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第31章:沼田の惨劇
我攻めは宜しくないです
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1559年5月上旬
上野国沼田名胡桃城
宇佐美定満
(上杉家の宿老で副将的な立場のじっさん)
これは皆に伝えられぬ。
御本城様が負けたなどと!
引き分けたとも言えぬこともないが実質負けたのじゃ。
敵は6500程。
対する上杉は8000と後方に2000少しの古河公方の軍勢。
これで互いに大損害を与えての後退じゃ。
勝ちとは言えぬ。
戦に勝つとは
「その戦の目的を果たす」という事。
それが叶わなんだ。
幼き頃より御本城様にお教えしてきたこと。
此度の戦は大胡の腸である八斗島の渡しと倉賀野を取ること。
そしてそこで武田と合流すること。
これが阻止された。
大胡は最後まで奮戦する。
此度もあの品川で半数近くまで兵を失った戦いのように、御本城様が弱点と見た備えを包囲して殲滅しようとしたらしい。
しかしそれを最後の最後まで持ちこたえ、救援の兵によって後方を叩かれたという。更にはあの剛腕で鳴らす甘粕の陣まで大損害を被ったとか。
上杉の者たちの士気は、我が上杉勢が「不敗」だから高いのだ。
特に御本城様の元で戦えば必ず勝つ。
この信念が岩をも貫く力となっている。
これが遂に砕かれたのだ。
「何を考えておられるのか? 宇佐美殿」
しまった。
まだ軍議が続いている。
城攻めを始めてから4日目の軍議だ。
あらかたの状況は分かっているが味方の損害や大胡の手口などを皆で確認するためだ。
「いや、今年の秋は豊作なのか。これにて戦の仕方が変わろうかと」
ごまかしたが、そのような事今言うても詮無き事じゃ。宇佐美の爺も老いぼれたかと思われるであろうが、その方がまだましじゃ。
「確認いたすが、流石は武勇を以って鳴る柿崎殿。たった1日で鏡山の要害を落としたとの事。また景信殿が3日かかり申したが、無事に天狗岩城を落とされたと」
「おうよ。あのような鏡餅を重ねた様な軟な城。いくつでも落としちゃる」
いつもながらの豪放さではあるが、損害が気になる。しかし大した抵抗もなかったとか。
本当なのか?
「某の兵は大分消耗いたしました。大胡は多数の矢を一斉に放つ仕掛けを12基用意してありました。これが意外に効果を発揮し、唯一の攻め口に配備され、鉄砲の射程と同じ程の距離より射撃戦となり。最後には竹束を順次積み上げつつ前進。
白兵にて突撃いたしたが……」
歯切れが悪い。
何があったのだ?
「それがもぬけの殻でござった。調べてみると東の谷への綱が張られていたようでそこから脱出した模様」
「それはおかしいであろう。そのように3日間もの長き勇戦のできる兵がそれ程簡単に逃げられるのか? それほどに数多くの綱が張られていたと?」
景信殿は決して臆病でも無能でもない。
他の者共が勇猛すぎるのだ。見劣りして自信がなくなるのは致し方あるまい。
「占領した後を調べたのですが、炊事の跡などから籠っていた人数、僅か20名程にて。それ故、1本の綱にていとも簡単に逃げられ申した」
皆が驚いている。
たった20人の兵で3日間もの間2000の兵を拘束しただと?
1人で100人を相手にしていたのか?
攻め口が1つしかなかったことを勘案してもこれは酷い。
「ただいま三峰城より、色部殿が罷り越しました」
兵が取り次ぐ。
城の広間に入っていた色部殿は鎧を着たまま。
その鎧も幾本もの矢が刺さったままだ。大胡の弩弓独特の短い矢だ。
用意されていた円座にドカリと座り、
ため息をついた。
「あそこはいかぬ。我攻めでは落とせぬ。たとえ落とせても被害を考えるだけで卒倒するぞ」
泥と硝煙で汚れた青い顔が、その言葉が真実だと物語っている。
「どんなじゃ?」
柿崎殿の問いに対し、苦虫をかみつぶしたような顔をしつつ、頬髭を掻きむしった。
「攻め口が一つもない! 何じゃあの山は! 尾根がない。急斜面だけじゃ。
それはまだよい。
登る手はある。
しかしの。ここからは見えぬがあの山頂の緑は樹でなない。
壁じゃ。
壁に樹の絵が描いてある!
