首取り物語~北条・武田・上杉の草刈り場でざまぁする~リアルな戦場好き必見!

👼天のまにまに

文字の大きさ
上 下
300 / 339
第32章:橋の上のホラティウス

斬合・1

しおりを挟む
 1559年4月下旬
 上野国下仁田西部馬山西城
 冬木梨花
(容姿端麗才色兼備戦略戦術兵の統率抜群。さらに忍者顔負けの体術とか、何それ?)


 攻防3日目。
 何とか持久戦態勢に入った。
 サンカの人たちが背負ってきた楓2号の威力はすさまじい。

 中隊長と小隊長たちは銃の腕は確か。橋を落としたことで接近戦での数を頼んでのごり押しはなくなった。

 今までの頼りない遮蔽物に加えて、武田からの略奪……
 捕獲品の矢盾によってより安全に射撃ができるようになって、一方的な攻撃が出来るようになってきた。

 あと問題なのは左右の尾根からの狙撃。

 それにやられて次第に死傷者が増えてきている。
 既に半数が死亡若しくは重傷。

 残りの隊員の内50人以上が何らかの傷を負っていて、真面に動けるのは20名を切っている。

 これはもう全滅に近いわ。


「梨花ネェ。もう潮時なんじゃね? 
 この戦場。アタシは逃げる準備を……」

 城の搦め手門に向かおうとする揚羽の首根っこを掴んで言った。

「あと1日。
 あと1日で多分、武田の先手9000が大胡の本隊に捕捉されるわ。それまでここで粘らないと更に数百の命が失われる。大胡だけでそれだけ。武田はそれ以上ね」

 武田も最後まで粘れば、もっと命が失われるでしょうけれど。

「じゃあ、オネェはあと半日どうするんだ? こんなところで休んでいていいんか? 楽でいいけど」

 もう半日続いている射撃戦。
 そろそろ火薬も尽きてきた。

 元々あった火薬と、サンカの人たちが背負ってきたものがそろそろ尽きようとしている。これが尽きたときがこの防御拠点を去る時。
 上手く撤退できるといいのだけれど。

 重傷者は置いて行くしかない。
 ……もうみんな覚悟は決めている。

 どうせ武田は大胡の兵は捕虜として生かしておかない。
 これまでしてきた大胡の「武者狩り」の復讐を遂げるでしょうから。

 でもまだ動ける軽傷の人をどうしましょうか。それに今戦っている人も、もう疲労で体力の限界。
 無事逃げることが出来る?

 北の板橋は落としてある。
 今の時期増水で流れが急だからそう簡単に復旧は出来ない。
 だから国峰の連中は渡ってこれないけど、こっちも撤退路に使えない。

 東の馬山川を渡る位しかない。綱を伝った行動が出来る体力が残っている人は、もう数名しかいないのでは?

 風魔本隊はこちらへは来ない。

 「2人で何とかしてくれ」
 と小太郎隊長が仰っていた。
 
「あまり考えてばかりだと、顔にしわが寄るよ、オネェ」

 お気楽そうに乾パンを砕いて捏ねた粥状の物を口にしながら、サンカの人たちが置いて行った大きな革の水袋から水を飲んでいる。

 私もそれと同じものを口にしてから大きなため息をついた。

 水ももう汲みに行けない。
 残るはこの革袋幾つかだけか……

 革袋……持ちあげてみる。
 結構な大きさがある。

 サンカの人たちが携行用に持っているものよりも、はるかに大きい水汲み用と言っていた。

 これは有難いな、と思っていたけど。
 これはもっと有難くない?
 
 に使える!

 これ一つで多分人一人浮かせられる。
 更に城内には厚手の布があった筈。
 あまり大きくはないけど紐でくくって、いくつか体につければ相当な浮力が得られる!

 これでこの急流を下る。
 これしかない。

 最初は馬山川、そして合流したら鏑川?
 最初から鏑川という手もある。

 私は西の鏑川を見に行こうとして、恐ろしいものを見てしまった。

 夕立が来る!

