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+++ 護衛騎士長イーギル視点です。+++
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
私は、イーギル。
イーギル-バレンシュタイン・ココット。
ココット子爵家の二男であり、ティタニア王国の第一王子であらせられるセノヴァス殿下直属の護衛騎士だ。
ティタニア王より殿下の[護衛騎士長]として拝命を受けたのは、私が丁度17になる頃だった。
私の4歳下である殿下は、私が護衛騎士として着任した当時から物事の本質や真偽を見抜く洞察力、将来を見通す能力を感じさせる、謂わば彗眼の持ち主だと思っている。
しかし、先ほど殿下が言われた「今は警戒だけに留めておけ」という言葉に、私は納得がいかなかった。
どうしてか。
それは私が、殿下を最前で守る騎士として拝命を受けた『理由』に他ならない。
私が殿下の[護衛騎士長]としてティタニア王に拝命されたのは、自身が持つ特殊能力〔危険感知〕も理由の1つではあるが、攻防ともに『能力の高さを評価されたから』に他ならない。
それがどうだ。
[護衛騎士長]の拝命を受けてから、私は日々、王国トップクラスの者達と研鑽を積んでいる。
にも拘らず、先ほど目の当たりにした事象に、私は何一つ動くことができなかった。
いくら〔危険感知〕が反応しなかったとはいえ、この国の将来を代表して担う大切な御身である殿下を、危険に晒してしまったのだ。
殿下を須らく守る側としては失態ものだ。
今の私は、殿下の指示通りに殿下の傍らに立ち控えているが、ドートン伯爵家の三男であられるクリストファ様と殿下が話しているのを横目で確認しながらも、やはり目の前の彼女について考えずにはいられなかった。
────殿下がクリストファ様の元へと飛ばされ、急いで殿下の元へと駆け寄ったあの時────。
私は心の中で『何故もっと警戒しておかなかった!』と、自身を強く叱責した。
そして私は、ふらつく殿下を支えながら、信じられない事象を起こした者を──彼女を視た。
‥───今なお、思い出すと身震いがくる。
私が彼女を視た瞬間。
私の全身に、ゾワリとした感覚が走ったのだから…。
* * * *
( !!! …この感覚は────… )
〔危険察知〕が反応したのか?!!
(今頃になって何故っっ…!!)
クリストファ様の元へと飛ばされた殿下を支えながら、すぐに私は彼女から目を逸らした。
というのも、あのまま直視していたら不吉を呼び寄せる予感がしたからだ。
だが目を逸らしたにも関わらず、私の鼓動は未だに早鐘を打ち続けており、なおもゾワゾワとした感覚が押し寄せている。
(これは…過去最大規模じゃないか…。)
通常〔危険察知〕の能力は、事象が発現する前に危険だと分かる。
しかしこれは…。
(…まさか先程の事象ではなく、今から彼女を軸に危険な事象が起こる可能性があると?!)
そう思い至った私はすぐに目を走らせて周囲を確認した。
何が起ころうとも確実に殿下を守れるようにと───。
だがそれは取り越し苦労となった。
幸いにも私がある行為をしたことで、私の〔危険察知〕の反応が消えたからだ。
私は彼女の能力がどんなものであるか、既にアタリを付けていた。
私の知識の中には、空属性の魔法の1つとして〔瞬間移動〕があったし、実際に魔法を行使して瞬間的に目的地へ[移動する]者を見たこともあり、ある程度の予想はできたのだ。
しかし、予想はできても彼女の能力は予想の範疇を超えていた。
空魔法の〔瞬間移動〕は、自身が目的地へ[移動する]ならまだしも、相手を目的地へ[移動させる]など、論理的には可能だが、実際は自分以外へ魔法を発動させるには膨大な魔力が必要で、普通は魔力量が足りずに不発に終わる為、実現できる者は居ないというのが周知の事実だったのだから。
例として挙げれば、道端に落ちている小石を手に取って投げることは簡単にできるが、その小石を正確にどの位置に落ちるように投げることは難しいのと同じことだ。
だからこそ言える。
彼女が持つ能力は、通常の域を遥かに超えた『国の脅威となる』程のモノであると。
さらに言うと、先ほど彼女が起こした『魔法の発現の仕方』は、突然に膨らんだ魔力が成した事象だった。
この事が意味するのは、彼女が持つ『魔力量の上限が見えない』ということだ。
ふと殿下からの視線を感じて顔を向けると、殿下は何も言わずに目だけで彼女を指したので、促されるまま彼女を視て───納得した。
(…なるほど、そういう事か…。)
よくよく視れば、彼女が纏うオーラには揺らぎが一切無い。
明らかに隠匿された者のオーラだ。
…なるほど、隠していた訳か。
(であるなら────これでどうだ?)
