首取り物語~北条・武田・上杉の草刈り場でざまぁする~リアルな戦場好き必見!

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第35章:東部戦線

【桐生・2】大迂回。神出鬼没部隊

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 1559年5月6日夕刻
 上野国桐生阿左美沼南方2町
 広沢忠順
(桐生西部の土豪の三男。小栗とは関係ない、筈)


 阿左美沼の堤防は壊されていないようだ。
 殿が10年以上かけ、赤城南面に作られたため池の中でも最大級のため池だ。
 巨大な堤で大量の水を湛え、地域の水がめとなっている。

 これと同じ程度の大きさのものは華蔵寺の北方にある波志江沼くらいだろう。
 これを壊すには時間がいるであろうが、もしも壊されると大変な被害を被る。

 桐生の街を焼くやつらだ。何をするかわからない。

 ここの地形は隘路となっている。
 ここに殿軍を置き、整然と退却するものだと思っていたが。
 新田金山への道を急いだか。

 だがこれから陽が落ちる。
 そんなに急行する必要がるのは何故なのか?

「伝令! 高津戸城からの信号を確認。包囲していた敵のうち2000程が西進。
 駆け足です。大胡方面へ消えました!」

 まずい。
 どちらを優先して叩くべきか?
 目の前の敵は新田金山に行軍する必要はない筈。
 あそこは既に大軍で囲まれている。

 そうなるとできうる限り早く大胡と華蔵寺に向かいたいだろう。
 この阻止部隊を振り切るための急行軍か。
 夜間行軍もできる練度なのか。

 そうなると此処にいても意味がない。

 敵は電撃戦を仕掛けているのだ。
 補給は考えていない。腰兵糧だけで10日は作戦が継続出来るだろう。

 どちらかを追うべきだ。
 桐生の街は後備兵に任せてこの隊は、本来の予定行動をとらねば戦域全体の作戦が崩壊する。
 
 大胡城は10年前には大した規模ではなく、堅城とも言えなかった。

 那和城へ殿の居城が移ってもあまり増築はなされなかった。
 赤石城は砦を城に増築したが平城。
 普通の城と変わりない。

 どちらも危険。

 まさか敵が二手に分かれるとは思わなかった。
 3000程の兵を分ければ城攻めは出来ない。

「前方の丘の鞍部へ上り小休止。
 再び索敵班作戦行動。頼んだ」

 既に索敵班は半数に減っている。あちこちで索敵班が襲われている。
 弩弓による待ち伏せだ。

 この地域は丘陵が所々にある。せめて茶臼砦からの観測、捜索が出来れば。

「本部分隊。俺についてこい」

 阿左美沼の堤からならば少しは視界が良いかもしれん。

 あまり期待はしていない。
 その北はもっと高いから。
 そうでなくてはここに沼など作れない。

 登りきると南西に向かう敵軍500が足早に行軍しているのが見えた。
 やはり赤石城へ向かうらしい。

 夜間行軍で後を追うのは危険だ。
 しかし地の利はこちらにある。
 兵たちの多くはこの辺りの民だ。
 足元さえ見えれば何とかなるだろう。

 幸い今日は満月に近い。

 !

 西方5町余りの所で索敵班が狩られている。兵の一人はこちらへ向かって何かを叫んでいるようだ。遠くて聞こえない。
 せめて望遠鏡があれば何かわかるかもしれないが、あれはまだ大量生産できないそうだ。

 倒れる間際。
 偵察兵は西を指して叫んでいた。

 西を見る。
 だが丘に隠れて、更に夕日が眩しく何も見えない。

 しかし索敵兵はそこに「なにか」を見たのだ。
 最後にそれを伝えたかった。

 直感。ここは危険だ。

 もし。
 もしもだ。

 高津戸城の包囲を解いた宇都宮勢が、大胡へ向かったと見せかけて桐生の西方、つまり俺たちの後方に回り込み……

 まさか。そんなに早く移動できるはずはない。

 できたとしても小規模な部隊だ。
 この鞍部にて迎え撃てば……

「敵が引き返してきます! 距離6町」

 ちぃい。

 これは囲まれる可能性が出て来た。
 しかもその脅威は見えない。
 夕刻の射撃は当たらない。
 ましてや夕日に向かってなど不可能。

 敵はそれを意識してか西方に寄りながら進軍してくる。

「桐生の街へ後退!
 殿軍は第1分隊。第2分隊が先行して包囲されないか確認。阿左美の丘の北部を警戒せよ。皆、腹を決めよ!
 戦になる」

 自分に言い聞かせるように大声で皆に気合を入れた。

 ◇ ◇ ◇ ◇

 同日
 岩宿沼東方3町
 赤井推政
(いよいよ通常の3倍のスピードw)


 西には鹿田山。
 その向こうに岩宿のため池がある。

 これを作るときに政賢は
「なにか小さな鏃みたいな石が出て来たら教えてね。
 見に行くからね。捨てちゃだめだよ~」
 と、いくつもの破片を収集して持ち帰ったとか。

「昔の人の使っていた鏃かもしんないから大事、大事」

 そのような事に時間を割いている彼奴だが、それ以外にも不可思議な行動をとっている。

 しかしそれが後々になって重大な意味を持ってくるのだ。
 まさか新型の鏃を作るので持って行ったのか?

