首取り物語~北条・武田・上杉の草刈り場でざまぁする~リアルな戦場好き必見!

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第36章:信玄君、きみ、最後まで根暗だぞ!

【選挙】きみならどっちだ?無責任ともいう

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 1559年5月8日辰の刻(午前8時)
 上野国大胡城下酒場喜兆
 喜平
(久々登場。また出るとは思わなかった)


 みんな酒も飲まずに喧々諤々している。
 昨夜からずっとこうだ。

 流石に寝ている奴もいるが、殆どの奴らが目を血走らせながら堂々巡りの議論を繰り返している。

「だ~か~らっ! 
 俺たちをここまで豊かに、そして平穏に暮らせるようにしてくれた大恩人のお殿様の、たった一人の御子を見捨てるなんて俺は出来ねぇ!」

「しかしっ!
 それをすれば那和城は落ちちまう。楓様もそのほかの女房衆も人質になっちまうじゃねぇか!!」

「殿さまが何とかしてくれる! 
 いつもそうだったじゃねぇか。できないことを出来るようにしちまうのが俺らの殿さまだ!」

「殿様に全部下駄を預けるな!!
 今は俺たちのできることを考えるんだ。どっちがいいか。それを一人一人決めるんだ!」

 昨日午後になって、各集落に連絡が行った。

 すぐに箱を作れと。
 入れ札をすると。

 その内容が……

「松風様の命を捨てて大胡を守る」
 か
「松風様の命と引き換えに広大な領地のどこかを周囲の大名に引き渡すか」

 勿論、そんな選択はできない。皆が騒いでいるのは尤もだ。
 しかしそれが今、大胡が置かれている立場であるとお殿様からの知らせ。

 それを「入れ札」で決めるという。

 こういうものは殿さまが決めることだと思う。
 そう言おうとしたが、お触れに付随して書かれていた高札を読み、皆が絶句した。

「大胡は皆の者であって、政賢のものではない。故に出来る限り皆で話し合って入れ札で決める。今は非常時だけど、ちょうどよい機会だから自分の意志で大胡の未来を決めてね」

 常日頃から殿さまは言っていた気がする。

「大胡は自分のものじゃないよ~。大胡に住むみんなの物。だからみんなで話し合って決めるようにしようね。いつかそれやっちゃうから覚悟しといてね」
 と。

 これ程までに急だとは思わなかった。
 そして大胡の未来を決める大事な入れ札。

 国民総選挙と名付けられたそれは、みんなの争いの元となった。

 しかし争っている時間は半日しかない。
 もうあと2刻。

 午の刻限には入れ札、投票を行いその場で開票。各集落にて意見を集約。それを弩弓で殿さまのいる所まで飛ばす。

 それで大胡の方針を決めるのだ。

 庄屋さんが大慌てで準備をしている。
 一応は手順を書いた台本が配布されていたようだけれど、初めての事。
 何が何やらわからないようだ。
 
 皆、眠いのも忘れて堂々巡りの議論を続けていた。

 ◇ ◇ ◇ ◇

 午の刻過ぎ
 甘楽郡富岡盆地中央大胡野戦司令部
 長野政影


「最初の選挙結果が届きました。
 本庄では松風様の命よりも大胡をとると」

 通信小隊の隊長が報告に来た。

 遠い領地にはとてもではないが弩弓での通信が行き渡らない。
 選挙実施は、北は沼田まで。
 南は川越までとなった。

 某は疑問に思う。

 何故、このような緊急時に殿は選挙などされるのか?
 一刻を争う決断。
 期限はあと3刻余り。
 殿のご裁可で決めて誰も文句は言わない筈。

 家族を思われるお気持ち、誰よりもお強い筈。
 母上である松様をあのような痛ましいことで失った。
 家族らしきものが一人もいない状態で育った殿にできた最初の御子。

 それを見殺しにすれば確かに大胡は救われる。
 確実に大胡の民は一斉に蜂起し、侵略したものを人の海で流し去り、消滅させるであろう。

 しかしそのような結果を殿はお望みではない。
 殿が迷われるように大胡の民も迷うのが当たり前。

 無駄な行為だ。


「正影君は不思議に思うだろうけどね。これが僕の望んだ状況なんだ。真面目に真剣に自分の国を考える。
 進む方向を考える。
 そんな民が欲しい。
 そういう国にしたい。
 だから僕はこうやって生きていける」

「しかしそれでは……」

「無責任だよね。
 わかるよ、その気持ち。
 だれも責任を負わない。
 負うのは僕だけ。
 でもその僕が悪人だったらどうする?
 無能だったらどうする? 
 それでも皆はそれに従うの?」

