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17.エルダン王国の内情
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女王反対派は、わたくしが誕生した17年前から動き始めた。
曰く「三代も男が王であったのに今更なぜ女王なのか」と言いたいらしいが、逆に三代より前はずっと女王だったのだ。三代の間王家は娘が出ず、王位継承権の五十位以内にも女が出なかった。
これは凶事として受け取られ、エルダン王国では父王の代になって上位貴族達は身を慎み、大きな催しや派手なパーティーのようなものは自粛されていた。
神殿の腐敗が暴かれ、粛清が終わった年に王女が生まれたことで、今まで我慢を強いられた派手好きな貴族達が大きな期待をした。しかし、彼らが思ったほど王家は派手で華やかな催事を行うことはなかった。
今まで通り民に厚く、税を増やすこともなく、堅実な治世をすすめた。
なぜならば、生後百日目の洗礼の時にテミル女神の七色の光が王女を包んだからだ。待ち望まれた次期女王である王女は聖女であったのだ。
『聖女が治世にある時、邪なものは滅びる
聖女は闇を従え、光で民を導く
女王は主たる女神の娘
女王の力は女神の御業
聖なる女王は安寧のしるし』
この国の神聖神話の一部だ。
創世神話ではテミル女神の娘アッテン女神が天から地上に降り立ち、この世界を創ったとされる。
その時、母テミル女神の光と父アイテイリア神の闇を従えて降り立った姿を「アッテン・ジュジュ」と呼ばる。光も闇もお互いがなくては成り立たないことを示す姿だと言う。
そしてそれは我が国の統治の形態を表している。
強い光の象徴である女王の力、それを支える闇の象徴の王配だ。
さて、国内の不満分子の根本的な問題は、己の欲望を思いのままにできない欲求不満だ。
聖女であるわたくしシャイロは神殿を統治し共にある存在である故に、今の父王もわたくしも治世中に派手で豪華な式典も催事もない。基本的に質素倹約を旨とし自制が求められる。
他国に嫁ぐこともないし、降嫁はあり得ない。
貴族達が王配になることを望んでも王位継承権五十位以内に絞られる。
神殿が腐敗していた間、そこを隠れ蓑に放蕩に耽っていた貴族や豪商が居たのだ。
人を蝕む麻薬や淫蕩が前神官長の保護の下に横行していたので、粛清はそれに関わった貴族達にも及んだ。
しかし膿は出し切れていない。
そのような派手好きで放蕩を好む輩が「つまらん」と貧相な不満を持ち、それが雪玉が雪の斜面に転がるように膨れ上がったのだろう。
わたくしが生まれて2年後に隣国のイース帝国に皇位をめぐる内乱が起こった折り、「何が女王の誕生で約束された平和だ」と難癖をつける輩が出た。
王家とそれに忠実な貴族達は周到に罠を張り、イース帝国への援軍派遣に乗じて巧妙に反対派の一部を潰した。それらは下級貴族であったので、現在でも国内の有力貴族内の反対派を炙り出しがはかばかしくない。
内乱は一年経たずに治まったため、反対派はそれ以上表立って女王反対を唱えることはできなくなった。
アーシェンド王国からの流民問題は早々に解決策を出し、それらは全て王家が負担しているため、どの貴族も民も異を唱える隙も無い。
今般の召喚騒ぎは、神殿に異界からの傀儡の聖女を置くことで、再び甘い汁を吸わんとする残党の存在を示していた。
たびたび騒ぎを起こすオランジュ男爵を処罰しないでいるのも、残党を炙り出すためだ。
ジウンやダイルが王立学園に居た頃、オランジュ男爵の娘シルヴィアには手を焼いたという。
王族や有力貴族に縁づかせたいために、オランジュ男爵が様々な騒ぎを起こしあわや醜聞寸前までの事件を起こしかけた。