私は彼女が持つ能力の上限値を測る為にと、彼女の精神に揺さぶりをかける目的で、挑発的に『笑ってみせた』。
すると彼女は、何故か固まったように動かなくなり、それからとても辛そうに目を背けられた。
(…どういうことだ?)
私は彼女の苦しそうな表情を訝しく思いながらも、今は殿下の護衛が最優先であると思考の端に追いやり、彼女が纏うオーラを慎重に見定めた。
だが、暫く経っても彼女のオーラに揺らぎは一切無いままだった。
(・・・・失敗したか…。)
挑発が不発に終わり、諦めて彼女から目線を外した所で、殿下も彼女の表情の変化に気づいたのだろう。
私に「暴きたい気持ちは分かるが、あまりあの女を挑発するな」と仰られた。
殿下のその言葉に、先ほど殿下が彼女に問答無用で迫った行動との差異に、どうにも釈然としない気持ちから少々顔に出てしまったようだ。
クリストファ様に「イーギルさんの不機嫌な顔って初めて見たかも」と言われてしまった。
しまったと思いながらも、口を引き結んで殿下を守るように立ち直した所で、殿下にまで面白いモノを見たような顔をされてしまった。
(ハァ…。殿下には殿下の考えがあるんだろうが、前方にいる彼女が脅威の存在だと知りながら、平然と面白そうな顔をされる余裕は、流石は王族というべきか…。)
だが、私は殿下の[護衛騎士長]であるから、彼女の不安定と見受けられる能力を、そのまま何もせずに警戒だけに留めておく事はできない。
私は子爵家という地位の低さよりも、私が持つ〔危険察知〕と攻防の能力を評価していただいた、ティタニア王の信頼に応えられる自分でありたいのだ。
この国が、殿下が、少しでも脅かされそうな存在がいるのであれば。
彼女が持つ能力は、一庶民が持つ範疇を超えているのだから、しっかりと把握しておく必要がある。
(…さて…殿下に進言したいが、どうしたものか…。)
そう考えた所で、タイミング良く殿下から「あの女の出自を調べろ」と言われて、殿下も不審に思っていることが分かった。
無言で頷きを返しながら、やはり殿下は彗眼の持ち主なのだと、改めて感じたのだった──‥。
* * * *
2日後の朝。
王宮にある殿下の執務室にて、彼女の出自を調べた結果を殿下に伝えた。
「───成る程、そうか…。(となるとあの女は──…いや、ここで結論を出すのは早いか‥。) ──ご苦労だったな、イーギル。」
「‥はい。──あの、殿下…。」
「分かっている。本日中に父上と話せる場を用意できるか?」
「──は。すぐに調整と手配を致します。」
あれから私は、彼女の出自を調べるべく、直ぐに行動を起こした。
第一王子に仕える私は、同じく王家に仕える情報収集に長けた諜報部隊、通称──『暗部』の使用も認められている。
その権限を最大限に使い、あらゆる角度から『暗部』に彼女の素性を調べてもらった。
だが、その結果は───…
『我々の権限では、彼女の素性を詮索することは出来なかった。』
…────────だった。
『暗部』が示した、権限というワードにより導き出される答えは即ち。
彼女──リリアン-フォートレックは、
“ティタニア王”と教会の“大司教”から、同時に『庇護されている者』だということになるからだ。
耳を疑った。
これを見れば解ると『暗部』から渡された調査報告書を読み進めてみて、事実なのだと理解した。
報告書の情報は、王都にあるフォートレック商店の従業員や顧客から聞けばすぐ分かる情報のみだった。
彼女の名がリリアンであるということ(家族からはリアという愛称で呼ばれていること)。
王都で商店を営むフォートレック家の長女であり、歳は現在15歳。
魔力判別の儀で保有魔力量が多いことが分かり、今年から[魔法特待生]として王立アカデミー学院へ通うことになったこと。
彼女がどれ位の魔力量があるのか知りたかったが、知ることは叶わなかった。
貴族ではない彼女は、国の『監視の目』の対象外だったことから、『暗部』が持つ情報の中には無かった為、『暗部』は王家に仕える権限を行使して、教会側に彼女の情報提示を要求した所、教会のトップである大司教から『彼女の能力の一切の詮索を禁ずる』と解答されたと書かれていたからだ。
次にフォートレック家を調べた結果を読むと、驚いたことに彼女の家は7年前に莫大な借金を負っていた。
