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2.七人の稀人
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この国では聖女が神殿に居る状態は必ずしも必須ではない。
平安な治世の中では聖女自体必要とされてはいない。
特に現在は神殿の長である聖女の席には、最も神力と聖力の強い女性が神女長として就いて神殿を統べればいいのだ。
現在の神殿の一番の問題であり悩み事は半年前に先の神女長が老衰で務め困難となり隠居し、空席になったことだ。そこを埋める条件を満たす者は何人かいたが、いずれも幼く、まだ数年は教育と修業の必要があった。
しかしそこは臨時の者を置き、候補の少女達を導けば良いだけの話。
それなのに神官達は勝手に召喚の儀式を行ってしまったのだ。
ここで不運だったのは、召喚できるだけの才能を持った神官が七人もいたことだ。
神殿からの事後報告に一同あきれ果てた
七人が、我も我もと召喚を希望した。
そこで神官長は最も力のある者に召喚を許した。
彼は異界より一人の乙女を召喚することに成功した。
見目麗しい花のような乙女に歓喜したのも束の間、神官長と臨時の神女長代理が神への伺いを立てたところ、驚くべき答えが返ってきた。
「聖女の資質あらず」
様々調べたところ、神力も聖力もないどころか、いずれの魔法の適正もないことが判明した。
ただ美しく若いだけの娘であった。異界から召喚されたため、この世界の常識もなくマナーも知らず学力もなかった。
召喚した神官は責任をとって、稀人の世話をすることを命じられた。
さらに事を面倒にしたのは残りの六人の神官だった。
我こそはとおかしな対抗意識で召喚の儀式を勝手に行い、結果として合計七人の無能だが美しい娘をこの地へ呼んでしまった。
七人の娘の名は召喚順に、マリ、ホノカ、マイ、アカリ、ミサ、シノブ、ラン。
召喚は一人が生涯一度に限られていた。
残された七人は能力がなくとも、こちらの都合で召喚した稀人だ。
孤児院も兼ねる神殿が切り捨てられるわけもなく、神殿に留め置き神に仕えるようとりはかった。
しかし、少女達は一人を除き学問や雑務を拒み、我こそが真の聖女であると主張し、様々な要求をし始めた。
こんなお仕着せ服はイヤだ。
部屋や寝具が粗末で眠れない。
食事が口に合わない。
等々…
せめて少しでも不自由を解消し、望みを叶えようと尽くした結果、思いもよらぬ出費になった。
果てにはそれぞれいがみ合い争うようになり、また勝手に外へ出ようとして神殿は混乱に陥った。
持て余した神殿長が神殿で最も力のある神官に助けを求め、その者が神との交流を求め七人の娘達の返還をはかったが力足らずに命を落とした。
すっかり困り果て、一体どうしたらいいものかと各々の希望を聞くと、六人は判で押したように異口同音に王城に行き王立学園に入学することを求めた。
稀人であるからだろうか。恐ろしいほど的確にある部分の事情に通じていた。
一人を除く六人は特にそれぞれ男性達の名前を上げて、傍に行くことを求めた。
いずれも有力貴族、うち2人は王族である。十二人だ。
第一王子ジウン、第二王子ダイル、シンダール侯爵令息ザイディー、エイナイダ公爵令息ジリアン、クルドー侯爵令息セイディ、シェイン伯爵令息エグゼル、ナイアル伯爵令息ガイ、サンクルード伯爵令息ジグムンド、サグワー伯爵令息アンリ、シュナウツ伯爵令息エリック、ダイクロン伯爵令息エドガー、クサンク伯爵令息ジュリア。
理由はわからないがその十二人をめぐって、六人は諍いを始めた。
表立って言い争うのではなく、それぞれが被害を言い立てたのだ。
誰に叩かれた、嫌味を言われた、持ち物を損なわれた等々。
誰もが被害を訴え、混乱は極まった。
そして神殿予算も悲鳴を上げ始めた。
そこで王城へ救援依頼と言う形の尻拭いを求めてきたのだ。
北奥の離宮の準備が整い、七人を迎え入れたわたくしは再び憂鬱に襲われ頭を抱えたくなった。
七はここでの常識から学んでもらわなくてはばらないため、それぞれに二人の侍女がつけられた。侍女は身の回りの世話と共に教育係でもあった。
王立学園に入学希望であれば、常識はもちろん、基礎の初等教育と最低限のマナーと行儀作法を修めてもらわなくてはならない。
七人は召喚した神官が一応の身元保証人であり後見人ではあるが、身分は庶民として扱われる。
もちろん、いずれかの貴族が養子に迎える意向も今後出るかもしれないが、今はまだ秘匿されている。
王立学園では広く生徒を募っている。庶民は最初庶民科に入学し、学舎も立ち入りも制限されマナーと礼儀作法を学ぶ。貴族と接しても無礼にならないことを認められれば、白いタイが臙脂色に変えられ広く交流を許される。
卒業後に文官や武官として勤めるために有効な人脈を作ることも学園の目的であるからだ。
庶民はより良い上司や勤務先を求め、貴族は部下や腹心を作るために。
しかしそれ以前に迎え入れた七人には大きな問題があった。
まず、六人自分が聖女であることを主張すること姦しい。
聖女である自分の特権を求めるばかりなのだ。
残る一人は静かだが、内にこもって怯えている。
わたくしが「あなた方は稀人としてこの国である程度の優遇をされることになりました」と伝えれば色めきだって喜んだ。
続いて「しかし、あなた方は聖女にあらずと神が告げられました」と言えば、わたくしには理解不能な反応を示した。
「さすが悪役令嬢シャイロ、最初から落としてくるわね!」
「絶対にザイディー様はお救いするんだから!!」
ザイディーはわたくしの婚約者だが、「アクヤクレイジョウ」やら「救う」やらはどんな意図があるのだろう。
わたくしは深くため息をついた。
わたくし、この王国の第一王女であると自己紹介致しましたよね?
