首取り物語~北条・武田・上杉の草刈り場でざまぁする~リアルな戦場好き必見!

👼天のまにまに

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第33章:太郎は悩む

突出・3

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 1559年5月2日卯の刻(午前6時)
 上野国東甘楽鏑川北岸
 長野政影
(CIWSを止めてF-35Bやっている)


 騎馬の手槍をいなして敵の横へ回る。
 馬の脇腹を刺し、棹立ちにして落馬させた。
 いくら馬高の低い木曽馬だとて、落馬すれば息が詰まる。
 いまはそれだけでよい。

 やっとこの愛馬が役に立つ時が来た。
 この馬は3代目だが「まつ」と名付けられた。
 殿はニヤニヤしていたが何も言わずにそれを受け入れた。
 
 しかしこうも聞いてみた。
「松風」という命名はしませぬな? と。
 殿に乗るなどもっての外!

 しかし殿は
「あ~。それはあの人の馬につけるかな~。
 これ結論! 誰の異論も見とめない」と。

 やはり殿の命名には、こだわりがあるのであろう。

 2騎を倒してから、チラと周りを見る。
 右は敵5騎の内、2騎を倒して2騎で敵3騎に相対峙している。

「右。殲滅! 他へ廻れ」

 あの者達ならばすぐ片が付く。
 他に回ってもらいたい。

 左は……まずい。

 1騎やられた。相打ち。
 4騎を1騎では対せないであろう。
 既に2騎が殿を追い始めた。

「駒野! ケリをつけたら殿の元へ!」

 中央にいる駒野は一番の猛者だ。
 あいつを付ければ殿の安心が保てる。

 問題はこの中央正面だ。
 先程倒した2騎の他、3騎を馬廻りが倒したが1騎が落馬。
 駒野が離脱したため、某と相羽しかおらぬ。

「相羽!
 後ろにつけ!
 摺り抜けた敵を刺せ!」

 相羽は巧妙な手口を旨とする。
 何処を押さえればよいか分かろう。

 残るは5騎。
 これを出来る限り某が引き付ける。

「某! 
 大胡左中弁髄一の側近。最初にして最後の砦! 抜ける物ならこの壁、抜いてみよ!」

 大見栄を切り、敵を引き付けようとした。

 だが名乗りは上げない。
 某は影。
 陰に名は要らぬ。
 ただ為すべきことを為すのみ。

「お主を倒せば政賢の首、取れたも同然か!? 
 ならばお相手致そう! 
 某、甲斐の住人、甲府の……」

 そんな名乗りを上げている時間があったら攻撃せよ。

「女の子が敵の場合は、お着換えして変身している間に攻撃しないとね~。見とれてるんじゃないよ~」

 と殿が言っていたが、あれは名乗りの事を暗喩されていたのか。

 納得した。

 その念を込めて右手で鞍の左に突き刺していた散弾銃を発砲。
 名乗りを上げていた騎馬武者の顔を赤備えに似合ったものに変え、隣の騎馬武者にも第2射目を放ち、胸甲を凹ませ落馬させた。

 発砲を終えた鉄砲を収めてから、右側に吊るしていたついた散弾銃を怯える敵に連射して始末する。

「あとはお前だけか? 堂々尋常に勝負してやろう」
「そ、それが尋常にだと!? 名誉ある騎馬武者が飛び道具を連射していう言葉か!?」
「そうだ。兵は量。しかし質で補うことも可能だ。お主ら20騎掛かりで8騎に全滅させられるではないか」

 周りを見渡すと、赤い騎馬は全て馬だけとなっていた。
 立ち上がる武者もいるが既に槍も持っていない。

 あとは逃げるのみ。

「では、これにて御免!」

 某はこれ以上の追手が来ないことを確認してから殿の後を追った。

 ◇ ◇ ◇ ◇

 同日同刻
 太郎義信本陣
 飯富虎昌
(なんか正史と全然違うステータスらしい)


「最初で最後の絶好の機会であったか? 政賢の首を戦場にて取ることのできる……」

 太郎様が誰に言うともなく呟く。
 周りには10名程の部将と側近。
 馬場か儂に言うたのであろう。

「そうでしょうな。これ以上の好機はそう落ちてはおりませぬ。
 拾えなかったとてそれは失態にあらず。偶々策が途中までうまく行ったのみ。
 そのような事、生きておれば戦場にて幾度となく経験いたしまする。
 生きておればですぞ」