壁に樹の絵を描くなど
聞いたことないわ!!」
その後の話は驚愕するものばかりじゃった。
◇ ◇ ◇ ◇
1559年5月上旬
名胡桃城
柿崎景家
皆が押し黙っている。
普通ならここで
「大丈夫じゃ。行ける。儂に任せい!」
と言えるのだが……
これはいかぬな。
「ところで色部殿。損害の大きさは分かった。その仕掛けもな。城並みの、それも相当堅牢な山城に鉄砲と弩弓が多数備えられていることも分かった。
じゃがそれを扱う大胡兵も多かろう。その人数と、水はどうじゃ。水の手などあろうはずがないが」
そうじゃ。
あの山。
どう見ても50間(100m)の高さがある。
そのような所に尾根もない。
では深井戸が掘れるのか?
無理じゃろう。
そのようなこと武田の金山衆ですらできぬ。
精々30間行けばよい程度。
それも真っ直ぐには不可能と聞く。
「水など樽にでも置いて居れば、この時期10日もせずに腐ろう。なればそれを待ち我攻めか?」
儂が積極案を出さねば誰が出す。
大体、このような所で足止めを喰らっていては御本城様の手助けなど敵わぬ。
なんの為の出兵か。
「じゃが、あの城。本当に落とす必要があるのか。それを軍議に掛けとうてお越し願った」
宇佐美の爺さんが口火を切った。
やはりここで兵を消耗させては決戦の時に戦力が落ちる。
城攻めの失敗が続けば士気も下がろう。
「沼田は避けて通れぬ。この沼田城を落とさねば利根川沿いに南下は出来ぬ。その沼田城であるが、攻め口は大手門に当たる南の午の門。そのすぐ西の未の門。そして東の虎ノ門だけじゃ」
諸将の前に広げられた絵地図を指し示しながら爺さんが話し出す。
聞くところによれば大胡では距離すら正確な地図を使うという。
何もかもが違うのう。その地図、手に入るまいか。
「名胡桃で逃げなんだ者を捕まえて聞くところによれば、北側は見ての通りの断崖絶壁が連なり登坂はほぼ不可能。北に1カ所。西にも1か所だけ登れる切通がある。これが未の門に続いている。
東と南だけが唯一平坦な場所から攻めることが出来るが……」
皆が息をのんでその後の言葉を待つ。
「東は1か所だけ登坂できる場所があるが急な坂とその周りの切り立った崖、全てに狭間の開いた防壁が並んでいるという。
それ以外には遠く2里以上東に行ってから西へ戻ってくるしかないという。それもやはり薄根川の狭き道を大胡の鉄砲を浴びながらの移動となろう。 南へ廻ろうとしても多分沼田城の本丸から丸見え。
そこを回り込まねばならぬ」
皆、一言の声も出ずに時ばかりが過ぎる。
「未の門しかなかろう! 何のための鉄砲隊じゃ! 御本城様に上杉の鉄砲隊殆ど全てを持たせていただいた。城攻めには不可欠と。1000丁以上ある。
これで沼田城の北と西から銃撃戦を仕掛けている間に未の門と午の門に攻めかかる。これしかなかろう!」
勿論、無理がある。
大胡はいくつもの大筒、いや大砲がある。
必ずや備えていよう。
幾ら矢盾を並べても蹴散らされるのが見えておる。
しかしここで使わねばどこで使うのじゃ?
