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あれから私はエステル様達と楽しくティータイム──という名の質問攻めを受けて、気力体力共に尽きて魂を持ってかれ、マーリン様に半ば引き摺られるように自分達の教室へと戻ってきた。
(今の時間は‥17時を少し回ったくらいか‥。)
こっちの世界は前世の世界と若干のズレがあり、25時間で日付けが変わる。
青Fの【平行世界】なら、せめて時間ぐらいは同じ[設定]にして欲しかった。
前世の記憶を取り戻してからというもの、早めにお腹が空くし眠くなるしで‥体内時計が狂って困るってのなんの…。
まぁそれはさて置き。
私がエステル様達に[裏庭]へ呼び出されたのは13時頃で、本日の学校行事が全て終わり、帰りのHR後のことだった。
私は入学式後の移動中に冷黒王子とぶつかり、打首発言を(心の中でだけど)されたことで気疲れしてたから、今日は同級生との交流は断念して、さっさと家に帰ろうと席を立った。
そのタイミングでマーリン様に「不躾にごめんなさい。フォートレックさん、貴女に少々お尋ねしたいことがあるの。ここでは話せない内容だから、これから裏庭まで付き合ってくれないかしら?」と声を掛けられたんだよね。
それで件の[裏庭]へと来たら、エステル様達との話もそこそこに冷黒王子とギル様とクリスが登場して、何やかんやで一悶着あり~の、エステル様の私室へ招かれて~のと、本来なら14時頃には帰宅していた予定が、17時過ぎまで学院に居ることになったのだ。
(あ~あ‥お母さん心配してるだろうなぁ。14時頃には帰るって伝えてたし…。エステル様の部屋に招かれて、紅茶やお菓子にサンドイッチとか軽食まで頂いちゃったから、持ってきたお弁当(って黒豆パンだけなんだけど)も食べずじまいだし…。)
まぁ、エステル様には半ば強制的ではあるけど、今後もお世話になることになった訳だし、無駄な時間じゃなかったんだけどさ。
「──せっかくエステル様が御自宅まで貴女を送ってあげると言ってらしたのに、頑なに遠慮なさるだなんて‥まったく貴女って人はもう…。(質問攻めにされて疲れているでしょうに‥謙虚なのね。。)」
いやいやマーリン様よ、謙虚とかじゃなくてですね。
いくら王都内に私の家があるからって、うちの本店──フォートレック商店の場所ならまだしも、私の家は御貴族様の馬車が通れるような、だだっ広い道幅沿いには建ってないですからね?
(てゆーかマーリン様よ…、さっきから何で私の髪を撫でているのでしょ~か。。)
マーリン様に教室まで引き摺られて戻ってきてから。
「あら貴女‥後ろ髪が少し乱れてますわね。直してさしあげますわ。」ってマーリン様に言われて。
ササッと私の後ろ髪を整えられた所までは理解できるけど。
それからず~っと、マーリン様に私は髪を撫でられてるんです・・・。何でだ。
「‥それで、教室へ戻って来られたのは貴女の私物を取りにってことでしたけど、ありました?(先程ステルが彼女の髪を撫でていたけれど、確かにフワフワで柔らかくてスベスベしていて‥中々に触り心地が良いですわね…。)」
「───ぅへ?!! ‥あっ…えっと‥…はい。…ありました…。」
び、び、ビックリしたーーーっ!
でも、なるほど…そーゆーことか~‥。
(マーリン様、“心の声”で説明どうもありがとー!(棒読み))
ってことはアレもか!
