首取り物語~北条・武田・上杉の草刈り場でざまぁする~リアルな戦場好き必見!

👼天のまにまに

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第34章:駿河方面

なんか漫画の影響強すぎるw

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 1559年5月1日
 駿河国明星山南:富士川屈曲部
 小畠虎盛
(この人、色々な説があるけど上野国の小幡とは遠縁か?)


 念には念を入れて探りを入れた。
 東の山並みを越えて来た三ツ者の知らせではこの富士川方面には500程の大胡兵が来ると言っていたが。
 数名しかおらん!

 見える所。川の砂が広がっているほんのわずか20間余りの所を通る街道上に、樽を置き腰かけている大男が1人。

 その背後に矢盾に隠れて数名の人影。
 西から富士川に張り出したような尾根筋の上に小さな祠があり、その辺りに10人以上の人影があるという。

 それ以外にはいない?
 流石にそれはないだろう。

 いくら東岸明星山を槍を持った足軽が通れぬからと言って、街道にいる数名の者で400の兵を防げるものではない。

 どうせ大胡の事だから狙撃に長けた者が揃っているのであろうが、20丁程度の鉄砲では兵を次から次へと繰り出せば銃撃が持たぬ筈。

 あれか?
 鉄砲を一人何丁も持つという贅沢な使い方か?

 それならば矢盾で防げる。
 なにもここを突破する必要はないのだ。
 この川原で陣を構えて敵を通さぬこと。

 これが目的ぞ。
 これを待ちごうてはならぬ。

「お~、やっとお出ましか。
 武田の衆。
 待ちくたびれて涙が出て来たわ。
 欠伸が止まらん」

 1町と少し先。
 鉄砲の効果なくなる辺りまで近づくと、大男が言葉合戦を仕掛けてくる。
 そのような手に乗るか、馬鹿者が。

「ひぃ、ふぅ、みぃ、よぉ。
 おお、たった400程度ではないか! 
 なぜもっと連れてこぬ!
 楽しみ甲斐の無い奴らめ。
 ああそれだから甲斐がないのか?
 これは失敬! 
 これから甲斐を無くすのか? 
 武田は。
 それでは大胡が拾うてやるから安心せい!」

 此度率いているのは、殆どが新規に徴兵された者共。老練なものは殆ど御屋形様の下で上野に向かった。
 この下劣な煽り台詞を聞かせていては士気にかかわるな。

「遠矢の得意な者。あの大口を黙らせよ」

 10人程、弓兵を付けてもらった。
 それ以外は急造の手槍しか持っていない。
 それすらない者もいる。

 こちらは人数合わせ。

 ここで粘っている必要もない程に内藤殿が素早く決着をつける手筈。
 7600で1000を押していくのだ。
 矢盾で仕寄ればすぐに決着がつく。

 あの大男は矢盾に隠れる気はないらしい。
 遠矢程度では避けられるか。
 せめて矢盾に引っ込めさせることが出来れば。

「放てぃ!」

 物頭の合図とともに10本の矢があの男へ飛ぶ。的も大きい故、もしかしたら当たるかもしれん。

 だが!

 あの男、立ちもせぬ。2本ほど近くを通った。

 なんだとっ!?
 わざとらしい欠伸をしながらその内の1本を左手で鷲掴み。

 ミシリと粉々に粉砕した。

「これは良い馳走じゃ。団子でもあれば武田の矢にて突き刺し食えるものを。酒でも飲んで花見ならぬ弓矢見物でもしようか。
 おい、酒あったか?
 持ってきてくれ?
 なに?ないだと?
 それは残念。
 おっと、この腰かけているものは酒樽であったか」

 大げさな身振りで騒がしく声を上げたかと思うと、大男は手にした先程ほどの折れた矢鏃を勢いよく樽に差し、家臣の持ってきた升に注いで飲み始めた。

「おおっ。これは美味! 流石殿の酒倉からくすね……頂いた酒じゃ。どうせ敵は攻めてこぬ故、心行くまで味わおう。おっと、酒は攻めて来てもやらぬぞ!」

 調子に乗りすぎるなよ。
 物頭に慌てるな、うろたえるなと足軽を宥めさせる。

 仕方ない。
 士気が落ちる。
 後方へ退くか。
 将又夜襲をするか。

 後退すれば益々士気が落ちる。
 だが狙撃兵の中へ突っ込むのも危険。

 夜襲には練度が足りん。

 彼奴!