借金を負った経緯が、彼女の父親が保証人として負ったものだった為、少々不憫に思ったが、騙し合いが常の貴族社会では『騙される者が悪い』と一蹴される経緯でもある。運が無かったとしか言えないだろう。
フォートレック家の歴史を辿ると、400年以上続く商家で、現在の店舗数は王都を含めて5店舗あること(ティタニア王国以外の国にも店舗を持つこと)や、企業した当時は金物屋だったが、現在は薬や石鹸に化粧品、鉱物や魔石なども取り扱う商店であることと、情報の中で畑違いの商品を扱うに至った経緯に、彼女の能力を知る切っ掛けがあるかと期待したが、彼女の家族を調べた結果を読んで納得した。
父の名はカイザル。42歳。10代に見える程の童顔で、祖先に小人族がおり低身長らしい。なるほど彼女の容姿は父譲りか。騙され易い人柄の良さはあるものの、交渉術や算術、多国語にも精通しており、国を跨いで翻訳を請負うバイタリティの持ち主とある。
母の名はユリーシャ。年齢は不明。カイザルとは幼馴染での結婚か。旧姓はハレル。──ハレルと聞いた時に何かが引っ掛かったが、一先ず後回しにする。妖精と見紛う美貌の持ち主らしい。国内でもトップレベルの〔薬剤師〕であり、婦人は彼女の師匠でもあるそうだ。店で扱う薬や石鹸や化粧品は婦人の手製と書かれていた。
兄の名はラルフレッド。18歳。彼女の家名がフォートレックと聞いてすぐに血縁者として浮かんだ者だ。面識は無いが王城内で何度か姿を見た。背は高く美形で甘い顔立ちをしていたな。[王立アカデミー学院]の主席合格者で、フォートレック家の中では唯一[名誉騎士]の爵位を持つ〔魔法理論の構築者〕だ。店で扱う鉱物や魔石は《鉱業権》を持つ彼が掘採を行い、魔物の狩猟や魔獣の討伐で入手した品であると。
他には5歳になる双子の弟妹がおり、姉の名はルティナ、弟の名はレストイ。街の教会へ通う所をさり気なく声を掛けたとあるが、どちらも素直で可愛らしかったと書かれていた。…何をしているんだこの『暗部』は…この部分を調査をした者は後で呼び出し決定だな…ハァ‥。
ここまでの情報で分かることは、まず彼女には小人族の血が流れていること。商売で必要となる知識に長けた父と、薬剤に熟知した母、魔術や魔法に熟知した優秀な兄がいること。…列挙すると凄い家族構成だな。庶民の中では限りなく貴族に近い…いや、既に兄は爵位持ちだったな。
気になる点と言えば、彼女には深い友人関係が一切無かったことだが、これはフォートレック家が借金を負った時期や、多方面で活躍する両親や兄を支えるべく、友人を作るよりも、彼女が家事や幼い弟妹の面倒を優先していると推測すれば納得できた。
街で得られる情報にはこれ以上の手掛りがなかった為、次に『暗部』は私が伝えた『彼女のオーラが隠匿された者のオーラであったこと』や、彼女が〔瞬間移動〕の魔法を使った時の様子を聞き、彼女は魔術や魔法ではなく、魔導具で魔力量を抑えていると推測出来ると、魔導具の管轄である国の保管記録者へと彼女の情報提示を要求したと書かれていた。
結果は『彼女の情報は国王以外への開示は許されていない区分となっており照会できない』だったと。
───以上が『暗部』の調査報告書の内容だった。
…何にせよ、大司教が詮索を禁じた程だ。
彼女の保有魔力は想像を絶するほどの、国を揺るがすほどの膨大な量なのだろう。
そして、国王にしか情報開示を許されていない能力を持っている───と。
あの時、私の〔危険察知〕がすぐに働かなかった理由は今の所不明だが、その事についても彼女の能力が何か関係しているのかもしれない。
ついては一刻も早く、陛下と殿下の話し合いの場を設けなくては。
『暗部』から受け取った報告書を殿下に渡した私は、「殿下が学院へ登校されるまでには整えておきますので、殿下は朝食をおとりください。」と殿下に一礼をし、最短で準備を進めるべく、足早に殿下の執務室を退出したのだった。
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私は、イーギル。
イーギル-バレンシュタイン・ココット。
ココット子爵家の二男であり、ティタニア王国の第一王子であらせられるセノヴァス殿下直属の護衛騎士だ。