(エステル様のアレも、そ~ゆ~ことだったのか~‥。)
実はティータイム最後の方で、エステル様にも私の髪を撫でくり回されたんだよね…。
てゆーかその前に。
ちょっとここまでの経緯とゆーか、振り返りをさせてほしい。
まず、私が知る青Fのゲーム内では、悪役令嬢と主人公が《仲良くティータイム~♪》なぁんてシーンは、全キャラを完全攻略した光希の記憶上なんだけど、出てこなかったんだよ。
だから当然私は予備知識がないまま、これからの自分の行末を左右するだろうエステル様と、ぶっつけ本番でティータイムだったんだけど。
ティータイムが始まってすぐ、エステル様の“心の声”が『もっと近くでリアさんと話したいから思い切って隣りに座っちゃいましたわ!』とか言ってたから、エステル様が私の隣に移動してきた理由までは分かった。
まぁあの時はエステル様から、私の家族構成やら好きな物やら、恋人はいるのか将来どんな職業を目指してるとか、あまりにエステル様が純粋な好意で私と仲良くなりたいと、しかも“心の声”付きでキャイキャイ楽しそうに質問されるもんだから、私のエステル様への警戒心はティータイム終わり頃には綺麗さっぱり取り払われたよね。
あと、アイリナ様やマーリン様からも、エステル様が質問してないことでチラホラ質問はされたんだけど。
アイリナ様はなんてゆーかエステル様命!って感じで、エステル様にとって私が害がないかを探るような質問内容だったし、マーリン様に至っては私の耳が遠い前提で「いつ頃から聞こえが悪いんですの?」と憐れみの目で聞かれてさ…。いや~自分で蒔いた種とはいえ誤解を解くのに苦労したわ。。
それで話を戻すけど、質問攻めが一段落した頃合いでエステル様から、私の前髪がピョコンと跳ねているのを出会った時から気になっていたとかで、「わたくしが直してさしあげたいのだけどダメかしら?」って言われたんだよね。
私はエステル様の好意が本物だと分かってたから、もちろん一も二もなく了承したとゆーか、むしろ『私ってば今まで前髪跳ねてたの?!』と恥ずかしくなって、「うわわ// ‥お気遣いありがとうございます‥ダメじゃないです…。」と真っ赤になりながら尻すぼみに返して。
すかさず控えてたメイドさんがエステル様に整髪オイルと櫛を渡してきて、あっという間もなくエステル様に前髪を直された──‥のだけど、そのままでは終わらずに、暫くエステル様に私の髪を『撫でくり回された』んだよ‥。
青Fでは悪役令嬢ポジションだったエステル様が、
【恋愛ルート】では啀み合う主人公ポジションの、
私の髪を『撫でくり回してきた』んだよ?
いやもう‥予想外過ぎて目が点になるってゆーの?
(いや~あの時は10分以上は頭の中がフリーズしたよね…。)
──で。その時にエステル様から聴こえた“心の声”が、『リアさんって触り心地まで“仔犬”みたいに可愛いですわ~』だったもんだから。
私は『触り心地まで“仔犬”って‥どんなんだよ…(死んだ目)』と理解不能に陥り。(もちろん言うまでもなく思考は放棄したよね。)
まぁそういう訳で、私の髪を『撫でられる意味』が、マーリン様の“心の声”を聴くまで分からなかったんだ。
閑話休題。
「そう‥では戻りましょうか。エステル様とアイリを待たせていることですし。(これは癖になりそうですわね‥。)」
「あ…はい。。」
(えーとマーリン様よ…。癖になりそうって、ええぇぇ~‥・・・めっちゃ反応に困るんですけどー…。)
マーリン様は名残惜しそうに私の肩にかかる髪を一撫ですると、何故か私の手を取って、私は手を繋がれたまま教室を出ることになった。
そして今。
私はマーリン様と手を繋いだ状態で歩いている。
もう一度言おう。
手を繋いだ状態で歩いている。
マーリン様は教室を出てからも、繋いでない逆の手で器用に私の髪をサラッ‥サラッ‥と、撫でる手を止めないんだよ…。
…いや、うん。。
あのね…、何が言いたいかと言うとね…。
(‥これ、かなりヤバイ状況なんじゃ…?)
確かに私は教室を出るタイミングでマーリン様から、
「‥コホン。不躾に断りなく貴女の髪を撫でてしまって、ごめんなさいね…。その‥先程エステル様にお願いされた事を抜きに、わたくしもフォートレックさんとは懇意にしたいと思っておりますの。それでと言ってはなんですけれど‥貴女のことをリリアンさんとお呼びしたり、今のように髪を撫でても宜しいかしら?」
と聞かれて。
やっと我に返ってくれたか~と思いながら、正気に戻ったんなら皆が居る前では撫でないだろうし、大丈夫かな?って思って了承を返したけども!
