首取り物語~北条・武田・上杉の草刈り場でざまぁする~リアルな戦場好き必見!

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第31章:沼田の惨劇

わなわなわな~♪び

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 1559年5月上旬
 上野国沼田城北方12町(1200m)
 色部勝長
(揚北の部将)


 南西方からか? 
 鉄砲の発射音が凄まじい。

 この盆地では発射音が常と違い木魂をして、凄まじきものとなる。
 音に慣れたはずの馬も怯えて落ち着かない。

 宇佐美殿率いる12000は大手門の攻略を始めた。軒猿の情報では沼田の守備兵は僅か2000という。多方面からの同時攻撃なれば、兵が分散して防御力が落ちよう。

 普通の攻略が難しいとみて宇佐美殿が大手門の攻略を囮とすることを提案した。元は北と南を部将が手勢を率いて囮として進軍させることになっていた。だがその後の物見の報告によって変更したのだ。

 あまりにも防御力が高すぎる。
 鉄壁と言ってよい。

 常に先陣を切ることで勇名を馳せる柿崎殿の手勢を大手門に向かわせ、本隊もここに置く。

 北条殿の鉄砲隊もここだ。その攻撃の隙を衝いて、儂が搦め手口にあたる虎ノ門に北から廻りこんで突入することになった。

 珍しいことに柿崎殿が全くと言ってよい程、反論しなかった。
 ご自身の信頼置ける手駒が大手門の物見に行ったようであった。

 大砲と鉄砲の死角が全くないとのこと。

 北は儂が2000で回り込む。南は景信殿の2000。
 南は利根川の屈曲部が狭く崖となっているが、そこさえ超えれば比較的崖の段差が少ない。南へ向かう街道と狭い庶民が使う道があるという。
 そちらの方が攻めやすいと判断したのだ。

 しかしその道筋は大人数の移動は難しい。よくこんな守りやすい城を作ったものよ。しかも北から攻めにくい。

「殿。どうやら沼田城からの大砲が届かなくなったようにて」

 先程までたまに沼田城の総構えから、北方の我が手勢へ向けて大砲を撃ってきていたが今は止んでいる。
 あまり遠ざかったわけでもなかろう。ずっと東進しているわけだから、距離が遠ざかった筈はない。
 火薬の消耗を恐れたか?
 あまり被害はなかったからな。

 しかし、大砲の脅威がなくなると、この辺りの豊かさが見て取れる。
 周りは多くが桑畑か葡萄を育てているらしき棚。勿論桑畑はこの沼田の特産品、沼田織の原料となる蚕の餌だ。
 葡萄は最近大胡が作り始めた「南蛮酒」というものの原料だという。

 これらは米よりも遥かに銭になる。
 技術を持つ民と器械を手に入れれば大胡のような富裕な大名となることも可能。揚北のように1年のうち3カ月もの間、雪に閉ざされて、大した副収入もない土地ではないのだ。

 最近始まった越後上布を作る問屋が内職を持ってくるようになってわかった。
 米よりも儲かると。


 それにしても長いな、この左、山側東西に延びる用水路。

 大砲の射撃が散漫だったのも、これを壊したくなかったからか?
 石垣と、なんでも『こんくりいと』というもので作ってあるらしい。
 見た限りでは半里以上続いている。

 高さも人が通れるくらいに石垣が連なり少しの凹凸も平気で乗り越え真っ直ぐに続いている。
 
 しかし……
 まるで城の石垣ではないか?

 そしてそれに気づいた。
 遅かった!

 石垣のそこかしこが外れた。
 小さな狭間が無数に開いた。

 そこからは……

 ◇ ◇ ◇ ◇
 
 1559年5月上旬
 色部勝長


「殿! お気を確かに! ここは退きましょうぞ! 
 川原に飛び降り……」

 やられた。
 この左に延びる用水路は中を人が通れる。
 普段は用水として使っているのか?
 いや分からぬ。
 桑畑と葡萄畑にそのように多くの水がいるのか??
 最初から罠であったか!

「殿! 矢を抜きまする! 暫しご勘弁!」

 譜代の臣が胸を草鞋で踏み、左肩から深く刺さっていた矢を抜く。

 普通の鏃とは違う。かえし(注)がない。
 兎に角深く刺すことが目的らしい。
 お蔭で助かったのか? 

 いや5間の距離で鎧を易々と貫通、深々と刺し貫く威力。
 雑兵の桶側胴では……

 多くの者が針地獄に落ちたようになっている。一斉に多くの矢が飛んできたようだ。景信殿が言っていた仕掛けを使ったか?

 この場所まで引き寄せる。そしてそれに気づかせないための砲撃であったのか?

 儂が指揮を出来ぬ間に、足軽大将らが右の崖から飛び降りる指示を出した。

 待て。
 迂闊に動くな。何があるか分からぬ。
 そう言おうとしても、矢は胸まで貫いたらしく声が出ぬ。
 
 ぎゃー!
 うおぉおおー!
 いててて。
 眼が、俺の眼がぁ!!!!

 どうした?
 やっぱり罠か?

 ここからでは見えぬ。痛みをこらえて崖のある茂みへ這っていく。
 家臣に手助けされて下を見た。

 そこには……
 多くの者が正に針地獄に落ちていた。

 桑畑の桑の枝に見えたのは、あの大胡が多用する鹿砦であった。

 そしてそこかしこに目立たないように、有刺鉄線が張り巡らされている。
 もう身動きが取れなくなっているものが手勢の半数にもなろうか。

 ここで敵の攻撃があったならば。
 ゾッとした。

「ごふっ。退却せよ、はや……く。
 北の壁に注意、うぐっ」

 意識が遠のく。

 ◇ ◇ ◇ ◇

 上杉左翼搦め手攻略勢撤退
 損害200以上
 色部勝長負傷






 ◇ ◇ ◇ ◇




 
 何処かに書きましたっけ?

 イングランドの長弓の極悪な性能。
 100mくらいでも簡単に頭蓋骨を貫通する。

 ジャイロ性能のある超精密射撃できる矢を使っているので、もうフランス軍やりたくなくなるっていう話。
 それを何十本も連射してくるんだから、コワイワー

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