首取り物語~北条・武田・上杉の草刈り場でざまぁする~リアルな戦場好き必見!

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第33章:太郎は悩む

狩れ!

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 1559年4月下旬
 上野国東甘楽七輿山北方3町
 小幡信真
(ウォーモンガーと自覚したあんちゃん)


 楽しかったぜ!

 やはり俺は戦が好きなのだ。
 武田とか大胡とかは関係ない。

「敵を撃破する事」
「敵を翻弄する事」
「敵に恐れられる事」
 これが生きがいなのか。

 この時期に大物見とかよくわからんが、敵の左翼を右から小突いてやった。
 敵は慌てて隊列を組みなおし鉄砲の射撃をし始めたが、その時は既にこちらは引いた後だった。

 100騎しかいないからな。
 対応が出来る前に離脱できた。

 こちらは真っ赤な赤備え。
 なにを遅れた対応をしている。
 馬鹿者が。

 こんな奴が大胡にもいるのか。

 しかしこの「蹄鉄」これは凄い。
 大胡で最近使い始めたらしいが、職人を引っ張ってこられたために、武田でも使ってみたが。元々この辺りは小さな塚森があるだけで、辺りは殆ど刈取った後の麦畑。
 たまに水を張り始めた田もあるが。

 昔から上野には豪族が多かったという。

 その墓ではないかという者もいる。
 その古代からの名残か畑が多い。

 それが今回の騎馬による行軍に有利になった。
 正に疾きこと風の如しだな。

 ついでに言葉合戦もしておいた。

「追いついてみろ。この簒奪者、大胡の連中め! 甘楽は我が小幡の地。関東管領様の忠臣の地である。大胡などという、どこぞの馬の骨の来るところではないわ!」

 この程度の嘲りに引っかかるような奴は、大胡にはおらんだろうが、すっきりしたわ!

 ◇ ◇ ◇ ◇
 
 上野国甘楽郡東、七輿山北方30町
 武田太郎義信


「狩れ!」

 守役の虎昌が配下に下知をする。
 先程、北の山内丘陵の上に布陣している(浅利)信種から使い番があった。
 3度目の使い番だという。

 この5町(500m)もない近さに布陣する備えからの使い番が、2回も阻止された。尋常ならざる大胡の使い番狩り。

 先の桶狭間の戦いにおいても今川殿が首を取られた敗因の一つとして、大胡の使い番狩りがあったと父上……
 御屋形様が仰っていた。

 これは鏑川南方の小幡勢や後方の馬場隊にも使い番が届いていない可能性もある。

 俺の守役である虎昌は
「偽報を送ることまでしているかもしれませぬ」
 と言っている。

 その恐れ、十分にありうる。
 北条氏康殿の首級が挙げられた原因も、偽報によって大損害を受けてのものだったと聞く。

 此度の戦でもそれを多用しているものと覚悟せねば。
 それに対して虎昌は、使い番狩りをしている者を「逆に狩れ」と進言して来た。

 そうだ。
 こちらが逆に偽報を使わねば。
 先ほど勝手に動き出し大物見を始めた小幡も、その偽報によるものと考えている。

 まだこれは問題ないだろう。
 小さく当てて引いた。

 赤備えの騎馬のみ、そして側面からの攻撃だったからだろう。

「太郎様。
 大胡の猟師を狩り終えたならば一つ妙案が

 指示を出し終えた虎昌が内密の話と断り、俺の耳元でささやく。

「現在の敵の目的は倉賀野を落としてからの武田との決戦。こちらの意図は御屋形様を迎え入れてからの決戦。しかしその場所はまだ決まっておりませぬ。既に太郎様が後詰に来たという事で立派に国衆への面目が立ちましょう。
 しかし家中には太郎様の働きを軽くとらえる向きも最近ございまする。
 ここで少しでも敵兵力を削っておけば決戦時にお味方の士気が上がりまする故、大きな手柄となりましょう。家中における発言にも重きを置かれることに」