(…前言撤回。これ、どー考えてもヤバイ状況だよ。。)
まずマーリン様の[容姿]って、エステル様と同じく『傾国の美女』カテゴリなんだよ。
青Fでキャラ名がある登場人物は(主人公を抜いて)、総じて美男美女だ。
その中でもマーリン様は特に(青Fでは謂わゆるサブキャラ扱いだったとは言え)、紫と黄色が混じった薄葡萄の不思議な瞳の色と大人びた顔立ちが、一種の『穢してはいけない』オーラを纏ってる人でして。
さらにマーリン様は侯爵令嬢の立場も相まって、『許された者しか近寄ってはいけない』存在感を放ってる人なんだよ…。
そんな、誰もが遠巻きに羨む極上の[容姿]と[爵位]を持つ御方がですよ?
私みたいな一庶民を構っていると一目瞭然で分かる、この『髪撫で行為』を癖になりそうってアナタ…。
「・・・・・・。」
さっきから何も言わずに撫でられ続けてるけど、だんだんと虚ろな目になってる私に気づいて欲しい。いやマジで。。
(…こんなの、どー考えても“なりそう”じゃなく、既に“なっちゃってる”としか…‥いやいや!まだ確定するには早いかもだし!ここは確かめてみてから考えよう!)
ってことで、私は脳内でブンブンと首を振ると、マーリン様から聴こえた『癖になりそう』発言を問い質すことにした。
まぁ実際は『本気で“癖になってる”なんてことはないよね?』と、否定したい思いで隣を歩くマーリン様をチラリと見た──んだけどね。
そうしたら。
一拍置いて立ち止まったマーリン様に、キョトン.と見つめ返されました。
てゆーかちょっ…そんな間近で宝石みたいな瞳で覗き込まれたら…!
(ゔぐっ‥‥)
いやいや待って待って!近い近い、顔が近ぁーーーーーい!!!
そんなに間近で覗き込まれたら余計に!
(余計にヤバイ状況になってるってばぁ~~~~っっ!)
「ちょ‥あのっ‥マーリン様っっ//」
「・・・?」
いやだからそんな不思議そうな顔されてもね?!
角度によっては私達キスしてそうに見えるんだってば!気づいてお願い!!
───そう思いを込めて必死に目で訴えたんだけど。
残念ながらマーリン様には、コテン.と小首を傾げられただけだった。。
(…うぐっっ‥仕方ない…ちゃんと分かるように言うしかないか…。・・・にしてもくっそ綺麗だなぁオイ!//)
‥いやうん、見惚れてる場合じゃないんだけどね?
ハァ…。マーリン様って自分の美麗さに自覚がないのかもなぁ~‥。
「あの‥マーリン様、お顔が少し近いような気が…。これだと、私達がその…。。」
すると、ああ、とようやく気づいたとでも言うようにマーリン様が離れてくれた。
(よ、良かった‥。誰も通りかからなくて…‥。)
‥ってか、え‥?
えっと‥マーリン様、その手は何でしょうか…‥。
あ‥あー…そこで髪をまた撫でるんですね・・・。
「「・・・・・。」」
‥‥今度は撫でるの長いな…。‥あ、終わった?
じゃあもう良いですかね?
それでは進みましょうかね。目的地へと一刻も早く…そう、一刻も早くっっ!!!!
マーリン様のこの『髪撫で行為』に、若干引き攣り気味の笑顔でグイグイと繋いだ手を引き、先を促す私の焦りが伝わったのか。
またもやマーリン様に顔を覗かれる私。(今度はぜったいにワザとだよねマーリン様!)