ティタニア王より殿下の[護衛騎士長]として拝命を受けたのは、私が丁度17になる頃だった。
私の4歳下である殿下は、私が護衛騎士として着任した当時から物事の本質や真偽を見抜く洞察力、将来を見通す能力を感じさせる、謂わば彗眼の持ち主だと思っている。
しかし、先ほど殿下が言われた「今は警戒だけに留めておけ」という言葉に、私は納得がいかなかった。
どうしてか。
それは私が、殿下を最前で守る騎士として拝命を受けた『理由』に他ならない。
私が殿下の[護衛騎士長]としてティタニア王に拝命されたのは、自身が持つ特殊能力〔危険感知〕も理由の1つではあるが、攻防ともに『能力の高さを評価されたから』に他ならない。
それがどうだ。
[護衛騎士長]の拝命を受けてから、私は日々、王国トップクラスの者達と研鑽を積んでいる。
にも拘らず、先ほど目の当たりにした事象に、私は何一つ動くことができなかった。
いくら〔危険感知〕が反応しなかったとはいえ、この国の将来を代表して担う大切な御身である殿下を、危険に晒してしまったのだ。
殿下を須らく守る側としては失態ものだ。
今の私は、殿下の指示通りに殿下の傍らに立ち控えているが、ドートン伯爵家の三男であられるクリストファ様と殿下が話しているのを横目で確認しながらも、やはり目の前の彼女について考えずにはいられなかった。
────殿下がクリストファ様の元へと飛ばされ、急いで殿下の元へと駆け寄ったあの時────。
私は心の中で『何故もっと警戒しておかなかった!』と、自身を強く叱責した。
そして私は、ふらつく殿下を支えながら、信じられない事象を起こした者を──彼女を視た。
‥───今なお、思い出すと身震いがくる。
私が彼女を視た瞬間。
私の全身に、ゾワリとした感覚が走ったのだから…。
* * * *
( !!! …この感覚は────… )
〔危険察知〕が反応したのか?!!
(今頃になって何故っっ…!!)
クリストファ様の元へと飛ばされた殿下を支えながら、すぐに私は彼女から目を逸らした。
というのも、あのまま直視していたら不吉を呼び寄せる予感がしたからだ。
だが目を逸らしたにも関わらず、私の鼓動は未だに早鐘を打ち続けており、なおもゾワゾワとした感覚が押し寄せている。
(これは…過去最大規模じゃないか…。)
通常〔危険察知〕の能力は、事象が発現する前に危険だと分かる。
しかしこれは…。
(…まさか先程の事象ではなく、今から彼女を軸に危険な事象が起こる可能性があると?!)
そう思い至った私はすぐに目を走らせて周囲を確認した。
何が起ころうとも確実に殿下を守れるようにと───。
だがそれは取り越し苦労となった。
幸いにも私がある行為をしたことで、私の〔危険察知〕の反応が消えたからだ。
私は彼女の能力がどんなものであるか、既にアタリを付けていた。
私の知識の中には、空属性の魔法の1つとして〔瞬間移動〕があったし、実際に魔法を行使して瞬間的に目的地へ[移動する]者を見たこともあり、ある程度の予想はできたのだ。
しかし、予想はできても彼女の能力は予想の範疇を超えていた。
空魔法の〔瞬間移動〕は、自身が目的地へ[移動する]ならまだしも、相手を目的地へ[移動させる]など、論理的には可能だが、実際は自分以外へ魔法を発動させるには膨大な魔力が必要で、普通は魔力量が足りずに不発に終わる為、実現できる者は居ないというのが周知の事実だったのだから。
例として挙げれば、道端に落ちている小石を手に取って投げることは簡単にできるが、その小石を正確にどの位置に落ちるように投げることは難しいのと同じことだ。
だからこそ言える。
彼女が持つ能力は、通常の域を遥かに超えた『国の脅威となる』程のモノであると。
さらに言うと、先ほど彼女が起こした『魔法の発現の仕方』は、突然に膨らんだ魔力が成した事象だった。
この事が意味するのは、彼女が持つ『魔力量の上限が見えない』ということだ。
ふと殿下からの視線を感じて顔を向けると、殿下は何も言わずに目だけで彼女を指したので、促されるまま彼女を視て───納得した。
(…なるほど、そういう事か…。)
よくよく視れば、彼女が纏うオーラには揺らぎが一切無い。
明らかに隠匿された者のオーラだ。
…なるほど、隠していた訳か。
(であるなら────これでどうだ?)
