お姉様を見習いなさい」
 と言われ続け、努力をやめた。
 なんでも姉が先に与えられる。
 ドレスもアクセサリーも。羨ましくて妬ましくてたまらなかった。
 十歳を過ぎれば、先に娘らしくなっていく姉への賞賛の言葉を聞いて羨んだ。

 歳の差を考えれば当然なのだが、キャロルにとっては理不尽極まりないことだったようだ。
 努力を怠らなければ、勉学は順当に二年後に到達するし、待てば与えられるものなのだが、キャロルにとっては「今」目の前で行われていることが重要だった。

 国王と王妃への謁見の後のデビュタントの夜会で、キャロルはシェリルの婚約者のエルネストに言った。
「シェリルではなくあたしと結婚してください」
 傍にはパートナーのディーン・セイリンがいたし、他のデビュタントの娘やそのパートナーや家族がいた。もちろんキャロルの家族もシェリルもいた。
 エルネストが
「冗談が過ぎる」
 と窘めると、キャロルは堂々と言った。
「冗談じゃないわ。あなたが好きなの。シェリルよりあたしの方が絶対にあなたのことを好きだし、あたしは若いからいいでしょ。結婚しましょう」

 呆然とした一同の前で、エルネストは言い切った。
「私はシェリルを愛している。他の誰かとは結婚しない。君はマナーさえ満足に守れないのか」

 そこでようやく呪縛が解けたように母がキャロルの頬を打った。
「恥を知りなさい!」
 そして父は即座にキャロルの腕を掴み、会場を後にして馬車へ放り込んだ。
 残った家族一同は、セイリン伯爵家に「詫びは後ほど」と告げて、帰宅の途についた。

 しかし翌日、セイリン伯爵家から婚約破棄の申し出があり、こちら有責で受け入れるしかなかった。

 キャロルは両親から厳しく叱責されたが、ツンと横を向いて反省の色を見せなかった。そして怒り狂った。

 結局キャロルはシェリルの結婚式が済むまで半年以上、領地に半ば軟禁状態で自室での謹慎となった。
 その間、シェリルやセシリーやコンラッドが何度も諭したり話を聞いたりしたが、キャロルは頑として口を開かなかった。

 シェリルとエルネストの結婚式が済むと—キャロルは出席を許されず領地の自室に軟禁されていた—、父はキャロルの嫁ぎ先を必死に探した。
 やっと受け入れてくれたのがリプセット子爵家で、当時抱えていた負債を肩代わりすることが条件だった。

 醜聞と負債の肩代わり。
 リプセット子爵家ではそれで持ち直して、少しずつ負債をアンダーン伯爵家へ返済して、今ではこちらの方の分が悪い。
 それなのにキャロルはブランドン・リプセットを蔑ろにしている。

 その後の五年間、醜聞と謹慎を繰り返すキャロルなのだ。

「あたしが悪いんじゃないわ。エルネストと結婚できなかったせいよ!シェリルのせい!セシリーもあたしをばかにしているんでしょう!?」

 アンダーン伯爵家ではキャロルを蔑ろにした覚えはない。むしろ末っ子だからと甘やかしたことを後悔している。

 確かに勉学やマナーの点でシェリルに劣っていたが、年の差を考慮して甘めに見ていた。年頃になればどうにかなるだろうと。

 今、キャロルの様子を改めてみると、侍女の方が淑女然としている有様だ。
 自分を「あたし」と子供っぽい呼称をつかう点は言うまでもない。

 それにしても、そこまでキャロルがシェリルやセシリーに劣等感を持っていたとは。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

【完結】貴方達から離れたら思った以上に幸せです!

恋愛 / 完結 24h.ポイント:6,972pt お気に入り:9,662

最愛の人は姉を選びました

恋愛 / 完結 24h.ポイント:5,239pt お気に入り:761

【完結】婚約解消を言い渡された天使は、売れ残り辺境伯を落としたい

恋愛 / 完結 24h.ポイント:468pt お気に入り:1,883

私の婚約者が完璧過ぎて私にばかり批判が来る件について

恋愛 / 完結 24h.ポイント:2,344pt お気に入り:5,632

婚約者は愛を選び、私は理を選んだので破滅しても知りません!

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:468pt お気に入り:4,046

処理中です...