 馬場が念を押すように言う。
 そう生きておれば、また機会があろう。

 自棄になってはいかぬ。
 ここは引き再戦を期すまで。

 再戦が出来ぬのならばそれ以外の方策を取らねば。
 たとえそれがどのような方策であろうとも。

「今日は雨が降りそうじゃな。また泥濘む」

 太郎様が天を仰ぎ仰られる。
 そうだ。天の定め。

 雨が降り泥濘ができて乾けばそこに新たなる硬い大地が出来る。
 それを如何様な大地にするかは、泥濘の時期にどのような事をするかにかかっている。
 足跡を残すか。蹴散らしてぐちゃぐちゃにするか。

 ◇ ◇ ◇ ◇

 同日半刻後
 鏑川南岸第1旅団指揮所
 竹中半兵衛
(これからどう成長していくことやら)


「み“ん”な“ごめ”ん“よ~~~~~~#ωφ9&hΘdf@……」

 先程、殿がこの指揮所の天幕へ無事入られてから、ずっとこの調子で「土下座」というものをして地面を叩いている。

 此度は、武田の情報工作が大胡に勝ったのだ。
 そのせいでこのような事態に。
 とも思えるが、冷静に考えれば殿の軽薄さでもある。

 しかしこれが「殿らしさ」なのだから。
 これが大胡なのだ。
 お味方が危機と知れば取るものも取り敢えず走り出してしまう。

 いけないと思う。
 それではまんまと敵に踊らされてしまう。

 故に、側近がしっかりと諫めねば。
 言っては悪いが秀胤様は押しが弱い。

 こういった時は体を張ってでも諫めるべきだった。
 代わりの方策はあの方ならばいくらでも立てられるであろうに。

 聞くところの北条氏康や武田信玄などは人使いが巧みだったという。
 そのような強力な指導者の方が良いのか?

 このような殿を見ていると、よくわからなくなってくる。

「殿!! 儂は猛烈に感動いたしておりまする!! 儂が、儂が大失態を演じているのを見るに見かねて跳んできてくださる。そんな殿に儂ら大胡は忠誠を誓っているのでござる!
 決して見過ごさぬ。必ず助けに行く。それすら見せればよいのじゃ。
 他のことは頭の良い奴らに任せて、儂らのようなに任せればよいのですぞ!
 失策は失策でも敵の損害はこちらと同等。もしくはこちらを上回っておりまする。作戦目的?は見事に達成して更に敵に損害まで与えた。決して悪い結果ではない!」

 四つん這いになって殿の前でその顔を見ようとしている後藤様が、吼えるように殿をお慰めする。
 それにしても「作戦目的」という言葉をつかえるようになった事、凄い上達だ。
 此度の作戦目的が「殿の安全確保」と認識していると事がいささか頓珍漢ではあるが。

 あとで総括があるけれども、ここではっきりさせておこう。
 今回の失態はすべて「人事にある」と。

 あの南に伸長した陣を構築した、あの中の悪い二人の中隊長を誰が任命したのか? 
 どうしてあのようなものが中隊長をやっているのか? 
 それを決めた人事部を握っている「秀胤様の責任」を。

 殿が以前、仰られていた
「部隊の均質化」が出来ていないお蔭で作戦に支障が出ている。
 ご自分の首を絞めておられるのに気づかれていない。
 これだけ軍が大きくなれば、作戦参謀の作業はとてつもなく広がってしまう。

 能力のあるものがその任に当たって居ればいい。
 だがその人材が失われた途端に戦力がガタ落ちする。

 秀胤様は殿能力には長けていらっしゃる。
 だが自ら作戦立案は出来ない。
 それと同じようなことはこれからも起きて来るに違いない。
 今回の自分の失態を顧みながら、今後の改革について考えていた。



 ◇ ◇ ◇ ◇


「殿の作戦を具現化する能力」

 秀胤はベルティエがモデルでした。
 あのナポレオンの大作戦を一糸乱れぬ形態で実施させた手腕は凄い!
 大体、あの頃の通信って伝令しかない頃なのに2~30kmの菱形陣形で進軍とか想像しただけで目が回ります。
 そのベルティエが2階から落ちて死亡した後なんですよ、ナポレオンが精彩を無くし始めたのは。

 秀胤だけの責任ではないことは、後でゆっくりと分かってきます。
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