そうして間近で────‥
(~~~~~ッッ!!///)
ふわりと微笑されました・・・。
(ああああっっまい!!空気が甘い! 甘すぎるんですけど~~~~!?///)
マーリン様の破壊力が! ハンパないんですけどぉーーーーー!??///
「ふふ、ふふふっ♪」
「な、なっ‥‥///。」
「さてと。行きましょうかフォートレックさん。(ふふふっ‥久しぶりに楽しい気持ちになったわ♪)」
「‥はい…。。」
そうですか‥それは良うござんしたね…。。
私の心境はこれからの事を考えるだけで吹雪が吹き荒れてますけどね…。。
(これ、どう軌道修正すれば良いんだ…。)
教えてくださいよ創世神様…。。
私は盛大に頭を抱えるしかないのだった。。。
(今の時間は‥17時を少し回ったくらいか‥。)
こっちの世界は前世の世界と若干のズレがあり、25時間で日付けが変わる。
青Fの【平行世界】なら、せめて時間ぐらいは同じ[設定]にして欲しかった。
前世の記憶を取り戻してからというもの、早めにお腹が空くし眠くなるしで‥体内時計が狂って困るってのなんの…。
まぁそれはさて置き。
私がエステル様達に[裏庭]へ呼び出されたのは13時頃で、本日の学校行事が全て終わり、帰りのHR後のことだった。
私は入学式後の移動中に冷黒王子とぶつかり、打首発言を(心の中でだけど)されたことで気疲れしてたから、今日は同級生との交流は断念して、さっさと家に帰ろうと席を立った。
そのタイミングでマーリン様に「不躾にごめんなさい。フォートレックさん、貴女に少々お尋ねしたいことがあるの。ここでは話せない内容だから、これから裏庭まで付き合ってくれないかしら?」と声を掛けられたんだよね。
それで件の[裏庭]へと来たら、エステル様達との話もそこそこに冷黒王子とギル様とクリスが登場して、何やかんやで一悶着あり~の、エステル様の私室へ招かれて~のと、本来なら14時頃には帰宅していた予定が、17時過ぎまで学院に居ることになったのだ。
(あ~あ‥お母さん心配してるだろうなぁ。14時頃には帰るって伝えてたし…。エステル様の部屋に招かれて、紅茶やお菓子にサンドイッチとか軽食まで頂いちゃったから、持ってきたお弁当(って黒豆パンだけなんだけど)も食べずじまいだし…。)
まぁ、エステル様には半ば強制的ではあるけど、今後もお世話になることになった訳だし、無駄な時間じゃなかったんだけどさ。
「──せっかくエステル様が御自宅まで貴女を送ってあげると言ってらしたのに、頑なに遠慮なさるだなんて‥まったく貴女って人はもう…。(質問攻めにされて疲れているでしょうに‥謙虚なのね。。)」
いやいやマーリン様よ、謙虚とかじゃなくてですね。
いくら王都内に私の家があるからって、うちの本店──フォートレック商店の場所ならまだしも、私の家は御貴族様の馬車が通れるような、だだっ広い道幅沿いには建ってないですからね?
(てゆーかマーリン様よ…、さっきから何で私の髪を撫でているのでしょ~か。。)
マーリン様に教室まで引き摺られて戻ってきてから。
「あら貴女‥後ろ髪が少し乱れてますわね。直してさしあげますわ。」ってマーリン様に言われて。
ササッと私の後ろ髪を整えられた所までは理解できるけど。
それからず~っと、マーリン様に私は髪を撫でられてるんです・・・。何でだ。
「‥それで、教室へ戻って来られたのは貴女の私物を取りにってことでしたけど、ありました?(先程ステルが彼女の髪を撫でていたけれど、確かにフワフワで柔らかくてスベスベしていて‥中々に触り心地が良いですわね…。)」
「───ぅへ?!! ‥あっ…えっと‥…はい。…ありました…。」
び、び、ビックリしたーーーっ!
でも、なるほど…そーゆーことか~‥。
(マーリン様、“心の声”で説明どうもありがとー!(棒読み))
ってことはアレもか!
