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第35章:東部戦線
【金山・1】そこ。我攻めはしない方がいいよ~
しおりを挟む1559年5月5日
上野国新田金山城南方10町
上杉謙信
(皆様のイメージ通りの格好をしています。表情は大分きついですが)
これは落とすのに手間が掛かる。
あの物見台。この周辺が一望のもとであろう。攻め手がどこに兵を集中させても対応できる。
その攻め口も危険そのもの。見た事のある者が申すには虎口が石とこんくりいとで固められていて門も大砲でも一苦労するくらいの作りだという。
その攻め口に殺し間が出来ているらしい。
水の手も池が2つあり井戸も豊富だとの事。
これは包囲をして敵の後詰を追い払い、戦い続ける意志を削るしかあるまい。
その間に武田が尻尾を撒いて信濃に逃げてしまっては大胡に打撃を与える事能わぬ。
里見は単独で講和を結んで梯子を外すつもりでいたらしい。
江戸周辺や品川南に上陸しては撤退を繰り返して大胡の太田隊を引き付けている。
そこへ三浦半島に上陸、根拠地を作っての停戦か。
ついでに大胡の水軍を潰す気であろう。
同盟とは自分のためにするもの。
自分の不利となる和平は望まぬ。
里見は三浦半島が狙い。
武田は既に後がない。
大胡に決定的な一撃を与え軍資金を手に入れる。
山賊だな。
甲斐の山猿とはよう言うた。
宇都宮は佐野と館林が欲しい。
佐竹は銭目当て。
里見と大胡から江戸湾への通行を保証してもらうこと。
そして儂は。
大胡の首を取る。
……だが、今は叶わぬ。
まだ手が届かぬ。
先の付け髭馬顔の奴にごっそりと精鋭の国衆を討ち取られた。
再起を図らねば。
まだ宇佐美の下に半数の国衆がいる。
半分は越中や加賀からの参陣だが、これを纏めて再編せねば。
そのためには、まず越後へ帰る。
その道を確保するために大胡に打撃を与える。
まさかとは思うが、宇都宮の配下、赤井とかいうたか。
あの者の献策がうまく行くとは思えぬが、後方を撹乱してくれれば西進し馬顔の隊を右往左往させてやろう。
大胡の本隊が帰るまでが勝負。
この堅城を包囲して放置。
10000程度の兵で釣られて出て来た兵がいれば野戦で撃破。
那和城に籠れば乱取りしてから越後へ帰るか。
宇佐美の爺がそれまでに沼田を落とすであろう。
それを交渉材料として和平を。
「御本城様。途絶えていた沼田よりの繋ぎ、取れまして」
「申せ」
「はっ。宇佐美様捕らえられ自刃。
柿崎様捕らえられ南へ連れ去られたとの事。
総指揮は景信様が取られ、御本城様の到着を待つため城の北部にて包囲中。
軍勢は約半数に」
な、なんだと?
何が起きた。
宇佐美の爺が率いていて。この壊滅的な結果になるとは。
軒猿に引き続き詳細を連絡させるように指示した。
もう沼田からの北上は無理であろう。
吾妻渓谷から万座か鳥居峠を通るか。
(渋川)白井城を落とせばすぐに帰れよう。
岩櫃も落ちる頃あい。
まだ軒猿が側で膝をつき畏まっている。
「まだあるのか?」
「はっ。岩櫃城の攻め手。難航との事にて。今暫し時間が掛かると情報が」
!
そちらも無理なのか?
大胡との和平。
やはり外交に頼るしかないが、こうも条件が悪くては講和の約定が不利になりすぎる。講和をせずに伊達と最上に妥協して奥羽の道を使うか。
後はあの者の献策。
女房衆の人質が成功するしか道がなくなった。
これからの策は、全てその成功を目的としたものとするしかあるまい。
儂は悔しさで手のひらに爪が食い込み血がにじむのを感じていた。
◇ ◇ ◇ ◇
1559年5月5日
上野国那和城奥
楓
(久々の登場。ほんと、ヒロインなの?)
「母上様。父上は武田に勝てますよね? 大丈夫ですよね?」
政賢様にそっくりな顔で不安そうにわたくしを見つめる松風丸。
今日は端午の節句。今年で5歳になる松風丸の祝いはこの戦が終わってからですね。今はここにいる女房衆だけでお祝いをしましょう。
「まあ。松風ちゃん。お父様を信用されていないのですか~?
お父上はお殿様になって8歳で初陣。その後一度も負けたことがないのですよ~。
うん、大丈夫ですよ」
お市殿が明るくあやすように松風丸に語り掛ける。
身振り手振りも添えて尾張の話も交えて「大丈夫」と安心させようとしてくれる。
有難うございます。
「松風様は政賢様のお跡目を継がれるのでしょう? 大胡の戦いを安心して見ていられるように家臣を信頼、信用しなければ。家臣は大事です」
春殿も心なしか不安そうではありますが、一生懸命松風を心配させないようにしてくれている。
有難うございます。
「でも、この前父上がこれは内緒だけれどといって、僕が跡目を継がなくてもいいよと仰ってくださいました。できる人がいればその人に後を継いでもらうのが一番だと」
なんという事を!