私は彼女が持つ能力の上限値を測る為にと、彼女の精神に揺さぶりをかける目的で、挑発的に『笑ってみせた』。
すると彼女は、何故か固まったように動かなくなり、それからとても辛そうに目を背けられた。
(…どういうことだ?)
私は彼女の苦しそうな表情を訝しく思いながらも、今は殿下の護衛が最優先であると思考の端に追いやり、彼女が纏うオーラを慎重に見定めた。
だが、暫く経っても彼女のオーラに揺らぎは一切無いままだった。
(・・・・失敗したか…。)
挑発が不発に終わり、諦めて彼女から目線を外した所で、殿下も彼女の表情の変化に気づいたのだろう。
私に「暴きたい気持ちは分かるが、あまりあの女を挑発するな」と仰られた。
殿下のその言葉に、先ほど殿下が彼女に問答無用で迫った行動との差異に、どうにも釈然としない気持ちから少々顔に出てしまったようだ。
クリストファ様に「イーギルさんの不機嫌な顔って初めて見たかも」と言われてしまった。
しまったと思いながらも、口を引き結んで殿下を守るように立ち直した所で、殿下にまで面白いモノを見たような顔をされてしまった。
(ハァ…。殿下には殿下の考えがあるんだろうが、前方にいる彼女が脅威の存在だと知りながら、平然と面白そうな顔をされる余裕は、流石は王族というべきか…。)
だが、私は殿下の[護衛騎士長]であるから、彼女の不安定と見受けられる能力を、そのまま何もせずに警戒だけに留めておく事はできない。
私は子爵家という地位の低さよりも、私が持つ〔危険察知〕と攻防の能力を評価していただいた、ティタニア王の信頼に応えられる自分でありたいのだ。
この国が、殿下が、少しでも脅かされそうな存在がいるのであれば。
彼女が持つ能力は、一庶民が持つ範疇を超えているのだから、しっかりと把握しておく必要がある。
(…さて…殿下に進言したいが、どうしたものか…。)
そう考えた所で、タイミング良く殿下から「あの女の出自を調べろ」と言われて、殿下も不審に思っていることが分かった。
無言で頷きを返しながら、やはり殿下は彗眼の持ち主なのだと、改めて感じたのだった──‥。
* * * *
2日後の朝。
王宮にある殿下の執務室にて、彼女の出自を調べた結果を殿下に伝えた。
「───成る程、そうか…。(となるとあの女は──…いや、ここで結論を出すのは早いか‥。) ──ご苦労だったな、イーギル。」
「‥はい。──あの、殿下…。」
「分かっている。本日中に父上と話せる場を用意できるか?」
「──は。すぐに調整と手配を致します。」
あれから私は、彼女の出自を調べるべく、直ぐに行動を起こした。
第一王子に仕える私は、同じく王家に仕える情報収集に長けた諜報部隊、通称──『暗部』の使用も認められている。
その権限を最大限に使い、あらゆる角度から『暗部』に彼女の素性を調べてもらった。
だが、その結果は───…
『我々の権限では、彼女の素性を詮索することは出来なかった。』
…────────だった。
『暗部』が示した、権限というワードにより導き出される答えは即ち。
彼女──リリアン-フォートレックは、
“ティタニア王”と教会の“大司教”から、同時に『庇護されている者』だということになるからだ。
耳を疑った。
これを見れば解ると『暗部』から渡された調査報告書を読み進めてみて、事実なのだと理解した。
報告書の情報は、王都にあるフォートレック商店の従業員や顧客から聞けばすぐ分かる情報のみだった。
彼女の名がリリアンであるということ(家族からはリアという愛称で呼ばれていること)。
王都で商店を営むフォートレック家の長女であり、歳は現在15歳。
魔力判別の儀で保有魔力量が多いことが分かり、今年から[魔法特待生]として王立アカデミー学院へ通うことになったこと。
彼女がどれ位の魔力量があるのか知りたかったが、知ることは叶わなかった。
貴族ではない彼女は、国の『監視の目』の対象外だったことから、『暗部』が持つ情報の中には無かった為、『暗部』は王家に仕える権限を行使して、教会側に彼女の情報提示を要求した所、教会のトップである大司教から『彼女の能力の一切の詮索を禁ずる』と解答されたと書かれていたからだ。
次にフォートレック家を調べた結果を読むと、驚いたことに彼女の家は7年前に莫大な借金を負っていた。
