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「あ~もう!何でこの選択で落とせないかなぁ!? また第5章からやり直しとか、いくら久しぶりの二連休だからって流石に二徹は辛すぎるから!! てゆーか[好感度100%]なのに落とせないとか、◯ーエーさん難しすぎるでしょ~~~っっ 」
もう何度目かも分からないリセット操作のループに、私は持ってたゲーム機をぽいっと投げやり、後ろからベッドにボフンと倒れた。
その衝撃で、枕に忍ばせているお気に入りのポプリの香りと、背中に布団の柔らかな感触が伝わり、少しだけ苛ついた気分が和らぐ。
ハァーっと思い切り溜息をついて、そのまま暫く目を閉じる。
「・・・・・。」
よし。もう一度さっきの[選択肢]を振り返ろう。
-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-
───と思うんだが、どうかな?
▶︎笑顔で相槌を打つ
ハッキリと否定する
目を逸らして言葉を濁す
-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-
(…う~ん…ど~考えてもさっきの選択がベストでしょ‥。何でアレで【Bad End】になるんだ…意味分からんし‥。)
・・・まぁいいや。次の[選択肢]は…と、思考を切り替えながら薄く目を開けると、天井の照明がふわんふわんと明滅していた。
(うわぁ~~視界が回ってるぅ~‥。。)
「ダメだぁ~~~っ 眠いぃ~~~~。。‥ハァ…。仕方ない…このキャラは【Normal End】も【Happy End】も後回しだわ…。てゆーか眠い…眠すぎて頭が回らん…いったん寝よう‥。」
言いながらも、欠伸がクアァ‥と口から漏れた。
(え~と今何時だっけ‥‥あー‥朝の4時か…。)
背中にある毛布を胸まで引っ張り上げ、枕脇に放り投げたゲーム機の電源を切ろうと手を伸ばす。
手繰り寄せたゲーム機の画面には、一人の青年が映ったままだ。
爽やかな笑顔を浮かべるこの青年の、深緑の瞳が私は大好きだった。
「…チクショウ‥笑顔が清い。。こんだけループしてるのに憎めないなんて‥惚れた弱みだわ…。」
私の思考は、そこで完全に途切れた。
・
・
・
・
・
・
(ゔぅぅ‥…頭が割れるように痛い…。)
顰め面で目を開けながら、怠さが残る半身を私はゆっくりと起こした。
(えーと‥‥あれ・・・。)
今まで眠っていたからか、頭がぼーっとしている。
私は脳内を覚醒させたくて、2,3度軽く頭を振った。
(‥うん、ダメだ。余計にクラクラしてきた‥。)
ふらつく頭と目眩を我慢しながら、ゆっくりと周囲を見回す。
今は夜なのだろうか。
私が居る部屋は薄暗く、室内の明かりは天井から吊り下がったランプ1つだけだ。
その古ぼけたランプに灯る、小さく暖かな色を確認すると、私は安心してホッと息を吐いた。
(‥あ~‥喉、乾いてるや…。)
まだ痛む頭を片手で抑えながら、ベッド脇の小棚の上から、そろそろと水差しを手に取る。
同じく小棚の上にあったコップに水を注いで、ゆっくりと時間をかけて飲み干した。
(‥ふう…。・・・ん? …あれ?・・・私の名前って…。。)
…私の名前って…、‥あのゲームの主人公と同じ…。
『リリアン-フォートレック』だ。
(・・・・え‥、嘘でしょ・・・。)
さきほど夢の中で見ていた、
眩い照明の部屋に居た、あの人物は‥。
(あれは…・・・私?)
