首取り物語~北条・武田・上杉の草刈り場でざまぁする~リアルな戦場好き必見!

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第34章:駿河方面

組織って重要~

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 1559年5月1日
 駿河国入山瀬城北東10町
 滝川一益
(やっぱり通常、公爵と呼称しよう。デュークなんだろ?)


「昌豊の奴。家臣を引き抜かれたな。まさかここまで御屋形様……信玄坊主が無茶をするとは」

 望遠鏡から目を離した原殿が独り言を言いつつ、遠くを見る。あちらは甲斐国か? 将又下仁田方面か?

 やはり信虎殿に見いだされ、活躍した原殿。
 武田とは戦いたくはないだろう。

 信玄も晴信と名乗っていたころが絶頂の時だったらしい。
 全てが上手くいっていたと。

 全ての戦で勝つというわけではなくとも、ばらばらであった国衆が同胞という意識が芽生えていったのは晴信、信玄の力量であったという。

 勿論、それ以前の信虎殿の地ならしがモノを言っていたのだが信濃計略の手口は誠に上手であったと。

 しかしそれを大胡が介入したことで空回りし始めた後、坂道を転げ落ちるように後がなくなっていった。

 砥石崩れから始まり鉄砲配備による銭不足から騎馬隊が養えなくなった。
 そこへもってきて大胡の殿の計略による多額の借財。

 「最初から計算に入れていたとは誠に端倪たんげいすべからざる御方!」
 などと殿におべっかを使う者がいたが、
 殿は「えっ?そだったの?知らなかったぁ~♪」と、いつもの調子で韜晦とうかいなされた。

 何処まで信じてよいものやら。

 信玄や信虎殿と比べて見られることが出来る原殿からすると、どっちも何が本心なのかは分からぬが、結果人が付いてくる。
 武田の国衆は頼りがいのある大名としてついていく。

「大胡は、『この人なら何か考えてるんじゃないか?でもやっぱり不安だ。お助けせねば』となる。
 普通なれば頼り甲斐の無い大名からは離れていくものなのだがな、家臣は」
 そう言って原殿は自身の率いる隊へと戻っていった。

 そうだな。
 普通に比べれば信玄や謙信の方が絶対強いに決まっている。
 泣き虫で便所に一人で行けない童みたいな大名についていけるものか! 

 だが皆が知っている。

 1万石すら届かぬ国衆であった大胡を300万石近くの大大名にしたのは、正しくこのお方がいなければ成し得なかったという事を。
 そしてこのお方がおらねば大胡はばらばらとなることに。

 たとえ謀反を起こして独立したとて、また殿を暗殺・謀殺したとて、その犯人は大胡の者、上は武将から下は童まで、全てを敵に回さねばならないことに。

 そのような仕組みに変えたことが、殿の最大の功績だ。
 多分多くの者は技術だの銭だのに目を向けて「大胡は凄い」とか言っているのだろうが、全く違うのだ。

 何が違うか?
 それは、「組織」だ。
 
 鉄砲に例えるなら、皆、鉄砲の威力に目をやる。凄いという。
 少しわかるものは火薬の量や鉄の生産の事に目が行く。
 だがそれも違う。

 兵も鉄砲も火薬も用兵もなにもかもを決めるのは、その使用する「組織の仕組み」だ。甲斐は所詮、国衆の集まり。

 対するに大胡は「国民」一人一人が意志を持って行動する。
 その忠誠が大胡へ、政賢という小男へ向けられる。だから謀反が出来ぬ。
 自分の兵すらも言う事を聞かぬ。

 今までの鉄砲は部品が違うと組み立てられない。だが大胡製の鉄砲はある程度までなら他の部品で融通が利く。
 そこが強みなのだ。

 そして目の前にその無残な形骸と化したが群れを成している。

 国衆をばらばらにするだと?
 いくら精鋭を集めたいからと言って、そのようなことをすれば組織的な動きが出来なくなる。何をそんなに焦っているのだ? 
 大胡を見習いたければ10年の時が必要であろうに。

 まあよい。
 これは俺が考える事ではないな。

 今は目の前、川向うに布陣する内藤昌豊勢7500をことを考えるべきだ。

「各中隊長を呼んで来い。第5以外のな。あそこは遠い」

 第5中隊は入山瀬城の守備についている。あそこから呼ぶのはまずい。

「中隊長全員、揃いました」

 副官が最後の中隊長の到着を告げた。
 この独立大隊は「臨時編成」だ。
 試験的運用を任されている。組織編成の運用例を作れと。

「公爵なら、どう転んでもうまく行くから失敗してもいいよん♪」

 と言って、俺に任せられた。

 本来ならば大隊を最小単位で再編成するのがいいという事だが、流石にそこまでは兵員がいない。

 大隊ならば1000人が定員だ。
 それ以上は旅団編成だが、この狭い所で5000もの兵を動かすことはめったにない。そんな時は大会戦だけだ。

 だから中隊を最小戦闘単位として250名を6つ任されている。
 合計1500。

 だがその内250は戦闘工兵と段列だ。
 その他後方に軍属として補給専門の部隊もいるが、それは管轄外だ。

 戦闘工兵は今回前線を受け持つ3中隊に50ずつ分割配備。弾込めと弾薬補充に当たる。本来連隊とは3個大隊からなる予定だが間に合わなかったための暫定措置として独立増強大隊だな。
 あと500の兵がいるが西の今川への抑えとして出さざるを得なかった。そこでこの臨時編成だ。