(エステル様のアレも、そ~ゆ~ことだったのか~‥。)
実はティータイム最後の方で、エステル様にも私の髪を撫でくり回されたんだよね…。
てゆーかその前に。
ちょっとここまでの経緯とゆーか、振り返りをさせてほしい。
まず、私が知る青Fのゲーム内では、悪役令嬢と主人公が《仲良くティータイム~♪》なぁんてシーンは、全キャラを完全攻略した光希の記憶上なんだけど、出てこなかったんだよ。
だから当然私は予備知識がないまま、これからの自分の行末を左右するだろうエステル様と、ぶっつけ本番でティータイムだったんだけど。
ティータイムが始まってすぐ、エステル様の“心の声”が『もっと近くでリアさんと話したいから思い切って隣りに座っちゃいましたわ!』とか言ってたから、エステル様が私の隣に移動してきた理由までは分かった。
まぁあの時はエステル様から、私の家族構成やら好きな物やら、恋人はいるのか将来どんな職業を目指してるとか、あまりにエステル様が純粋な好意で私と仲良くなりたいと、しかも“心の声”付きでキャイキャイ楽しそうに質問されるもんだから、私のエステル様への警戒心はティータイム終わり頃には綺麗さっぱり取り払われたよね。
あと、アイリナ様やマーリン様からも、エステル様が質問してないことでチラホラ質問はされたんだけど。
アイリナ様はなんてゆーかエステル様命!って感じで、エステル様にとって私が害がないかを探るような質問内容だったし、マーリン様に至っては私の耳が遠い前提で「いつ頃から聞こえが悪いんですの?」と憐れみの目で聞かれてさ…。いや~自分で蒔いた種とはいえ誤解を解くのに苦労したわ。。
それで話を戻すけど、質問攻めが一段落した頃合いでエステル様から、私の前髪がピョコンと跳ねているのを出会った時から気になっていたとかで、「わたくしが直してさしあげたいのだけどダメかしら?」って言われたんだよね。
私はエステル様の好意が本物だと分かってたから、もちろん一も二もなく了承したとゆーか、むしろ『私ってば今まで前髪跳ねてたの?!』と恥ずかしくなって、「うわわ// ‥お気遣いありがとうございます‥ダメじゃないです…。」と真っ赤になりながら尻すぼみに返して。
すかさず控えてたメイドさんがエステル様に整髪オイルと櫛を渡してきて、あっという間もなくエステル様に前髪を直された──‥のだけど、そのままでは終わらずに、暫くエステル様に私の髪を『撫でくり回された』んだよ‥。
青Fでは悪役令嬢ポジションだったエステル様が、
【恋愛ルート】では啀み合う主人公ポジションの、
私の髪を『撫でくり回してきた』んだよ?
いやもう‥予想外過ぎて目が点になるってゆーの?
(いや~あの時は10分以上は頭の中がフリーズしたよね…。)
──で。その時にエステル様から聴こえた“心の声”が、『リアさんって触り心地まで“仔犬”みたいに可愛いですわ~』だったもんだから。
私は『触り心地まで“仔犬”って‥どんなんだよ…(死んだ目)』と理解不能に陥り。(もちろん言うまでもなく思考は放棄したよね。)
まぁそういう訳で、私の髪を『撫でられる意味』が、マーリン様の“心の声”を聴くまで分からなかったんだ。
閑話休題。
「そう‥では戻りましょうか。エステル様とアイリを待たせていることですし。(これは癖になりそうですわね‥。)」
「あ…はい。。」
(えーとマーリン様よ…。癖になりそうって、ええぇぇ~‥・・・めっちゃ反応に困るんですけどー…。)
マーリン様は名残惜しそうに私の肩にかかる髪を一撫ですると、何故か私の手を取って、私は手を繋がれたまま教室を出ることになった。
そして今。
私はマーリン様と手を繋いだ状態で歩いている。
もう一度言おう。
手を繋いだ状態で歩いている。
マーリン様は教室を出てからも、繋いでない逆の手で器用に私の髪をサラッ‥サラッ‥と、撫でる手を止めないんだよ…。
…いや、うん。。
あのね…、何が言いたいかと言うとね…。
(‥これ、かなりヤバイ状況なんじゃ…?)
確かに私は教室を出るタイミングでマーリン様から、
「‥コホン。不躾に断りなく貴女の髪を撫でてしまって、ごめんなさいね…。その‥先程エステル様にお願いされた事を抜きに、わたくしもフォートレックさんとは懇意にしたいと思っておりますの。それでと言ってはなんですけれど‥貴女のことをリリアンさんとお呼びしたり、今のように髪を撫でても宜しいかしら?」
と聞かれて。
やっと我に返ってくれたか~と思いながら、正気に戻ったんなら皆が居る前では撫でないだろうし、大丈夫かな?って思って了承を返したけども!