 この時期には珍しい雲。
 だけど信濃ではたまにあった。

 急な増水で子共が流されて大騒ぎとなった。
 手早く揚羽にその逃走路を説明し、中隊長の大野様に説明させに行った。

 私はどこが一番都合の良い降り場所。
 流路であるかを確認するために西側から見に行った。

 そして。
 さらに恐ろしいものを見てしまった。

 武田の忍びらしいものが西の尾根から綱を張り、そこから渡ってきている! 
 既に4、5……6人。
 まだまだ後続がいる。

 更に綱を張り今度は鎧武者を送り込んでくるつもりの様子。

 増援は間に合わない。
 これはもう、一人で阻止するしかない。

 私は、城の大手門から真っ直ぐにその場所に突っ込んでいった。


 敵の三ツ者独特の小さな甲高い音がする笛を鳴らされた。
 遠すぎて倒せなかった。

 あと5間。
 走りながら肩越しに左右の拳銃を抜き放つ。 

 両腕の手首につけている革の手甲に引っかけ撃鉄を上げて、既に先頭態勢に入っていた正面の敵の顔面を狙って散弾を発射。

 即座に腰をかがめる。
 私の上半身があった所を、右手から音もなく接近してきた奴の刃が薙ぎ払っていた。

 その敵の腹に残りの散弾を叩きこんで、左手から近づいてくる敵の顔面に、右手の空になった拳銃を投げつける。

 腰を沈めて躱す敵の頭の側面を転がりながら右足で蹴りつけて転がした。
 倒れたまま右手で腰の後ろにつけてあったの小型拳銃を取り出して撃つ。

 私の銃声で揚羽は気が付いたはず。
 増援が来るまで食い止めねば。

 残る銃を左手で腰裏から取り出し牽制する。
 流石に容易には近づけない。

 こちらの先程の動きを見て対応を考えている。

 でもこのままじゃ
 武者たちが渡ってきてしまう。
 手槍を持ってこられると危険!

 こちらから攻めるしかない。

 あと3人。
 敵の得物は短い直刀。
 逆手に持っている所を見ると、左手にも何か持っている。
 左にいる敵を至近距離からの射撃で戦闘不能にする……

 まずい。
 腹をかすっただけ。

 左腕に敵の右腕の直刀が突き刺すように繰り出されてくる。
 即座に右手に持ったの拳銃で払いのけ、今度は逆に左腕の拳銃の刃で敵の脇腹を薙ぎ払う。

 まだ一人いる。

 背後に殺気を感じ、転がりながら銃剣をその場に突き立てて、空いた右手で懐からあるものを取り出した。
 左足の踵で回転しつつ勢いをつけたその皮袋(注)が背後の敵を襲う。

 敵は危うく身を躱そうとして、腕でそれを受け止めてしまい、忍者らしからぬ声を上げた。

 骨がメリッ、と音を立てて粉々になった筈。
 鉛の入った皮袋。
 これに遠心力を付けて敵にあてればどうなるか、考えればわかること。

 三ツ者は倒した。
 だけど既に3名もの手槍を持った武者が渡ってきていた。

 それよりも、もっと恐ろしいものが襲ってきた事に気づいて天を見上げた。

 雨だ。

 銃が使えない。
 手槍と銃剣で殺り合うことになった。

しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

国虎の楽隠居への野望・十七ヶ国版

カバタ山
ファンタジー
信長以前の戦国時代の畿内。 そこでは「両細川の乱」と呼ばれる、細川京兆家を巡る同族の血で血を洗う争いが続いていた。 勝者は細川 氏綱か? それとも三好 長慶か? いや、本当の勝者は陸の孤島とも言われる土佐国安芸の地に生を受けた現代からの転生者であった。 史実通りならば土佐の出来人、長宗我部 元親に踏み台とされる武将「安芸 国虎」。 運命に立ち向かわんと足掻いた結果、土佐は勿論西日本を席巻する勢力へと成り上がる。 もう一人の転生者、安田 親信がその偉業を裏から支えていた。 明日にも楽隠居をしたいと借金返済のために商いに精を出す安芸 国虎と、安芸 国虎に天下を取らせたいと暗躍する安田 親信。 結果、多くの人を巻き込み、人生を狂わせ、後へは引けない所へ引き摺られていく。 この話はそんな奇妙なコメディである。 設定はガバガバです。間違って書いている箇所もあるかも知れません。 特に序盤は有名武将は登場しません。 不定期更新。合間に書く作品なので更新は遅いです。

家出したとある辺境夫人の話

あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』 これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。 ※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。 ※他サイトでも掲載します。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~

みつまめ つぼみ
ファンタジー
 17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。  記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。  そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。 「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」  恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!