少しでも沼田が苦戦中ともなれば大胡の主力がこちらへ来よう。
それが目的の出兵。戦に損害はつきもの。鉄砲足軽は育てればよい。
幸い敗走するわけでもなし。
鉄砲は残る。
仕掛けるべきだ。
「柿崎殿の御意見、誠にもごっとも。だが他に良いご意見があればそれもお伺いしたい」
だれもそのように容易く良い意見など出ようはずが……
「一つ宜しいかな。このように重大な評定への出席、誠に光栄の至り。このような軽格の提案をお聞きくだされば誠に……」
此度の出陣に際し、武田より金山衆の腕利きを寄こすと言うてきた。
此奴がそうだ。
武田が城攻めに強いのは、この金山衆が城の水の手を切る手口を知っていると言われている。
その手助けというわけだ。
「申してみよ。大蔵殿」
大蔵信安。
どうやら晴信の諱を貰ったようだな。
相当な勲功があったのであろう。
「ありがたき幸せ。某の見る所、三峰城には水の手はございませぬ。そして沼田城もさして多くの深井戸は掘れませぬでしょう。故に東から水を引いている筈。これを探し当てれば宜しいかと。
更に申すならば、大胡は1万を超える庶民を城で匿っているとの事。その水の消費、相当なものになるかと。
そしてこれが重要に。人糞の処理を如何様にしているのか? 処理に困れば長くは持ちませぬ」
ううむ。
流石、武田の金山師。
鋭い。
それを受けて宇佐美殿が口を開いた。
「では水の手と糞尿の始末を調べるのが先じゃな。三峰城は攻囲して様子を見る。
これにて如何に?」
皆が首を縦に振った。
◇ ◇ ◇ ◇
「引き分けたとも言えぬこともないが実質負けたのじゃ。」
いやいや。
完全に負けてるし。
戦術的よりも戦略的に完全に負け。
大戦略的にも完全に負けでしょうが。
でもこうでも言わせない限り作品的に成り立たなくなるという「大人の都合」です。
爺さん、それは気のせいです、と作者が言い宥めた結果です。
「もぬけの殻」
いちいち本文に書いていると間が抜けるので、こちらへ。
尾根から見えない程度の場所にすぐ逃げられるよう細い綱が張ってあり、それを太い綱に変えていきすぐに逃げられる仕組みを作っていました。
目立たないようにするには何色にするんだろ?
やっぱり空色?
灰色かな。現代の戦闘機のように。
「三峰城」
ここは峻険な崖の上にセメントで補強された煉瓦造りの結構堅牢な造りの城です。
なぜここだけそうなのは、お楽しみに。
「水が腐る」
水は場所により違いますが2~3週間で腐り飲めなくなります。
この時期の日本ではどうなのでしょう?
多分2週間くらいで現代人には飲めなくなるのでは?
そこで使われたのがとある入れものです。
ネタとして取っておきますw
「水の手を断つ」
これが一番効く。
なにせ大胡は1万名もの住民全てを総構えに入れているんだから。
膨大な水が必要。
でもこの戦法が使えなかったら?
しかも包囲戦、兵糧攻めする時間がなかったら?
高々3~4000の兵しかここで拘束できなかったら?
そういう焦りがあるという事、ご理解ください。
だから選択肢が狭められていきます。
「糞便の始末」
マンガ「センゴク」にも出ていましたが、大人数が小規模の城へ籠城すれば、早い話が日常の問題。
水や兵糧だけじゃなくって、出す方も問題となっちゃうのです。
ただ、沼田・大胡の場合。
糞便のリサイクルをしていますよね。
硝石づくりでw
なので安心!
上野国沼田名胡桃城
宇佐美定満
(上杉家の宿老で副将的な立場のじっさん)
これは皆に伝えられぬ。
御本城様が負けたなどと!
