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1.唐突な責任転嫁

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「全部お姉様達のせいよ。お姉様達が悪いんですもの」

 当然とばかりに言い放った妹の言葉に、シェリルはただ驚くばかりだった。

 ***
 シェリルはアンダーン伯爵家の長女で今年二十二歳になった。五年前にギャレット伯爵家の嫡男エルネストに嫁ぎ、今では三歳の女児のフェリシアともうすぐ生後半年になる男児のセドリックに恵まれた。孫達を両親に見せるために、穏やかな春の日を選んで里帰りをした。
 七歳年上の兄のコンラッドもその妻のセシリーも歓迎してくれたし、もちろん両親は大喜びだ。コンラッドとセシリーの間の子供、長男で六歳のエリアスと次男で四歳のトビアスも「叔母さま」とまつわりついたり、フェリシアの手を引いて庭へ案内したり、セドリックを物珍しそうにのぞき込んだりしている。

 実はこの里帰りは、孫のセドリックの顔見せは建前で—もちろん、両親はセドリックやフェリシアと久しぶりに会うことを喜んでいるのだが—アンダーン伯爵家を悩ます問題の家族会議のためなのだ。

 アンダーン伯爵家の次女で末っ子のキャロルの問題だ。
 キャロルは今年二十歳になったが、未だに未婚だ。貴族の息女としては行き遅れ扱いになる年頃だ。
 貴族らしくキャロルには婚約者がいる。
 リプセット子爵家の長男のブランドンだ。

 しかしキャロルは、デビュタントとして国王と王妃に謁見して結婚を許された十五歳の時から、何度も浮気を繰り返している。

 最初はシェリルの結婚間近の婚約者であるエルネスト・ギャレットに秋波を送った。エルネストはひどく驚いたが厳しく撥ねつけた。
 アンダーン伯爵家ではことを重く受け止め、キャロルを両親が逡巡と諭したが、本人は堪えるどころか怒り狂った。
 シェリルとエルネストが結婚を済ますまで、キャロルは領地に謹慎となり、結婚式への出席も許されなかった。

 謹慎を解いた後も、次々と年頃の男性に近づいていき、浮名を流した。最初の数件の醜聞の後、両親はブランドン・リプセットが気に入らないのならば、婚約を解消して他の子息と見合いをしようと提案したが、キャロルはケロっとして言ったものだ。
「婚約を解消したら傷物になってしまうじゃない。絶対にしないわ」

 世間から見れば、すでに傷物令嬢なのだが、それでも婚約者がいるという事実は守りたいらしい。
 ならば早々に結婚してしまえばいいと話を進めれば頑なに拒否し、更に浮名を流す。

 今のところ、その「浮名」や「醜聞」は婚約者のいる男性に言い寄っているにとどまっている。
 夜会で親し気に腕をからめたり、二人きりで夜の庭園へのそぞろ歩きに誘ったりする。婚約者のいる男性と何度もダンスをして顰蹙を買う。

 一時は、キャロルの可愛い顔と仕草にフラフラっとなった者もいたが、親や周囲が諭してすぐに関係は切れる。

 リプセット子爵家はどうかと言うと、家格が下であるせいか強く物申せないでいる。
 アンダーン伯爵家から、謝罪と婚約解消を何度も申し入れたが、当のブランドン・リプセットが拒否している。
 なぜか
「私が悪いのです」
 と言い募ったが理由は頑なに言わない。
「キャロルの気の済むまで遊ばせれば落ち着くでしょう」
 とまで言うのだ。

 しかし、つい一週間前にはとうとう婚約破棄騒動が起こり、アンダーン伯爵家は賠償金を払うまで責任を追及された。

 そこで家族が集まって、今後キャロルをどうするか話し合うことになった。

 子供達を乳母とメイド達にあずけてサロンに集まり、話し合いは始まった。

 そこでキャロルは言い放ったのだ。

「全部お姉様達のせいよ。お姉様達が悪いんですもの」
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