 某の方を見る殿の顔はいつになく真剣だ。
 本当に重要だと思っている事なのだろう。

 人生の目的。
 それがこの選挙だというかのように。

「結論はどうでもいいんだ。
 選挙をやった、という事だけでいいの。
 国を自分たちで動かせる、という事を知ってほしかった。
 そういう制度があるって。
 そしてその苦しさも」

 苦しいだろう。

 殿の苦しさを分かち合うことがこの選挙の目的か。
 国をしょって立つ者の苦しみ。
 その責任の重さ。

 大胡の皆がそれこそ真剣に夜を徹して議論しただろう。
 普段の状況でこのような事をしても戸惑うだけ。
 真面目に考えることはしない。

 今だからこそ出来るのだ。
 それを狙っていたのか?

 しかし松風さまが人質になるとは想像はしていなかったであろうに。

「今回は何故か観音様の誤動作なのか助かったよ。でも大事なものも失っちゃったけどね。それでも時間を稼げた。大胡の一族としての責務をしっかりと果たせたよ、松風は」

 何を言われているのかは分からぬが、先日、急に「松風が呼んでいる」と仰った後、体の力が抜けて木偶人形の紐が切れたようにくずおれた殿。

 目覚めた後、「選挙をするぞ~」と叫ばれ、今に至る。

「どちらに転んでもいい。
 今日は一気に決着をつける。
 武田を滅ぼす。
 撃滅してザマァするんだぁ~~~~~!」

 ついにか。

 この対陣を終わりにして、是政隊を突っ込ませる。
 今日は雨の心配のない快晴だ。

 2日間かけて敵の張った罠を掃除した。
 もう武田の本陣までの道筋に障害物はあの馬防柵のみ。
 武田勢は半刻と持たずに蹴散らされるであろう。

 大砲は間に合わなかったが、鉄砲3000丁の反転射撃行軍の前に矢盾など通用しない。
 是政隊は30町まで近づけば矢盾を避けての射撃が可能だ。

 敵も1000丁以上かき集めているようだが、こちらも1000個の矢盾を用意している。
 それを前面に押し立てての行進。
 徐々に近づいてくる敵の鉄砲隊の恐怖にどれだけ耐えられるか?

 こちらも大量の死傷者が出るかもしれない。

 普通ならば怖くて前進など出来ぬ。
 これを可能にするまでに是政隊を最優先で鍛えに鍛えた。

 それによるしわ寄せが多方面に出たが、この一撃で勝負を決めるためだ。
 この一戦のために大胡のすべてをつぎ込んだと言ってもよい。

「殿。では、明日決戦と?」

「そうそう。その直後に大返し。
 ドラゴン退治する! 
 こっちもザマァ!
 だからたねちゃん、大砲とかはもう引き返して東へ集結させて」

 控えていた秀胤度に指示を出す殿。

「はっ。して、東部方面の決戦場は何処でしょうか?」

 殿は一呼吸を置き、宣言した。

「那和城を通り越して新田付近でドラゴン退治します!
 新田金山のおか~ちゃんに繋ぎを取って。
 決戦時に後背を衝いてねって」

 拳を振り上げて叫ぶ殿に、秀胤殿が力強く頷いたその時。
 天幕の中へ伝令が通されてきた。

「報告いたしますっ!
 武田の密使が来ております。
 太郎義信の使いと申しております!」

「へっ?」

 振り上げていた殿の拳が口を大きく開くと同時に、
 扇子のように見事に開いた。



 ◇ ◇ ◇ ◇



「最悪の民主主義は最良の専制政治に勝る」

 あの名作、銀河英雄伝説の一節です。

 私としてはちょっと違うかなと。
 人類は進歩しています、着実に。
 専制政治も大事です。
 反面教師として。

 今、世界を見渡して「専制政治が問題である」と思う人が100年前よりも遥かに多くなってはいませんか?

 問題は指導者、もしくは政権が長期になると劣化する。
 これを平和裏に政権交代できるシステムだから民主主義は勝っているということ。

 でも現在の日本ではそれが疑問に思えてしまいます。
 無責任な政権を選ばない限り良質な政権を作り出せない。

「他に良い政治形態がないから仕方なく使っている」とチャーチルに言わしめた民主主義。


「大事なものを失う」

 これはリメイク作品ではハッピーエンドに修正します。

 読者はバッドエンドをあえて避けるからです。
 一般読者は。
 しかしこの作品は同人誌ですから民主主義の何たるかを一緒に考えたいのでこうしました。


「鉄砲3000丁」

 〇〇銃を含めていません。
 ついでに撃ち手が3000名の意味です。

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