引き分けたとも言えぬこともないが実質負けたのじゃ。
敵は6500程。
対する上杉は8000と後方に2000少しの古河公方の軍勢。
これで互いに大損害を与えての後退じゃ。
勝ちとは言えぬ。
戦に勝つとは
「その戦の目的を果たす」という事。
それが叶わなんだ。
幼き頃より御本城様にお教えしてきたこと。
此度の戦は大胡の腸である八斗島の渡しと倉賀野を取ること。
そしてそこで武田と合流すること。
これが阻止された。
大胡は最後まで奮戦する。
此度もあの品川で半数近くまで兵を失った戦いのように、御本城様が弱点と見た備えを包囲して殲滅しようとしたらしい。
しかしそれを最後の最後まで持ちこたえ、救援の兵によって後方を叩かれたという。更にはあの剛腕で鳴らす甘粕の陣まで大損害を被ったとか。
上杉の者たちの士気は、我が上杉勢が「不敗」だから高いのだ。
特に御本城様の元で戦えば必ず勝つ。
この信念が岩をも貫く力となっている。
これが遂に砕かれたのだ。
「何を考えておられるのか? 宇佐美殿」
しまった。
まだ軍議が続いている。
城攻めを始めてから4日目の軍議だ。
あらかたの状況は分かっているが味方の損害や大胡の手口などを皆で確認するためだ。
「いや、今年の秋は豊作なのか。これにて戦の仕方が変わろうかと」
ごまかしたが、そのような事今言うても詮無き事じゃ。宇佐美の爺も老いぼれたかと思われるであろうが、その方がまだましじゃ。
「確認いたすが、流石は武勇を以って鳴る柿崎殿。たった1日で鏡山の要害を落としたとの事。また景信殿が3日かかり申したが、無事に天狗岩城を落とされたと」
「おうよ。あのような鏡餅を重ねた様な軟な城。いくつでも落としちゃる」
いつもながらの豪放さではあるが、損害が気になる。しかし大した抵抗もなかったとか。
本当なのか?
「某の兵は大分消耗いたしました。大胡は多数の矢を一斉に放つ仕掛けを12基用意してありました。これが意外に効果を発揮し、唯一の攻め口に配備され、鉄砲の射程と同じ程の距離より射撃戦となり。最後には竹束を順次積み上げつつ前進。
白兵にて突撃いたしたが……」
歯切れが悪い。
何があったのだ?
「それがもぬけの殻でござった。調べてみると東の谷への綱が張られていたようでそこから脱出した模様」
「それはおかしいであろう。そのように3日間もの長き勇戦のできる兵がそれ程簡単に逃げられるのか? それほどに数多くの綱が張られていたと?」
景信殿は決して臆病でも無能でもない。
他の者共が勇猛すぎるのだ。見劣りして自信がなくなるのは致し方あるまい。
「占領した後を調べたのですが、炊事の跡などから籠っていた人数、僅か20名程にて。それ故、1本の綱にていとも簡単に逃げられ申した」
皆が驚いている。
たった20人の兵で3日間もの間2000の兵を拘束しただと?
1人で100人を相手にしていたのか?
攻め口が1つしかなかったことを勘案してもこれは酷い。
「ただいま三峰城より、色部殿が罷り越しました」
兵が取り次ぐ。
城の広間に入っていた色部殿は鎧を着たまま。
その鎧も幾本もの矢が刺さったままだ。大胡の弩弓独特の短い矢だ。
用意されていた円座にドカリと座り、
ため息をついた。
「あそこはいかぬ。我攻めでは落とせぬ。たとえ落とせても被害を考えるだけで卒倒するぞ」
泥と硝煙で汚れた青い顔が、その言葉が真実だと物語っている。
「どんなじゃ?」
柿崎殿の問いに対し、苦虫をかみつぶしたような顔をしつつ、頬髭を掻きむしった。
「攻め口が一つもない! 何じゃあの山は! 尾根がない。急斜面だけじゃ。
それはまだよい。
登る手はある。
しかしの。ここからは見えぬがあの山頂の緑は樹でなない。
壁じゃ。
壁に樹の絵が描いてある!
壁に樹の絵を描くなど
聞いたことないわ!!」
その後の話は驚愕するものばかりじゃった。
◇ ◇ ◇ ◇
1559年5月上旬
名胡桃城
柿崎景家
皆が押し黙っている。
普通ならここで
「大丈夫じゃ。行ける。儂に任せい!」
と言えるのだが……
これはいかぬな。
「ところで色部殿。損害の大きさは分かった。その仕掛けもな。城並みの、それも相当堅牢な山城に鉄砲と弩弓が多数備えられていることも分かった。
じゃがそれを扱う大胡兵も多かろう。その人数と、水はどうじゃ。水の手などあろうはずがないが」
そうじゃ。
あの山。
どう見ても50間(100m)の高さがある。
そのような所に尾根もない。
では深井戸が掘れるのか?