───いやいや、ちょっと待て待て。
えーーっと、…うん。
‥落ち着いて、もう一度整理しよう、そうしよう。
私の名前はリリアン-フォートレックだ。
この国───ティタ二ア王国の中では、そこそこ名の知れた商家の長女として、私はこの世に生を享けた。
そして今年で15歳になった私は、来週には[王立アカデミー学院]へ入学することになっている。
(…えーと、それで・・・。)
[王立アカデミー学院]は王都の中心にあって、王族貴族や優れた才能を持つ人達が通う、この国では最高位の学校で。
そんな所に、一介の庶民である私が、なぜ通うことになっているのかというと。
それは───‥。
私が12歳の時に、街の教会で義務化されている魔力判別の儀を受けて、私の体内の『魔力量が膨大な事が判ったから』だ。
この世界の人々は、多かれ少なかれ体内に魔力を持っていて、魔術や、ごく稀に“魔法”が使えたりする。
魔術は、火や風といった四元素──[火][風][水][土]を、体内の魔力を使って具現化する術で。
魔術は誰にでも使える、この世界で生活するには欠かせない能力だ。
これとは別に、空を構成する[光]と[闇]の元素があるんだけど。
この二つは具現化すると、四元素の比ではないほど強大な現象が起こるので、“神の元素”に位置づけられてて。
[光]と[闇]を具現化する術は、“魔法”と呼ぶことで、魔術と区別されている。
その、強大な現象を起こすほどの[光]と[闇]を具現化するには、使う魔力も比例して膨大な量が必要な訳で…。
えーと、つまり。
体内の魔力量が多い(私みたいな)者ほど、魔法を使える可能性が高いのだ。
それで、魔法を使える人材は国の繁栄に関わるから、魔力量が多い者は15歳になると、魔法を学ぶ為に、[王立アカデミー学院]への入学を義務付けられている(もちろん無償で学べる)という訳だ。
───‥と、ここまでは12歳の時に、私の中では整理がついていることだった。
だけど私は今、とてつもない事実を突きつけられて戸惑ってます。。
だって…だって…、
「・・・・最悪だ、そんな‥。私の名前、青Fの主人公と同じなんですけど…誰か、嘘だと言って。。。」
通称、青F。
正式名称は【青き天空のフォルテ】。
先程まで見ていた光景が、ぶわりと脳裏に浮かぶ。
そこでは、前世の私(?)と思われる人物が寝る間を惜しんで、女性向けの恋愛ゲーム──謂わゆる“乙女ゲーム”をプレイしていた。
そのゲームの名称が【青き天空のフォルテ】だ。
そのゲームに出てくる主人公の初期設定の名前が、あろうことか私と同姓同名なのだ。
(いやいや、そんな‥‥だって私は…。)
「‥確か私は、高熱で倒れて…。」
朦朧とする頭の中で、何とかこの状況を整理しようと、私は思考を巡らせた。
(…私は高熱で倒れてから今まで眠ってたんだよね…。‥ってまさか、高熱のせいで前世の記憶を思い出したってこと‥?)
「・・・ま、マジでこんな事ってあるんだ。。ってか、うわーーー‥マジでか~~~…。」
あまりの出来事に脱力した私は、そのままベッドに突っ伏した。
だって、私の人生を左右する[王立アカデミー学院]への入学を控えたこの状況で‥
まさかまさかの…
「‥そう来るかぁ~~~~…。」
ああ、今、無性にリセットボタンを押したい。押したくって堪らない。
だけど非常に残念なことに、私はこの世界で生きてるんだよ。
ゴロンと横になって、ちらりと目の端で天井を見上げれば、‥あぁ‥こっちが現実なんだと、視覚情報から痛いほど思い知らされた。
弱々しく燃えるランプの炎は、私が小さい頃から見慣れたもので、さっきまで夢で見ていた眩い照明の光とは、質も量もぜんぜん違う。
つまりはこっちの世界が、私が今生きている世界ということだ。
(それなのに‥それなのに…何で今になって思い出すかなーー‥。ハァ~~‥。)
“知らぬが仏”とはよく言ったものだと思った。
だって私の心は今、前世の記憶を思い出したおかげで、嵐が吹き荒れるかの如く錯乱状態に陥ってる。
(だけど、だからこそ、ここは落ち着かないと…。)
先ほど思い出した記憶は、自分の未来を決める上で、とてつもなく重要な情報だ。
錯乱したまま忘れたりなんかしたら、それこそゲーム機の不良でデータが消えちゃって、阿鼻叫喚した過去の私と同じ轍を踏むことになる。
(冷静になれ…落ち着くんだ私…。)
私は、物理的にも違う意味でも痛む頭を押さえながらも、なんとか平静を保ちつつ、前世の記憶を振り返ることにした。
まず、どうやら私はリリアン-フォートレックとして生まれる前は、五条光希という女性で、日本という国で暮らしていたらしい。
なんで『らしい』のかと言うと、寝ている間に前世の記憶を思い出しただけで、今の私にとっては全っ然、実感がわかないからだ。
