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第29章:謙信と真っ向勝負
騎兵のない三兵戦術
しおりを挟む1559年4月下旬
武蔵国別府城東方10町(1000m)
竹部国久(揚北衆の下ッ端)
決死隊に選ばれた。
名誉ではあるが討ち死には覚悟だ。感状の一つも貰えれば一族は安泰であろう。
必ずやり遂げねば。犬死はしとうないわい。
「印地打ち。始めい!」
配下の者が号令を出す。
2名の足軽が手に持った棒を振り回す。
先には紐がついており大人の拳よりも一回り大きい石を振り回して大胡の陣へ投げ入れる。当たれば鎧を着ていようとも衝撃で気絶をするくらいはしよう。
問題は振り回す場所があまりにも広い。
故に一斉に放つことは叶わぬ。それでも少なからぬ犠牲を払って作り上げた敵から20間程度の場所にある竹束の山。
ここから石を投げ込む。
左右の大筒が危険だ。そちらへは先ほど火炎壺を投げ込めた。
火を消し爆発を防ぐために火薬を湿らせたのか。
なればよいが。
砲撃が再開するまでが勝負。あの矢盾を吹っ飛ばし血路を作る。
中に入れば大混乱は必至。周りからの総攻撃で壊滅させられよう。
◇ ◇ ◇ ◇
高崎権兵衛
危なかったなぁ。
火炎壺か。よくここまで飛ばせたもんだ。
小型の奴を思いっきり飛ばしたんだろうな。30間まで近寄ってきて投げられちまった。こっちは25間で砲撃との指示をそのままにしておいたから見切られたか。
やはりトロいなぁ、
俺は。
正面の竹束の山2つ。
あそこから石礫が飛んでくる。大した数ではないが早く黙らせないと向こうに矢盾も並んじまう。
1欣砲で吹っ飛ばせるかなぁ?
多分大丈夫だろう。だから早く火薬の手配をしないとな。
俺は中央に張った天幕の方に目をやった。
方陣が突破されない限り火矢は届かない距離だ。
そこに火薬が集積されている。
別府城に詰めていた兵と輜重兵をこちらに呼び戻し、向こうへ2個小隊100名を向かわせた。
城に籠るなら100名の狙撃手の方が効率がいい。
こっちは後方で働くものが必要だ。
そして重要なのは輜重兵と一緒にいる工兵だ。
たった100人しかいないが、急造の野戦陣地が出来る。
四隅の野戦砲前に突撃されると不味い。そこだけに集中して鉄条網を構築した。それだけでも先程は凄い威力を発揮したなぁ。
装填時間が長いせいで突撃されるとやばい。近くの銃列で何とかできればいいけんどよ。
「大隊長! そんなところに突っ立っていますと石礫が当たります。
下がってください」
第1中隊長が下がれという。
なんかよぅ。
旅団長の当てつけか?
なんで俺の大隊の幹部は皆美形なんだよ。
しかもすらりとしてやがる。俺の短身で寸胴な体が余計目立つじゃねぇか。
まあ、これで俺が大隊長だとは誰も思えねえだろ?
それはそれで都合がいいなぁ。
だがそうするとこのイケメン中隊長たち(こう言っていたな殿さんは)が狙われるのか?
それも可哀そうだ。
やはり俺が目立たないと。
「俺はここでいい! なにか目立つものもってこいや」
流石に止められたが、前線には立ち続ける。
それが俺にとっての戦指揮の掟だ。
「野戦砲、用意急げ。
用意したらすぐさま敵の竹束の山を破壊せよ!」
さあ、次は西かぁ。
あっちの最前線に立とうかな。
南風が止んできた。
そろそろ硝煙が籠り始めた。
早めに損害を与えて後退させないとやばいな。
◇ ◇ ◇ ◇
方陣西方
中条藤資(復讐に燃える揚北衆
ナンバーワン・ナカ嬢もとい中条)
糞!
近寄れねぇ。
あの鉄砲、今までの大胡筒とは違う。弾がでかいらしい。
50間離れていても兜すら撃ち抜く。
中々当たりそうもないが、これだけ密集して撃たれると竹束すら粉みじんとなる。
25間まで近づくと途端に大筒が火を噴く。
竹束が潰される。30間で走って突撃するか?
……全滅しちまう。
先程から汗が顔から首から噴き出している。
何とか打開策はないか?
汗が目に入った。
さっきよりも汗が酷い。
なんだ?
……もしかして、風が止んだ?
いや少し南風か。
これはいけるやもしれぬ。
「南へ行く! 炊事の者、ついてこい!」
◇ ◇ ◇ ◇
方陣西方
高崎権兵衛
??
南からきな臭い臭い……
「大隊長! やられました。煙幕です!
南部第2中隊正面50間のところで焚火多数。白煙がこちらへゆっくりと流れてきます。このままでは射撃不可能!」
これは大砲の狙い撃ちが出来ん!
竹束で仕寄られたら白兵になる。
それは困るなぁ。
「北部正面第4中隊より各小隊より20名引っこ抜き、南部へ回せ! 面制圧射撃を連続して行う! 4列横隊を6列横隊にする。
面白いぞ! どこに撃っても敵に当たる!!
は~っはははは!!」
こうでも言わねば、やってられん。
でもこれも言わねば。
覚悟を決めさせよう。
「総員。着剣! 白兵に備えよ! いつもの訓練を越後の案山子に思い知らせてやれ! 案山子よりも突き刺し甲斐があるぞ!」
応!
と、皆が叫ぶ。
各小隊長の号令が飛ぶ。
「全員着剣後、左手に火縄を新たに巻き付けよ。火口を絶やすな。
早合1番カルカで突き固めよ。筒を立てよ。点火薬入れの蓋を開けよ。
撃鉄上げい。
火打石確認。
火蓋開けい。
火皿を吹け。
点火薬詰めよ。
火蓋閉めよ。
発射姿せ~~~~い!」
訓練を思い出させるために、口に出して確認する。
前列2列が立膝撃ちと立射。
その後に4列が控えた。
すべてが真っ白になる前に撃ち方の号令が飛ぶ。
「第1列放て~~い!
続けて第2列はなて~い!
即座に反転。
第3第4列前進!
射撃よ~~~~い!
放て~~~~い!」
次から次へと火打石式の冬木銃1558楓1号が火を噴く。
まだまだ改良の余地ばかりだが、当たれば50間以内ならば、ほぼ無力化できる。
つまり重傷か死亡かだ。
しかし南を中心に遠矢が放たれ始めた。
もう弓兵が50間以内にいる。
「各中隊長! 独自に指揮をとれ! 持ち場を死守。
諦めるな!
我が第4大隊は堅いことが自慢だろ?女子に褒められたければもっともっと堅くなれぃ!!!!」
わぁ~ははは!
皆、いい奴だ。
死ぬなよぅ!
そして、矢盾が越後勢に蹴飛ばされる時が来た……
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