シルヴィアにとって父親の言動は、最大の災難であり身の置き所もない恥ずかしい思いをしたという。シルヴィア本人は聡くおとなしい性質だったので、ジウンもダイルも同情していた。
大事にならないうちに王家の采配で、シルヴィアを有力豪商ギリアムの息子と縁付けた。
ギリアムは老舗ではなく、かと言って新興でもない。
だからこそのし上がるために家内も商会内でも躾は厳しく、王家に忠実だ。
内外に厳しく目を光らせる舅姑の元、シルヴィアは守られ躾けられ教育され、今では子供に恵まれ勤勉な商家の妻であり母親として幸せに暮らしている。
この時、シルヴィアの結婚を王家が陰で仕切る形になったのは、被害がジウンとダイルに及んでいたからだ。
しかしオランジュ男爵は長男にも王家が尽力してくれると思いこんでしまった。
それもイース帝国の皇女が一代男爵に降嫁するわけがない。
オランジュ男爵を唆して、王家との関係を悪くしたい誰かがいたのは間違いはない。
そして十中八九、その者は反女王派であり謀反人だ。
女王派としては反対派の核を早く炙り出して潰してしまいたい。
もちろん全ての反対派を一掃できるとは思っていない。
力を大きく削いでしまいたいのだ。
今回やるべきは三つ。
一つ目。
神殿で召喚を行った神官達を尋問して経緯を明らかにする。彼らを唆したのは誰なのか。
二つ目。
稀人達から野心的な者を選別して怪しいと思われる勢力と接触させて、揺さぶりをかける。
三つ目。
こちらが隙をみせてなんらかの行動を起こさせる。
最後の計画は首脳陣になかなか首を縦に振らせることができなかった。
おそらく、攻撃はわたくしにくるだろうから。
わたくしとしては、畢竟は同じなのだからその時期が早まるだけではないかと思うのだ。
まずはふたつの案を実行することは決まった。
稀人達とまた接触することを考ええると頭が痛いし心は重い。
しかし今回の犠牲者はわたくしだけではない。主な接触は殿方にお任せだ。
それが幸か不幸かは別として。
曰く「三代も男が王であったのに今更なぜ女王なのか」と言いたいらしいが、逆に三代より前はずっと女王だったのだ。三代の間王家は娘が出ず、王位継承権の五十位以内にも女が出なかった。
これは凶事として受け取られ、エルダン王国では父王の代になって上位貴族達は身を慎み、大きな催しや派手なパーティーのようなものは自粛されていた。
神殿の腐敗が暴かれ、粛清が終わった年に王女が生まれたことで、今まで我慢を強いられた派手好きな貴族達が大きな期待をした。しかし、彼らが思ったほど王家は派手で華やかな催事を行うことはなかった。
今まで通り民に厚く、税を増やすこともなく、堅実な治世をすすめた。
なぜならば、生後百日目の洗礼の時にテミル女神の七色の光が王女を包んだからだ。待ち望まれた次期女王である王女は聖女であったのだ。
『聖女が治世にある時、邪なものは滅びる
聖女は闇を従え、光で民を導く
女王は主たる女神の娘
女王の力は女神の御業
聖なる女王は安寧のしるし』
この国の神聖神話の一部だ。
創世神話ではテミル女神の娘アッテン女神が天から地上に降り立ち、この世界を創ったとされる。
その時、母テミル女神の光と父アイテイリア神の闇を従えて降り立った姿を「アッテン・ジュジュ」と呼ばる。光も闇もお互いがなくては成り立たないことを示す姿だと言う。
そしてそれは我が国の統治の形態を表している。
強い光の象徴である女王の力、それを支える闇の象徴の王配だ。
さて、国内の不満分子の根本的な問題は、己の欲望を思いのままにできない欲求不満だ。
聖女であるわたくしシャイロは神殿を統治し共にある存在である故に、今の父王もわたくしも治世中に派手で豪華な式典も催事もない。基本的に質素倹約を旨とし自制が求められる。