だけど私は同時に、なんの違和感もなく光希の記憶を受け入れている自分に、前世の私は確かに光希だったのだと、妙に納得もしていた。
というか納得するしかなかった。(心境的には半泣き状態だけどね…。)
さて、前世の私───光希はというと。
内向的な性格で(いわゆるコミュ障で)、社会人8年目にして恋愛経験は皆無で、“乙女ゲーム”というものに心酔していた。
中でも特に光希が思い入れが強かったのが、青Fと呼ばれる乙女ゲーム【青き天空のフォルテ】だ。
その青Fの世界と、私が生きているこの世界が、何の因果か酷似している。
───青Fと同じ[魔術]や[魔法]が使える世界。
───青Fと同じ[国の名前]と[学校名]。
そして、青Fの主人公の初期設定の名前が、私と同姓同名で。
しかも、主人公と同じ理由で、私は[王立アカデミー学院]へ入学することになっている。
(…もうこれ、『青Fの主人公=私』決定、だよね・・・。)
「いやいやいや‥。…私の家、今、“借金まみれ”なんですけど…‥。」
私が高熱で倒れたのだって、フォートレック家の莫大な借金を返済する為に休みなく働いて、そのシワ寄せが体に返ってきたからなのに。
路地裏で寝泊まりしている浮浪者を見ては、明日は我が身と必死にお金を稼ぐ、毎日が限界のこの状況で。
…この国の王子やら騎士やら魔術師やら宰相の息子やら隣国の王子やら果ては義賊やらと、
お近付きになって、親密になって、‥恋愛関係になる?
え? 何?
神様、これは何の試練ですか??
思い出したからこそ言えることだけど、
いやいやいやいや、、
「“無い”でしょ‥。」
あまりの荒唐無稽さに、膝を抱えて脱力した。
冷静に頭の中を整理したからこそ、改めて思う。
確かに青Fの主人公は、生い立ちがボンヤリしていて、家業や家族の話が全く出てこなかったけども‥。
「まさか主人公が、ここまで困窮した生活環境だったなんて…。」
いくらゲームの難易度を高める為とはいえ、意図的に隠されていた主人公の境遇がコレって…
(‥いやいや、◯ーエーさん、流石にコレはあんまりでしょー‥。)
半ば死んだ目つきになりながら、夢の中で見ていた画面上の[選択肢]を振り返る。
-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-
─王城で一緒に暮らせるように取り計ろう─と思うんだが、どうかな?
▶︎笑顔で相槌を打つ
ハッキリと否定する
目を逸らして言葉を濁す
-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-
(うん…確かに光希が選んだ[選択肢]なら【Bad End】になるわな…。)
私は、生まれ持った商家の素養は持ち合わせてても、王族貴族が持つべき教養は一切無いし。
さらに言うと、いくら知名度ある商家の出生でも、その商家は現在進行形で莫大な借金を抱えてるのだ。
これらの汚点を加味して考えれば、“王城で一緒に暮らせるように~”って攻略キャラの質問に【笑顔で相槌を打つ】だなんて、脳天気にも程がある選択だろう。
だって攻略キャラと恋愛成就しようにも、彼ら王族貴族に連なる周囲からは猛反対されるだろうし。
仮に攻略キャラと上手くいって結ばれてもよ。
主人公の味方は攻略キャラだけ。
何その極悪な環境! 私なら早々に心折れるわ辛過ぎるわ毎日泣くわ。
そんな訳で、主人公の立場になった私からすると、あの選択画面のベストな選択は、否定すれば攻略キャラの[好感度]が下がるだろうから、【目を逸らして言葉を濁す】のが正解だと分かる訳で…。
(てゆーか、そうなんだよね…。)
前世の私は、こんな裏があるとは知らずに、
いかにして攻略キャラ達を落とそうかって…
(‥‥ゔ…)
ウハウハで主人公を操って…
「ゔあぁ~~っっ!! 過去の私がイタすぎてツライ~~~っっ!!」
あまりの羞恥心から、耐えられずにベッドの上をゴロンゴロンとのたうち回った私は、直ぐに己の行動を後悔した。
「ゔぐぅッッ。」
(‥いったぁ~~~っ …頭、痛ぁ~~~っっ。)
そうだよ、私は頭が痛かったんだった…。
「‥ぅぅぅ~…‥私のバカやろおぉ…。。」
己の羞恥に耐えられず行動した結果、余計に頭が痛くなるとか、Wでイタすぎるわ…泣。。
(‥けど、バカやって少しは気が楽になったわ…。)
考えてみたら、主人公のこの設定は見えていない所だった訳だし、仕方ないっちゃないんだよね。
それに今更振り返ってみたところで、どうせ過去は変えられないんだ。
‥───それならさ。
前向きに未来を見据えて、これからどう行動するかを考える方が有意義ってものよね?
