姫君の憂鬱と七人の自称聖女達

チャイムン

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8.神々との交信

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 なにもかもがあまりにも軽々しい。
 軽々しい行為の結果があまりにも深刻だ。

 七人の娘達を異界から召喚し、彼女達の運命を軽々に取り扱った。
 その負い目だろうか。
 七人の娘達の言うがままに甘やかし徒食させ、贅沢な衣類や宝飾品を与えた。宝飾品は引き取る際に没収していたので、それらは商人に返品するか転売するしかない。
 神殿の食料が備蓄に至るまで尽きているのだ。
 予算は最優先事項だ。予算がなければ食料を買えない。孤児達が飢える。当面はわたくしに充てられた予算の(たっぷりある)余剰を回せばいい。
「倹約姫」の本領発揮だ。

 しかしなんという考えなしな行動だろう。
 七人も女性が増えれば費えが七人分かかるという基本的な考えが欠けている。
 例え一回の召喚でわたくしを凌ぐ聖女が現れても、その体面のための予算を考えてもいなかったのだろう。

 ともかく今日はシェンリン神と対話が必要だ。

 わたくしは残った力を振り絞る。

 儀式場に踵を返し、扉を閉めるとマナを注いで封印する。
 祭壇に跪き祈る。

 ふわりと懐かしい香りがした。デニアウム師が好んで焚いていた乳香だ。デニアウム師の気配も感じる。
 少しマナを注いだだけでシェンリン神が応え給うた。

「母なるテミル女神の愛し子、テミル・リディアよ。久しいな」

 本当にこの神は軽い。なんて軽い口調だ。

「あの七人のことであろう?聖女の器ではないが、この世界のために尽くす決意の固いものを選んだが…」
 この世界のために尽くす決意?思わず目を見開くと
「違ったか?それとも気に入らなかったか?」

 ああ、もう、この軽い神ときたら…
「尽くすどころか、あなたの最たるしもべである一人は命を落とし、八人が続こうと謀りました。さらに御懐おんふところの力なき子供達が飢えそうになっています」

「ああ、知っている。三日前から籠り始めたから、死なぬようはからったぞ」
 シェンリン神は言ってのけたが、続いた言葉は真剣だった。
「あの娘達は我が意ではない。神官たちの望みだ」
「望みとはなんでしょうか?」
「あの娘達は、そなたを凌ぐ聖女となりたい者達だ。それが神官達の望みだったのだ」
「しかし聖女の資格はないのでしょう?」
「ない」
「ではなぜ?」
「双方の望みが叶った結果だ」

 シェンリン神の言い分はまとめるとこうである。

 神官達は「聖女」としてわたくしを凌いで君臨する野望の強い娘を望んだが、「聖女としてふさわしい者」という具体性を抜かして儀式を行ったのだ。
 結果、シェンリン神の門の庭に現れた娘は、神によって御力みりきである恩恵を与えることが決まりだった。
 シェンリン神は娘達にそれぞれ望むものを与えた。
 しかしそれはいずれも「美しい容姿」だったのだ。

 召喚に応じた者は、召喚に応えるかを確認され、応じた者は常に恩恵を与えられる。
 七人の娘達の求めた「恩恵」は、「理想の美しい容姿」だったのだ。

「今の世に聖女はいるまい?」
 シュエンリン神は嘯く。
「それでも言葉はわかるようにしてやったぞ」
 そこへ優しい光と共にテミル女神が現れた。

「シェンリン神はいたずらが過ぎます」
 テミル女神の優しい光に、怒りは消える。
「愛し子よ、そなたはあの娘達の返還を求めすか?」
 もちろんである。
「ではこれより三日ごとにシェンリン神とわたくしにマナを注ぐこと。早ければ一年以内、遅くとも三年で叶います」
 シェンリン神が続ける。
「我は罰として娘達の容姿を戻すことと門を開けることのみ許された。しばしの間いかなることも禁じられた」
 光が薄れていく中、シェンリン神の声が聞こえた。
「娘達に気をつけろよ。あやつらはこの国を『エルダー王国の花聖女と十二人の守護者』と言っていた」

 光が消え、わたくしは儀式場に戻っていた。

 わたくしは決意した。
「倹約姫」として、娘達を管理し指導することを。
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