 寝転がり肘を立てて居眠りを始めおった。
 これでは士気が保てぬ。

 仕方ない。
 夜を待ち一斉に突撃するか。

 下は幸い砂地。
 街道もしっかりしている。
 手槍を持っているものを先手として50程繰り出せば、いくら豪勇のものとて包囲されてそれでしまいよ。

 儂は手勢に夜襲をすることを伝えた。

 ◇ ◇ ◇ ◇

 同日夕暮れ
 穀蔵院忽之斎こくぞういんひょっとさい
(遂にこう名乗り出した前田慶次w)


 つまらん。

 なぜ襲って来ん。
 ひょろひょろ矢が10本。
 敵400の内弓兵10か。
 長柄もない。

 ここは単に見せかけの数合わせか。

 もう少し来ると思ったがな。
 兄者、頑張れよ!

「旦那。仕掛けは完了。夜討ちの準備もできました。20間までなら足軽の桶側胴を打ち抜けますぜ」

「おう。ありがとな」

 殿がお目付け役でつけてくれた伊賀者、たしか抜け忍を引き取ったとか。
 他にも引き取ったというが益々面白い殿さんじゃな。
 何を条件にしたものやら。

 左の崖は峻険で手槍など持っては上がれん。
 登るだけで精一杯。綱を張らねば上ること能わん。

 やるとすればこのすぐ近くの低い所だな。
 祠の下。
 そこには10人程、鉄砲の手練れを配置した。

 華蔵寺で借りてきた(作者注:盗んできた)新型の燈明も用意した。

 街道にはどうせ手槍を持った足軽が突進してくるんだろうが、篝火の中。
 強そうなやつを鉄砲で倒せば後は雑魚。
 敵の大将の首でも取るか?

 いや。あまり目立ってはいかんと言われている。
(作者注:もう十分に目立っているがw)

 兄者が南部正面の敵を撃破したら、こっちも突っ込んでいいと言われている。
 ……が、敵が攻めて来たら、それは向こうの責任だ。

 俺のせいじゃない。
 ぶちかましてやるか。
 戦は楽しまねばな。

 ◇ ◇ ◇ ◇

 同夜
 小畠虎盛
(戦力がない軍勢持たされた可哀そうない人)


 幸い、足元が明るい。
 今日は満月に近い。
 朧月夜に戦など風情がないが仕方あるまい。

 これが今の世だ。

 突然、横笛が響き渡る。
 小鼓も鳴り出した。

 先の横柄な武将がいた場所からはもう20間もない。
 そこには当然ではあるが篝火が焚かれていた。

 その灯りの中。
 舞いを舞う影。
 あの大男だ。

「なんじゃ。一緒に舞いに来たのか? 然らばきりきり舞いにさせてやろう。
 因みにな聞いてくれんからこちらから言うが、今の舞は歌舞伎踊りというものよ。冥途の土産に良いものを見たな。
 覚悟せい!」

 そう大男は言うと、忍び足で近寄ってきていた者共が明るく照らし出された。

「これはな。龕灯がんどうというものよ。
 眩しいであろうが。
 よし。十分引き付けた。
 放てぃ!!」

 轟音と共にこちらに放たれた焙烙が爆発した。
 その後に狙撃が開始された。

 くそっ! 

 やはりこうなるか。
 あとはあの武将を討ち取って前へ進むしかあるまい。

「敵は一人じゃ。囲めばあっという間に片が付く。狙撃も近すぎて当たらぬぞ。
 安心して槍働きせよ!」

 そしてその武将へ向かって名乗りを上げた。

「我こそは甲斐にその人ありと知られた小畠虎盛! 一騎打ちを所望致す!」

 此奴を倒せばよいだけの事。
 一気にここを抜いて敵の後背を衝いてやる!



 勿論
 小畠虎盛さま。お亡くなりに。
 書くほどの事はございません。槍一閃でおしまいです。



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