政賢様。そのような事をお考えでしたの?
なぜそのような大事なことをわたくしに仰っていただけなかったのでしょう!
それはあとでお伺いせねば。
「え~? 松風ちゃんはお殿様にならないの? それでもいいの? 政賢様もひどいわ!」
「なんと無慈悲でご無体な事を。それでは家臣が納得いたさないかと」
2人は大変な剣幕で捲し立てます。
周りのお付きの女官も顔色を変えていますね。
……一人無表情の者が。
お春様に付き従ってきた女官です。
風魔の出だとか。
流石は忍者ですね。
でも言わなければいけないですね。
「皆さま。このことは内密に。口外は厳禁。破った方にはそれ相応の処罰があるでしょう。そして……」
私の苦手な怖い顔を苦労して作り、松風の顔を睨みました。
「お父上のご意向は後で直接この母がお伺いいたします。
問題は松風。
父上が秘密と言ったことを破り皆の前で喋った事。これは許されませぬ。反省なさい。
もう其方は5歳になります。その事、聞き分けなさい。
家督を継ぐにせよ何者になるにせよ、人との約束はたがえてはいけませぬ。これだけは確と申し伝えます」
松風は今にも泣きじゃくりそうになりつつも耐えている。もう子供ではないと思っているのでしょう。
でもそれは堪えなくてもいいのですよ。今のうちにうんと泣いておきなさい。それが出来るうちが幸せ。
泣くこともできなくなることが不幸のどん底なのでしょうから。
「ここにいる皆様にお願いです。
この戦乱の世、何があるやもしれませぬ。大胡が滅びることもございます。それでも私たちは生きましょう。どんな辱めを受けても、どんなに苦しくても死ななければ明日は来ます。
みんなで幸せになれるように努力するのが大胡の民。そしてその模範となるのが松風、貴方なのです。後継ぎとかなどではなく、大胡の一員として恥ずかしくない人になりましょう。それが一番重要な事。よいですね」
わたくしの目の前に座り、少しだけ零れ落ちそうになっていた涙を手の甲で拭いながら松風はコクリと頷きました。
それを見てからここにいる皆様と一人ずつ視線を交わしながらお願いしました。
「松風は人として生きていきます。決して殿さまではありませぬ。
政賢様も同じ。
人として生きています。仕事が大名だというだけの事。
松風もどのような仕事に就くか分かりませぬ。
それだけの話。
ですから人として立派な一角の男に成れるようお助け下さいますようお願いいたします」
わたくしは三つ指をついてお願いしたい気持ちを抑え、皆さまの表情を探りました。
皆さま色々な思いを持たれている気持ちが波動として伝わってきます。
わたくしは幼き頃よりこの波動を探るのに長けてしまいました。
母の顔が全く変化しなくとも色々な気持ちが伝わってきますので。
お市様、春様。
それぞれお二人に付いている女官一人。
わたくしの絹と政賢様の乳母、お福。
そして護衛の任についている素ッ破の者。
忍者の2人からは殆どそれらしい波動は伝わってきませんでしたが、素ッ破の者からは畏まった波動。
お春様のお付きの者からは何やら少し戸惑いの感情が伝わってきました。
風魔の複雑な事情に関係するのでしょうか。
少し気を付けなくては。
ですがこの千波。
毎日厠の掃除を買って出て綺麗にして廻っている働き者。
きっと根はやさしい人なのでしょう。
「はい。ではそろそろお祝いに戻りましょう。
福。柏餅の用意は出来ておりますか?
準備をお願いね」
少しでも晴れやかな日を大事にせねば。
1日1日を大事に生きる事。
これが一番大事と政賢様が何度も仰っておいででした。
自分に言い聞かせるように、何度も何度も。
わたくしも何度も何度も松風に声掛けを致しましょう。
何度も何度でも。
◇ ◇ ◇ ◇
お読みになられておられない方もいるかと思いますが、
「見せてもらおうか。シュタイ〇ズ・ゲートの選択とやらを。」で「民主主義国家」にっぽん、と宣言しております。
天皇=帝は象徴天皇。
それでも支配者は「だいろくてんまおう=政賢」なのですw
この複雑難解さを後々整合性を持たせていくのが大変だぁ~
「新田金山城」
これは孤立しない限り落ちませんね。
正史では周りを全て敵勢力に囲まれたから落ちただけで、普通にやったら絶対に落ちそうにない。
それをベトンで固めたって……。
どうなるの? いったい。
そして守るはあのこわ~いおばはんw
謙信はゆっくり包囲戦していられないから、ほぼ無理。だけど……。
「謙信、涙目……」
宇佐美さんと主力がいなくなっているとは!
やっとザマァできた!
「人として生きる。殿さまは職業」
これがこの作品の根底に流れる主張です。
あまりにもこれが固すぎて読みづらくなってしまっています。
もうちょっとライトにできないものか。
仕方がないんですよ。
今までの作品のアンチテーゼとして創作しているから。
「遊びをせんとや生まれけむ 戯れせんとや生まれけん」
と同じくらい硬い政賢の信念です。
最近、遊ばせていないんですよね~。もうちょっと遊ばせたいんですがw
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