首取り物語~北条・武田・上杉の草刈り場でざまぁする~リアルな戦場好き必見!

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第35章:東部戦線

【幕部・2】壺の中身はやっぱりあれです

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 1559年5月7日
 上野国赤石城城門前広場
 吾妻幸信
(味方です:多分65点平均なんだろうなぁ。知略が70オーバー)


 赤石城は簡易な造りだ。

 城門も大手門だけ。
 搦め手門などはない。

 城下町を守るというよりもここを通らせない。
 もしくは通行の邪魔をするためだけに作られている。
 
 城の東を南北に通る棒道ハイウェイは幅が六間もあり通称「六間道路」とも言われる。左右に商人の店が立ち並び、その奥に倉庫が立ち並ぶ。

 その中心に市が建っている。
 この市場は今までの市場と違い、小売りはしていない。
 商人へ対してのみ販売する問屋という市だ。

 商品の流通が多くなったため輸送のみに専念する者が増えた。

 そしてそれを買い取る場所も必要になった。
 既に商人対商人との間に新たなる仕事が生まれ、大商いが行われる場所が出来つつある。その試験的な場所がこの赤石だ。

 城の大手門の東。
 役所の立ち並ぶ北にちょっとした広場がある。
 催し物をするためのものだ。

 那和城が行政機能だけしかないために、八斗島の街とこの街に庶民が集中している。この街は商人と職人の街だ。
 周辺には華蔵寺から連なる工業地帯があるために人が集まる。
 そのための広場が設置されている。

 東西50間、南北70間程の広場に陣を布いた。
 広場の北側に800の兵を集めた。

 北からは巡邏隊の奴らがいつ襲ってきても良いように簡易な鉄線を張って、後備兵が射撃できるように配備。

 南50間の所にある二階建て市庁舎からの鉄砲と弓の射撃を矢盾で防ぎながら応戦。東には東西に長い倉庫があるために切込みは防げる。

 しかし、この視界が開けている場所を、狙い撃ちされながら前進するのは被害が大きすぎる。

 西の三の丸からも狙撃があるのだ。

 敵の数、およそ300か。
 東にはそう多くは防備できないだろう。
 そして南西の橋には……多分配備されていない。
 三の丸があるからだ。

 あの橋は三の丸で抑える仕組みになっている。

 では!

 そこを通り敵の後ろを衝くまで。
 兵200を割いて巡邏隊の襲撃を防ぎつつ慎重に西から迂回させる。
 その突撃と共に、本丸から三の丸へ攻撃をすれば高々数十の反乱兵で守っている三の丸は手も足もでない。

 よかったぜ。

 本丸の通信施設が占拠・破壊されていたらこんなことは出来なかった。
 やはり通信は大事だ。




 ◇ ◇ ◇ ◇

 幕部駿河
(敵:この人は平均60点くらい? 統率だけ70くらい)

 包囲され始めたか。
 東の櫓からの射撃音が間断なく響き渡る。
 こちらの市庁舎でも敵との射撃戦だ。

 火薬はある。
 だが重い鉛玉を持ってこれなかった。
 三の丸には鉛の延べ棒があったが作っている時間はない。

 弩弓の矢もあまりなかった。
 その内射撃回数を抑えなくてはならない。

 問題はそれだけではない。

 東の部隊に命令を伝えられない。伝令を走らせるがどうやら住民に阻止されているらしい。ここの住民は熱烈な大胡支持者だ。長引くと犠牲を顧みずに突っ込んでくるかもしれない。

 このことは考えていなかった。
 赤井はどうだったのだろう?
 彼奴ならこの程度の事、先に思いついていただろう。
 まさか、私を最初から見捨てるために対応策を立案しなかったのか?

 そんなことは今更だ。
 もう命懸けで戦っている最中。

 周りを見なくては。
 市庁舎の屋上から見渡すと東の櫓が見える。
 しかし信号兵がいない! 
 そこまでは揃えられなかった。

 信号兵がいればもっと組織だった戦が出来るのだが。

 北を見ると巡邏隊の一員が両手でバッテンを作って手出しができないと伝えて来た。東の防備へ向かうようにハンドサインを送る。

 戦線が膠着している。

 だが大胡の指揮官は兵を多く持っている。
 だから必ず包囲してくるだろう。

 問題は南西の橋だ。
 三の丸に籠る50の兵だけでは押さえられない。

 かといってここの300から引き抜いた兵で守ると言っても鉄砲を持たせないで橋を押さえることは出来ない。
 鉄砲を持たせたならばこちらの射撃戦で負けてしまう。

 どうする?
 三の丸に籠るか?
 いや、既に遅い。
 もし籠ったとしたら、この兵が赤井の背後を衝くだろう。
 そうなればこちらもおしまいだ。
 この市庁舎を死守するしかない。

 それも三の丸が落ちればそこからの射撃で、ここも長くは持たない。

 チュィンッ!

