ハゲ戦記

017.禿則信（はげ のりのぶ）

 禿国守護大名 禿則宗の嫡男で第七代目禿家当主である。
 父である則宗の急死を受け、彼はわずか七歳にして家督を相続した。
 元服にはほど遠い齢であった事から家臣の髪乃胤梨（かみの たねなし）、禿則政（はげ のりまさ）らが後見人として彼に代わって政が執り行われた。

 だが両者共に実力に乏しかった事や、則宗の遺した『禿法度』という悪しき法令によって混乱が続いていた情勢であったという事も相まってか禿国はさらなる混乱を招いてしまう。

 この現状に禿家家臣であり、亡き則宗の養子となっていた禿成雄（はげ なりかつ）は次第に考え始める。

『禿国の未来は、我の手で守らねばならぬであろう……』

 則信が禿家の当主となり、それから一年の月日が流れた。
 彼はその日、父である則宗の法要を控えていた事もあって禿庵寺（はげあんじ）に宿泊していた。
 その為に寺には少ない手勢のみであったとされており、そこを禿成雄率いる謀反軍に襲撃された。
 これが世に言う『禿庵寺の変』である。

 正規軍としては髪乃胤梨が則信を守り抜こうと奮闘の様子を見せており、返り討ちに遭う兵たちも多くいたという。
 だが最終的には禿成雄との一騎打ちに敗れ、最期は彼の手によって討ち取られた。
 やがて成雄は寺の中にいた則信を見つけ、その場で捕縛した事で禿宗家による禿国の支配は事実上終わりを告げた。
 幼かった彼は手にかけられる事は無く斬首は免れたが、その代わりに禿野山（はげやさん）へと送られ、そこで生涯を終えたとされている。

 後に禿国において一揆を扇動し、国内を混乱に陥れた禿草一揆（はげくさいっき）の首謀者である禿草髪貞（はげくさ かみさだ）が成長した則信であったという説が存在している。
 これは、禿成雄の右筆であった禿枝光一（はげえだ こういち）が著述した成雄公記（なりおこうき）に記されているが、彼は禿野山に送られて数年後に病死したとされている為、信憑性に欠ける。

 こうして悲劇の人物となった則信に少しでも花を持たせてあげようという想いが光一にはあったのでは無かろうか……