 何を言うておるのじゃ?
 今はその様な事を考える時ではなかろう。

 大胡との決戦のみを考える時。
 俺の立場など関係ない。
 そのように小声で言った。

「それは承知しておりまする。が、太郎様は此度の戦、どの程度武田が勝つと思われまするか? 
 上杉は当てにできませぬ。
 北から20000。
 東から10000。
 これに武田から20000。
 それに南では武田の残り8000が大胡と戦いまするが。
 はて、大胡はまずどこを潰しにかかるでござろうか?
 儂ならば武田を潰してから上杉本隊を叩きまする」

 そうか。
 国峰を始めとした甘楽の調略が上手く行ったおかげで武田の進軍が早まり、返って武田を全力で叩きに来るという事か。
 
 まだ上杉本隊の居場所が掴めていない。

 勿論、大胡と戦ったのかもわからん。
 頃合いを見図れん。

 対して大胡は内地だ。
 頃合いをきちんと見計らい動くであろう。

 倉賀野を落とすという事は、こちらへ来る布石と考えられる。

 大胡はあそこで守っても有利ではない。
 やるなら忍城辺りで上杉本隊を支える。
 北は堅城沼田がある。そこで支えられよう。

 その間に武田本隊と決戦か。

「こちらへ来るであろう大胡の兵は如何程か?」

「確とは分かりませぬ。
 ですが大胡の主力、後藤と大胡是政の隊10000。
 それに真田の兵10000。
 更に10000程はかき集められましょう」

 30000か。
 こちらは20000。
 決戦にならぬ。

 出立する際の軍議では上杉へ10000程行くであろう。

 沼田への後詰で5000。
 唐沢山への後詰5000。
 合わせて15000程しか武田本隊には来れぬであろうと予測していたが。

 甘すぎた。
 しかも後藤透徹と大胡是政と言えば大胡の主力中の主力。

 この2隊がくればもう必敗であろう。
 鉄砲10000どころではない。
 更に大砲も持ってくると考えるのが常識。

 こちらの鉄砲は漸く2500。
 その多くが(高坂)昌信の元にある。

 昌信は既に富岡盆地には入っているだろうが、これを入れても先手は9000。
 御屋形様本隊はまだ下仁田付近であろうか?

 この20000がうち揃って富岡盆地にて決戦という事を考え、鉄砲用の築城を昌信が行っている。
 場所は変わるかもしれぬが。

 ここで合戦をする意味が解らん。
 そう言うと虎昌はこう言ってきた。

「兵の誘引にござる。
 一つは後藤透徹の誘引。
 もう一つは大胡主力をこちらへ引きつけ、上杉本隊が大胡の後背を脅かすまでの時間稼ぎ。それが出来れば大胡はもう武田との決戦どころではなくなり申す」

 しかしその案は御屋形様に却下されたはず。

 「上杉に先を越されてはならぬ」と。

「今、大胡が武田へ全精力をもってあたるとは考えなかった際の評定にござる。
 あの当てにならぬ里見も、今度ばかりは動くと思っており申したが、全く様子がわからず。兎に角、ここは大胡が決戦を挑んでくるのを耐え忍んで時を稼ぐ。これしか大胡に勝つ道は……武田が生き残る道はございませぬ。
 今は危急存亡の折り。
 御屋形様への使い番、届くと思いませぬ。ここは太郎様の決断にかかっておりまする」

 「生き残る」

 そうだな。
 もうそこまで来ている。

 乾坤一擲の勝負。
 これに負けたら後がない。

 だから慎重に。
 しかし慎重であるようには見せてはいかん。
 あくまでも決戦を望んでいるように見せねば富岡まで誘引できない。

「幸い、後藤透徹。猪武者でございまする。突破力では儂もかなわぬかと。
 しかし先程の小幡の大物見で、確と小幡が性懲りもなく出てきた。そう思っている筈。
 これからご下知いただければ言葉合戦を仕掛けるように伝えまする」

 その程度のことで小幡の陣を攻めるような愚か者なのか?
 そのような者が大胡の主力を率いているとは思えぬが。

 だがやってみる価値はある。
 俺は詳しい作戦を虎昌から聞いた。

 ……後に、小幡が既に言葉合戦を仕掛けて
 状況が大きく動き始めたことが分かったのだが……


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