 いや。今はその様な事を考えている時ではないな。
 大分索敵兵を狩る事が出来た。
 まだこちらの位置を知られてない公算が大きい。

 だが先を急ぐ。
 輿を担ぐ者にも声を掛ける。
 機動力は何よりも勝る。
 背後から襲えば敵は組織だった防戦が出来ないまま崩壊する。

 ましてや西から幕部の500が迫っているのだ。
 450に兵ではいくら銃撃が出来ても急速に近づく兵にあてられるものではない。

「桐生西、渡良瀬川西岸に敵影無し。一気に突っ走りますか?」
「そうしよう。もう10町もない」

 大迂回した割には兵が疲れていない。
 大胡の領地は大分平坦に均されている。
 足腰に来ないで機動出来た。

 これから殲滅戦だ。
 この正規兵を倒しておけば後顧の憂い無く大胡の心臓部へ進軍できる。
 その始まりはここで「鉄砲を手に入れる事」からだ。

 火薬は既に優先的にこちらへ回してもらえた。
 訓練もしてある。
 大胡はこちらに鉄砲がないと高をくくっているだろう。
 びっくりするだろうな。

 では始めようか。




 ◇ ◇ ◇ ◇

 同日半刻後
 広沢忠順
(罠に掛かっちまった)


 突出し過ぎたか?
 いや、これは仕方ない。多分こちらの作戦方針を見透かされての敵の策だろう。
 しかしそれを実施できる宇都宮の指揮官と部隊がいるのか?

 その部隊が北西から姿を見せた。
 幟を立てている。

 ほうき星の印。
 ☆彡
 
 成程。
「全てを」機動力へつぎ込んだか。
 ではお相手しよう。大胡の銃撃を受けてみるがいい!

「全隊。傾注! 
 ここが正念場。方陣を敷いて敵に銃撃。当たらなくてもよい。
 できる限りの速さで装填。各個射撃。敵を寄せ付けるな!」

 そして450人の方陣を作り出した……
 その時には敵は目の前に迫っていた。

「第1射! 前衛だけでも倒せ! 敵が怯える。その後連射!!」

 俺のその声が届く前に敵が突っ込んできた。

 しまった。
 銃剣を付けるいとまもなかった。
 皆、腰に吊るした銃剣を抜いて最後の抵抗を始めた。

 ◇ ◇ ◇ ◇

 30分後。日の入り直後
 赤井推政


「やあ。うまく行ったな。これで鉄砲が手に入った。この敵兵の処置はどうする?」

 幕部が聞いてくる。
 こいつは軽いな。
 そしてチョロい。

 統率はうまくできるが、直ぐに敵の罠に引っかかるだろう。そんなことも自覚できずに、今度の戦闘で敵が罠にかかったのを自分の手柄と見ているらしい。

「ああ。戦死が多いな。
 手槍で一突き。即死者だらけだ。軽傷者だけ連れ去る。背後に敵はなるべく置きたくはないからな。解放すれば必ず再武装して復讐戦を挑んでくるに違いない」

 此奴は捕虜を解放しようとしていたらしい。
 後の内政の事を考えているのだろう。

 しかしな。
 既にお前は桐生の街を焼いたのだ。この恨みはお前に降りかかってくるのだ。民の気持ちがわからない奴は支配者になってもらっては困る。

「そうか。では綱で数珠つなぎにして馬で引っ張っていくか」

 ……こいつはどれだけ人の気持ちがわからない奴なのか。
 そんなことをすればどれだけの恥辱と思わせるのか推察できないとは。

「好きにするがいい。お前の手柄だ。捕虜はそちらの隊に任せる」

 朧月夜が台無しだな。

 戦をする奴らは正義も何もない。
 どちらの言い分が正しいとは限らない。

 只々、血を流し合うだけだ。
 憎しみの垂れ流しか。

 私には関係ない。
 憎しみを受け止める前に走り去るのみだ。


 ◇ ◇ ◇ ◇



「小栗上野介忠順」

 有名?な赤城の徳川埋蔵金を埋めた人物にしたてあげられた人。

 この旗本の領地は榛名山の西、倉淵村の権田という山間の集落でした。
 頭が良すぎたんでしょうね。この人は。働き過ぎの忠誠心暑すぎ(!)るお役人様。暑すぎて慶喜くんに嫌われちまった。




「阿左美沼」

 勿論、その当時はない。
 ため池がなぜか今では桐生競艇のレース場になっている。
 流石、国定忠治のお膝元ぐんま~。
 昔から賭け事が大好き。

 オートレースも伊勢崎にあるし。
 昔は競馬もあった。

 ついでに太田で陸軍の隼作っていたからベアリングの玉使ってパチ作っちゃうしw


「岩宿とため池」

 このため池もその当時はない。
 この岩宿付近は鹿田山という丘陵地で、視界が開けている。
 そのうち重要になるので覚えておいてね。


「新型の鏃」

 そんなものはない!
 あるのは主人公の遊び心だけ!


「☆彡」

 なんか可愛い印になっちゃいましたw




「戦死者が多い」

 大胡の特徴。
 全滅すると悲惨なことになる。
 最後まで戦うからなぁ。
 戦前の陸海軍より酷そう……




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