首取り物語~北条・武田・上杉の草刈り場でざまぁする~リアルな戦場好き必見!

👼天のまにまに

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第36章:信玄君、きみ、最後まで根暗だぞ!

【松風・3】首根っこを掴まれた

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 1559年5月7日
 上野国那和城お市の方離れ
 大胡楓
(つ、遂に変身?)


 遂にこの時が来てしまいました。

 幼き頃より薙刀はもとより、小太刀や体術まで。
 お母様の躾の一環として叩きこまれました。

 厭々身につけたもの。
 大胡に来るとき、絶対に殿には政賢様にだけは見せたくなかった、知られたくなかったこの技。
 このような女子を娶ってくれる方は鐘馗様のような方なのだろう、と思っておりました。

 でも違いました。
 とてもやさしくて繊細な方。
 人の苦労をわかってくださる方。
 労わってくださる方。

 そんな方とはわたくしは釣り合いが取れませぬ。

 よって封印いたしました。
 この母親譲りの武技。

 父上も鉄砲を使えと冗談半分に言われ、母上がその気になってしまい毎日練習をさせられました。

 火の粉で顔を火傷しないように面頬をつけての練習。
 多分、今でも大胡の正規の兵士の方よりもうまく撃てるでしょう。

 今、役に立たなければあの日々も無駄になってしまいます。
 たとえ生き残っても母上から殺されるような仕打ちを……考えただけで震えが止まらなくなりそうです。

「楓様。皆、支度が整いました」

「早かったですね。皆さん気を引き締めて参りましょう」
 
 皆が小袖から動きやすいズボンと男物の上着に着替えました。
 松風だけは庶民の童の格好になりました。
 もしもの時はすぐに逃げられるようにと、政賢様が手配したものです。

「何としても逃げのびてね。庶民の格好が一番いい」

 あの時の言葉に
「後継ぎでなくてもよい」というお気持ちが現れていたのですね。

「千波。あなたはわたくし共女房衆の護衛を。
 葵。
 あなたは松風の護衛をお願いしてもよいかしら?」

 千波はお春様の配下。
 お春様に了解を取るように目を合わせながら指示を出しました。

 しかし、

「楓様。この千波。小太郎の話しでは体が小さくとも体術は得意。
 でも経験が不足していると。
 これだけの大人数を守るには、ちょっと自信がないと本人も言っておりました」

 そうなのですね。

 小太郎様もそう言っておられるのならば間違えございませんね。

「では逆に言いたしましょう。
 千波、松風を頼みます。
 葵は皆に目を配ってください」

 葵は歴戦の忍者。
 安心して任せられます。

 2人とも畏まって命令を聞いてくれました。
 それではこの居館から本丸に移動しましょう。
 この場所は一番に目をつけられる弱点。
 しかも敵は北から迫っているとの事。
 既に赤石では激戦が始まっているとの連絡もありました。

 私たちはブービートラップを仕掛けている親衛隊の方々に声を掛けながら本丸への門を潜りました。

 ◇ ◇ ◇ ◇

 葵
(なんか、一度だけ出すつもりが使いまわされているくノ一)


 楓様が薙刀を振るっていらっしゃる。
 なんと見事な体捌き。

 普段の身のこなしを見ていて「?」という事もあったけど、やはりわざと普通の女子に見せる演技をしていたのね。

 鉄砲も凄い腕。
 私よりも遥かに腕がたつ。

 後ろめたいけれど前面は楓様にお任せして、私は周囲を警戒して奇襲に備える方が良いと思う。

 千波はどうも意思疎通ができない。
 話は出来るけれど、なにか引っかかるものがある。

 大胡への恨みか?

 風魔出身だというけれど身内を殺されたか?
 忍者がその程度のことにこだわるのも変だ。

 生と死が当たり前に交錯する日々を送る私達。
 開き直らねばやっていけない。

 ここに配属されて早3年。
 勘が鈍っているのかもしれない。
 千波のことも見抜けない。
 楓様のことも見抜けなかった。

 そろそろ後進の教育に回らねばならないか。

「福~。お便所連れてって~」

 松風様が福さんに厠へ行きたいとせがんだ。
 福さんが松風様担当の付き人。
 絹さんが楓様を始めとする3人の奥方のお付きのもの6名の差配をしている。

 福さんが松風様の手を取り厠へ連れていかれる。
 その前、半間程の間をおいて千波が歩く。

 ?

 前を歩く?

 普通ならば福さんの逆側で殿に寄り添って、いざというとき首を押さえつけて地面に伏せさせる。

 時には自分の体で飛び道具を防ぐ。
 これが常套手段。

 あとで詰問しよう。
 あのような事を風魔では教えているのかと。

 ◇ ◇ ◇ ◇

 千波


 うまく行った。
 私が若殿の護衛となれた。
 あとは連れ去るのみ。

 赤井勢が急速に接近している事によって混乱した那和城から若殿を連れ出すにはこの機会しかない。

 護衛のいない厠付近まで行くと、私は振り返り二人に周りへ注意を向けさせ、その隙に首筋に即効性の痺れ薬の付いた針を突き刺した。
 同時に福の鳩尾に当身を食らわし、びっくりして固まっている若殿の口を抑え当て身を食らわす。

 福の体は、側の納戸に放り込み若殿と一緒に厠へ入る。

 大胡は厠の作りが特殊だ。
 しょっちゅう汲み取りをする。なんでも火薬を作るからだそうだ。
 そのため子供程度の小さな体ならば汲み取り口を潜って外へ出られる。

 私は子供に間違われるくらい小柄だ。
 まずは体が痺れ始めて大人しくなった若殿の体を厠の向こうにある小屋へ押し出す。それを追って自分の体を隙間から抜けださせた後、糞尿が付いていないのを確認する。毎日、ここの掃除は私が買って出てこまめに行っている。

 居館も同じだ。
 かえって「良い女子ぞ」と褒められることもしばしば。

 問題はここからだ。

 奥方への配属が決まった時、重要な秘密を教えてもらった。本丸内の居館裏にある井戸。これは偽物で抜け穴になっていると。

 ここを通ると東南北に抜けられる。北は約3町先、冥途坂の向こう1町にあるお堂の中が出口。

 そこまで引きずっていこう。
 このの子供を。

 そしてはりつけにして、皆の前であの悪鬼に吠え面をかかせてやる。

 そして赤井様に褒めていただく。
 いえ、お兄様に褒めていただく。

 やっと会える。
 生き別れのお兄様に。

 兄弟の間を引き裂いた大胡に復讐することが出来る!



 ◇ ◇ ◇ ◇


 やっといろいろなフラグが回収できておりますw


「前を歩く」

 速い話が一番早く黙らせるのには鳩尾一発が一番と。
 松風はすぐには悲鳴は上げないと判断したらしい。


「厠の構造」

 最初の頃からの伏線でした。
 よかったね。
 落っこちそうになりながらも、厠の構造を小さい頃から考案していて。


「生き別れのお兄様」

 気にしない気にしない。それが大事w


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