 近くの屋根瓦に着弾した音がした。

 もうここも危ないな。
 少し南へ下がり再び周りを見渡す。

 来た。
 南西の橋の向こうに大胡兵100以上が縦列で行軍してくる。

 これを抑えなければならない。
 私が指揮をして死守しよう。
 二階の吹き抜けに降りて来て皆に覚悟を決めさせるため叫んだ。

「聞け! 大胡に族滅されしもののふよ!ここを死に場と定めようぞ!
 既に退路は断たれた。
 私は南を守る。皆は北を死守してくれ。
 大胡の後備兵など先祖伝来の手槍で串刺しぞ!」

 応!!

 凄まじい気迫に満ちた声が市庁舎に響き渡る。
 北側の敵は大胡の正規兵だろう。
 だが近づけば手槍の方が断然有利。

 わざと射撃を緩くして敵に突っ込ませる。
 白兵戦で抵抗しよう。

 私も南西の敵に飛び道具を一切持たずに立ち向かう。
 だがこれだけは持って行こう。
 この壺は特別製だぞ。
 良いものが市庁舎に飾ってあった。

「敵、橋を渡ります!
 壺の準備は出来ました」

 では大胡兵にはもったいないがこの高級そうな壺を投げてやろうか。

「順番に放て!」

 印字打ちの紐を括り付けられた「火薬入り」や「油入りの壺」を遠心力を使い、橋を渡ってくる大胡兵に次から次へと投げつける。

 何度も爆発や火災を繰り返す。
 導火線が三の丸にあったのが幸いした。
 導火線の切り方が分からなかったが印が付いていたために時間を計る必要はなかった。どんどん大胡の技術は進んでいく。
 早く滅ぼさねば手が付けられなくなる。

 何個目かの壺が振り回されて飛び出す瞬間。
 紐が切れて私の方へ飛んで来た!

 爆発と共に激痛が走る。

 こちらが自爆で混乱している隙に大胡兵が橋を渡り突っ込んでくる。
 やらせはせん。やらせはせんぞ!

 いにしえより伝わる古武士の意地、見せてやる!

「恐れるな! 痛みなど族滅させられた者共の怨念に比べれば大したことは無い!
 手槍を持て! 突っ込むぞ!」

 既に目の前に来ていた大胡兵に向かい手槍を突き出す。
 両わき腹を大胡兵の銃弾が抉ったが、どうということは無い。

 私は槍を振るい3人を屠った後、目の前が真っ白になった。

 ◇ ◇ ◇ ◇

 吾妻幸信


「敵兵。一人も虜囚となりませんでした。深手を負ったものは全てその場で自刃。生き残りは多分……」

 逃げだした奴らは全て住民が逃さなかった。
 物干しざおと包丁で止めを刺したという。

 その時の形相は見たくない。
 こんなに平和を愛する者たちが悪鬼のようになる戦乱の世。

 早く終わらせねば。

「敵兵の死体の収容は住民に任せ、我々は南へ向かった敵兵2500を追う。
 那和城が危うい。殿の住処を、家族を守れ!」

 松風様
 楓様
 お市様
 お春様

 大合唱が起きた。

 このような大胡の民から何故謀反人が多数出たのだろう?
 何かがあるはずだ。
 公安の仕事、誰がやっているのだ?



 ◇ ◇ ◇ ◇



「ヨーロッパで珍重される模様と陶磁器」

 これを説明すると長くなりますので省略いたします。
 重要なのは模様。
 幾何学模様は基本的に日本よりも西洋中近東などが大好きなものですね。
 シンメトリーという奴です。

 日本はわざとバランスを崩す。
 よって日本的美意識には合致しない。
 これ結構フラグで出しています。

 ついでに陶磁器ですが大陸の景徳鎮から輸出されるものよりも早く赤色を完成させていたりすると結構こっちの方が人気が出たり。

 さらに浮世絵と西洋近代美術との関連性。
 ゴッホなどの印象派が好んで取り入れた浮世絵。
 これに変わって楽絽派の作風が世界を侵食していく!

 世界中にメ〇トとかとら〇あなが出来てしまうw


「六間道路」

 実際にあった伊勢崎の道路の名前。

 今では知りません。
 多分拡幅工事で名称が変わっているかも。
 出来上がった当時は12mの幅がある道は珍しかったんじゃあないかと。


「市庁舎前の広場」

 東が長い倉庫に塞がれていて逃げ場がない。
 逆に巡邏隊の切込みによる横撃の心配がない。
 よく見つけたね、
 吾妻隊長、偉い。


「通信基地」

 これを抑えるのと押さえないのでは優劣が決定的に変わってしまいますね。
 例えるなら通信衛星。
 ネットが寸断されたらどうなるか想像できるかと。
 インターネットは軍用に開発され(最初は学術ネット)民間に開放されてあっという間に広まりました。


「三の丸」

 最初からここの籠らなかったのは勿論、迂回されてしまえば赤井の後背を衝かれてしまうから。

 それを防ぐための捨て石ですね。
 ここで踏ん張れば赤井が何とかしてくれる。
 ……そんなお人好しではないと思うが。


「両わき腹」

 やっぱりここをケガさせなくては!!

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