無礼打ちにして面倒ごとをここで終わらせてもよろしいかしら?
…致しませんが…
平安な治世の中では聖女自体必要とされてはいない。
特に現在は神殿の長である聖女の席には、最も神力と聖力の強い女性が神女長として就いて神殿を統べればいいのだ。
現在の神殿の一番の問題であり悩み事は半年前に先の神女長が老衰で務め困難となり隠居し、空席になったことだ。そこを埋める条件を満たす者は何人かいたが、いずれも幼く、まだ数年は教育と修業の必要があった。
しかしそこは臨時の者を置き、候補の少女達を導けば良いだけの話。
それなのに神官達は勝手に召喚の儀式を行ってしまったのだ。
ここで不運だったのは、召喚できるだけの才能を持った神官が七人もいたことだ。
神殿からの事後報告に一同あきれ果てた
七人が、我も我もと召喚を希望した。
そこで神官長は最も力のある者に召喚を許した。
彼は異界より一人の乙女を召喚することに成功した。
見目麗しい花のような乙女に歓喜したのも束の間、神官長と臨時の神女長代理が神への伺いを立てたところ、驚くべき答えが返ってきた。
「聖女の資質あらず」
様々調べたところ、神力も聖力もないどころか、いずれの魔法の適正もないことが判明した。
ただ美しく若いだけの娘であった。異界から召喚されたため、この世界の常識もなくマナーも知らず学力もなかった。
召喚した神官は責任をとって、稀人の世話をすることを命じられた。
さらに事を面倒にしたのは残りの六人の神官だった。
我こそはとおかしな対抗意識で召喚の儀式を勝手に行い、結果として合計七人の無能だが美しい娘をこの地へ呼んでしまった。
七人の娘の名は召喚順に、マリ、ホノカ、マイ、アカリ、ミサ、シノブ、ラン。
召喚は一人が生涯一度に限られていた。
残された七人は能力がなくとも、こちらの都合で召喚した稀人だ。
孤児院も兼ねる神殿が切り捨てられるわけもなく、神殿に留め置き神に仕えるようとりはかった。
しかし、少女達は一人を除き学問や雑務を拒み、我こそが真の聖女であると主張し、様々な要求をし始めた。
こんなお仕着せ服はイヤだ。
部屋や寝具が粗末で眠れない。
食事が口に合わない。
等々…
せめて少しでも不自由を解消し、望みを叶えようと尽くした結果、思いもよらぬ出費になった。
果てにはそれぞれいがみ合い争うようになり、また勝手に外へ出ようとして神殿は混乱に陥った。
持て余した神殿長が神殿で最も力のある神官に助けを求め、その者が神との交流を求め七人の娘達の返還をはかったが力足らずに命を落とした。
すっかり困り果て、一体どうしたらいいものかと各々の希望を聞くと、六人は判で押したように異口同音に王城に行き王立学園に入学することを求めた。
稀人であるからだろうか。恐ろしいほど的確にある部分の事情に通じていた。
一人を除く六人は特にそれぞれ男性達の名前を上げて、傍に行くことを求めた。
いずれも有力貴族、うち2人は王族である。十二人だ。
第一王子ジウン、第二王子ダイル、シンダール侯爵令息ザイディー、エイナイダ公爵令息ジリアン、クルドー侯爵令息セイディ、シェイン伯爵令息エグゼル、ナイアル伯爵令息ガイ、サンクルード伯爵令息ジグムンド、サグワー伯爵令息アンリ、シュナウツ伯爵令息エリック、ダイクロン伯爵令息エドガー、クサンク伯爵令息ジュリア。
理由はわからないがその十二人をめぐって、六人は諍いを始めた。
表立って言い争うのではなく、それぞれが被害を言い立てたのだ。
誰に叩かれた、嫌味を言われた、持ち物を損なわれた等々。
誰もが被害を訴え、混乱は極まった。
そして神殿予算も悲鳴を上げ始めた。
そこで王城へ救援依頼と言う形の尻拭いを求めてきたのだ。
北奥の離宮の準備が整い、七人を迎え入れたわたくしは再び憂鬱に襲われ頭を抱えたくなった。
七はここでの常識から学んでもらわなくてはばらないため、それぞれに二人の侍女がつけられた。侍女は身の回りの世話と共に教育係でもあった。
王立学園に入学希望であれば、常識はもちろん、基礎の初等教育と最低限のマナーと行儀作法を修めてもらわなくてはならない。
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卒業後に文官や武官として勤めるために有効な人脈を作ることも学園の目的であるからだ。
庶民はより良い上司や勤務先を求め、貴族は部下や腹心を作るために。
しかしそれ以前に迎え入れた七人には大きな問題があった。
まず、六人自分が聖女であることを主張すること姦しい。
聖女である自分の特権を求めるばかりなのだ。
残る一人は静かだが、内にこもって怯えている。
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続いて「しかし、あなた方は聖女にあらずと神が告げられました」と言えば、わたくしには理解不能な反応を示した。
「さすが悪役令嬢シャイロ、最初から落としてくるわね!」
「絶対にザイディー様はお救いするんだから!!」
ザイディーはわたくしの婚約者だが、「アクヤクレイジョウ」やら「救う」やらはどんな意図があるのだろう。
わたくしは深くため息をついた。
わたくし、この王国の第一王女であると自己紹介致しましたよね?
無礼打ちにして面倒ごとをここで終わらせてもよろしいかしら?
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