姫君の憂鬱と七人の自称聖女達

チャイムン

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12.稀人シノブ

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 ああ、わたくし相当疲れているわ。

 わたくしは早急に侍女達を元の部署に戻すことにした。
 そして女性近衛隊へ行き、事情を説明して七人に割り当てる人員を交代制で配分した。侍女兼護衛役だ。娘達を守るのはもちろん、娘達から他のものを守るために。後者の役目の方が大きいが。

 今日中に一気にすませてしまおう。そして明日からは、全員を帰還させるために尽力しよう。

 手土産はジャム・クッキーにした。
 ああ、これは子供達が喜ぶのよね。ひと段落ついたらたくさん持って行きたいわ。

 シノブは明るい栗色の髪に緑の瞳。比較的おとなしかったからよく覚えている。
 衣装はリボンが山ほどついたフリルだらけの、まるでベビー・ドレスのようなデザインだったけれど。
 彼女には淡いピンクとクリーム色とグリーンのドレスを用意した。
 さて、彼女はどんな様子かしら?

 部屋に入るとシノブは立ち上がった。なんだかオドオドしている。わたくしは穏やかに微笑んで挨拶をしてみせた。
「シノブ嬢、ご機嫌いかがですか?なにかご不便はございませんか?」

 シノブはビクビクしているように見えたが、目はギラついている。敵意を感じる。
 わたくしは気づかない振りをしてエイベルとメイダにお茶の用意をさせ、シノブを誘った。
「お気を楽になさってどうぞ召し上がって?」

 シノブは両手を握り振り絞るような仕草で上目遣いにわたくしを見た。
「あの、私、あなたの邪魔はしません。ザイディー様を取ったりしません」
 取るとは驚きだわ。なんて自信なのかしら?

「なにを心配していらっしゃるの?邪魔も何も、あなた達は遅くても三年で元の場所に戻れますよ」
「えっ!?」
 シノブは今までのしおらしい態度をかなぐり捨てて迫ってきた。

「邪魔しないって言ったのに、なんであんたが邪魔するのよ!?あんたはジュリア様ルートに関係ないでしょう!?」
 わたくしは少し面喰ったが、ちょうどいい。さっさと『ハナシュゴ』の夢を砕いてしまおうと決めた。

「シノブ嬢、失礼ですがあなたはおいくつでいらっしゃいますか?」
「じゅ、十七よ」
「わたくしと同じですね」
 まあ、男性が年下の婚姻がないわけではないけれど。
「ジュリア様は今年十二歳になりましたが、少々年齢が合わないかと存じますが」
「は?ジュリア様は十八歳よ!なに言ってんのよ!!」

「まずはお座りになって。説明致しますわ」
 シノブはしぶしぶと言った態度でティー・テーブルにつくとクッキーをほおばった。
 彼女が喋れないうちに話してしまおう。

「まず、この国はエルダー王国ではなくエルダン王国です」
 シノブはクッキーを噛むのを止めて目を見開いた。
「そして現在王立学園在籍者は、あなたがたのおっしゃった十二人のうち三人です」
「ウソ!!」
「お聞きください。十二人の年齢はあなたがたのおっしゃっているものと違うのです」
 わたくしは粛々と説明した。
 クサンク伯爵令息ジュリアは十二歳で未就学で二年後に学園に入学すること。学園在籍者はクルドー侯爵令息セイディ十四歳、ナイアル伯爵令息ガイ十六歳、シュナウツ伯爵令息エリック十七歳。
 その他は第一王子ジウン二十五歳で、第二王子ダイル二十一歳、シンダール侯爵令息ザイディーは二十歳、エイナイダ公爵令息ジリアンは二十一歳、シェイン伯爵令息エグゼル十九歳、サンクルード伯爵令息ジグムンド二十二歳、サグワー伯爵令息アンリ二十六歳、ダイクロン伯爵令息エドガー二十七歳。

 いずれも『ハナシュゴ』とやらと違うことを説明した。

 シノブは握りしめた手を震わせ小さな声で呟いた。
「じゃあ、なんで召喚されたの?私、どうなるの?」

「こちらの責任であり間違いでした。お詫びいたします。責任を持って三年以内に召喚前と同じ状態に致します。お約束いたします」

「いやよ!!」
 シノブは立ち上がって拳をテーブルに打ち付けた。
「あの姿に戻るのはイヤ!だってここでは私は聖女でしょう?大切にされるんでしょう?」
「あなたは聖女ではありません。他の皆様も同じく聖女ではありません」
「そんな…」

 シノブは泣き始めた。
「もし、どうしてもこの国に留まりたいのでしたら、わたくしが尽力してみます。あなたがこの国の作法と基礎的な学問を身に着けてくださるなら」
 下を向いて震えるシノブを見て同情する。
「よくお考えくださいませ。いずれ、皆さま全員に詳しい説明をいたします」

 わたくしはそっと退出した。
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