(…前言撤回。これ、どー考えてもヤバイ状況だよ。。)
まずマーリン様の[容姿]って、エステル様と同じく『傾国の美女』カテゴリなんだよ。
青Fでキャラ名がある登場人物は(主人公を抜いて)、総じて美男美女だ。
その中でもマーリン様は特に(青Fでは謂わゆるサブキャラ扱いだったとは言え)、紫と黄色が混じった薄葡萄の不思議な瞳の色と大人びた顔立ちが、一種の『穢してはいけない』オーラを纏ってる人でして。
さらにマーリン様は侯爵令嬢の立場も相まって、『許された者しか近寄ってはいけない』存在感を放ってる人なんだよ…。
そんな、誰もが遠巻きに羨む極上の[容姿]と[爵位]を持つ御方がですよ?
私みたいな一庶民を構っていると一目瞭然で分かる、この『髪撫で行為』を癖になりそうってアナタ…。
「・・・・・・。」
さっきから何も言わずに撫でられ続けてるけど、だんだんと虚ろな目になってる私に気づいて欲しい。いやマジで。。
(…こんなの、どー考えても“なりそう”じゃなく、既に“なっちゃってる”としか…‥いやいや!まだ確定するには早いかもだし!ここは確かめてみてから考えよう!)
ってことで、私は脳内でブンブンと首を振ると、マーリン様から聴こえた『癖になりそう』発言を問い質すことにした。
まぁ実際は『本気で“癖になってる”なんてことはないよね?』と、否定したい思いで隣を歩くマーリン様をチラリと見た──んだけどね。
そうしたら。
一拍置いて立ち止まったマーリン様に、キョトン.と見つめ返されました。
てゆーかちょっ…そんな間近で宝石みたいな瞳で覗き込まれたら…!
(ゔぐっ‥‥)
いやいや待って待って!近い近い、顔が近ぁーーーーーい!!!
そんなに間近で覗き込まれたら余計に!
(余計にヤバイ状況になってるってばぁ~~~~っっ!)
「ちょ‥あのっ‥マーリン様っっ//」
「・・・?」
いやだからそんな不思議そうな顔されてもね?!
角度によっては私達キスしてそうに見えるんだってば!気づいてお願い!!
───そう思いを込めて必死に目で訴えたんだけど。
残念ながらマーリン様には、コテン.と小首を傾げられただけだった。。
(…うぐっっ‥仕方ない…ちゃんと分かるように言うしかないか…。・・・にしてもくっそ綺麗だなぁオイ!//)
‥いやうん、見惚れてる場合じゃないんだけどね?
ハァ…。マーリン様って自分の美麗さに自覚がないのかもなぁ~‥。
「あの‥マーリン様、お顔が少し近いような気が…。これだと、私達がその…。。」
すると、ああ、とようやく気づいたとでも言うようにマーリン様が離れてくれた。
(よ、良かった‥。誰も通りかからなくて…‥。)
‥ってか、え‥?
えっと‥マーリン様、その手は何でしょうか…‥。
あ‥あー…そこで髪をまた撫でるんですね・・・。
「「・・・・・。」」
‥‥今度は撫でるの長いな…。‥あ、終わった?
じゃあもう良いですかね?
それでは進みましょうかね。目的地へと一刻も早く…そう、一刻も早くっっ!!!!
マーリン様のこの『髪撫で行為』に、若干引き攣り気味の笑顔でグイグイと繋いだ手を引き、先を促す私の焦りが伝わったのか。
またもやマーリン様に顔を覗かれる私。(今度はぜったいにワザとだよねマーリン様!)
そうして間近で────‥
(~~~~~ッッ!!///)
ふわりと微笑されました・・・。
(ああああっっまい!!空気が甘い! 甘すぎるんですけど~~~~!?///)
マーリン様の破壊力が! ハンパないんですけどぉーーーーー!??///
「ふふ、ふふふっ♪」
「な、なっ‥‥///。」
「さてと。行きましょうかフォートレックさん。(ふふふっ‥久しぶりに楽しい気持ちになったわ♪)」
「‥はい…。。」
そうですか‥それは良うござんしたね…。。
私の心境はこれからの事を考えるだけで吹雪が吹き荒れてますけどね…。。
(これ、どう軌道修正すれば良いんだ…。)
教えてくださいよ創世神様…。。
私は盛大に頭を抱えるしかないのだった。。。
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