それに、この世界と青Fで描かれていた世界は、確かに類似点は多いけどさ。
私と青Fの主人公が、
“完全に同じ境遇”とは言い切れないもんね?
(って言ってもまぁ、主人公の境遇は青Fでは語られてなかったから確かめようがないんだけど…。)
でも、だからこそ違うかもしれない可能性だって大いにあると思うんだ。
そもそも光希の時だったらともかく、今の私は青Fみたいな展開は微塵も望んでないのだ。
私が望むものは、私の夢は、フォートレック家の借金を最短で返せる〔魔法薬剤師〕の免許を取ることだ。
これから入学する[王立アカデミー学院]で、いくら青Fよろしく恋愛にかまけたって、借金は返せないし、ご飯だって食べてはいけないのだ。
だからこそ断言できる。『“無い”でしょ。』と。
乙女ゲーム風に言うと、
-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-
恋愛ルートに進みますか?
はい
▶︎いいえ
-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-
これ一択しか、“無い”でしょと。
───もしも、この世界に私を転生させた神様とか何者かがいるのなら。
もしもこれが、創世神グラディエラ様の思し召しなら。
ちょっと、声を大にして言いたいことがある。
そんなヒマあるか寝言は寝て言え!!!!!
もう何度目かも分からないリセット操作のループに、私は持ってたゲーム機をぽいっと投げやり、後ろからベッドにボフンと倒れた。
その衝撃で、枕に忍ばせているお気に入りのポプリの香りと、背中に布団の柔らかな感触が伝わり、少しだけ苛ついた気分が和らぐ。
ハァーっと思い切り溜息をついて、そのまま暫く目を閉じる。
「・・・・・。」
よし。もう一度さっきの[選択肢]を振り返ろう。
-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-
───と思うんだが、どうかな?
▶︎笑顔で相槌を打つ
ハッキリと否定する
目を逸らして言葉を濁す
-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-
(…う~ん…ど~考えてもさっきの選択がベストでしょ‥。何でアレで【Bad End】になるんだ…意味分からんし‥。)
・・・まぁいいや。次の[選択肢]は…と、思考を切り替えながら薄く目を開けると、天井の照明がふわんふわんと明滅していた。
(うわぁ~~視界が回ってるぅ~‥。。)
「ダメだぁ~~~っ 眠いぃ~~~~。。‥ハァ…。仕方ない…このキャラは【Normal End】も【Happy End】も後回しだわ…。てゆーか眠い…眠すぎて頭が回らん…いったん寝よう‥。」
言いながらも、欠伸がクアァ‥と口から漏れた。
(え~と今何時だっけ‥‥あー‥朝の4時か…。)
背中にある毛布を胸まで引っ張り上げ、枕脇に放り投げたゲーム機の電源を切ろうと手を伸ばす。
手繰り寄せたゲーム機の画面には、一人の青年が映ったままだ。
爽やかな笑顔を浮かべるこの青年の、深緑の瞳が私は大好きだった。
「…チクショウ‥笑顔が清い。。こんだけループしてるのに憎めないなんて‥惚れた弱みだわ…。」
私の思考は、そこで完全に途切れた。
・
・
・
・
・
・
(ゔぅぅ‥…頭が割れるように痛い…。)
顰め面で目を開けながら、怠さが残る半身を私はゆっくりと起こした。
(えーと‥‥あれ・・・。)
今まで眠っていたからか、頭がぼーっとしている。
私は脳内を覚醒させたくて、2,3度軽く頭を振った。
(‥うん、ダメだ。余計にクラクラしてきた‥。)
