首取り物語~北条・武田・上杉の草刈り場でざまぁする~リアルな戦場好き必見!

👼天のまにまに

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第33章:太郎は悩む

突出・2

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 1559年5月2日卯の刻(午前6時)
 上野国東甘楽鏑川北岸
 望月源四郎
(甲斐の地侍の四男坊22歳。赤備えになり張り切っている)


 敵の大将が釣れた!

 目の前の騎馬の一団のどこかにいる。騎馬は全て漆黒の甲冑を纏っている。
 赤と黒の激突がこれから起きる。
 
 普段は大胡政賢、鶴が羽根を広げた形の馬印を掲げているが今は見当たらぬ。

 臆したか? 
 それともここにいないか?

 先の知らせでは偽報によりこの騎馬集団の先頭を駆けていたという。

 大胡の兵を大事にする政賢のやりそうなことだ。
 きっとこの辺りに居よう。

 俺のいる鋒矢の陣左翼に沿って山名の台地がある。
 この上に逃げたか。

 それとも鏑川を渡ったかだな。
 後方はきっと身動きが取れぬ筈。

 かえって危険。

 兎に角、目の前に迫る敵騎兵5騎を蹴散らす。
 こっちは20騎いる。

 半数が同士討ちであったとしても、台地を登ろうとしている政賢を捕える事、できるであろう。

 俺は己が手の先と化すまで錬成して来た手槍の穂先を敵に向けて突進した。

 騎馬武者同士のぶつかり合いは怯んだ方が負け。
 少しでも馬体がぶつかるのを避けようとして穂先が揺れる方が負ける。
 気合、肝の座り具合の勝負!

 !

 敵は手槍を持っていない。

 そうか。
 騎兵も鉄砲を持つようになっていたのか、大胡の奴らめ!

 しかし、やることは一つ。
 馬の頭に顔を埋める位に上半身を前へ傾け、敵へ向かい疾走する。

 がずんっ!

 馬の頭に敵の鉄砲の弾がかすめる。
 愛馬の日向は耐えてくれた!

 敵騎馬は目の前。
 激突する前に穂先が敵の甲冑を串刺しにする。
 そのまま後方へ吹き飛ぶ敵の騎馬武者から手槍を抜こうとする。

 これも訓練を何度もした。
 
 しかし……抜けない!?
 敵兵はこと切れる前に俺の手槍をしっかりと握りしめていた。
「この槍で味方を刺されてなるものか」
 という意思が伝わる形相で。

 周りを見渡すと俺を含めて16騎しか残らなかった。
 4騎は穂先が届く前に鉄砲に撃たれたか。
 これが同数だったらと思うとぞっとした。

 そんなことを言っている暇はない。
 俺たちは既に明るくなって隠れる所もなくなっている刈り取り後の麦畑を駆け、大胡政賢の姿を探し始めた。

 ◇ ◇ ◇ ◇

 武田先鋒
 鈴木三太夫
(諏訪国衆の一族の三男)
 

 敵が30間に迫った頃。
 発砲音。
 味方が数名倒れた。

 あるものは武者だけ落馬。
 あるものは騎馬を撃たれ、もんどりうって前に転がり後続を巻き込む。
 左右の陣と違い縦に長い中央は、討ち取られた騎馬は後ろの騎馬の邪魔になる。
 普段、鋒矢などは使わぬ。

 今回は街道で渋滞している敵の騎馬の邪魔をするために突っ込む。
 この様子だと敵の旗本は数百いるだろう。
 これとまともにぶつかるのは危険だ。

 かといって敵の大将を討ち取る絶好の機会。
 この時のために赤備えがある!
 
 敵は射撃の為に徒となっている。
 道理で敵数の割に討ち取られて数が多いはずだ。
 狙撃の精度を優先したか。

 だがな。
 徒と違い騎馬武者にその数の鉄砲では、すぐに接近されて次弾は撃てぬ。

 大胡の兵は10人もいない。

 皆、太刀を抜き放ち、体を低くして構えている。
 そのような事、何になる?
 俺ら先鋒がそこへ襲い掛かる。

 ギャリンッ!

 敵の太刀と俺の片鎌槍の穂先が交差する。
 敵は槍の穂先を切り落とそうとしたらしい。

 だが素槍と違い、俺の槍は片鎌槍だ。
 騎馬で十文字槍は危険だ。
 愛馬の目を傷めるやもしれぬ。

 俺は片鎌槍を使い、そのことへ対応しているが、その片方に付いている鎌に敵の太刀が当たったようだ。

 穂先が逸らされる。

 仕方がない。
 此奴は後続に任せて、敵の後続へ向かう。

 これは見ものだ。

 敵は街道上で右往左往している。
 お得意の鉄砲も俺が突破した大胡の銃列に当たるのを恐れて発砲を躊躇……

 ガゥンッ!!

 足と肩を撃たれた。
 同士討ちも躊躇せぬのか?
 大胡は!

 使えなくなった左手は手綱を手放し、右腕だけで手槍を掻い込み敵の集団に突入していく。

 後続が政賢の首を取ってくれるであろうことを願って……

 ◇ ◇ ◇ ◇

 武田右翼
 祢津幸定
(信濃衆練達の物頭)


 いた。
 あれが政賢であろう。
 大男に庇われ鏑川を渡る小兵。

 騎馬ではあるが、地面はごろた石(5cm以下の石)。
 蹄鉄を使っていても渡河は危険だ。

 護衛の馬廻りは数騎。
 前方の敵左翼は10騎。

 騎馬を二つに分ける。
 前方へは10騎。
 もう20騎は政賢を追う。

 前方の敵左翼を撃破せずともよい。
 拘束せよと、言うまでもない。
 隣に居合わせた物頭も頷く。

 20騎の騎馬は左右に広がり、横隊となって騎幕を作り政賢を逃がさぬよう包囲する態勢になった。

 あと少しで、
 あと少しで、
 あの不倶戴天の敵。

 首取り大胡の首を上げてやる!

 ◇ ◇ ◇ ◇

 鏑川川岸
 長野政影


 秀胤殿は敵を引き付ける指示をしていた。
 某に「殿を頼む!」と喉が裂けんばかりに声を張り上げていた。
 あのいつも小声で喋る恥ずかしがり屋の秀胤殿がだ。

 その気持ちをこの胸に、この腕で受け止め、
 殿を守る!

 殿は泳げない。
 轡持ちが必要だ。
 いつも宿直とのい(夜、寝所の警護をする役目)を共にしている近習に轡を持たせる。
 振り返り、8騎しかついてこれなかった護衛の馬廻りに指示を飛ばす。

「敵は包囲にかかっている。敵右翼と左翼はその分遅れる筈。4騎で左右の邪魔をせよ。残り4騎で敵の中央を撹乱する。
 敵を倒さずともよい。撹乱が目的。各々工夫せよ!」

 馬廻りの者は文武両道のものを集めている。

 機転も効く。
 何かを考えるであろう。

 某は手槍を左手に持ち、鞍の両方に吊るしたの鉄砲を確認、騎馬を止め武田の赤備えを睨みつけて「ふんす」と戦闘態勢を取る。

 ……やはり、この言葉は戦場では殿以外には似合わないようだ。



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