借金を負った経緯が、彼女の父親が保証人として負ったものだった為、少々不憫に思ったが、騙し合いが常の貴族社会では『騙される者が悪い』と一蹴される経緯でもある。運が無かったとしか言えないだろう。
フォートレック家の歴史を辿ると、400年以上続く商家で、現在の店舗数は王都を含めて5店舗あること(ティタニア王国以外の国にも店舗を持つこと)や、企業した当時は金物屋だったが、現在は薬や石鹸に化粧品、鉱物や魔石なども取り扱う商店であることと、情報の中で畑違いの商品を扱うに至った経緯に、彼女の能力を知る切っ掛けがあるかと期待したが、彼女の家族を調べた結果を読んで納得した。
父の名はカイザル。42歳。10代に見える程の童顔で、祖先に小人族がおり低身長らしい。なるほど彼女の容姿は父譲りか。騙され易い人柄の良さはあるものの、交渉術や算術、多国語にも精通しており、国を跨いで翻訳を請負うバイタリティの持ち主とある。
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兄の名はラルフレッド。18歳。彼女の家名がフォートレックと聞いてすぐに血縁者として浮かんだ者だ。面識は無いが王城内で何度か姿を見た。背は高く美形で甘い顔立ちをしていたな。[王立アカデミー学院]の主席合格者で、フォートレック家の中では唯一[名誉騎士]の爵位を持つ〔魔法理論の構築者〕だ。店で扱う鉱物や魔石は《鉱業権》を持つ彼が掘採を行い、魔物の狩猟や魔獣の討伐で入手した品であると。
他には5歳になる双子の弟妹がおり、姉の名はルティナ、弟の名はレストイ。街の教会へ通う所をさり気なく声を掛けたとあるが、どちらも素直で可愛らしかったと書かれていた。…何をしているんだこの『暗部』は…この部分を調査をした者は後で呼び出し決定だな…ハァ‥。
ここまでの情報で分かることは、まず彼女には小人族の血が流れていること。商売で必要となる知識に長けた父と、薬剤に熟知した母、魔術や魔法に熟知した優秀な兄がいること。…列挙すると凄い家族構成だな。庶民の中では限りなく貴族に近い…いや、既に兄は爵位持ちだったな。
気になる点と言えば、彼女には深い友人関係が一切無かったことだが、これはフォートレック家が借金を負った時期や、多方面で活躍する両親や兄を支えるべく、友人を作るよりも、彼女が家事や幼い弟妹の面倒を優先していると推測すれば納得できた。
街で得られる情報にはこれ以上の手掛りがなかった為、次に『暗部』は私が伝えた『彼女のオーラが隠匿された者のオーラであったこと』や、彼女が〔瞬間移動〕の魔法を使った時の様子を聞き、彼女は魔術や魔法ではなく、魔導具で魔力量を抑えていると推測出来ると、魔導具の管轄である国の保管記録者へと彼女の情報提示を要求したと書かれていた。
結果は『彼女の情報は国王以外への開示は許されていない区分となっており照会できない』だったと。
───以上が『暗部』の調査報告書の内容だった。
…何にせよ、大司教が詮索を禁じた程だ。
彼女の保有魔力は想像を絶するほどの、国を揺るがすほどの膨大な量なのだろう。
そして、国王にしか情報開示を許されていない能力を持っている───と。
あの時、私の〔危険察知〕がすぐに働かなかった理由は今の所不明だが、その事についても彼女の能力が何か関係しているのかもしれない。
ついては一刻も早く、陛下と殿下の話し合いの場を設けなくては。
『暗部』から受け取った報告書を殿下に渡した私は、「殿下が学院へ登校されるまでには整えておきますので、殿下は朝食をおとりください。」と殿下に一礼をし、最短で準備を進めるべく、足早に殿下の執務室を退出したのだった。
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もう死んでしまった私へ
ツカノ
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私には前世の記憶がある。
幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか?
今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!!
ゆるゆる設定です。
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