ふらつく頭と目眩を我慢しながら、ゆっくりと周囲を見回す。
今は夜なのだろうか。
私が居る部屋は薄暗く、室内の明かりは天井から吊り下がったランプ1つだけだ。
その古ぼけたランプに灯る、小さく暖かな色を確認すると、私は安心してホッと息を吐いた。
(‥あ~‥喉、乾いてるや…。)
まだ痛む頭を片手で抑えながら、ベッド脇の小棚の上から、そろそろと水差しを手に取る。
同じく小棚の上にあったコップに水を注いで、ゆっくりと時間をかけて飲み干した。
(‥ふう…。・・・ん? …あれ?・・・私の名前って…。。)
…私の名前って…、‥あのゲームの主人公と同じ…。
『リリアン-フォートレック』だ。
(・・・・え‥、嘘でしょ・・・。)
さきほど夢の中で見ていた、
眩い照明の部屋に居た、あの人物は‥。
(あれは…・・・私?)
───いやいや、ちょっと待て待て。
えーーっと、…うん。
‥落ち着いて、もう一度整理しよう、そうしよう。
私の名前はリリアン-フォートレックだ。
この国───ティタ二ア王国の中では、そこそこ名の知れた商家の長女として、私はこの世に生を享けた。
そして今年で15歳になった私は、来週には[王立アカデミー学院]へ入学することになっている。
(…えーと、それで・・・。)
[王立アカデミー学院]は王都の中心にあって、王族貴族や優れた才能を持つ人達が通う、この国では最高位の学校で。
そんな所に、一介の庶民である私が、なぜ通うことになっているのかというと。
それは───‥。
私が12歳の時に、街の教会で義務化されている魔力判別の儀を受けて、私の体内の『魔力量が膨大な事が判ったから』だ。
この世界の人々は、多かれ少なかれ体内に魔力を持っていて、魔術や、ごく稀に“魔法”が使えたりする。
魔術は、火や風といった四元素──[火][風][水][土]を、体内の魔力を使って具現化する術で。
魔術は誰にでも使える、この世界で生活するには欠かせない能力だ。
これとは別に、空を構成する[光]と[闇]の元素があるんだけど。
この二つは具現化すると、四元素の比ではないほど強大な現象が起こるので、“神の元素”に位置づけられてて。
[光]と[闇]を具現化する術は、“魔法”と呼ぶことで、魔術と区別されている。
その、強大な現象を起こすほどの[光]と[闇]を具現化するには、使う魔力も比例して膨大な量が必要な訳で…。
えーと、つまり。
体内の魔力量が多い(私みたいな)者ほど、魔法を使える可能性が高いのだ。
それで、魔法を使える人材は国の繁栄に関わるから、魔力量が多い者は15歳になると、魔法を学ぶ為に、[王立アカデミー学院]への入学を義務付けられている(もちろん無償で学べる)という訳だ。
───‥と、ここまでは12歳の時に、私の中では整理がついていることだった。
だけど私は今、とてつもない事実を突きつけられて戸惑ってます。。
だって…だって…、
「・・・・最悪だ、そんな‥。私の名前、青Fの主人公と同じなんですけど…誰か、嘘だと言って。。。」
通称、青F。
正式名称は【青き天空のフォルテ】。
先程まで見ていた光景が、ぶわりと脳裏に浮かぶ。
そこでは、前世の私(?)と思われる人物が寝る間を惜しんで、女性向けの恋愛ゲーム──謂わゆる“乙女ゲーム”をプレイしていた。
そのゲームの名称が【青き天空のフォルテ】だ。
そのゲームに出てくる主人公の初期設定の名前が、あろうことか私と同姓同名なのだ。
(いやいや、そんな‥‥だって私は…。)
「‥確か私は、高熱で倒れて…。」
朦朧とする頭の中で、何とかこの状況を整理しようと、私は思考を巡らせた。
(…私は高熱で倒れてから今まで眠ってたんだよね…。‥ってまさか、高熱のせいで前世の記憶を思い出したってこと‥?)