他国に嫁ぐこともないし、降嫁はあり得ない。
貴族達が王配になることを望んでも王位継承権五十位以内に絞られる。
神殿が腐敗していた間、そこを隠れ蓑に放蕩に耽っていた貴族や豪商が居たのだ。
人を蝕む麻薬や淫蕩が前神官長の保護の下に横行していたので、粛清はそれに関わった貴族達にも及んだ。
しかし膿は出し切れていない。
そのような派手好きで放蕩を好む輩が「つまらん」と貧相な不満を持ち、それが雪玉が雪の斜面に転がるように膨れ上がったのだろう。
わたくしが生まれて2年後に隣国のイース帝国に皇位をめぐる内乱が起こった折り、「何が女王の誕生で約束された平和だ」と難癖をつける輩が出た。
王家とそれに忠実な貴族達は周到に罠を張り、イース帝国への援軍派遣に乗じて巧妙に反対派の一部を潰した。それらは下級貴族であったので、現在でも国内の有力貴族内の反対派を炙り出しがはかばかしくない。
内乱は一年経たずに治まったため、反対派はそれ以上表立って女王反対を唱えることはできなくなった。
アーシェンド王国からの流民問題は早々に解決策を出し、それらは全て王家が負担しているため、どの貴族も民も異を唱える隙も無い。
今般の召喚騒ぎは、神殿に異界からの傀儡の聖女を置くことで、再び甘い汁を吸わんとする残党の存在を示していた。
たびたび騒ぎを起こすオランジュ男爵を処罰しないでいるのも、残党を炙り出すためだ。
ジウンやダイルが王立学園に居た頃、オランジュ男爵の娘シルヴィアには手を焼いたという。
王族や有力貴族に縁づかせたいために、オランジュ男爵が様々な騒ぎを起こしあわや醜聞寸前までの事件を起こしかけた。
シルヴィアにとって父親の言動は、最大の災難であり身の置き所もない恥ずかしい思いをしたという。シルヴィア本人は聡くおとなしい性質だったので、ジウンもダイルも同情していた。
大事にならないうちに王家の采配で、シルヴィアを有力豪商ギリアムの息子と縁付けた。
ギリアムは老舗ではなく、かと言って新興でもない。
だからこそのし上がるために家内も商会内でも躾は厳しく、王家に忠実だ。
内外に厳しく目を光らせる舅姑の元、シルヴィアは守られ躾けられ教育され、今では子供に恵まれ勤勉な商家の妻であり母親として幸せに暮らしている。
この時、シルヴィアの結婚を王家が陰で仕切る形になったのは、被害がジウンとダイルに及んでいたからだ。
しかしオランジュ男爵は長男にも王家が尽力してくれると思いこんでしまった。
それもイース帝国の皇女が一代男爵に降嫁するわけがない。
オランジュ男爵を唆して、王家との関係を悪くしたい誰かがいたのは間違いはない。
そして十中八九、その者は反女王派であり謀反人だ。
女王派としては反対派の核を早く炙り出して潰してしまいたい。
もちろん全ての反対派を一掃できるとは思っていない。
力を大きく削いでしまいたいのだ。
今回やるべきは三つ。
一つ目。
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二つ目。
稀人達から野心的な者を選別して怪しいと思われる勢力と接触させて、揺さぶりをかける。
三つ目。
こちらが隙をみせてなんらかの行動を起こさせる。
最後の計画は首脳陣になかなか首を縦に振らせることができなかった。
おそらく、攻撃はわたくしにくるだろうから。
わたくしとしては、畢竟は同じなのだからその時期が早まるだけではないかと思うのだ。
まずはふたつの案を実行することは決まった。
稀人達とまた接触することを考ええると頭が痛いし心は重い。
しかし今回の犠牲者はわたくしだけではない。主な接触は殿方にお任せだ。
それが幸か不幸かは別として。
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