首取り物語~北条・武田・上杉の草刈り場でざまぁする~リアルな戦場好き必見!

👼天のまにまに

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第30章:山越え、やめて!

英雄は山を越えるのが好き?ぱあと2

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 1559年5月上旬
 上野国那和城松の間
 真田政幸
(半兵衛に先を押され悔しい?)


「じゃ、次行ってみよっか。北はどんな情勢だっけ?」

 殿は少し安心したせいか、沢庵という取ってから干した後、糠などで漬けた大根をボリボリかじり始めた。

 これが結構臭い。

 皆にも出されたため、これで皆臭いを感じなくなった。やはり皆が一緒だというのはいいと殿が言う。
 沢庵という名前は何処から付けたのかは不思議だが、勿論「な~いしょ」であろう。

 今度は秀胤様が説明をする。
 やはり沼田を守備する矢沢の叔父貴を、どうしても贔屓するやもしれぬ。
 そう思って譲ったのであろう。

「既に沼田盆地の北西の要害、名胡桃城は陥落。越後勢は沼田盆地のそこかしこで建物を焼き、田畑を掘り起こしておりまする」

 なんと!
 無駄な事をする!
 正気か?

 という当たり前の驚きを隠せない。

 それはそうだ。
 普通は敵の領地の生産力を落とすことは重要。

 だが大胡は日ノ本の繁栄を願っている。
 決して民百姓の困るようなことはしない。
 だから『大胡は甘い!』のだ。

 武士に対しては恐怖の大魔王であろう。
 だがどうしてもその領民には甘くなる。

 それがこの先どう出るか。

 最終的に大胡が天下を一統できればそれでよいのかもしれぬが、そこまでの苦難の道のりの中で、さらに多くの悲劇が起きるのかもしれない。

 まあそこは俺の考える事ではないか。
 後々考えればいいさ。

「ですが沼田の民は既に全て計画通り、沼田城の総構に籠りました。
 沼田城は堅城。
 それだけでなく盆地の周りそこかしこに出城がありまする。
 その場所からの銃撃。
 これにて安全な場所は盆地の中央にしかありませぬ。そこへ……」

「うん。大砲ね。
 あれ使えるの? 
 実際の所」

 殿が冬木様の方を見て下問される。

 出されていた沢庵は既に無くなり「お代わり」を要求されていた。
 爪楊枝で口元でシーシーしている。

「は。大分導火線の改良が進み、不発は10発中1発以内にとどめることが出来申した。臼砲の射程も10欣砲で有効距離半里以上は飛びまする」

 皆が素晴らしい!
 心強い!
 と。

 中には殿の真似で
「はらしょぉ」(注)とか言っている者もいる。
 意味は分かっているのか?

「じゃあ惣構の端から撃てば沼田の殆ど全てが有効射程圏内ね。
 榴散弾にしたの? 堪らないねぇ。で、逃げるには名胡桃城まで撤退するしかない?」

「は。そうなりまするが、名胡桃城は長砲身4欣砲の射程圏内でございまする故、その内撤退するしかなくなります。小荷駄も失うことになりましょう。補給が出来ませぬ」

 きっと沼田で乱取りして食料を手に入れる算段だったのだろう。
 越後のみならず、殆どの戦は「食料の強奪」が目的。天下を一統するなんて言う、大それたことを考える奴はいない。
 うちの殿以外はな。

「吾妻方面は? 風魔が頑張ってるの?」

「は。鳥居峠と万座峠にて、遅滞運動とは名ばかりの虐殺をしている模様。こちらへ向かった上杉勢3000は大損害を受けて足止めを喰らっておりまする」

 当分は岩櫃城までこれないな。
 来たとしてもあの堅城、そう易々とは落ちまい。
 鉄砲のない世ならば違ったであろうが、上から鉄砲で狙われている狭い登り口を登る兵は生きては帰れんだろう。

「じゃあ、あとは内山峠を越えてきた信玄の坊主頭だけど、どのくらいの兵力?」

「佐久と上田を通った兵を数えた歩き巫女によるとおよそ10000。
 それに加え、国峰守備隊500、倉賀野500、平井300も敵方に。
 下仁田600も抵抗したようですが降伏との知らせが」

 碓井から安中にかけての碓井川一帯はまだ大胡の支配権。ここが一番の要と見て忠勇の部隊を置いていた。
 しかし人員が足りず、国峰富岡を通る鏑川一帯は、元からの地侍が多かった。倉賀野や平井などは国境から遠いとして、元北条家臣も駐留していた。

 これがいけなかったな。

「暫しよろしいか? 
 某は即刻、倉賀野を落とすべきかと提案いたす。
 倉賀野は大胡の生命線。和田の商業と工業の中枢を無力化致すことのできる場所。そこを武田の手のうちに置かれては、すぐに日干しとなりまする。また河岸や倉が破壊されても沼田の比ではない」

 東雲様がじろりと秀胤様の方を睨みつけて意見を述べた。
 参謀会議に東雲様は参加されていない。殿をお助けする立場の秀胤様の責任だと言っているのだ。
 倉賀野に北条の旧臣を置いていたことへの叱責だ。

 秀胤様が赤面しつつも何かを言おうとした時、庭から小さいが良く通る声が聞こえた。これは忍びの術だな。

「殿、石堂にござる。
 火急の知らせが」

「またまた~。いしど~ちゃんはまだそこから入る? もう立派な役職の組織責任者なんだから。ちゃんと座敷に通されてよね」

 殿が不満を言うのも遮り、石堂が……
(様か。もう真田の家臣ではない)
 続けた。

「良い知らせと悪き知らせ。どちらから?」

「悪い知らせ~。その順の方がいい!」

 殿の主義だそうだ。
 次につなげるためには希望の種があった方が良いと。
 ぱんどら?
 とかいっていたな。

「はっ。まずは和田城が武田方に。市長の和田政盛、謀反。小隊長までの士官を投獄して臨戦態勢にて和田城を占拠しました」

 ほんとかよ?
 士官なしでどう戦うというんだよ?
 あのおっさん、本気か?