婚約破棄の甘さ〜一晩の過ちを見逃さない王子様〜

岡暁舟
恋愛
それはちょっとした遊びでした

【完結】サキュバスでもいいの?

月狂 紫乃/月狂 四郎
恋愛
【第18回恋愛小説大賞参加作品】 勇者のもとへハニートラップ要員として送り込まれたサキュバスのメルがイケメン魔王のゾルムディアと勇者アルフォンソ・ツクモの間で揺れる話です。

グライフトゥルム戦記~微笑みの軍師マティアスの救国戦略~

愛山雄町
ファンタジー
 エンデラント大陸最古の王国、グライフトゥルム王国の英雄の一人である、マティアス・フォン・ラウシェンバッハは転生者である。  彼は類い稀なる知力と予知能力を持つと言われるほどの先見性から、“知将マティアス”や“千里眼のマティアス”と呼ばれることになる。  彼は大陸最強の軍事国家ゾルダート帝国や狂信的な宗教国家レヒト法国の侵略に対し、優柔不断な国王や獅子身中の虫である大貴族の有形無形の妨害にあいながらも、旧態依然とした王国軍の近代化を図りつつ、敵国に対して謀略を仕掛け、危機的な状況を回避する。  しかし、宿敵である帝国には軍事と政治の天才が生まれ、更に謎の暗殺者集団“夜(ナハト)”や目的のためなら手段を選ばぬ魔導師集団“真理の探究者”など一筋縄ではいかぬ敵たちが次々と現れる。  そんな敵たちとの死闘に際しても、絶対の自信の表れとも言える余裕の笑みを浮かべながら策を献じたことから、“微笑みの軍師”とも呼ばれていた。  しかし、マティアスは日本での記憶を持った一般人に過ぎなかった。彼は情報分析とプレゼンテーション能力こそ、この世界の人間より優れていたものの、軍事に関する知識は小説や映画などから得たレベルのものしか持っていなかった。  更に彼は生まれつき身体が弱く、武術も魔導の才もないというハンディキャップを抱えていた。また、日本で得た知識を使った技術革新も、世界を崩壊させる危険な技術として封じられてしまう。  彼の代名詞である“微笑み”も単に苦し紛れの策に対する苦笑に過ぎなかった。  マティアスは愛する家族や仲間を守るため、大賢者とその配下の凄腕間者集団の力を借りつつ、優秀な友人たちと力を合わせて強大な敵と戦うことを決意する。  彼は情報の重要性を誰よりも重視し、巧みに情報を利用した謀略で敵を混乱させ、更に戦場では敵の意表を突く戦術を駆使して勝利に貢献していく……。 ■■■  あらすじにある通り、主人公にあるのは日本で得た中途半端な知識のみで、チートに類する卓越した能力はありません。基本的には政略・謀略・軍略といったシリアスな話が主となる予定で、恋愛要素は少なめ、ハーレム要素はもちろんありません。前半は裏方に徹して情報収集や情報操作を行うため、主人公が出てくる戦闘シーンはほとんどありません。 ■■■  小説家になろう、カクヨム、ノベルアップ+でも掲載しております。

記憶なし、魔力ゼロのおっさんファンタジー

コーヒー微糖派
ファンタジー
 勇者と魔王の戦いの舞台となっていた、"ルクガイア王国"  その戦いは多くの犠牲を払った激戦の末に勇者達、人類の勝利となった。  そんなところに現れた一人の中年男性。  記憶もなく、魔力もゼロ。  自分の名前も分からないおっさんとその仲間たちが織り成すファンタジー……っぽい物語。  記憶喪失だが、腕っぷしだけは強い中年主人公。同じく魔力ゼロとなってしまった元魔法使い。時々訪れる恋模様。やたらと癖の強い盗賊団を始めとする人々と紡がれる絆。  その先に待っているのは"失われた過去"か、"新たなる未来"か。 ◆◆◆  元々は私が昔に自作ゲームのシナリオとして考えていたものを文章に起こしたものです。  小説完全初心者ですが、よろしくお願いします。 ※なお、この物語に出てくる格闘用語についてはあくまでフィクションです。 表紙画像は草食動物様に作成していただきました。この場を借りて感謝いたします。

処理中です...