「・・・ま、マジでこんな事ってあるんだ。。ってか、うわーーー‥マジでか~~~…。」
あまりの出来事に脱力した私は、そのままベッドに突っ伏した。
だって、私の人生を左右する[王立アカデミー学院]への入学を控えたこの状況で‥
まさかまさかの…
「‥そう来るかぁ~~~~…。」
ああ、今、無性にリセットボタンを押したい。押したくって堪らない。
だけど非常に残念なことに、私はこの世界で生きてるんだよ。
ゴロンと横になって、ちらりと目の端で天井を見上げれば、‥あぁ‥こっちが現実なんだと、視覚情報から痛いほど思い知らされた。
弱々しく燃えるランプの炎は、私が小さい頃から見慣れたもので、さっきまで夢で見ていた眩い照明の光とは、質も量もぜんぜん違う。
つまりはこっちの世界が、私が今生きている世界ということだ。
(それなのに‥それなのに…何で今になって思い出すかなーー‥。ハァ~~‥。)
“知らぬが仏”とはよく言ったものだと思った。
だって私の心は今、前世の記憶を思い出したおかげで、嵐が吹き荒れるかの如く錯乱状態に陥ってる。
(だけど、だからこそ、ここは落ち着かないと…。)
先ほど思い出した記憶は、自分の未来を決める上で、とてつもなく重要な情報だ。
錯乱したまま忘れたりなんかしたら、それこそゲーム機の不良でデータが消えちゃって、阿鼻叫喚した過去の私と同じ轍を踏むことになる。
(冷静になれ…落ち着くんだ私…。)
私は、物理的にも違う意味でも痛む頭を押さえながらも、なんとか平静を保ちつつ、前世の記憶を振り返ることにした。
まず、どうやら私はリリアン-フォートレックとして生まれる前は、五条光希という女性で、日本という国で暮らしていたらしい。
なんで『らしい』のかと言うと、寝ている間に前世の記憶を思い出しただけで、今の私にとっては全っ然、実感がわかないからだ。
だけど私は同時に、なんの違和感もなく光希の記憶を受け入れている自分に、前世の私は確かに光希だったのだと、妙に納得もしていた。
というか納得するしかなかった。(心境的には半泣き状態だけどね…。)
さて、前世の私───光希はというと。
内向的な性格で(いわゆるコミュ障で)、社会人8年目にして恋愛経験は皆無で、“乙女ゲーム”というものに心酔していた。
中でも特に光希が思い入れが強かったのが、青Fと呼ばれる乙女ゲーム【青き天空のフォルテ】だ。
その青Fの世界と、私が生きているこの世界が、何の因果か酷似している。
───青Fと同じ[魔術]や[魔法]が使える世界。
───青Fと同じ[国の名前]と[学校名]。
そして、青Fの主人公の初期設定の名前が、私と同姓同名で。
しかも、主人公と同じ理由で、私は[王立アカデミー学院]へ入学することになっている。
(…もうこれ、『青Fの主人公=私』決定、だよね・・・。)
「いやいやいや‥。…私の家、今、“借金まみれ”なんですけど…‥。」
私が高熱で倒れたのだって、フォートレック家の莫大な借金を返済する為に休みなく働いて、そのシワ寄せが体に返ってきたからなのに。
路地裏で寝泊まりしている浮浪者を見ては、明日は我が身と必死にお金を稼ぐ、毎日が限界のこの状況で。
…この国の王子やら騎士やら魔術師やら宰相の息子やら隣国の王子やら果ては義賊やらと、
お近付きになって、親密になって、‥恋愛関係になる?
え? 何?
神様、これは何の試練ですか??