無理じゃろう。
そのようなこと武田の金山衆ですらできぬ。
精々30間行けばよい程度。
それも真っ直ぐには不可能と聞く。
「水など樽にでも置いて居れば、この時期10日もせずに腐ろう。なればそれを待ち我攻めか?」
儂が積極案を出さねば誰が出す。
大体、このような所で足止めを喰らっていては御本城様の手助けなど敵わぬ。
なんの為の出兵か。
「じゃが、あの城。本当に落とす必要があるのか。それを軍議に掛けとうてお越し願った」
宇佐美の爺さんが口火を切った。
やはりここで兵を消耗させては決戦の時に戦力が落ちる。
城攻めの失敗が続けば士気も下がろう。
「沼田は避けて通れぬ。この沼田城を落とさねば利根川沿いに南下は出来ぬ。その沼田城であるが、攻め口は大手門に当たる南の午の門。そのすぐ西の未の門。そして東の虎ノ門だけじゃ」
諸将の前に広げられた絵地図を指し示しながら爺さんが話し出す。
聞くところによれば大胡では距離すら正確な地図を使うという。
何もかもが違うのう。その地図、手に入るまいか。
「名胡桃で逃げなんだ者を捕まえて聞くところによれば、北側は見ての通りの断崖絶壁が連なり登坂はほぼ不可能。北に1カ所。西にも1か所だけ登れる切通がある。これが未の門に続いている。
東と南だけが唯一平坦な場所から攻めることが出来るが……」
皆が息をのんでその後の言葉を待つ。
「東は1か所だけ登坂できる場所があるが急な坂とその周りの切り立った崖、全てに狭間の開いた防壁が並んでいるという。
それ以外には遠く2里以上東に行ってから西へ戻ってくるしかないという。それもやはり薄根川の狭き道を大胡の鉄砲を浴びながらの移動となろう。 南へ廻ろうとしても多分沼田城の本丸から丸見え。
そこを回り込まねばならぬ」
皆、一言の声も出ずに時ばかりが過ぎる。
「未の門しかなかろう! 何のための鉄砲隊じゃ! 御本城様に上杉の鉄砲隊殆ど全てを持たせていただいた。城攻めには不可欠と。1000丁以上ある。
これで沼田城の北と西から銃撃戦を仕掛けている間に未の門と午の門に攻めかかる。これしかなかろう!」
勿論、無理がある。
大胡はいくつもの大筒、いや大砲がある。
必ずや備えていよう。
幾ら矢盾を並べても蹴散らされるのが見えておる。
しかしここで使わねばどこで使うのじゃ?
少しでも沼田が苦戦中ともなれば大胡の主力がこちらへ来よう。
それが目的の出兵。戦に損害はつきもの。鉄砲足軽は育てればよい。
幸い敗走するわけでもなし。
鉄砲は残る。
仕掛けるべきだ。
「柿崎殿の御意見、誠にもごっとも。だが他に良いご意見があればそれもお伺いしたい」
だれもそのように容易く良い意見など出ようはずが……
「一つ宜しいかな。このように重大な評定への出席、誠に光栄の至り。このような軽格の提案をお聞きくだされば誠に……」
此度の出陣に際し、武田より金山衆の腕利きを寄こすと言うてきた。
此奴がそうだ。
武田が城攻めに強いのは、この金山衆が城の水の手を切る手口を知っていると言われている。
その手助けというわけだ。
「申してみよ。大蔵殿」
大蔵信安。
どうやら晴信の諱を貰ったようだな。
相当な勲功があったのであろう。
「ありがたき幸せ。某の見る所、三峰城には水の手はございませぬ。そして沼田城もさして多くの深井戸は掘れませぬでしょう。故に東から水を引いている筈。これを探し当てれば宜しいかと。
更に申すならば、大胡は1万を超える庶民を城で匿っているとの事。その水の消費、相当なものになるかと。
そしてこれが重要に。人糞の処理を如何様にしているのか? 処理に困れば長くは持ちませぬ」
ううむ。
流石、武田の金山師。
鋭い。
それを受けて宇佐美殿が口を開いた。
「では水の手と糞尿の始末を調べるのが先じゃな。三峰城は攻囲して様子を見る。
これにて如何に?」
皆が首を縦に振った。
◇ ◇ ◇ ◇
「引き分けたとも言えぬこともないが実質負けたのじゃ。」
いやいや。
完全に負けてるし。
戦術的よりも戦略的に完全に負け。
大戦略的にも完全に負けでしょうが。
でもこうでも言わせない限り作品的に成り立たなくなるという「大人の都合」です。
爺さん、それは気のせいです、と作者が言い宥めた結果です。
「もぬけの殻」
いちいち本文に書いていると間が抜けるので、こちらへ。
尾根から見えない程度の場所にすぐ逃げられるよう細い綱が張ってあり、それを太い綱に変えていきすぐに逃げられる仕組みを作っていました。
目立たないようにするには何色にするんだろ?