「索敵は困難を伴ったが凡そ武田軍の布陣は分かった。先ほどその陣容も原殿から聞いた。
 敵戦力7500程度。
 中軍1500、
 左翼1000
 右翼1000。
 本陣3500。
 後ろ備えは500程度」

 折り畳みの台座に載せた矢盾の上に地図を広げ、敵味方の駒を指し示す。

「こちらはお前たち3個中隊900で交戦する。
 できる限り勇敢な猛者を仕留めていけ。
 残りの者は放っておけ。
 雑魚だ」

 指揮官と雑兵の指揮系統・信頼感等殆どなくなっているだろう。
 自分よりも強いものがいなくなれば逃げ出す。

「敵が前方の障害物を破壊したら狙い撃ちはそこそこにして撤退。第2防御線まで後退してそこで撃破する」

 皆が頷く。

「今日の内に決着がつくだろう。
 その時は甲斐の国へ前進。武田は何処へ行くんだろうな? まあなるべく人死にが出ないように、強ええ奴らだけ刈取れよ。それが甲斐の奴らのためになる」

 どうせここにいる連中は満足な訓練も受けていない足軽、いや農民だ。
 できるだけ甲斐へ帰って、おっかあや坊主たちの元で暮らしてやりたいぜ。

 来月辺りは大胡の国民だろうからな。

 さあ。戦だ。
 賭け事より気楽なもんだぜ。



 ◇ ◇ ◇ ◇

 同日直後
 内藤昌豊
(一番バランスの取れている武田の部将)


 先の遠くに見えた白い頭巾の男は鬼美濃か? そんな頭巾被っていても結局は目立つ御人だ。赤と言い白と言い、結局目立つことが好きなのか?

 しかし。
 こっちの全容が見透かされたやもしれぬ。寄せ集めだという事に感づかれたか。もう下手には動けぬな。
 地道に仕寄り障害物を取り除き、弓矢の支援で突撃をするのみ。作戦も何もあったものではない。
 独立して行動できるような指揮官を皆御屋形様と太郎様の元へ集結された。

 兵の集中は大事だ。だがその国衆との繋がりは崩してはいかぬ。皆が皆、御屋形様の指図に従うと頃まではいってはおらぬ。必ず間に国中や寄り親が必要。

 これが崩れた。
 大胡のせいか。

 またしても大胡の影響。全ての力を上野へ。
 それで決戦を挑もうと。
 もうそれしかできぬ。
 財政が持たぬのだ。

 今それを言うても仕方がない。
 儂の配下で、信頼のおける馬廻りだけは残せた。これを各備えに軍鑑として督戦に当たらせる。
 できるだけ地味な格好で行けと命じる。お前たちが倒れれば備えが瓦解すると言明して。

 作戦は明瞭がよい。
 敵の大将の首を取れで済めばどんなによいか。

 だが大胡はしぶとい。
 少しでも兵力を削ればその後の展開は有利となる。
 簡単な計算だ。

 敵もどうやら寄せ集めの備えだとの報告があった。
 なんでも大砲が運び込まれていてその者達や、黒鍬衆……工兵も別の所から寄せ集めてきたという。

 同じ条件だ。あとは指揮官の能力次第。儂の力とその滝川との知恵比べじゃ。

「皆、よいか。
 敵が崩れれば大砲を奪う。これで敵の横陣を叩いて全軍で押し出せ。あの大砲がある突き出した部分が狙い目。あそこを囲んで潰せば崩れる。
 何かうまく行ったならば手柄は即座にその場で褒めよ。銭では重い故、この小粒金を持って行き皆に見せてから与えよ。士気を下げない手を何でも打て。そこが武田の踏ん張りどころ。気張れ!」

 集めていた配下の者に指令を出して、半刻後に仕寄ることを伝えて帰した。

 鬼美濃の部隊がどこで出てくるか?
 出て来たならば、この儂直轄の本陣3500で支える。
 弩弓を大量に持ってこれたのは幸いだった。
 これで鬼の首でも取ってやるか。

 何故、あんたと戦わねばならぬのかな。
 義兄弟の契りを結んだ彦十郎(横田康景:虎胤の長男)の親爺殿。

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