思い出したからこそ言えることだけど、
いやいやいやいや、、
「“無い”でしょ‥。」
あまりの荒唐無稽さに、膝を抱えて脱力した。
冷静に頭の中を整理したからこそ、改めて思う。
確かに青Fの主人公は、生い立ちがボンヤリしていて、家業や家族の話が全く出てこなかったけども‥。
「まさか主人公が、ここまで困窮した生活環境だったなんて…。」
いくらゲームの難易度を高める為とはいえ、意図的に隠されていた主人公の境遇がコレって…
(‥いやいや、◯ーエーさん、流石にコレはあんまりでしょー‥。)
半ば死んだ目つきになりながら、夢の中で見ていた画面上の[選択肢]を振り返る。
-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-
─王城で一緒に暮らせるように取り計ろう─と思うんだが、どうかな?
▶︎笑顔で相槌を打つ
ハッキリと否定する
目を逸らして言葉を濁す
-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-
(うん…確かに光希が選んだ[選択肢]なら【Bad End】になるわな…。)
私は、生まれ持った商家の素養は持ち合わせてても、王族貴族が持つべき教養は一切無いし。
さらに言うと、いくら知名度ある商家の出生でも、その商家は現在進行形で莫大な借金を抱えてるのだ。
これらの汚点を加味して考えれば、“王城で一緒に暮らせるように~”って攻略キャラの質問に【笑顔で相槌を打つ】だなんて、脳天気にも程がある選択だろう。
だって攻略キャラと恋愛成就しようにも、彼ら王族貴族に連なる周囲からは猛反対されるだろうし。
仮に攻略キャラと上手くいって結ばれてもよ。
主人公の味方は攻略キャラだけ。
何その極悪な環境! 私なら早々に心折れるわ辛過ぎるわ毎日泣くわ。
そんな訳で、主人公の立場になった私からすると、あの選択画面のベストな選択は、否定すれば攻略キャラの[好感度]が下がるだろうから、【目を逸らして言葉を濁す】のが正解だと分かる訳で…。
(てゆーか、そうなんだよね…。)
前世の私は、こんな裏があるとは知らずに、
いかにして攻略キャラ達を落とそうかって…
(‥‥ゔ…)
ウハウハで主人公を操って…
「ゔあぁ~~っっ!! 過去の私がイタすぎてツライ~~~っっ!!」
あまりの羞恥心から、耐えられずにベッドの上をゴロンゴロンとのたうち回った私は、直ぐに己の行動を後悔した。
「ゔぐぅッッ。」
(‥いったぁ~~~っ …頭、痛ぁ~~~っっ。)
そうだよ、私は頭が痛かったんだった…。
「‥ぅぅぅ~…‥私のバカやろおぉ…。。」
己の羞恥に耐えられず行動した結果、余計に頭が痛くなるとか、Wでイタすぎるわ…泣。。
(‥けど、バカやって少しは気が楽になったわ…。)
考えてみたら、主人公のこの設定は見えていない所だった訳だし、仕方ないっちゃないんだよね。
それに今更振り返ってみたところで、どうせ過去は変えられないんだ。
‥───それならさ。
前向きに未来を見据えて、これからどう行動するかを考える方が有意義ってものよね?
それに、この世界と青Fで描かれていた世界は、確かに類似点は多いけどさ。
私と青Fの主人公が、
“完全に同じ境遇”とは言い切れないもんね?
(って言ってもまぁ、主人公の境遇は青Fでは語られてなかったから確かめようがないんだけど…。)
でも、だからこそ違うかもしれない可能性だって大いにあると思うんだ。
そもそも光希の時だったらともかく、今の私は青Fみたいな展開は微塵も望んでないのだ。
私が望むものは、私の夢は、フォートレック家の借金を最短で返せる〔魔法薬剤師〕の免許を取ることだ。
これから入学する[王立アカデミー学院]で、いくら青Fよろしく恋愛にかまけたって、借金は返せないし、ご飯だって食べてはいけないのだ。
だからこそ断言できる。『“無い”でしょ。』と。
乙女ゲーム風に言うと、
-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-
恋愛ルートに進みますか?
はい
▶︎いいえ
-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-
これ一択しか、“無い”でしょと。
───もしも、この世界に私を転生させた神様とか何者かがいるのなら。
もしもこれが、創世神グラディエラ様の思し召しなら。
ちょっと、声を大にして言いたいことがある。
そんなヒマあるか寝言は寝て言え!!!!!
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