「まあ。和田っちは、日和見だからねぇ。こういう事もあるっしょ。
 仕方ないなぁ。ここは落とさないでね。和田の街とその周辺の工業地帯は、焼かれると目も当てられない」

 あそこはいまや大胡の腸だ。
 無いと生きていけん。
 常に働き続け体を支える。
 その動脈が利根川水系の訳だ。

「で、いい方の情報はなぁに?」

 殿はよく平気でいられるなぁ。

 いや、平気ではないか。親父殿が言うていたな。皆がいないところで大泣きしていると。隠していても皆が知っている。

 ここだけだ。
 評定の時だけ平気な顔をしている。
 戦場でもそうらしい。

「それがいい知らせと言うには、少々対応に困る知らせにて……。
 下仁田城の1個中隊が武田の捕縛から逃れ、松井田城北東の不通渓谷に架かる一本橋を通さぬように陣を張りました。これにより武田本隊6000、既にここを通って富岡の平地に出た先鋒の4000と分断しましたとの報告」

 殿ばかりでなく、皆が石堂様に向けていた眼を丸くして驚いた。

 俺もだよ!

 中隊?
 平時なら120。
 戦時の今でも250はいまい。

 それも一旦捕縛された兵。200もいるとは思えねえぜ。武器も鉄砲なしのせいぜいが手槍。それで良く戦う気になったぜ。

「え~と、だれだっけ? 
 あそこの守備隊長。凄い根性してる!」

「大野忠治です。先年中隊長として下仁田駐屯主力中隊を任されました。一兵卒からのたたき上げです」

 後藤様、是政様、東雲様が立ち上がった。

「あいつを死なせてはなりません!
 殿。彼奴は大胡の出世頭。全ての戦で勲功を挙げた者。大胡の隆盛を体現したような奴です。奴の隊ならば全員死ぬまで戦いましょう!
 最後の1人まで立ち往生するでしょうぞ!」

 多分、この3人の部隊すべてに所属して勇戦した歴戦の猛者なのだろう。殿も一瞬三人の大声に威圧されたが、すぐさま立ち上がり号令を掛けた。
 ここで見殺しには出来ないのが大胡だ。俺には理解できないがそこが武器でもあるんだな。

「倉賀野を一気に落とす! 国峰まで来た武田の先鋒を破砕し下仁田守備隊の撤退血路を開く。その間に碓井に伏せていた風魔鉄砲隊を派遣。内山峠と田口峠を封鎖する。その増援として太田の猛犬連隊総力出撃。
 急げ!
 そしてここで決戦だ! 
 戦略予備投入。華蔵寺の真田軍団すべてで碓井峠を越えて上田と佐久、ここを占領。信玄を返すな!」

 おおお!

 皆が立ち上がる
(智円様。こんな時はちゃんと立てよな。冷静なのも問題だな)

 そんなことはどうでもいい。
 遂に上田が真田の手により奪還される。兄者たちは悔しがるだろうが、その分俺が活躍してやる。

「僕は下仁田へ向かう。副将のゆっきーは碓井をお願い。たねちゃんと、はんべーちゃんを連れていくから、ゆっきーは親子水入らずで。チーター君は親父さんの戦をみて勉強してね~」

 ちいたあ?
 なんだそれは。

 悪い予感がする。
 ……殿がこちらを見てにっこり笑っている。

「表裏比興の者、
 よりいいでしょ?
 ふふ♪」

 どうやら悪い意味の言葉らしい……




 ◇ ◇ ◇ ◇



 大変な誤解釈発覚(T_T)

【16世紀火薬を大量消費し始めた
 ヨーロッパも農耕法(糞尿で作るあれ)で硝石入手していた?】


 考えてみればそうですよね。
 あんなに劣化の早い硝石。
 1年かけて、インド東岸ビハールから運んできて使えるとも思えん。

 チリの硝石は発見が19世紀だし。
 いったいどこで入手してたの??

 この疑問を提示していた研究発見
(研究とまではいかないけど問題提示で終わっている研究結果報告)。

 https://kaken.nii.ac.jp/ja/file/KAKENHI-PROJECT-22650213/22650213seika.pdf

 遥々、チリまで出かけようと思っていたけど、何のことは無い。
 ヨーロッパから火薬製造と共に硝石生産技術も伝わってんじゃん。

 で、最初の頃は硝石不足でウハウハだった堺の商人(特に武野紹鴎=今井宗久の師匠)が没落していくきっかけが、硝石の国内生産量の増加だったと。

 それで火器売らずに茶器売り始めたw

 ヨーロッパでも同じようなことが起きていて、ヴェネチアやジェノヴァの貿易の主力商品だった中東経由の香辛料と共に重要であった、硝石輸入が廃れて没落した。

 だから大胡の硝石生産力を上げることで問題解決。

 人口増えたので人糞も増える。
 よってめでたしめでたし。
 南蛮人来なくていいじゃないですか!

 逆に
「あれ」とか「あれ」とか「あれ」を
 輸出してやるぜ。


 注)ハラショー!
 ロシア語で
「素晴らしい!」の意味であるが、時として逆の意味というか
「それは悲惨だな」とか
「大変だね」
「いい気味だ」
 というニュアンスで使われることもある。
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