やっぱり空色?
灰色かな。現代の戦闘機のように。
「三峰城」
ここは峻険な崖の上にセメントで補強された煉瓦造りの結構堅牢な造りの城です。
なぜここだけそうなのは、お楽しみに。
「水が腐る」
水は場所により違いますが2~3週間で腐り飲めなくなります。
この時期の日本ではどうなのでしょう?
多分2週間くらいで現代人には飲めなくなるのでは?
そこで使われたのがとある入れものです。
ネタとして取っておきますw
「水の手を断つ」
これが一番効く。
なにせ大胡は1万名もの住民全てを総構えに入れているんだから。
膨大な水が必要。
でもこの戦法が使えなかったら?
しかも包囲戦、兵糧攻めする時間がなかったら?
高々3~4000の兵しかここで拘束できなかったら?
そういう焦りがあるという事、ご理解ください。
だから選択肢が狭められていきます。
「糞便の始末」
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水や兵糧だけじゃなくって、出す方も問題となっちゃうのです。
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硝石づくりでw
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愛山雄町
ファンタジー
エンデラント大陸最古の王国、グライフトゥルム王国の英雄の一人である、マティアス・フォン・ラウシェンバッハは転生者である。
彼は類い稀なる知力と予知能力を持つと言われるほどの先見性から、“知将マティアス”や“千里眼のマティアス”と呼ばれることになる。
彼は大陸最強の軍事国家ゾルダート帝国や狂信的な宗教国家レヒト法国の侵略に対し、優柔不断な国王や獅子身中の虫である大貴族の有形無形の妨害にあいながらも、旧態依然とした王国軍の近代化を図りつつ、敵国に対して謀略を仕掛け、危機的な状況を回避する。
しかし、宿敵である帝国には軍事と政治の天才が生まれ、更に謎の暗殺者集団“夜(ナハト)”や目的のためなら手段を選ばぬ魔導師集団“真理の探究者”など一筋縄ではいかぬ敵たちが次々と現れる。
そんな敵たちとの死闘に際しても、絶対の自信の表れとも言える余裕の笑みを浮かべながら策を献じたことから、“微笑みの軍師”とも呼ばれていた。
しかし、マティアスは日本での記憶を持った一般人に過ぎなかった。彼は情報分析とプレゼンテーション能力こそ、この世界の人間より優れていたものの、軍事に関する知識は小説や映画などから得たレベルのものしか持っていなかった。
更に彼は生まれつき身体が弱く、武術も魔導の才もないというハンディキャップを抱えていた。また、日本で得た知識を使った技術革新も、世界を崩壊させる危険な技術として封じられてしまう。
彼の代名詞である“微笑み”も単に苦し紛れの策に対する苦笑に過ぎなかった。
マティアスは愛する家族や仲間を守るため、大賢者とその配下の凄腕間者集団の力を借りつつ、優秀な友人たちと力を合わせて強大な敵と戦うことを決意する。
彼は情報の重要性を誰よりも重視し、巧みに情報を利用した謀略で敵を混乱させ、更に戦場では敵の意表を突く戦術を駆使して勝利に貢献していく……。
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あらすじにある通り、主人公にあるのは日本で得た中途半端な知識のみで、チートに類する卓越した能力はありません。基本的には政略・謀略・軍略といったシリアスな話が主となる予定で、恋愛要素は少なめ、ハーレム要素はもちろんありません。前半は裏方に徹して情報収集や情報操作を行うため、主人公が出てくる戦闘シーンはほとんどありません。
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